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グレゴール・キング殺人事件  作者: ナツ & Kan
47/64

47 私の立ち位置

 カールさんがココアを飲み終えたのは30分ぐらい経ってからだった。彼は考えに没頭しているらしく、僕がまだいることに驚いているようだった。もうこれ以上に話すことはなかったのだろう。口はぴたりと閉ざされている。僕の演技もお世辞にも上手いとは言えないらしい。彼は居心地が悪そうだった。

 

 「……なにを考えているんですか? 」

 

 僕は不安ながら言った。

 

 「映画のことです。映画の構成上、私の立ち位置はどんなものなんだろうと考えていました。バカなことですね」

 

 「どんな立ち位置なんですか?」

 

 「さあ? 少なくともジョー・スミスではない」

 

 その通りだろう。彼はジョー・スミスにしては、髭が長すぎるし、白すぎた。そして老けすぎていた。彼は25で死んだのだ。

 

 「でも、マイケル・コンラッドにはなれるかもしれませんよ? あなたは立派な白い髭をお持ちだし」

 

 「どちらにせよ、彼にはあまり興味がありません。サンタ役が売れただけの一発屋だ。ドラマで『白髭の微笑み』がシリーズ化してなかったら、もう表舞台に立つことはなかったでしょう」

 

 「そうなんですか? でも、彼はコメディアンとしても面白かったです」

  

 「ええ」と彼は言った。

 

 別に裏もなさそうな返事だった。僕の言葉をありのまま受け取ったような感じだ。続けて彼こう言った。

 

 「しかし、マイナーです。年を取る度に、誰かに覚えられることもなければ、記録も消えてしまう。知っているのは私達のようなマニアだけになっています」

 

 僕はつまらないという風に首を振った。

 

 「我々が覚えていたら、それで良いのでは? 」

 

 「……そいつは少し寂しいな」と彼は答えた。「それじゃあ、批評家は要らなくなってしまいます。私が作品を批評をするのは、その作品を誰よりも冷静に見通し、そして批評するに足りる何かを見出だしたからです。貶すためではありません」

 

 「そうですか」と僕は返事をした。

 

 「ええ、そうなんです。つまらなかったですか? 」

 

 「いえ、別に。そうは思いません」

 

 「……時々、私にはあなたが何を考えているのかわからなくなるんです」

 

 「そんなこと、誰がわかるのです? 誰だって、他人を理解できるなんてできないでしょうよ」

 

 「そうですね」と彼は言った。「その通りなんです。でも、あなただけは少しタイプが違うような気がしてなりません。これって、偶然ですか? 」


 「偶然です」と僕は答えた。

  

 海の波は大きな音を出していた。遠くを見ると、海と空の境界線がわからなかった。月は光って海を輝かせているせいかもしれない。

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