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早春譜  作者: 四色美美
18/24

愛すると言うこと

正樹が遂に決意します。

 沙耶に説得され、正樹は美紀を受け入れようと決意した。



結城智恵や愛しい妻の長尾珠希がもし美紀の身体に憑依していたとしても……美紀には違いない。



(俺は美紀が好きだ! もう迷わない! もう離さない! そうだ。きっとこの感情こそが愛すると言うことなのだ。俺は美紀を心から愛しているんだ……)


美紀を思う度心が揺さぶられる。

恋人にしたい存在でもあったのだが、愛しい我が子でもある事に変わりはない。

だから正樹は激しい感情を封印し続けてきたのだ。


どんなに苦しかったか。

どんなに美紀の存在が重くのし掛かっていたか。

正樹は今更ながらに、悪戯好きな珠希の魂を其処に感じていた。





 一時の感情に負けては駄目だと思い、美紀を拒み続けてきた。


でもそれが沙耶の言葉で白日の元にさらされた。



(何故今まで気付かなかったのだろう? でも美紀は本当に自分を好きなのか? もしかしたら、珠希と智恵が美紀に憑依して操っていただけではないのだろうか? 美紀、本当に俺でいいのか?)


答えは出ない。

それでも正樹は美紀に告白することを決めていた。





 沙耶に言われて気が付いた。

珠希が美紀の中で生きていることを。

珠希の誕生日に、きっとその存在を示したかったのだと言うことを。



(ごめんな。ずっと気付いてやれなくて)

正樹は、珠希の遺影に誤った。



(美紀を愛しても良いかい? 心の赴くままに。俺、駄目なんだよ。美紀にお前を感じて以来、美紀のことが頭から離れなくて。だって美紀はお前そのものだったから。だから迷ったんだ。だから恋しくて堪らなかったんだ。でも、そんなのでいいのか? 本当に美紀を愛しているって言えるのだろうか?)



美紀を愛していこうと決めたくせに……

正樹の決意は早くも揺らぎ始めていた。





 現役時代。

大人気だった正樹。

プロレスラーらしからぬ風貌。

アイドル系、ビジュアル系ロック系など言われ持て囃されたこともあった。


でもその顔に似合わないタフさ。

それは珠希の献身で培われていたと言っても過言ではなかった。


だから余計に、大勢のファンの女性が珠希に嫉妬したと言う。


長尾正樹と珠希夫婦は、公私共に認めるラブラブカップルだったのだ。



でも珠希に触れた人は、反対に正樹を嫉妬したと聞く。


一途に正樹を愛する珠希。

その誠実な人柄に惹き付けられたのだ。



だからこそ、美紀は珠希の夢を追ったのだった。





 正樹はもう一度決意した。

美紀を愛そうと――。



(俺の魂が、美紀を求めている。俺は美紀を愛している。珠希を感じたからじゃない。智恵を感じたからじゃない。美紀だ! 美紀自身を愛していたんだ!!)





 「美紀ちょっと、バルコニーで待っててくれないか?」

正樹はやっと決心した。


勇気を振り絞って美紀を誘った時、全身の血が抜けたように感じた。


正樹はは緊張しまくっていたのだ。



美紀は素直に頷いた。



――ガチャ。


躊躇いながら、正樹がルーフバルコニーのドアを開ける。


そこで正樹が見た美紀の後ろ姿は、愛する妻そのものだった。


珠希は又悪戯をした。

美紀の髪を下ろしてさせたのだ。



「珠希………」

美紀に聞こえない位の小さな声。

それでも美紀は振り向いた。



(又珠希を思い出しちまった。こんなんで良いのだろうか? こんなんで上手くやって行けるのだろうか?)


美紀を見ながら、正樹は沙耶の励ましの言葉を思い出した。



そして、やっと決意する。


美紀を愛しているなら、美紀を愛しているから、美紀の全てを愛したい。

と――。





 「美紀!」


思わず名前を呼んでいた。


その瞬間に珠希の幻影は消えていた。


ストレートヘアーでありながら、正樹は美紀を見つめていたのだった。



(もしかしたら……元々居なかったのか? 居て欲しいと思っていただけなのか? そうか……自分が愛しているのは幻ではない。美紀なんだ! きっとそうだ……美紀に辿り着くように珠希が仕掛けた罠なんだ)





 正樹は初めて美紀に珠希を感じた日のことを又思い出していた。



長暖簾越に見た美紀のシルエットを。



(あの日は、珠希の誕生日だった……そうだよな。やっぱりサプライズ好きな珠希の……)

珠希の幻影が今、美紀に重なる……

その途端に美紀への思いが爆発した。


抑えに抑えてきた激しい恋心が正樹の中で煮えたぎって行く。





 (やっと気付いの―。もう遅い!! 私待ちくたびれたよ。そうよ。私は美紀と一緒にずっと待っていたのよ。――だから嬉しい。ありがとう沙耶。

あなたのお陰ね)


そんな珠希の声が聴こえたような気がした。





 それでも正樹は深呼吸をしながら、心を落ち着かせようと思った。



もう恋なんて出来ないと思っていた。

珠希が死んだと聞かされた時、封印したはずだから。

でも再び、愛する喜びに正樹は震えていた。





 正樹はキスをした。

心のこもったキスをした。

全身全霊で、美紀に愛を伝えたかったからだ。



激しい感情を内に秘めながら、それでいて飛びっきり優しく……



(あっ……)

美紀の脳裏にあの日の光景が甦る。


そのキスで心がとろける。

体がヘナヘナになる。

それでも勇気が深部から湧いて来る……


珠希が求めた安心感。


これまで一生懸命練習してきたと言う自信を呼び覚まして貰うために……


それは、正樹のキスによって珠希自身が引き出したものたったのだ。



正樹のキスは何物にも勝る活力剤だったのだ。



そして……

美紀はその厚い胸で抱き締められた。



今までだって何度も抱き締められた。

でもこんなに心が揺さぶれることはなかった。


美紀は何処かで遠慮していたのだ。


そう……

あのバレンタインデーの夜さえも結局……



でも今やっと心が解き放された。


美紀は珠希の亡霊から解放されたのだ。





 正樹は引き締まった肉体に、美紀の鼓動を感じた。


その途端……

居ても立っても居られなくなった。



「愛してる……こんなにも愛してる」

正樹は美紀を抱き抱えた。


それはまるでお姫様抱っこのようだった。



「美紀……俺と結婚してほしい。あの二人……いや、三人を説得するのは大変だけど、美紀……お前を幸せにしたい。いや……美紀、俺を幸せにしてくれないか?」


正樹はやっと気付いた。



美紀が傍にいるだけで幸せになることを。


だからもう……

離しなくなかったのだ。





 美紀は抱き抱えられたままで頷いた。



「俺……お前が傍に居ないと駄目らしい」


ポツンと正樹が言った。



それは、美紀が待ちに待った正樹からのプロポーズだった。


美紀は何度も何度も頷きながら、やっと訪れた幸せを受け止めようとその胸に顔をうずめた。



身体が燃える。

消火出来ないほど大火になる。

正樹はその思いを又も抑えて込んだ。

美紀を思うが故に……



(珠希。此処で美紀を抱いてしまったら、きっと又後悔するな)


珠希と……

家族と過ごしたルーフバルコニー。

この場所を一時の感情で汚しなくなかったのだ。


それともう一つ、乗り越えなければならない壁があった。





 正樹は高校へ行き、心配していた校長先生に婚約の報告をした。



「君はまだ若いけど、まさか本当に結婚するとはね。ところで息子さん達は承知してもらえたのかね」


痛い所を突く校長先生。正樹は首を振った。



「こうなりゃ強行突破でもしようかと。式ですが、卒業式の後を予定しています」



「結婚式は卒業式の後か? よし判った。私が何とかしましょう。要するに、式の邪魔をしなければ良いってことだろう? 正式に決まったら連絡してくれたまえ」


校長先生が正樹と美紀の肩を叩く。


正樹は深々と頭を下げた。


美紀も慌てて頭を下げた。





 「ところでだが……」

校長先生はそう言いながら席を立った。



「今、結婚式場の予約が大変だと聞いたのだが」


それは美紀も聞いていた。


一年待ちもあるそうだと。

でも幸い空いているようなのだ。

とりあえず仮予約だけはしておいた。



それは元プロレスラー、平成の小影虎の名前だった。

高校球児バッテリーの父親と言う肩書きの力は偉大だったのだ。

でも絶対に口外しないと約束はさせた。



もしバレると……

正樹はそれが気が気ではなかったのだった。



それでも、この場に及んでも正樹は迷っていた。


大阪の美紀の祖父にどうやって切り出そうかと。



そう……

それが一番の難関だったのだ。



その時、校長室の様子を工藤淳一が伺っていることに誰も気付かずにいた。

淳一は思いもよらないチャンスに恵まれたようだった。





 正樹は大阪の美紀の祖父に婚約した旨の報告した。


そう……

これがもう一つの超えなければいけない壁だった。



電話口で祖父が喚いていた。


舌の手術をした祖父は言葉を発しようと必死だった。


それは正樹にも解っていた。

それでも第一番知らせたかったのだ。



――ピンポーン。


玄関のチャイムが鳴った。


正樹はドアを開けひっくり返った。


其処には大阪の祖父が仁王立ちしていたのだ。



正樹は気を取り直して、まず珠希の仏壇に案内した。


珠希の位牌に合掌した後、その横にあるツーショット写真を手にした。



大阪の祖父は胸にそれを抱えた。

まるで、心の奥底にまで刻み付けるように……


我が子が殺害したのは、確かに誘拐されたもう一人の娘の旦那だった。


その事実は、大阪の祖父を何度も奈落の底に落としていたのだった。





 珠希の仏壇に合掌した後、祖父はスケッチブックを取り出した。


それには移動中に書きためたものだった。



――なぜだ!――



――美紀は子供だ――



――美紀を汚すな――



――美紀は宝物だ!――



――美紀は連れて帰る――


 祖父の怒りは解る。


自分が同じ立場だったら、きっとこうするだろう。


でもここは絶対に譲れなかった。



祖父は、秀樹と直樹が社会人野球チーム入りを密かに応援しようと思っていた。


祖父は一代で財を成した人だった。

今住んでいる邸宅はその象徴で、ゲストルームも沢山あったのだ。

だから其処で三つ子達と暮らせることを夢見ていたのだった。



でも正樹は息子達の大阪行きをまだ知らなかった。


うっかりしていた。

正樹の頭は……


美紀との結婚話に浮かれていたのだった。





 それは美紀からのSOSだった。

連絡を受けて、大阪の祖父を沙耶が訪ねて来た。


そして又……。


今度は美紀の祖父に向かって、智恵の愛を説明する。


沙耶はボロボロだった。


それでも食い下がる。

祖父が根負けするまで、二人の愛の遍歴を説明してくれた。



二人の同級生だからこそ解ること。


智恵の人柄・世界観。

そして初恋故の重み。


智恵が愛した正樹。

その娘に憑依してまで愛を貫く。


でも決して浮気ではない。



きっと真吾は、そんな智恵だからこそ愛したのだ。



祖父はその事実を沙耶の心意気で悟った。



――パパが好きか?――


美紀に聞く祖父。

美紀は大きく頷いた。



そして祖父はやっと婚約を承知した。





 秀樹と直樹が慌てて帰って来た。


二人は大阪行きを画策したことがバレたのだと思ったのだ。


でも祖父は、美紀の卒業式に出席するために大阪から駆けつけたと説明した。


まだだいぶ時間はあったのだが、他の口実は見つからなかった。



――君達のことも相談したくてね――



「親父にはまだ何も?」


祖父はそっと頷いた。



――君達は好きにすればいいよ――


そのメモを見て、二人はふっと胸を撫でおろした。



二人はその後、大の家に向かった。

実は大が一番騒いでいたのだ。

美紀ちゃんに何かあったのではないかと……


大はのんびり屋だったけど、美紀に関しては鋭かったのだ。





 東京駅に家族はいた。


結城智恵が放置されていたコインロッカーはどれだか解らない。

無数にあるそれら一つ一つに祖父は手を触れた。



美紀の祖父が卒業式に合わせて上京したと思い込んでいた秀樹と直樹。


美紀を産んでくれた結城智恵の思い出の地を巡り、感謝するためだったのかとも思った。



卒業式に出席するためだけだったらこんなに早く来なくても……

秀樹も直樹も本音はそう思っていたのだった。


だから本当は、自分達の動向を探るために来たのではないのかと勘ぐっていたのだった。



二人は、社会人野球チーム入りと美紀の大阪に連れて行きたい旨をまだ告げていなかったのだ。

だからそれを確認に来たのではないのかと思って緊張していたのだった。





 鍵のかかっていないコインロッカーを開けてみる。



(智恵……)

祖父は泣いていた。


その僅かな空間に閉じ込められようとしていた智恵。

もし、まともに鍵を掛けられていたら……



結城智恵も……


長尾美紀も存在して居なかった。



祖父は憎むべき誘拐犯に感謝した。

そして……

あの時代に感謝した。

全て、偶然がもたらしてくれた命だったから。



コインロッカーには、通気口がない。

完全密室だった。

もしまともに締められ鍵を掛けられていたら……


窒息死していたかも知れないのだ。





 結城智恵の保護された後の、昭和四十八年二月四日。


遂に死体遺棄事件が発生する。

あれから、幾つものコインロッカー事件が発生した。


それらの事件の総称を、コインロッカーベイビーズと呼ぶようになっていった。



元施設長にも会うことが出来た。


コインロッカーベイビーズと言う名称が一人歩き始めた頃……


それを嘆いた元施設長。

だから……

結城智恵は大切にされてきた。

愛されてきた。


遺された数々の品。

その一つ一つに心遣いが見て取れた。



祖父は泣いていた。

悲しくて泣いた訳ではない。

それは嬉し涙だった。

感謝の涙だった。



全てが無償の愛。

正樹と珠希の夫婦が美紀を我が子として育て上げたのも、理屈だけでは語れない。



(智恵……素晴らしい方達と出会えたな。私も一度はお前を抱きたかったよ)


祖父は美紀を抱いていた。

智恵の代わりに抱いていた。



(皮肉だな……親子二代で抱いてやれなかったなんて)



祖父の思いを察したのか、美紀は祖父に身を預けていた。



これが愛すると言うことなのだ。

そう思いながら……





 結婚式は卒業式後に正式に決まった。


それなら、祖父が出席出来るから。

そう思いながら正樹は苦笑いをした。

元々そのつもりで式場をおさえていたことを思い出したからだった。



予約したチャペルは高校と近かった。


二人は、息子からの逃避行の訓練をかかせなかった。



やはり言えなかった。

美紀を本気で愛してるなんて。



(どの面下げて言えばいい)


本当は正樹は恥ずかしかったのだ。

それは悩みに悩んだ末に、やっと結論を出した三人への愛の証だった。


いい加減で優柔不断な自分を愛してくれた、珠希と智恵と美紀への感謝の気持ちだった。



そして美紀の戸籍は一旦、祖父の娘・結城智恵に戻されることになった。


やはり養女と結婚するのは無理があるとの祖父の判断だった。



何とか……

ギリギリで間に合うはずだった。





 「申し訳ありません。義兄には私が説得しました。それが一番美紀ちゃんのためになると思って」


やっと沙耶が言った。

沙耶も祖父の喜んだ顔を曇らせたくはなかったのだ。



「こんな……自分の女房も守れなかった男です。あの時俺が運転していたら……そんなことを何時までもイジイジと考えてしまうような男です。それでも愛しています。胸が張り裂けるほど、美紀を愛しています。美紀に誰が憑依していても構わない。その人を含めて、全身全霊で愛したいと思います」

正樹は正直に美紀に対する愛を告白した。



祖父は泣いていた。

智恵が愛した正樹。

その正樹が、智恵が憑依していることを承知で……


いや憑依しているからこそ愛してくれると言う。


祖父は正樹に感謝した。

正樹に其処まで決意させてくれた沙耶に感謝した。






 「美紀は大阪で暮らすことが一番いいと判断して、沙耶さんにお見合いの世話を頼んだのですが……」


正樹が本当は美紀を自分に返すつもりだったことを知り、祖父は一瞬喜んだ。

でも、美紀が納得するはずがないと思った。

美紀は正樹との生活を選んでいたのだから……


その証拠は美紀の選んだ学校にあると祖父は思った。

育ての母と同じ短大に……


中学で体育教師をしながら国体の出場を目指す。


祖父はその決意により、育ての母の珠希が如何に素晴らしい人かを知る。



(あの二人には悪いが、美紀を連れて帰るより自分が来よう。それが一番良いのかも知れない。余生を此処で迎えたくなった。この素晴らしい家族の元で……)


祖父は秘かに決意していた。





 校長室に正樹と美紀がいた。

結婚式を予定通り卒業式の後に執り行うこととした報告だった。



「小さい頃から不思議でした。なぜこんなに父が好きなのかが解らずに。ただ『大きくなったらパパのお嫁さんになる』って言っていました。今思うと、全部産みの母が言わしていたのですね。それが望みのようでしたから」

美紀は智恵の書いた日記を胸に抱きしめていた。



「私母の分も幸せになります。申し訳ありませんが、兄達のこと、よろしくお願い致します」

深々と頭を下げる美紀。


それを見守る正樹。



「任せなさい!」

校長先生は胸を叩いた。





 同じ頃、淳一も詩織との結婚を決意していた。

実は淳一はこの時、校長先生と正樹と美紀の会話を聞いてしまったのだ。





 『校長、良からぬことを画策しましたね』


長尾美紀と正樹親子の結婚式を妨害させまいと、秀樹と直樹と大を校長室に呼ぼうとしたことを逆手に取ろうとしたのだ。



それで強請を掛けて、詩織との結婚を認めさせようとしていたのだ。





 淳一はあの日、帰国した父親の前にいた。

それはあることを確かめるためだった。



そう、詩織の母親との関係だった。

もし詩織が父親の本当の娘だったらこの恋を終わらせようとしていたのだ。





 『親父、詩織の本当の父親は一体誰なんだ?』

淳一はやっと言った。



『なんだ藪から棒に』


父親にしてみたら意表を突く発言だったのだろう。

その証拠に目を白黒させていた。



『俺は一体誰の子供なんだ?』

淳一は父に詰めよった。



『お願いだ教えてくれ。俺には好きな人がいる。その人と結婚出来るかどうかの瀬戸際なんだ』



『もしかしたらその相手は?』



『ああ、そうだよ。詩織だよ。入学式の最中に一目惚れしたんだ。兄妹だとも知らずに』


淳一の目から大量の涙が溢れ出した。





 『バカだな』

照れ隠しなのか、父親はそう言うと淳一を抱き締めた。



『何時の間にこんなにでっかくなって……』



『な、何だよ』



『図体ばかりだな。子供のように泣くなんて』



『何だよ、説明にもなっていないじゃないか』



『結論から先に言う、お前は詩織さんと結婚出来る。あの娘は俺の子供じゃない。前の旦那の子供だよ。だからその涙を拭きなさい』



『それじゃ俺達は』



『結婚出来るってさっき言った。それだけじゃ満足出来ないか?』


父の言葉に淳一は目を輝かせた。

そして吹っ切れたように大きく頷いた。






淳一は何を企んでいるのだろうか?

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