24 感傷的な海
僕たちは、それから少しばかりの間休憩となった。三人は、隣のカールさんの部屋に移動することになった。それも仕方なかった。死体の前で長々と話を続けるのは、あまりにもやつれ果てる仕事だった。この大移動には、ハワードではない乗組員が一人だけついてきた。
僕は、カールさんの部屋の赤茶けたソファーに腰掛けると、しばらく、やわらかい灯りをともしたランプをじっと見つめていたが、すぐにいたたまれなくなった。優しげではあったが、どこかひどく感傷的にさせるのだった。そのまどろみの灯りの中からふつふつと痛ましさが浮かび上がってきた。
僕は、悲しみに沈んだ心がさまざまに移ろうのを弄びながら、窓の外を眺めた。立ち昇った雲に片身を隠された太陽が、光を愛おしげにあふれさせていた。その光は、海面を撫でるように包み込んで、細かく強い光を呼び起こしていた。眺め全体が、強い光を放っていて、かえって薄暗く感じさせたのだった。それは、妙な具合に心を落ち着かせる眺めだった。僕は、日の光にやつれた心を癒されるような、悠長な立場では決してないのだ。そう反発してみても、僕の痛んだ心には良い薬だった。
僕は、煙草を一本吸うと、どうにでもなってしまえ、と声もなく呟いた。
「大丈夫ですよ。倫助さん。私たちにはアリバイがあるのですから」
僕の呟きが聞こえたのか、それとも偶然なのか、カールさんが労わるように話しかけてきた。
僕はその言葉に笑顔を返す。ところが、それよりも先にカールさんは、しまった、と言わんばかりに顔を強張らせていた。そして、カールさんは恐る恐る長倉 理彩の方に目を向けた。
当の長倉 理彩は、焦点の定まらない視線を床に彷徨わせていた。顔は青白く変わり果てていた。髪は掻き乱れて、踊り狂った直後のようですらあった。一夜で頬がこけるはずもないが、そんな風に見えた。時々、悲しみを誤魔化そうとこわばった頬に笑みを浮かべては、耐えきれずに再び脱力する。そんなことを繰り返す彼女には、もはや世間の語るような美しさはなく、ただただ苦痛から逃れようともがいているのだった。
カールさんは、憐れなものを見るような、あるいは下品な好奇の目で彼女を見つめていたが、次第にそれは犯罪者を見るような、軽蔑と恐怖の入り混じった目へと変貌していった。
その残酷な眼差しは、僕に向けられるべきものだ。僕はそう思うと、耐えきれなくなって、席を外した。そして、ただ海を見つめることにした。
海を見つめながらも、背筋に冷たい不快感が這い上ってきた。それはまさに自分の背後で、カールさんが長倉 理彩をまるで囚人でも見るかのような冷たい眼差しを向けているということの残酷さだった……。




