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学園ファンタジー(仮)  作者: R・F
1/1

今日はついてない………

 血のように赤い空。火の海となった街。そこにいたのは一人の少女とその少女を抱き抱えて泣いている一人の少年だった。

少女の体は蛍の光のように輝き、徐々に薄くなっていく。

『っく!………リリィ……リリィ……‼』

泣きそうになる声をこらえて名前を呼び続ける少年。

 少女はそんな少年の頬に手を置き。

『マスター………また会えたら………その時はーーーーーー。』




ピピピピピピピピピピピピ!

 ある日差しの強い日。その家では目覚ましの音がなり響いていた。

「うぅぅーーーー」

 それに叩き起こされるように布団から出てきた少年は、ゆっくりと手を伸ばし目覚ましを止めた。

「夢………か……………」

 布団から顔を出し眠そうにそう呟くと、手を伸ばしていた時計の針を見た。

「……………ん?」

 数秒の沈黙あと、少年の顔は一気に突然真っ青になった。

「ギャアアアアア!!!」

 絶叫し、布団から飛び起き急いで支度した。朝ごはんなど食べる暇もあまりないので、牛乳一杯と軽く焼いたパンを口にくわえ、急いで外へ出た。

「うおぉぉぉ‼ひーほーふーはー‼(ちーこーくーだー‼)」

 俺、黒刃(くろば) (たける)はどこにでもいるごく普通の高校生………とは少し違う。

 5年前俺は1人の少女にある『力』を受け継いだ。 まぁ、今にしてみればこれはもう『呪い』という言葉があっている。その理由は……

 キィィィ‼………ドン!!!

 今、トラックに退かれた。

 普通ならここで誰もが死んだと思うだろう、だが……… 

「痛っつぅぅ………ん?あぁぁぁ!俺の朝メシがぁぁぁぁ‼」

 半泣きになりながら道に落ちているパンを眺めていた。ちくしょー!朝からついてねぇ‼そんな間の抜けた声を上げながら、何も無かったかのように立っていた。

 トラックの運転手はぶつかった衝撃で気絶していた。猛は仕方ないなという溜め息をつき、救急車に電話してその場を後にした。

 もうお分かりであろう。俺が受け継いだ『力』の名は『不死の呪い』ようは『不死身』なのだ

端から見れば『不死身の体』なんて誰もが憧れるだろう。

 だが、現実は全く理想どうりにいかないものだ。『不死身』とは言うけど、ただの学生が死ぬほど危険なことに巻き込まれるということはまずない…………だが、さっきの出来事に関しては正直にこの体質で良かったと思った。次から気をつけよう。

 そんな事を思いながら、猛は学園への通学路を全力で走っていた。

 もうすぐだ!!目の前には、絵本に出てくるお城のような学園と大きな門が立っていた。時間はもう残り少ない、もう『あれ』を使おうかと考えたが。

(さすがに人前で出す訳にもいかないか………)

えぇい!とにかく走れぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーー‼

 

キーンコーンカーンコーン♪

  

 あああ‼  間に合わなかった…………なんだか今日はついてない。校門まであと少しの所で手前の信号に足を止められながら、空を見上げ、今朝からの事を思い出していた。

(そういえば、あの夢はなんだったんだろう。かなりリアルだったなぁ、それにあの女の子…………)


そうこう考えている内に『学園長室』に着いた。

コンコン!

『入れ』

「失礼します。」

「久し振りじゃの、猛」

 彼女の名前は暁月(あかつき) 白夜(びゃくや) この『暁月学園』の学園長だ。

「お久しぶりです、暁月おば・・・ぐはっ‼」

言葉を言い終えるより先に、腹に『雷』を纏った強烈な蹴りを入れらた。これはもう、蹴りというより『槍』だ。彼女はこの蹴り技に『ライトニング・ランス』という少々ネーミングセンスの無い名前を付けるくらい気に入っている。        

 なぜ俺がそんな事(技名)を知っているかというと、俺の親と学園長は昔からの知り合いで、俺が子供の頃、家の都合でよくこの人の家に預けらていたのだ。

「本当に久しぶりじゃのぉ、いつ以来だ?こんなに『槍』(足)が疼くのは?」

「ちょ!おば………ぐあぁぁ!!!」

「登校初日に遅刻、おまけに年上に対しての礼儀も忘れたか?また『仕付け』てやろうか?」

 猛の腹に足をぐりぐりと食い越せながらにっこりと?いや、目が笑ってない……どちらかと言うと『般若』だ。そういう言えばこの人、おば………と呼ばれるのが嫌いだったなぁ。

 最近よく見た目と歳が合わない人がいるだろ?例えば

・歳が上に見えた人は実は年下だとか

・歳が下に見えた人は実は年上だとか

 だが…………この人の場合『見た目小学生なのに歳は25才』というタイプだ。

 今、読者の皆様は「は?何言ってんの?そんなのいるわけないじゃん(笑)」とか思っているだろう。

 だが実際目の前にいるんだよ!小学三年くらいなんだよ!信じてくれ‼

「さて、早速本題に入ろう」

「あの………まず足……どけてもらってもいいです…っう!?」

「何か言ったか?」

「いえ……なにも……………」

 くっそ~このドSロリが‼心の中でそう叫ぶ、もし口に出したら腹に大穴が開く。黙ってこのまま(腹を踏まれたまま)話を聞くしかない。

「お前には、今日からこの学園に通ってもらう。知っての通りここは、世界各国から『魔術師の卵』が集まる。まぁ学園はここだけではないがな、他の国にもそこそこ名の知れた所もある。だが、毎年の入学率はこの学園が一番だ。なぜだか分かるか?」

「そ、それはこの日本が『一番幻獣が集まるから』です…っあが‼」

「正解だ。そしてそれがなぜだか分かるか?」

「い……いえ分かりません。」

「………………。そうか。」

 少し悲しそうな顔でそういうと彼女は猛の腹から足をどけた。

「まぁその話は後だ、今は別の問題がある。」

「別の問題?」

「ああ、この学院は小中高一環で、その生徒達の割り振りを『六つの属性』で決めている。」

「は、はぁ……で、なにが問題なんでしょ…がはっ!!!」

 突然また蹴られた。今度は脇腹に思いっきり回し蹴りをくらった。

 ゴキッ!!!

(やべぇ‼………今、あばらから嫌な音が‼)

 案の定やはり折れていた。だが彼女は俺の体質の事を知っているため、何のためらいもない。一様言っとくけど、死ぬからねこれ。

 そしてうつ伏せになった猛の頭を足で踏みつけた。

「あだだだだ!」

「お・ま・え・は・ば・か・か!!『属性が六つ』ってことは『クラスが六つ』!『お前が入るクラスが無い』ということだ‼」

「ーーーーーーーー‼」

「やっと築いたいかこの大バカもの。お前が持つ属性は本来『人間が持つべきではない物』なのだ。」

「…………………。」

学園長の言葉に納得した猛は、何も言えずに黙り混んでしまった。そんな猛を見ていた彼女は黙って頭から足を離した。

「なので、お前には『特別クラス』に入ってもらう。」

「え?特別クラス?」

猛は少し驚いた様子で聞き返す。

「ああそうだ。彼らは『ある問題』でそこに入った、言わば『問題児』のクラスだ。」

え?……問題児?何それめちゃくちゃ怖いんですけど。俺そんなとこに入れられんの?

「そこでは(問題児のクラスでは)『属性は関係なく、全てが集まる』お前にはぴったりの場所だろ?」

 何でニヤついてんだこの人は!ほんとに大丈夫なのか?内心かなり不安だが入れるってことだけでもありがたいと思うべきだろう。多分。この人がこんな顔する時は絶対何か企んでる!




そして……予感は的中した。

「はい!それでは新しくこのクラスに入る事になった転校生を紹介します!」

「黒刃 猛です。 よ……よろしくお願いします」

「わぁーーカッコイイ転校生だぁーー‼」

「ふっふっふ、にゃかにゃか面白そうな子が来たにゃあ✨キラーン」

「……………よろ」

「おぉ転校生か!!あいさつ代わりにいっちょ喧嘩しよーぜ!!!」

「よ……よろひく……お…お願いしまひゅ」

なんじゃこりゃぁぁ!あのドSロリめ‼分かってて俺をこの(問題児)クラスに入れやがったなぁ‼『全員女子』しかいねぇじゃねぇかぁぁぁ!?

「私は反対です」

 え?…………席を立った少女が俺を睨みそう言うと、目の前まで近づいてきた。

「えぇっと春風(はるかぜ)さん。反対というのはどういう………」

 先生が恐る恐る聞く。ていうか先生がびびってどうすんですか!?

「どうもこうもありません。登校初日に遅刻、その汚れた服、これだけ見ればどんな人間か分かります」

「あ、あのこれ(汚れた服)には訳が……」

「どんな訳ですか?」

「えぇっとそれはぁ………」

(寝坊して急いで走ってたあらトラックに退かれて遅刻ました。笑。)

 なんて信じてもらえるわけねぇよな。はは。

「まぁなんいせよ、言い訳を聞いたところで許すつもりはありません。何より女性しかいないこのクラスに男子が入ること事態間違っています」

 っう!言葉も出ない……俺もそれについては疑問に思っている。けどあの人が(学園長)

そうしたんだからしょうがないじゃん!?逆らったら俺殺されるよ!(死なないけど)

「で……でもですね春風さん、これは学園長が決めたことなので………」

 なんだか泣きそうになりながら先生が答えた。もうどっちが教師なのか分からなくなる。先生しっかり!

「学園長が?……そうですか、ならば仕方ありませんね」

(やっと引いてくれたか)

「決闘です‼」

 え?……決闘?俺の顔の前に指を突き立てながら彼女がそう告げると。

「私が勝てば、貴様はこの学園から去りなさい。ただしもし貴様が勝てば、このクラスへの入室を認めます」

ーーーーーーーー!?

 いきなりの提案に全員が驚いた。猛はどうにか穏便に済ませる方法がないか探した。

 でも………

「どうした、受けるのか?受けないのか?」

 この人は本気だ。なら俺は………

「分かった、受けるぜその勝負。」

 またも全員が驚いた、先生にいたっては泡を吹いて倒れている。せんせぇぇぇぇ!?

「っふ……根性だけはあるようだな。では昼過ぎ、競技場に来い」

 そういうと彼女は教室を出ていった。なんだか大変な事になったなぁ。

 

 時刻は十二時、競技場の真ん中に二人は立っていた。ギャラリーには『問題児クラス』の生徒達と涙目で震えている先生が座っていた。あんた本当に先生なの?

「準備はいいな?」

「お、おう!」 

 模擬戦では相手を傷付けないよう武器は『木刀』使用する。勝敗はどちらかが『気絶』するか『降参』した方の負け。また、『魔法の使用は自由』とされている。

「では、参る!」

開始そうそう彼女は『木刀』を縦に振り下ろし、『斬撃』を飛ばした。

ーーーーっちょ!? やば! うわ!! ギリギリでかわし、飛んできた『斬撃』の方を見る。

 猛をかすめた直後『斬撃』は上昇し、競技場の屋根を突き破り、雲を切り裂き消えていった。

「おいあんた!今の確実に殺しに来てただろ‼」

「安心しろ、今のはちょっと加減を誤っただけだ、次からは弱めにしてやるから死ね」

「全然安心できねぇし『死ね』ってなんだ‼結局殺すのかよ!!!」

「問答無用‼」

 続けて三本の斬撃が飛んできた。っち!マジで殺る気なのかよ!

 猛は斬撃の中に突っ込み、持っていた木刀ですべての斬撃を打ち消した。そして即座に

彼女の間合いに入り一撃を入れた。見ていたクラスメイト達は少し驚いた表情をしていた。

「おぉぉ!やるねぇあの転校生‼」

「威力を弱めているとはいえ、春ちゃんの攻撃を受けきるとはねぇ」

 だがその攻撃は、簡単に受け止められてしまった。さっきの攻撃を受けた衝撃で木刀にはひびが入っていて、あまり力を入れられなかったのだ。

 「……どういうつもりだ、なぜ魔法を使わない?」

ーーーーーっ!

突然の問に猛は黙り混んだ。気づかれないようにしていたが、無理もない。本来模擬戦とは実戦を想定される対処法を訓練するもので、その中でもやはり魔法の力は必須である。

「お前のさっきの動き、魔力を一切感じなかった。つまり、『身体能力』だけで行ったものだ。」

(!!…………)

何も言えなかった。この事は俺と学園長しか知らないことだからだ。俺は黙ったまま木刀を構えた。

「答える気はないか、まぁ知ったところでどうなるという訳でもないがな」

すると彼女は左手を上に掲げ………

『詠唱』を唱え始めた。

「《我 風の聖霊を宿し者 我 血の契約に結ばれしそなた鎖を解き放つ者 全てを切り裂く鋼の槍よ今ここに来たれ! ゲイボルグ!!》」

 出てきたのは風を纏った槍。名を『魔槍ゲイボルグ』。俺は本で少ししか知らないが、分かっているのがあの槍は、当たれば必ず死に至るとか………ふざけんなあぁぁぁぁ‼これまじで俺死ぬだろ!不死身の身体でも『魔剣』の攻撃なんて受けたことないし!あいつは冗談って言葉を知らないのか!?模擬戦だよねこれ?模擬戦で死人が出るなんて事あるわけないよね?なんで木刀じゃなく魔剣使っての!?…………ん?『魔剣』を………使える?

 ふと猛が疑問に思ったのは魔剣を出した事ではなく、魔剣を『出せる』ということだ。

 魔剣は普通の武器とは違い『意思』を持っている。意思を持っている魔剣は自ら所有者を選び、契約を結ぶ。魔術師達はその日が(選ばれる日が)来るの待ち、ひたすらに訓練に励んでいる。今はまだ魔剣に選ばれた者は数えるくらいしかいないと聞いていたが、まさかこんな形でお目にかかれるとはな。

(ほんと、今日はついてねぇなぁ)

「最後に言い残す事はあるか?」

 風で作った無数の槍を広げていたその姿は、まるで孔雀のようだった。

「で……できれば、新しい木刀貰えませんか?」

 手に持っていた木刀はもう使い物にならなくなっていた。本当ならもう今すぐ逃げたいところだが、それは無理だろうなぁ。

「ふん、いいだろう。特別に私のを貸してやる」

 彼女は持っていた木刀を猛の方に投げた。自分にはもう木刀なんて必要ないのだろう。俺は投げられた木刀を拾い、構えた。

「ではいくぞ!」

 槍を前に突き出すと周りに浮いていた槍が猛めがけて一斉に飛びかかった。その速度は約160km電車のスピードとほぼ同じ。

 っく!だが猛は魔法を使わず『反射神経』と『動体視力』のみで受けきっていた。

(な……なんて奴だ!あれを全て見切っているというのか!?)

「ならば、これでどうだ‼」

 焦った春風は魔槍を横に振り巨大な突風を巻き起こした。風の槍はその突風に乗り速度が増し、一つ一つの動きがまるで生き物の用に変化した。

(こんなのも出来んのかよ!鳥みたいに飛び回りやがって鬱陶しい‼)

それでも猛は紙一重でその動きを見切り、斬り倒していった。

ーーーーーだが

 バキッ‼

 不吉な音と共に猛の顔は青ざめた。神は俺に、恨みでもあるのだろうか?

 木刀が折れてしまった。そして残り十数本の槍が猛に直撃した。

「終わったな………‼」

(痛っぅ、やっぱりこの身体には感謝だな、案外俺にぴったりの呪いかもしれん)

 煙の中から出てきたのは身体中切り傷だらけの猛の姿だった。

「き……貴様ッ!!あれを喰らってなぜ立っていられる!?魔法を使わずに何故!?」

春風はかなり動揺しているようだった。ま、そりゃぁそうか。普通なら死んでるもんな。『普通なら』な。…………!?

猛は突然目つきを変え、春風のところに走った。

(くそっ!間に合わねぇ!………仕方ない!!)

 …………!!!! 瞬間、今まで体感したこともない、寒気がするほどの魔力を感じた春風は

自分への攻撃かと思い、魔槍を猛に向けた。だが猛は、何の迷いもなく走り、一瞬にして彼女の懐に入った。

「危ない‼」

「ひぁあ!?」

目を開けると目の前には自分にのし掛かっている猛の姿があった。その状況を理解できず顔を真っ赤にした春風は上に乗っている猛を退けようとした。だが、身体にまったく力が入らない。

「お…おい貴様!早くそこをどけ‼」

「…………………」

「な……何をしている!?早くそこを…………っ!?」

後ろを見ると、先ほど自分が立って場所に天井の残害が積み重なっていた。それは春風が最初の攻撃で天井を貫いた時の物だった。もしまだそこに自分がいたら、生き埋めになっていただろう。

「あ、ありがと…!!」

猛の腹には槍が深々と刺さっていた。視界はどんどん暗くなり誰かが叫んでいる声も聞こえなくなった。

(はは、流石に無理だったか。こりゃあ死んだな俺………)



ーーーーーーーそこは真っ暗で、なにもない世界。

(そっかここがあの世か。短い人生だったなぁ)


ター………マ……ター…………マスター

(…………?誰れだ?)

『もうすぐ会えるよ、マスター』

(マスター?俺が?)

『待っていてくれ。そして会えたら、ーーーーーー。』

(え?………痛て!な……なんだ身体にが痛い!それに………息が苦しい‼)

「生きてる?……ぐ……ぐるじぃ!…ん?柔ら…かい?」

目を開けた猛は今自分が置かれている現状を全く理解出来なかった。だって目覚めたらベッドの上で柔らかくて大きな物に締め付けられているのだから!!

(どういう事だ!?全く訳が割らん!俺は無事だった。それは良かった。だけどなんだこの状況は!?確かあの時、春風を庇って、槍に刺されて………)

「ん……んぅぅぅ……くろば?」

寝ていた春風は目を覚まし、寝ぼけた顔でこちらを見下ろしていた。

「ど……どうも…春風さん………これは、そのぉ」

「ふぇ?…………!?キャァァァ!」

「ぐはっ!!」 

 顔を真っ赤にした春風は猛をベッドから蹴り飛ばした。り……理不尽過ぎる‼

「あ!?す…すまん黒刃つい………だ…大丈夫か?」

「ああ……なんとか」

 辺りを見回すと、どうやら保健室のようだった。窓の外はもう夕方だった。俺は春風にあの後なにがあったのか聞かされた。ついでにさっきのは『回復魔法』をかけていたんだそうだ。

「お前が倒れたあと、ゲイボルグに刺された傷が勝手に治りはじめたのだ。いまだにまだ信じられんがな………」

「そ……そうなんだぁ……ふ…不思議な事もあるもんだなぁはは」

 少々苦笑いして誤魔化そうとしたが………

「バカ者‼お前は知っていたのだろう!?でなければあんな無茶をするバカはいない‼」

 ですよねぇ。でもあれは俺でも驚いた、まさか魔剣で刺されても死なないとは。

「黒刃、お前は一体何者だ?私を助けようとした一瞬、とてつもない魔力を感じた、そしてお前の身体能力が急激に上がったようにも見えた。」

「……………悪い。それは、言えない。」

 この力の事を話す訳にはいかない。あの理事長にも絶対他言はするなって言われてるし。

 それに俺自身この力についてまだよく分かっていない、できれば隠しておきたい。

「…………そうか」

 数秒の沈黙の後、春風が口を開いた。

「そ…それと……決闘の事なんだが」

 あ。そう言えばそうだった、いろんな事がありすぎてすっかり忘れていた。でも結果的に判定は『気絶』俺の負けだ。

「あの話は無しだ」

 はい?……無し?どういう事だ?俺は目をポツンと目を丸くして彼女に聞き返す。

「あのぉそれはどういう」

「お……お前は私を助けてくれた、そんな奴を追い出すわけないだろ」

 春風は頬を赤くしながら恥ずかしそうに答えた。案外良い奴なのかもしれない。

「そ……それでだな…お礼と償いを踏まえて、何か一つ言うことを聞いてやる」

「え?なんでも?」

「‼………も……もちろん……多少ふしだらな事をしても………か…かまわんぞ」

「しねぇよ!なに考えてんだあんた!」

「何!?男とは皆そういうものなのだろ?」

 この人が思っている男とはいったい………

「と……とにかく、お礼とか別にいいから」

「ならぬ!それでは私の気がすまぬ!なんなら今ここで脱いでもいいのだぞ!」

 彼女はのぼせたように目をぐるぐるさせながらシャツのボタンを外し始めた。自分でもかなり混乱してるらしい。いかん!このままでは大変な事になる‼

「わ……分かったから脱ぐのをやめろ!」

 ハッ !っと我に帰った春風はボタンを閉め直し(恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!)と念仏のように唱えながら布団にくるまっていた。

「じゃ…じゃあ一つ頼むよ」

 すると彼女は布団から顔だけ出し、猛を睨み付けて身構えた。ちょっと可愛いかも。

「街を案内してくれ」

 そんなことでいいのか?というような顔でこちらを見てくる。逆になんでそんな顔をするんだ?少々考え込んでいた彼女は、なにやらクスクスと笑いはじめた。え?なに怖い。

「うむ!聞き入れた、私に任せておけ!」

 布団から飛び起き、今までにない万弁の笑顔でそう答えた。ちょっと待って、今の笑い何なの?

「自己紹介がまだだったな。私の名は春風(はるかぜ) 詞葉(ことは)これから宜しく頼む」


 下校中も春風は嬉しそうに話かけてきた。帰り道が同じことや、兄妹がいること、好きな食べ物、嫌いな食べ物、特に好きな女性のタイプをしつこく聞かれた。まるで尋問されているかのように。女子ってみんなこうなのだろうか?

「では、またな黒刃」

「猛でいいよ」

「そうか……うむ!またな猛」




 翌朝

ピンポーン!

「んぅぅぅ?」

ピンポーン!ピンポーン!

「誰だ?こんな朝早くから」

『私だ猛、起きているか?』

「…………!?」

 急いで玄関に行き、扉の穴から覗いた。そこにいたのは制服姿で立っている春風だった。

(は……春風!?なんでこんな早くに?つか何で俺の家知ってんの!?)

『早くしないと遅刻するぞ』

 猛は恐る恐る扉を開けた。

「おお!猛起きたか!さ、早く準備しろ学校へ行くぞ!」

「お……おう。それはいいが春風、お前どうやって俺の家に来たんだ?」

「歩いて来たのだが?」

 春風は何を当たり前の事を聞いている?という顔で首をかしげていた。

「いやそういうことじゃなくて、どうして俺の家を知ってんだ?」

「簡単だ、昨日お前と連絡先を交換しただろ?」

「おう」

「そのあと家に帰り、連絡先からお前の住所を割り出したのだ」

「おう…………はあああああ!?」

 何さらりととんでもい事言ってんのこの人!?ストーカーなの?

「何をそんなに驚いている?」

「驚くは!てか驚かねぇ方がおかしいだろ!?なんでそんな事したんだ!?」

 すると彼女はキリッっと目付きを変え、猛を指差し良い放った。

「それは貴様が転校初日に遅刻をしたからだ、二度と同じ過ちを繰り返さぬようこれから先、私が一緒に学校に行ってやろうというのだ、感謝しろ!」

 あれぇおかしいな、何で俺が怒られなきゃあいけないんだ?普通ならここで警察を呼ばなきゃいけないはずなんだが。

ボソッ「そ……それにこうすれば、毎日朝からお前に会えるしな」

「え?」

「な……なんでもない!ほら早く着替えろ!遅刻するぞ!」

 猛は内心納得いかないまま支度をし、学校へ登校した。

 教室前の扉で立ち止まると、ある不安が頭をよぎった。また昨日みたいに俺がこのクラスに入るのを認めない人が出るのではないだろうかと。そう思うと自然とため息は漏れ、扉を開ける手がとても重く感じる…………

 「心配するな猛。伊座となったら私がお前をサポートする」

 春風はそんな俺を見て元気付けようとしたのだろう。その気持ちはもちろん嬉しかった。だが春風よ、こうなる原因を作ったのはあなたですよ?俺はその言葉を口には出さず、ぎこちない笑顔でありがとうと答えた。

 不安しかないこの状況を唾液ごと飲み込み、扉を開けた。もう勢いに任せるしかない!自分にそう言い聞かせ、教室に足を踏み入れ…………え?

「ドーッセイ!」

「へばぁ!」

入ろうとした瞬間、飛んできたボールが額に直撃した。俺はその衝撃に耐えられず、床におもいっきり後頭部を打ち付けた。念のためもう一度言う。おもいっきりだ‼

 投げてきたのは、ガッツポーズで喜んでいる元気な女の子だった。

「ストライーック♪」

「じゃねぇだろ‼何すんだいきなり!?」

「ん?………挨拶代わりの豪速球?」

何故疑問系なんだこの人。つか『豪速球』って、あれ普通に人にぶつけちゃいけない威力だぞ?

「こら土門(つちかど)!いきなり何をする!!」

それを見た春風は俺の代わりに、俺より怒っていた?

「いやぁ転校生君丈夫だからこれくらい大丈夫かなって♪テヘッ❤ごめんね」

デッドボールを決めた奴がそれで許されると思うなよ?すると土門の後からもう一人の女子生徒が近づいてきた。

「おっ!兄ちゃんじゃないか。丁度いいところに来た」

彼女は指をパチンッと鳴らし

『来な、『バルムンク』!!』

雷を纏った魔剣を召喚した。彼女は自分の身長よりさらに大きな『大剣』を片手で軽々と持ち上げていた。

「あ…あんたも魔剣出せんのかよ!!?」

「なんだ兄ちゃん、知らなかったのか?魔剣なんて、このクラス全員使えるぜ」

 き……聞いてねぇ………だけどこのクラスが何で『問題児』って呼ばれているのか分かった気がする。普通の生徒と魔剣使いとじゃあ、力の差がありすぎるため、クラスに馴染めなかったのだろう。

「そんな事より兄ちゃん、いっちょ私と喧嘩しようぜ‼」

 訂正。性格にも問題があるようだ。

 キーンコーンカーンコーン♪

 朝のチャイムが鳴り、一旦喧嘩はお預けになった。彼女はなんだか落ち込んだ表情で席に着いた。俺は今、この鐘の音に命を救われた事を心から感謝している。

 席に座って待っていると、教室のドアが開いた。入ってきたのは学園長だった。

「皆、揃っているな。突然で悪いが皆に頼みたい事がある」

 全員がお互いの顔を見合わせて何だろうと話していた。俺も内心嫌な予感がした。何故ならあの人(学園長)と目が合った時、一瞬だが『あの顔』になっていた。そう、何か良からぬ事を考えている時のあの顔だ。

「学園長、それで頼みというのは?」 

「ふむ。お前たちにはこれから競技場で、他の生徒達に魔剣を披露してもらいたい」

「ケッ!んだよ、ただの見せもんじゃねぇか」

「なんだ雷桜(らいおう)不満か?」

「ったりめぇだ!何でそんなことしなきゃならねぇんだ」

「もちろんただで頼むとは言わん、出てくれた礼に私の(学園長)権限で出来る限りの報酬をやろう」

「よぉーしお前らさっさと行くぜぇ‼」

 ちょろいなこの人。

「それでぇ~学園長ぉ?具体的に何をすればいいんですかぁ~?」

「『訓練用ゴーレム』との実戦訓練だ、もちろん黒刃。お前にも出てもらうぞ」

「え!?」

 突然の無茶振りに俺は思わず声を上げた。

「待ってください学園長。猛は転校してきたばかり、それにまだ魔剣を持っていません」

「ほぉう、猛を名前で呼ぶか、いつの間にそんなに仲良くなったんだ?」

「ち!…違います‼彼にはその……助けてもらった仮がありますし……それに…その………」

 春風は助けを求めるようにチラチラとこちらを見てくる。いや、見られても困るんだが…………

「まぁそれは良い。それに安心しろ、ゴーレムといっても所詮は訓練用、魔剣が無くとも倒せるし、多少の怪我はあるかもしれんが死ぬほどではない」ニヤ

 またあの顔だ!絶対何かある‼

「それでは皆、競技場に行くぞ!」

(か……帰りてぇ………)


 

『競技場』

(来てしまった…………昨日に続き、またここに来るはめになるとは………)

『それでは長らくお待たせ致しました!これより対戦闘用ゴーレムとの実戦訓練を開始いたします‼』

「「「おおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」

 実況の声と共に、観客席から大きな声援が鳴り響いた。

『そして!なんと!今回の実戦訓練に参加するのは、我ら学園の最大戦力とも言える魔剣使い達です‼』

「「「おおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」

(すげぇな、大人気じゃねぇか)

「うるせぇなぁ、ちゃっちゃと終わらせて報酬貰って帰るぞ」

(この人も大概いだなぁ……)

『では早速参りましょう!エントリーNo.1春風 詞葉さん!』

『来い!ゲイボルグ!』

「「「おおおおおおおおお!!!!!!」」」

 それから魔剣の披露は次々と行われ、猛の番がやってきた。

『最後を飾るのはなんと!昨日学園に来たばかりの転校生!エントリーNo.7黒刃 猛君!』

「さて……行くか!」

 両頬を叩き気合いを入れた猛は、ゆっくりと競技場の真ん中へと歩いていった。

『えー手元の資料によると、昨日彼は春風さんと決闘をし、なんと引き分けになったそうです‼』

(うわぁ、俺って結構有名?)

『今では学園の注目の的!特に男子からは嫉妬と殺意のコメントが殺到しています!』

(うわぁ…俺って結構有名??)

 周りの空気と猛の足取りが急に重くなった。ギャラリーに座っている男子からの激しいブーイング、女子からはケダモノを見ているかのような視線を感じる。

 マジで帰りてぇ………(半泣)

『それじゃあいってみましょう!ゴーレムぅ………召喚!!』

(昨日の決闘に比べれば、ゴーレムなんてたいしたことない、やれるさ!)

 会場の真ん中に大きな魔方陣が広げられた。でも……あれ?今までより、大きくない?

そこから出てきたのはゴーレム、なのだが明らかに形状が違う。体はゴツイ岩石で覆われ、両肩からは火山の噴火のように吹き荒れていた。

 なにこれ……………

漠然と立ち尽くす猛、会場の誰もが何も言わずただ固まっていた。

 そんな空気の壁を一瞬にしてぶち壊す一つの放送が流れた。

『あーあー、マイクテス、マイクテス』

「 学園長?」

『猛よ、お前はなぜこんな状況なっているのか理解できていないだろう』

「はい……全く」

『遅刻の罰』

「は?」

『それだけだ』

「いやいやいやいや!!おかしいでしょ!?どうやったらそれだけでこんなカオスな状況受け入れろって言うんですか!?」

『うるさい奴じゃのぉ、それでもお前は男か?』

「性別関係なくこれはやり過ぎでしょうが!?」

『殺れ、ゴーレム』

「え?……っちょ!…うわぁ‼」

  学園長の命令と同時に、間髪いれずにゴーレムが殴りかかってきた。

「くそっ!……やるしかねぇか!」

スピードには自信があった猛は、上手く拳を見切り、ギリギリではあるが、なんとか交わしきっていた。そしてゴーレムの右拳が床に食い込んだのを見計り、その腕を駆け上がっていった。

それを見ていた生徒たちは、その身のこなしに驚きを隠せなかった。本来の魔術勝負において、体術などなんの役にも立たない。だが、今のこの現状を見て、何人かの生徒は共感を受け、「体術の訓練もしてみるか」と、ひそひそと声があがっていた。

「熱ぃ!!」

 腕を上がってくる猛を見たゴーレムは、自分の体内にあるマグマの温度を上昇させ、体の隙間から高熱の蒸気を噴射した。

 猛はその力に耐えられず、上へ押し上げられてしまった。

「しまっーーー!!」

 ゴーレムはその隙を狙い、左の拳で猛を会場の端まで殴り飛ばした。

「ぐはっ!!!」

「猛‼もう止めさせてください学園長!」

 だが、そんな春風の声を聞き入れない学園長は黙ったまま、ただ見ていた。

 ゴーレムはゆっくりと猛に近づき、とどめの拳を放った。

「たけるーーー!!!」

「‼」 

 すると、急にゴーレムの動きが止まった。

「え?」

 春風が見た先には、立ち止まったゴーレムと、拳を片手で止めている猛の姿だった。その場にいる全員が凍り付いた。原因は、猛が片手でゴーレムを止めていることではなく、そこに漂うとてつもない魔力を感じ取ったからだ。

『ケルベロス』

 猛の後ろから黒い魔方陣が広げられた。出てきたのは、『黒い影』頭が3つある狼だった。

「召喚獣!?」

「嘘だろ、召喚獣使えるのって『闇属性』だけだろ⁉」

「じゃあ、まさかアイツ……『魔族』なのか!?」

『喰らい尽くせ』

 その一言で、ケルベロスは容赦なくゴーレムに食らいついた。四肢を噛み砕き、頭を潰し、腹を割り、体内のマグマを飲み干した。

 食事を終えた狼は、霧となって消えていった。

『しょ……勝者、黒刃 猛君!』

「「「おおおおおおおおお!!!!!!!!」」」

 歓声と共に大きな拍手が送られた。

「たけるーー!」

 すぐさま春風が駆け寄った。だが、猛からは返事がない。顔を見ると、その目からは光はなく、触れてみた体は冷えきっていた。

「これは……魔力切れ!?」

 魔術師にとって魔力とは、言わば生命力。それが無くなるということは、すなわち死を意味する。猛の魔力は召喚したケルベロスにほとんど持っていかれてしまい、立っているのがやっとの状態だった。すぐに保健室に運びたいが、下手に動かすと逆に危険だ。この場で魔力を補給するしかない。だが、問題なのはその方法だった。それは、魔力を渡す側が自らの血を、直接本人に飲ませること。

 春風の顔は一気に赤くなった。理由は、今この状況で猛は自力で血を飲むことができない。つまり血を渡す者が直接本人に飲ませなければならないのだ。

(な……何を考えているのだ私は!!今の猛は自分で血を飲むことができない、ならばもう方法はあれしか………いやいやいや!本人に断りなくそんな事をしていいはずがない、だがそれでは猛が……し……仕方ない、これは悪まで人命救助だ、決してふしだらなことは考えてはいない………考えてない‼)

 よし!と覚悟を決めた春風は猛の方へ振り返った。

 しかしそこにはもう一人の姿があった。

「学園長?」

 そこにいたのは、猛の体をよじ登っている学園長だった。

「やはりこうなったか、全く世話の焼ける子じゃのぉ」

 彼女は自分の指先を噛みちぎり、その血を口に含み、猛の口へと移した。

「え……えぇぇぇぇ!」

「なんじゃ?うるさいのぉ」

「が、ががが学園長⁉い、一体何を?」

「見て分からぬか?血を飲ませておるんじゃ、ん?まだ足りんか?ちゅぅぅ………はむ」

「う、うぅぅぅ…………」

 春風は涙をポロポロ流しながら、床にペタリと座り込んでしまった。


ーーーーーーー

(ここは?)

『マスター』

(あ、お前昨日の)

『どうでしたか?、初めて魔獣を召喚してみて』

(魔獣?)

『はい!さっき出てきたあの(ケルベロス)はマスターを守りたいという感情が暴走して、勝手に飛び出しちゃいましたけど、それくらいマスターの事が好きってことですよ!』

(は…はぁ、そうなんだ)

『他の魔獣達も、少しずつマスターを宿主だと認め初めていますよ』

(他にもいるのか!?)

『はい!ただ……『あの子』を除いては………』

(ん?あの子?)

『あ、そろそろお時間のようです』

(え?うわ!足が無くなってる!?)

『ではマスター、この続きはまた今度』

(ちょ!……ちょっと待て!俺まだ話がーーーーーーーー)


「待ってくれ‼…………あれ?」

 布団から起き上がった猛は、見覚えのある風景を見渡した。というか昨日見た。唯一違うと言えば、隣で寝ていたのは春風ではなく、綺麗な白い髪の可愛い別の女の子だということくらいだ。

 は?…………

「うわあああああああ‼」

 俺は驚きの余り、ベッドから転げ落ちた。

「んぅぅぅ、くぅぅぅ………黒刃 猛の起床を確認、これよりフィジカルチェックを開始する」

「は?」

 まだ眠たそうな目を擦りながら、まるでロボットのような言い方をして、ムクッと布団から起き上がった。がーーーーーーーー

「何で裸なんだぁぁぁぁ!?」

 そう、彼女はパンツ以外何も着ていない状態だったのだ。

「こうすると男は喜ぶと、暁月学園長が」

「なに考えてんだあの人はぁ!こんな子供になに吹き込んでんだ‼」

すると彼女は眉寄らせ、プクっと頬を膨らませていた。

(あれ?俺なんか怒らせるような事言ったかな?)

「侵害、私は16、黒刃 猛と歳もクラスも同じ、発言の撤回を求む」

「え?同い年?しかも同じクラス⁉」

「ん」


彼女はコクンと頷いた。

「そうか、なら問題……増してるんですけど!?」

「問題ない」

「何処が!?」

「私は構わない」

「俺が構うは!?」

 感情の無い彼女の言葉になかなか付いていけない猛は、とりあえず目のやり場に困るので、自分の上着を着せてやった。

「で?」

「ん?」

「何でここにいるんだ?何で俺の隣で寝てたんだ?」

「服を着ていなかった理由は信じるの?」

「あの人なら言いそうな事だから信じる」

 猛は腕を組み、大きく頷き言い切った。

 それを見ていた少女は少し首をげ、少々気になっているようだったが、猛の質問に答えた。だけど………

「私と結婚して」

想像してたのよりとんでもない答えが帰って来たぁ!

「えっと、冗談だよな?」

「本気」

「嘘だろ?」

「本気」

「いやいや、冗談でも笑え…」「本気」

即答。

 彼女は何の迷いもなく、表情1つ変えずに俺が質問を終える前にその返事が帰ってくる。

「い、一体どうして俺なんか?そもそも初対面だよな俺達。それがなんでいきなり結婚なんて」

「朝の競技場で、あなたが出した召喚獣、ケルベロス、かっこよかった」

「そ、そうか」

でもあれは、俺が自分で出した訳じゃない。ただあの時、俺じゃない別の何かがそうさせた気がする。あまりよく覚えてないけど、正直ちょっと嬉しいかも。

「それが理由」

「は?」

「ゲームキャラが飛び出してきたみたいだった」

「それだけ?」

無言で頷く少女。驚きのあまり言葉も出ない少年。妙な沈黙が流れる。

 俺が召喚獣を出した事がかっこよかったから結婚してくれ?なにそれ、ただそれだけが理由?それで結婚?そもそもこんな簡単に成立するものなの?

 猛は頭を抱え、何度も何度も考えたが答えが出てこない。

すると保健室の扉が勢い良く開いた。

「猛!大丈夫か‼」

入ってきたのは春風だった。かなり急いで来たのか、息が荒く、頬には汗が垂れていた。

(は、春風!?マズイ!今のこの状況を見られたらとんでもない誤解を招いてしまう!)

「猛、開けるぞ?」

ベッドを隠すカーテンが開かれる。

「よ、よう春風」

「おう猛、目が覚めたのか、体調の方はどうだ?」

「お、おう大分良くなったぞ」

「そうか、良かった」

春風は「ホッ」っと胸を撫で下ろす。余程心配したのだろう、とても安心した表情だった。

「さて、私はまた授業に戻る。猛はもう少し休め」

「悪いな、ありがとう」

「気にするな」

 そう言って、春風は振り返ろうとした時。

「そうだ、アイツを探さねば」

「アイツ?」

突然何かを思い出した春風は頭を掻いた。

「なぁ猛、白雪(しらゆき) 氷華(ひょうか)という生徒を見なかったか?」

「白雪?いや見てないけど、誰だそいつ」

「そうかまだ話した事無かったな、私たちのクラスにいる、白い髪の色が特徴的で、背が低くて子供に見られがちだが、魔術戦闘に関しては一位二位を争う実力者だ」

 うん、ありますね。見覚え。だけど、何処にいるかは説明できない。言ったら殺される恐れがある。

 何を隠そうその少女は、今、猛の後ろにいるのだ。

 正確には猛の上着の中に入り、密着している状態なのだ。もちろん白雪は裸なので、体の感触がダイレクトに伝わってくる。

 何故こんな事になったかと言うと、春風が入って来たことに戸惑っていた俺に、「私に考えがある」という白雪の言葉に、考えてる余裕が無かった俺は、その言葉を信じるしかなかった。

「うひゃあ!」

「猛!どうした!?」

「ひ、ひや、なんでもない」

「そ、そうか」

 信じた俺がバカだった!

 後ろに隠れて白雪は、猛の体をペタペタと触りまくっていた。

(お、おい何してる!見つかったらどうすんだ‼)

(ウィークポイントを発見、黒刃 猛はここが弱いと推測)

(ふぁ!止めてくれマジで!見つかったら殺される!)

 だが白雪は聞く耳を持たず、猛の体をさわり続けた。

「猛、ホントに大丈夫か?なんだか顔が赤いぞ?」

「だ、大丈夫だ、きぃ!にしないでくれ」

(ふふふ、ペタペタコチョコチョ)

(お、お前……後で覚えてろよ!)

 早くこの現状を打破しなければ、猛の顔は徐々に緩み始める。

「そ、そうだ春風、昨日の約束の事なんだけど」

「約束?」

「ほら 、迷惑かけたお礼に街を案内してくれるってやつ」

「おお、そうだな!いつだ?いつにする?今日か?明日か?」

 まるで子供のように嬉しそうな笑顔で話す春風を見て、猛もなんだか嬉しくなった。

「落ち着け春風、流石に学校がある日はダメだ、次の日曜でどうだ?」

「う、うむ!では次の日曜に、集合場所は後日報告する。ちゃんと遅れずに来いよ」

 そう言うと春風は、嬉しそうに保健室から出ていった。

「ふぅ、なんとかバレずにすん……いだっ!」

 後ろにいた少女はなぜか怒っていて、なぜか猛の首筋を噛んでいた。

「浮気」

「はい?」

 いきなりなんだ?今度は何の話だ?

「私がいるのに他の女と浮気なんて許さない」

 チョップ!

「あう!」

「またその話しか!」

 呆れを通り越して感心するよホントに。

「なぜ駄目なの?」

「お互いの事よく知らないのに、いきなり結婚しろなんて言われて納得するやつがあるか!」

「じゃあ、私の事もっと知って」

 ゲンコツ‼

「あう~」

「服を着ろーーー!」

 

「ふふ、見つけたぞ、我が愛しい人よ」

 

 次の日から俺は学園内で、かなりの人気者になっていた。

「ねぇねぇ、あの人でしょ?一昨日転校してきた、例の闇属性って」

「闇って言うくらいだから、結構怖い人かと思ったけど、意外とカッコイイかも」

 朝からこんな感じの話があちこちから聞こえてくる。頼むから止めてくれ!なぜだか分からんが、隣にいる春風さんがその話を聞く度にどんどん機嫌が悪くなってるから!

「は、春風さん?どうしたんだ、そんなに殺気立って」

「なにか言ったか?猛くん?」ニコ

「いえ、なにも」

 誰から助けて怖い………ん?あそこにいるのは……

 道の先を見ると、一人の少女が立っていた。見覚えのある小柄な体型、透き通るような白い髪。昨日の記憶が蘇る。嫌な記憶が………

「黒刃 猛を目視にて確認、これより夫婦のスキンシップを開始する」

「ぐふっ!」 

 猛は突然抱きついてきた少女に押し倒され、二人とも道に倒れてしまった。

「し……白雪!?突然なんだ、てか顔近づけんなぁぁ!」

「夫婦の朝は、熱いキスから始まる」

 また性懲りもなくこいつはー!

 キスを迫る白雪の顔を猛は必死で押さえた。

「春風、ちょっと助けてく………春風?」

「…夫婦」

 え?

「夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦夫婦、は、はは、ははははは!」

 っちょ、春風さん?

 幻覚だろうか、春風の体から闇よりもさらに黒いオーラが見える。

「猛」

「は、はい」

「最後に言い残すことはあるか?」

「えーと、殺さないで下さい?」

『我 風の聖霊を宿し者 我 血の契約に結ばれしそなたの鎖を解き放つ者ーーーーー』

「え!?待て春風!落ち着いて話しを………」

『ゲイボルグ‼』

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」




 



 

 



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