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早春譜  作者: 四色美美
11/24

俳句同好会発足

甲子園大会が終わり、詩織は淳一を顧問に迎えて俳句部の発足を目指します。

 その時詩織は松宮高校の体育館の中にいた。


モニターから流れる映像に釘付けになりながらも必死にスコアブックを付けていた。



でも本当はそれどころではなかった。

詩織は地団駄を踏みたい気分だったのだ。

もし甲子園に居たなら、確実にヤジを入れていただろう。



原因は勿論、ボークを始めとする相手側の汚い作戦だった。



詩織には、秀樹の悔しい気持ちが痛いほど解っていた。

実は直美が図書館から借りてきた本の中で、打席を外した振りをしてボークをもらう方法などが詳しく解説してあったのだ。



それだけではない。

勝利への徹底作戦と銘打って、数限りないアンフェアな手を教えていたのだ。



試合前の練習ではわざと下手くそな振りをする。

相手側に油断を与え、凡ミスをさせるためだ。

でもこの作戦だけは甲子園では通じない。

各地区で勝ち抜いてきた強者揃いの高校球児だからだ。



フライなど簡単なボールを落としたり、ノックをトンネルさせる作戦は空振りとなる可能性も高いからだ。



そんな記述の中に、秀樹が引っ掛かったストライクをボールと判定してもらうための打席外しもあったのだ。



確かに本を借りたり買ったりして読めば誰にでも真似は出来る。

でもまさか、本当に使う監督がいるとは思ってもいなかったのだ。



直樹はフェアプレイ精神に載っとりと宣誓した。

その欠片も微塵もないチームを失点回以外防いだ秀樹。



詩織は秀樹の成長ぶりに拍手喝采を送りたいと思っていた。





 「現地に応援に出向いている校長になり代わり御礼を申し上げさせてください。今まで生徒達を支えていただきましてありがとうございました」


淳一は他の先生方と父兄の前で深々と頭を下げた。



「工藤も御苦労様。此処まで来られたのはその情熱のたわものだな」


淳一の言葉を聞きながら、詩織は頭を切り替えた。



「直美が頑張ってくれたからです」


そう言いながら、直美にスコアブックの特訓した日々を懐かしく思い出していた。



早稲田大学式慶応式、本当は両方共に教えてやりたかった。

でも、あまりにも短期間だったから一般的な物しか教えられなかったのだ。



詩織は直美を野球部のマネージャーにするために頑張っていたのだ。



本当は趣味の手芸をやりたいのは解っていた。

でもスポーツグラブ中心の松宮高校には文化部自体があまりなかったのだった。





 「直美ったらお返しに私にパッチワークを教えようとしてくれていたの。でも何も出来ないままで甲子園に行ってしまったわ」


淳一に呟いた。


本当は直美に伝授しなければいけなくなったことを少しやっかんでいる。

でも淳一に気遣われたくなかったのだ。



詩織が野球少女だったことは母から聞いていたからだ。

マネジャーになれなかった原因を作ったのは詩織だった。

だから淳一に余計な負担を掛けさせたくなかったのだ。




「この学校はスポーツ中心だからな。本当に文化部は少ないな」



「先生。クラブってどうやったら作れるのですか?」



「もしかしたら文化部を創設するつもりじゃないんだろうね。一長一短には出来ないよ」



「解っています。でも何か遣らないと、私持てあましそうです」



「自分のためのクラブか? 俺はてっきり中野直美の……」



「あの子はマネージャーを務めてもらわないと」


詩織はペロリと舌を出した。





 「そうだな、まず五人以上の仲間を集めてから校長に提案するんだよ。ホラミス松宮などを選んだ人気投票の時のように、一人一人に聞いて回ったりしながらな」


直美がもらした美紀がナンバーワンになった本当の経緯は、詩織のリハビリのためだった。

大勢のの生徒から自分の好みの男性と女性の名前を聞いて回るだけでも足腰が鍛えられると思ったからだった。



提案したのは直美だった。

せっかく甲子園行きが決まったのにマネジャーとして同行出来ないから落ち込んでいると考えたのだ。



やはり直美は詩織のことばかり考えてくれる、保育園時代からの親友だったのだ。





 「ところで一体何のクラブを作るつもりなんだ?」



「文芸部……ううん、本当は俳句部を作りたいのですが……。工藤先生は国語の教師なのだから、是非顧問になって導いてください」



「工藤、そんなに国語が好きか?」


淳一の言葉に詩織は首を振った。



「じゃ、何でだ?」



「先生がくれた『前向きに生きればこその春隣り』があまりにも素敵で胸を打ったからです」


詩織は淳一が自分にくれた俳句が忘れられなかったのだ。

だから秘かに図書館から本を借りてきた勉強をしていたのだった。



其処で目にした数々の歳時記。

その優雅な響きに心を揺さぶられたのだ。



そのきっかけを作ってくれたのは淳一だった。

だから尚更淳一に顧問を引き受けてもらいたかっのだ。





 好きだった。

でも淳一は兄なのだ。

母が結婚した相手の連れ子。


それだけなら良かった。

母は元カレとよりをもどしたのだ。

だから……

淳一は母が産んだ子供かも知れないのだ。

でもそんなこと、母に聞ける訳がない。



子供の頃、詩織の前では両親は仲良しだった。

仕事のために朝早くから出掛けなくてはいけない母を父はサポートしてくれていたのだ。



母は朝の情報番組でアナウンサーをしていた。

そのために保育園に送ってくれていたのだ。

だから子供だった直美でさえ父親の顔を覚えていたのだ。



学校や地域の行事も積極的に参加して楽しませてくれた。



和気藹々とした本当に穏やかな暮らしだったのだ。

だから何故離婚したのか解らないのだ。



母がカルフォルニアへ出張させられた時、詩織の面倒をみてくれた父。



もう叶わないと知りながら、よりを戻してほしいと思っていたのだった。



何故カルフォルニアで再会したのだろう?

何故結婚してしまったのだろう?

詩織は本当はまだ納得出来ないでいた。





 「校長先生教えてください。どうしたら、新しいクラブを作ることが出来るのですか?」


二学期早々、一応校長先生にお伺いをたてる。

それが常識だと思っていたからだった。



その結果、同好会から始まり内容次第でクラブとして認められることが解った。



「工藤、とりあえずみんなに声だけは掛けておいた方がいいぞ」



「そうですよね。まず帰宅部からアタックしてみます」


詩織の言った帰宅部とは、部活動を何もしていない生徒のことだ。

何かに入りたくても松宮高校には魅力的な部がなかったのだ。

だから、そのきっかけになればいいと思っていたのだった。





 そして……

いよいよその文化部の発足の日になっていた。

新文化部は予定通り俳句同好会となった。



目的だった五人は軽くを超えたけど、まだ部にするのは早いと判断されたからだった。



それでも内容次第ではすぐにでも俳句部にしてくれるそうだ。

詩織の努力が身を結んだ証拠だった。



顧問は当然のように淳一があたることになった。

実はこの淳一がかなりのイケメンで、女性徒のハートを鷲掴みしていたのだ。

だから、入会希望者が続出したのだ。



これは計算外だった。

詩織は同好会の活動最中に嫉妬に狂うかも知れないのだ。



詩織は知らぬ間に、淳一を深く愛してしまったのだった。





 最初の活動は吟行となった。

俳句作りを楽しみながら学ぼうとの淳一から提案だった。



其処は高校脇にある砂利道のランニングコースだった。

だから淳一は其処なら許可が下りると踏んだのだった。





 「この川の土手を見てごらん。今は花はないが、春には菜の花やカラシ菜の花も咲く。足元にある小さな花にも季語があるんだ」



「先生、講義はいいから早く作り方教えて」



「えっ、俳句の作り方も知らないで此処に入ったんか?」



「全く、先生には冗談も通じない」



「えっ、あ、そう言うことか? 大人をからかうもんじゃない」



淳一はそう言いながら、葉書大の用紙とクリップの付いた鉛筆を渡した。



「これに浮かんだ句を書き留めておくんだ。後でその中から発表してもらうからな」



「えっー、初っぱなからですか?」


ブーイングでも起こりそうな雰囲気だったが、結局何だかんだ言いながらも和やかなうちに第一回の吟行は進行して行った。





 「工藤先生。此処にタンポポが咲いてます」



「タンポポって春に咲く花だと思ってましたが」



「今は年がら年中だな。実は昔のタンポポとは種類が違うんだ。これはアカミタンポポみたいだな」



「アカミタンポポ? 先生母からセイヨウタンポポの話は聞きましたが……」



「セイヨウタンポポもアカミタンポポも昔あったカントウタンポポを侵食して行ったんだよ。ほら、ガクを良く見てごらん。反りかえっているだろう。カントウタンポポのは花に密着するように咲くんだ。今ではあまり見られなくなったな」



「先生。白いタンポポもこの頃良く見られますが、あれもセイヨウタンポポなのですか?」



「あれはシロバナタンポポって種類らしいよ。確かウスギタンポポってのもあって、シロバナタンポポに良く似ているらしいな」



「先生。タンポポに詳しいんですね」



「大学時代の友人に詳しいのがいるんだよ。その受け売りだ」



「持つべき者は、ですね? あれっ先生。これさっきのタンポポと違いますね?」



「あっ、それがセイヨウタンポポだ。花の上が赤みかかってないだろう?」



「本当だ」



「先生。帰り花って、タンポポには当てはまらないってことですか?」



「おっ、良く勉強してるな。その通りだ。帰り花や戻り花は春に咲く花が秋にも咲くことなんだ。タンポポは冬以外殆ど咲いているからな」





 「帰り花より戻り花の方が綺麗な気がするね」



「捉え方とニュアンスの違いだな。句には季重なりってのがあって、あまり好まれないようだ。例えば秋に菫が咲いていたとする。菫だと解ってほしくて、ついつい菫の戻り花って詠みたくなるだろう? それを書かずに表現しなくちゃいけないんだ。でも君達はまだ始めたばかりだ。素直に表現するのが一番だと思うよ」



「そうですね。最初から形式ばかりにとらわれていたら、個性がなくなりますね」



「その通りだ。さあ、君達の個性を存分に発揮してくれ。今から自由時間だ。でもあまり遠くにいくなよ」


淳一の合図で詩織は歩き始めた。

でも殆どこ会員は淳一の傍にいた。



「どうした?」

淳一が困ったような声を出した。



「私達は素人なのよ。もっと先生から俳句の知識を聞きたいの」


一人が言うと皆頷いた。



(しまった。私も彼処に居ればよかった)

それを聴いていた詩織は自分の行動を悔やんでいた。

それでも今更戻れるはずがない。

詩織は仕方なく、土手に咲く小さな花を見ることにした。



それは韮の花だった。



(へー、もう咲いているんだ)


本当は淳一のことが気にかかる。

でも冷静でいようと努力しているのだ。

本当は韮の花どころではなかったのだった。



(工藤先生私を助けて。此処に来て……)


詩織は皆に気付かれないようにそっと淳一にアイコンタクトを送った。





 淳一も戸惑っていた。

生徒達に慕われるのは嬉しいけど、本当は詩織の傍にいたかったのだ。

淳一が俳句同好会の顧問を引き受けたのは、正々堂々と一緒に居られると思ったからだったのだ。



何時の間にか詩織を深く愛し始めていることに淳一が気付いた瞬間だった。



詩織の気持ちは度外視しても、淳一は並んで居たかったのだ。

だから今すぐにでも詩織の傍に行ってやりたかったのだ。

詩織のアイコンタクトは間違いなく淳一に届いていたのだった。



それでも、淳一も詩織もお互いを兄妹だと信じているとばかり思っていたのだ。



生徒達もそう思っていたようで、二人が一緒にいても平気だったのだ。



(ポーカーフェイス。ポーカーフェイス)



以心伝心とでも言うのだろか。二人共同時に自分に言い聞かせていたのだった。



そんな二人の気持ちも他の会員達は知らず、吟行は和やかなうちに終了したのだった。



その後で事前に使用許可をもらっておいた図書室へ移動することにした。





 テーブルの周りの椅子に早速腰を下ろしてもらった。



「まずこの形式だが、輪になって同座するので運座と呼ぶんだ」



「テーブルの上を見てください。小さな紙がありますね。短冊と言います。さっき吟行で作った俳句をそれに一句ずつ書いてください。勿論無記名です」



「最初なので、二句ってことにした。さっき渡したメモ用紙を参考にするように」



「書けたら折って箱の中でシャッフルしてください。そこから各自二枚ずつ引いて、この紙に書いてください」



「これは半紙を半分に切ったんだ。これに写すんだよ。それを清記と呼ぶんだ。手にした短冊の俳句を一言一言正確に書くんだ。誤りがあってもそのままで、片仮名で小さくママと書いておくんだ。そのままのママだ」


淳一の指示に従おうと皆無口になって作業に当たった。





 「書き終えたら、清記の下に自分の名前を書いておくんだ。工藤淳一清記。よしこれで終了」


淳一は書き終った紙を皆に見せた。



「此処から一となる。この二つの句が一と二だ。時計回りで番号を付けていくんだよ」



「はい。解りました」

皆一斉に言った。



「さあ、書き終えたら回すんよ。その中に気に入った句があれば半紙に書き写す。そこから一番だと思う句を発表するんだ」



「それじゃ工藤先生からお手本見せて」



「俺からか?」



「だって此処に居る全員……、あっ工藤先生の妹さんは特別授業でご存じかも知れませんが……」



「えっ!? 私、そんな特別授業なんて受けていませんが……」



「聞いたわよ。例の写真の裏書き」



「えっ、何それ?」



詩織は仕方なく桜の写真をスケジュール帳から取り出した。



「前向きに生きればこその春隣り。か……」



「足の骨を折った私を勇気付けるために先生が贈ってくれたの」



「素敵な句ね。私もこんなが作りたいな」



「そうか? そんなに素敵か? 草いきれ、見渡す土手に、限りなく。草いきれって言うのは、草が熱気を持っている。みたいな夏の季語だ。これ誰のだ?」


淳一ははにかみながら選句した紙を手にした。



「あっ、私です」



「草いきれなんて良く知っていたな」



「だって、事前に勉強したもん。俳句部……ううん、俳句同好会に入ったからにわね」



「わぁーズルい。私も勉強しておけば良かった」


同好会のメンバーがため息をはいた。



それでも、何だかんだ言いながらも和気藹々と同好会の活動は終了したのだった。





 「次回の予定は日曜だ。森林公園駅には無料駐輪場があるから、其処まで自転車を走らせて川越へ行くつもりだ」



「わぁ、行きたい」

皆口々に言った。



「駐輪場だけど、行田駅前も無料なんだ。皆、どっちが良い?」



「JRだと大宮駅から乗り換えがあるから、森林公園駅の方が……」


詩織の言葉に皆頷いた。



「ただし遠いから覚悟してけよ。それでは今日は此処まで」


淳一の言葉と共に第一回の俳句勉強会は終了した。





 「私、菓子屋横町に行きたいな」


草いきれと詠んだ生徒がお喋りしていた。



「最初私、臭いキレだと思ったよ。でも熱気ムンムンのことだと知って、これで勝負しようと思ったのよ」



「勝負?」



「そうよ。でも流石に工藤先生だね。ちゃんと意味知っていたものね。人が沢山集まっている場合は人いきれって言うのよ。これかどっちか迷ったんだけど、土手だったから草いきれにしたんだ」



「それいただき」



「ちょっと待って、それじゃあまりにも芸が無さすぎるわよ」



「それじゃ、何かいい言葉ない? 私も注目されたいから……」



「あっ、それならいい本があるよ。歳時記って言うの。季語が殆ど載っているから便利よ。今じゃスマホからアクセス出来るサイトもあるから検索してみたら」


そう言いながら、彼女は分厚い本を取り出した。



「これが歳時記、へえー凄い」

彼女は早速目次を開いたようだ。



「春、初春、完明。今は暑いけど秋だから……。秋、文月、八月。あれっ、八月って秋なの?」



「そうらしいわね。次に立秋ってあるでしょう? あれが八月の七日くらいだからかな?」



「だから八月も秋にしちゃったのかな?」



「旧暦が関係していると思うのね。八月十五日が中秋の名月だからね」



「十五夜か……。あれは確かに秋だ。うん、きっとそうだね」



「それじゃ、此処からお借り致しますね。あーあ、川越楽しみだ」





 予定通りに皆自転車で森林公園駅にほど近い、陸橋下の無料駐輪場に集まった。



「吟行や、見上げる空に、白い月」

駅に向かう道で彼女が言った。



「ダメだよ。月は空に浮かぶ物だから、別な言葉で表現しなければ」



「ま、固いこと無しで。まだ皆俳句を始めたばからだから、高度なテクニックは無しってことにしよう」


淳一の発言に草いきれと詠んだ生徒は黙ってしまったのだった。





 「昔親父と菓子屋横丁に来てな、博物館と称した店の奥で食べた経験がある。だから又其処でと思ったけど営業を辞めているようだな」


次の日曜日は約束通りに川越吟行になった。

でも食事しようとした淳一の思い出の場所が無くなっていたのだ。



仕方なく焼き芋を買い、ベンチに荷物を置いて食べることにした。



「美味しい」



「良く、栗より旨い十三里。と言うけど、江戸から此処は十三里で、川越のことだと言われていたからだよ。九里と四里を足してごらん。十三里になるから」



「だから川越を小江戸って言うのね」



「それも一理ありだな」



「先生、時の鐘もこの近くだって聞いたんだけど」



「行きたいのか?」



「行きたーい」


生徒の意見多数で、早速移動することになった。





 カメレオンオブジェの脇を曲がり、電柱のないメインストリートを右に折れると時の鐘の案内があった。

其処を左に曲がり暫く行くと、目的地に着いた。



「この先に川越薬師がある。行ってみないか?」


淳一は指を差しながら、その下を潜った。



「薬師堂、横にひっそり、半夏生。半夏生とは、天空上の黄経百度を太陽が通過する日なんだ。夏至から数えて十一日・七月二日にあたる。だから、今の季語じゃないんだ。これはその頃になると色付き始めるドクダミ科の薬草だ。白い葉の裏は緑で、半化粧とも言う。でも元々の半夏は烏柄杓と言う種類で、マムシ草に似た植物の別名だそうだ」


淳一は薬師堂の脇にある葉っぱを差して言った。



「マムシ草って何?」



「あっ、マムシ草って言うのはな、コブラみたいな姿で春に出てくる草だよ」

淳一はスマホに納められている画像からマムシ草を写し出した。



「これは秩父の真福寺って札所の近くで撮影したんだ。山の中にあるお寺だから辿り着くまでが大変だけど、行ってみる価値はあると思うよ」

淳一は少し得意になっていた。



「先生この絵馬可愛い」

でも一部の生徒は奥にいた。



「あっ、それはその二つの目で両目を現しているんだ。秩父にアメ薬師のお寺がある。其処にもあるんだよ」



「へー、工藤先生って物知りですね」



「でも又秩父ですね」



「もっと色々教えてください」


そんな言葉に浮かれて、淳一は饒舌になった。


淳一の講釈は解散するまで続いた。

生徒達は黙って聞いていた。

でもそれはウンザリと言うより、憧れの眼差しだったのだ。






俳句同好会は順調な滑り出しだった。

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