表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グレゴール・キング殺人事件  作者: ナツ & Kan
45/64

45 黒と灰色のボーダーラインを踏みながら

 メイは口元にうすら笑みを浮かべていた。その眼光は妖しく、そして鈍く煌めいていた。彼女はゆっくりと鼻から空気を取り込むと、ふう、と唇の端から放出させた。

 

 「そんなに驚いてどうしました? 」と彼女は言った。「なんだか、人が変わったようだ」

 

 「いえ、別に普通ですよ」

 

 彼女は頷いた。それか指をぱちんと鳴らし、眉を楽しそうに上げた。

 

 「心配せずとも、最終的には刑事が犯人を取っ捕まえるでしょう」

 

 「……だと、良いですがね」

 

 「しかし、それはもっと先のことになるかもしれません」

 

 「なぜ? 」

 

 「もうすぐ日本の領海を抜けます。そうなると、もうあの刑事は犯人を逮捕できなくなる。事件が国際化するのも時間の問題だ」

 

 「ということは、犯人が逃げきれると? 」


 「そうさせないために、あの刑事は躍起になってるのです。黒と灰色のボーダーラインを踏みながら、彼はもっとも遺恨が残らない方法を選んでいる」

 

 彼女は肩をすくめた。そして、にやっと笑った。なんとも意地悪い笑みだった。

 

 「それにしても、日本の警察組織もおかしなことをしたもんだ。あの男を何らかの理由で忍ばせておきながら、そのままハワイまで旅は進んでいる。それは上客の混乱を避けるためか、犯人に悟らせないためかわからないが、そのくせ後手に回っている」

 

 たしかに、と僕は言った。しかし頭の中では逃げられる可能性を探っていた。どうしたら逃げられるだろうか? ハワイに行って、すぐにまた高飛びをするとか? 駄目だ。もっと直前のことから考えるべきなのだ。きっと、港には警官がぞろぞろ取り囲んでいるだろう。一人一人、事情聴取を始めるかもしれない。捜査ももっと精密な機器を使うことになるだろうし、そうなればすぐに僕はバレてしまう。

 

 僕はドアを開いた。もう行かなければならないのだ。それがどこかわからなかったが、そうするべきなのはわかっていた。今逃げられたところで、後が控えているのだ。メイも、羽黒も、根来もその過程に過ぎないのだ。僕は一生に渡って逃げなければならないのだから。

 

 メイは僕を出ていこうとするのを見て、少しだけ上ずった声を出した。言うべきなのか、言わないべきなのか迷っているようだった。しかし、結局は言うことに決めたらしくて、残念そうに言った。

 

 「本当のところ、あなたは幻覚なんて見ていない。だからこそ、私はあなたを助けてやりたい気分になっている」

 

 「……どういう意味ですか? 」

 

 「それだけの意味だよ。他意はありません」

 

 「じゃあ」と僕は言った。「また」

 

 「また会おう。次は私だけではないかもしれないが」

 

 そしてドアは閉まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ