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早春譜  作者: 四色美美
19/24

長尾家のラストラブバトル

遂に正樹と美紀が挙式します。

 高校の卒業式は無事終わった。

最優秀生徒は、サヨナラ満塁ホームランを打った直樹が選ばれた。


校長先生は、恋愛バトルの結果報告をさせようと三人を校長室へ呼んだ。


それは校長先生の計らいでもあった。

卒業式の後、近くのチャペルで二人の結婚式があるのを正樹に打ち明けられていたからだった。



未だにバトルを繰り広げている三人を遠ざけるためだった。


でも三人にはある事情があり、そわそわしていた。



ある事情……

それは美紀の元へ駆け付けること。


三人はこれから、この恋に決着を付けようとしていたのだった。


そう……

名目上は、四人で顔を合わせられる最後のチャンスだったのだ。





 三人は最後の賭けに出ようとしていた。


それは大阪で美紀と暮らすために絶対に必要なことだった。


まずコーチのライバルだと言う、社会人野球チームのコーチに連絡を取った。

次に父には内緒でと告げて、美紀の祖父の家で下宿させてもらうことにした。



全てが美紀が大阪で暮らすための手続きとした。


それを真に受けて、祖父は二人の大阪暮らしをサポートすることにしたのだった。



だから家に帰った時、祖父を見て驚いた。


内緒にしていたことがバレたと思って震え上がったのだ。





 卒業式終了後正樹と美紀はチャペルに向かった。


大阪の祖父も先回りをいていた。


勿論美紀をエスコートするためだった。


驚いたことに、校長室にいるはずの三人も先回りをしていた。


三人は、校長先生の落ち着かない態度から何かを察し詰め寄った。


うっかり口を滑らせた校長先生。

やはり隠し事の出来るタイプではないらしい。



そのことを聞いて慌てて駆けつける三人。


だから何とか滑り込みが出来たのだった。



そして美紀に対して最後のあがき。


跪き、両手を差し出すタキシードの三人。


三人はお人好しの校長先生のお陰で本番前に間に合ったのだった。





 この三人のタキシードには訳があった。

卒業式の後……

それぞれの思いを告白するために、準備していた物だった。


そう……

これがある事情だった。


三人からの正式なプロポーズになるはずだったのだ。



(俺達の中から決めて貰おう。誰が選ばれても恨みっこなし)


そんな思いが交錯する。



でも……

ウエディングドレス姿の美紀を見た時、三人は固まった。



その幸せ溢れた表情は、正樹への愛を貫いた珠希そのものだったから。





 (ママみたいだ……)


秀樹は思う。



(ママ……此処にいたの?)


直樹は思う。



それでも行く。



「ちょっと待った!」



「その結婚待った!」



三人は祖父にエスコートされて、正樹の元へ向かおうとしている美紀の足元へもう一度駆けつけた。





 「愛してるよ美紀。お願いだー。この結婚を取り止めて、俺のお嫁さんになってくれ」

秀樹がプロポーズする。



「美紀。愛してる。お願いだ、俺と結婚してくれ!」

直樹もプロポーズする。



「美紀ちゃん。俺は教師になる。教師同士支え合いながら生きて行こう。お願いだ。この俺と結婚してください。それと……長尾家の平和のためには、俺と一緒になることが一番だと思うから」

大もプロポーズする。


大は今でも思っていた。

この期に及んでも尚……

自分と結婚することがベストなのだと。



「お前等が美紀ちゃんと暮らせるって言うから、大阪行きを決めたんだ。どうしてくれる」

誰にも聞こえないように二人に言った後。



「約束破ったお前等が悪いんだ。いいか、美紀ちゃんは俺が戴く」


大は強気で本気だった。





 「何ー!?」


秀樹が大に詰め寄った。



「止めろよ二人共。今はそんなことしてる場合じゃないよ」

直樹の言葉に二人は慌てた。


そして又美紀の元へ駆けつけようとしていた。



「ちょっと待った!」

そう叫びながら、もう一人近付いて来た。


それは沙耶だった。



「ねえ、あんた達。美紀ちゃんが誰を好きなのか知ってて言ってる訳?」

あの日と全く同じセリフを言う沙耶。

でも今日は違っていた。



「美紀ちゃんの体の中に誰が居ると思うの!?」


沙耶のその一言で、其処にいる全員が固まった。





 「うそっー! マジ!?」


美紀のお腹をマジマジと見る三人。



「親父汚ったねぇ! 遣ることが早過ぎるよ!」

秀樹は正樹を睨み付けた。



「何なんだ!?」

正樹も固まっていた。



「あれっ? 私なんか悪いこと言ったかな?」



「沙耶さん何とかしてくれよー。誤解されてるみたいだよ」


正樹のその一言で、やっと気付いた沙耶。



「みんなも気付いているんじゃない。美紀ちゃんの体の中に姉が……ううん、アンタ達のママが居るの。それともう一人。美紀ちゃんを産んでくれたママも居るの。ママも美紀ちゃんのママも、パパが大好きだったの。だから、だから美紀ちゃんはパパが大好きだったのよ!」





 沙耶の説明でさっき垣間見た光景を思い出した秀樹。



(ママ……やっぱりあれはママだったんだね)

秀樹は泣いていた。

美紀が背負わされた十字架の重さを感じて。



(どんなにパパを愛しても、きっとパパは美紀を拒む。だって、パパはママが命だったから。例え美紀の中にママを感じていても……。だから親父……

こんなに時間がかかったのか? ったく、しょうがねぇ親父だ……)



直樹も泣いていた。



(美紀……だから、だからパパが好きだったのか? でも……俺には今しか無いんだ。ごめん美紀……幸せになる邪魔をさせてくれ!!)





 祖父のエスコートで、一歩一歩祭壇に近づく美紀。



「待ったー。その結婚待ったー!!」


それでも駆けつける三人。


その姿を見て、沙耶も歩みを進めた。



(ちょっと待った! 自分も行きたい。正樹の元へ行きたい! 素直に好きだと言いたい)


でも……

沙耶は躊躇った。

美紀の中で、結城智恵が……、長尾珠希が微笑んで居るのが見えたからだった。



(お姉さん……)


沙耶は又しても、壮大な珠希の正樹を思う心に折れたのだった。



でも屈辱ではない。

清々しい負けだった。



「美紀ちゃんー!」

沙耶は思いっ切り大きな声を掛けた。



「幸せになってね!!」


そう叫びながら、沙耶はいつの間にか微笑んでいた。


姪を嫁がせる叔母の心境になって。





 どうしても諦めきない大は、二人を引きずって駆けつけた。


当たり前だった。

正樹は本当に美紀を大に託す気でいたのだ。


大はそれに気付いていた。

だから強気だったのだ。



それでも、今更ながらに美紀の前に跪き再度手を差し伸べプロポーズをする。



「美紀ちゃんー。お願いだー!!」



「どうか、俺達を見捨てないでくれー!!」



「お母さんなんて、呼べる訳がないよー!!」


みっともない程足掻き、拝み倒そうとする三人。





 「ありがとう秀ニイ。ママのラケットを遺してくれて……優しさをありがとう」


その言葉を聞いて、秀樹は固まった。



(やっぱり!? 知っていたのか?)


何時も明るく振る舞っていた美紀。

その陰で涙を拭う美紀を秀樹は想像していた。



「ありがとう直ニイ。私を甲子園に連れて行ってくれて……思いやりをありがとう」



(いや、美紀。それを言うのは俺達の方だよ)


美紀が何時も傍にいてくれたからあのホームランが打てたんだ、そう直樹は思っていた。





 「ありがとう大君。アナタがいたから楽しいかった……心遣いをありがとう」



(そう思うなら、この結婚待ってほしい)


そう、大はまだ諦めてはいなかった。





 美紀の三人に対する感謝の気持ちは嘘ではない。


でも美紀は真っ直ぐに正樹を見ていた。



「私……本当のママになりたい」

美紀はそう言うと、秀樹と直樹を見つめた。



「前から感じていたの。あなた達が可愛くて仕方なかった」



「それなら、何故? 俺達じゃ駄目なんだ?」


秀樹が聞いた?


その答えを知りたくて、直樹も大も聞き耳を立てた。



「沙耶さんに言われて気付いたの。それは、ママの想いだと。だから……パパに嫁がせて。だって……私本当にパパが好きなの」


美紀はそっと祖父を見る。


祖父は頷きながら、静かにその手を離した。



「パパー!!」


祭壇の前で待つ正樹に美紀は声を掛けた。



「そう……私は私以外の誰でもない。結城智恵さんでも、ママの長尾珠希でもない。私は美紀。小さい頃からパパが大好きだった、ただの美紀なの!」





 「そうだ美紀! お前は誰でもない。パパが大好きな美紀なんだ!」


正樹はその両手を広げる。



「愛しているよパパ!」


遂に言えた美紀。


その言葉に涙しながら、正樹は頷いた。



「美紀ー!! 幸せになれよー!!」

やっと言えた三人。

泣きながら祖父の元へ歩み寄った。



「あ、り、が、と、う」

たどたどしく……

でもはっきりと言葉を発した祖父。

三人の頭を両手で抱え込んだ。





 大はやっと、美紀への思いを封印させなくてはいけないと思った。


美紀の幸せのために……


何時も笑顔をたやさなくするために……



その時祖父は三人にメモを見せた。



――私はこのまま、ここで暮らすことにした――

そう書いてある。



「えっ!?」

突拍子のない声を上げようとした三人を慌てて押さえ込んだ祖父。

美紀を見つめた後で三人にウインクを送りメモを見せた。



――君達はあの家で――



「えっ俺達に使わせてくれるのですか?」



――信用しているから――



「でも美紀が居ない」

秀樹が寂しそうに呟いた。



――大君と言ったね。君も一緒に暮らしたら――


それを見て大は喜んだ。


確かに美紀は居ない。

でも、気の合った仲間同士で暮らせるのもいいかもしれないと思っていたのだった。





 「ヒデ、ナオ。よろしく頼むよ」


大は二人に握手を求めた。



「うーん、まあ此方こそよろしく頼むよ」

二人同時に言った。



「やはり双子だ」

大はしみじみと言った。



これから三人は、大阪で暮らすことになる。


それが美紀を守るためのサプライズとも知らず、三人は大阪暮らしを夢見始めていた。



でも実のところ祖父の意図は別にあった。



(三人の魔の手から美紀を守る)

祖父は新たな闘志に燃えていた。





 美紀は祖父の決意を知っていた。

自分達と一緒に居たいと願った結果だと思い、素直に喜んだ。


此処なら病院も近いし、直ぐ傍には福祉センターもある。



だけど、故郷を離れることはきっと辛いはずだと思った。


それでも自分と居たくて……

自分はそれほど愛されている。

そう思った。


本当は秀樹と直樹とも暮らしたかった。


でも、何時邪魔されるか解らない。

だから祖父に感謝した。


二人っきりの生活を確保してくれた祖父に……



だから美紀は、そんな祖父の思いやりや志に感謝しながら……

やはり愛する正樹の胸に飛び込んで行ったのだった。





 (例え美紀に智恵や珠希が憑依していたとしても、美紀には違いない。愛してやろう三人分。この愛の全てを掛けて)


正樹は全身全霊をかけて、美紀を愛し抜くことを自分自身に誓っていた。





 何も知らされていない正樹は、如何なる邪魔が入ったとしても美紀だけを愛することを誓った。

そう、やはり正樹は誰よりも美紀を愛していたのだった。

初恋の人より……

死に別れた妻よりも。



今、美紀は……

熱い愛の炎を灯した正樹の厚い胸にしっかりと受け止められた。



全員が目を細める見守る、そんな中で。



でも正樹に愛して貰おうとして、美紀の中でバトルが勃発しようとしていた。


智恵・珠希・美紀。

それは新たなトリプルトラブルの出発点となりつつあった。


このトリプルトラブルハブバトルは、正樹の愛を更に震え立たせるだろう。

それは美紀の幸せのために珠希と智恵の二人が仕掛けるトラップとなって……





 そんな様子を伺っていた者がいた。

それは淳一と詩織だった。



淳一は正樹と美紀の結婚式を見に行こうと詩織を誘っていたのだった。






挙式の様子を見ていた詩織に淳一が次章でサプライズを仕掛ます。

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