影武者ですが、主がお人好しで困ってます
「王子様!私こそが貴方にふさわしいのです!」
「え、えぇっと...しかしだな、私も一国の王子であるから、私の一存では決められぬ。」
「そんなことはないですわ!それに私の父上もお前が妃に相応しいと仰っておりましたもの」
なんとも呆けた、失礼、恍惚とした表情で告げる女は世間知らずの箱入り娘と言ったところか。どうしてこうも、毎日のようにバカな子が代わる代わるくるのか、さっぱりだ。
「すまないがお引き取り願いたい。私はもう疲れた」
「そんな!私は」
本当に疲れた様子で仰る主にまだ楯突く女。まぁ、素性などは既に調べて有るのだが、ここでは関係ない。
「はぁ、アーチェ。部屋の外まで送って差し上げてくれ」
名指しで言われてしまえば断ることなどできない。天井裏から下に降りる。
「かしこまりました。サーシャ殿、今なら事を荒たてずに済みますのでお引き取り願えますね」
「...わ、分かりましたわ。今日のところはここまでにいたしますわ。ですが私を妃にする件、どうかお考えください。」
そういった女は私が開けた扉をそそくさと潜っていった。
扉を閉めて、仮面とフードをとる。ほんと、この格好だと不審者見たいじゃないかと思うが、何にせよ私とアルマ王子は姿形が瓜二つであるため仕方ない。
「アル、お前いつもいつもご苦労だね」
「私だって望んでされているのではない。それより、どうやって断ればあの者は傷つかずにすむだろうか」
ベッドの縁に腰掛け頭を抱えるこの人を見てため息をつく。
「あのさぁ?いつも思うけどなんでそんなにお人好しなの?あんな中級貴族なぞ立ち直れないくらいの振り方をしなきゃ一生付きまとうよ?いつぞやの伯爵令嬢みたいにさ」
「うぅむ、そう言われてしまうと私は困ってしまうな」
いつもの困ったような顔で笑うアル。そして、でも、と口を動かす。
「いつものようにお主が助けてくれるのだろう?」
「貴方って人は...はいはい。わかってますよ、ちゃんと助けるって。」
なんだかんだ言って、俺はアルに弱い。助ける、というか後始末はいつも私が何とかしているのだ。
「私より、お前の方が表に出れば上手く国をまとめられるのではないか?」
「ばーか、俺は国民のためーとか豊かにするためーとかのために動くとかは考えられないし、王になるとか無理だから」
「...お前はいつもそういう」
「ま、頑張ってよ」
ひらりと手を振り、部屋を出る。
曲がり角で立ち止まれば俺の方に封筒が差し出される。俺は無言でそれを受け取った。
「その中に、あの者の家の闇が書いてあります。まぁ、貴方が調べたことを纏めてあるだけなんだけどな」
「そ、明日はアルと換わるからちゃんと面倒見てあげてね」
その返事は聞かずに自室に戻る。その時の俺の顔は見なくてもわかる。きっと笑っているだろう。
「さぁて、うちの兄上をたぶらかそうとしたんだから、しかもこんな真っ黒の醜い罪をもってさ。そう簡単に楽にさせてあげないから」
暗闇のなかで愉しそうな声が響く。あの女がどうなったかは、知らぬが仏。