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晩餐―バンサン―

「それで結局、そのジャックって男の救出を頼まれることになったって訳かい」


 カウンターに頬杖をついた『白兎の星時計亭』の女店主であり僕の大家でもあるコーラルさんは、難しい顔でそう言った。


「はい、何か成り行きで」

「何処が成り行きだ。お前が言い出したんだろうが。でなければこんな仕事引き受けたりしない」


 僕の隣でローが毒づきながら野菜のキッシュにフォークを突き立てた。

 現在は夜の九時。『白兎の星時計亭』の店内は騒がしかった昼間とは打って変わり、客は僕とローのみでゆったりとした時間が流れていた。暖かな橙色のランプの光も相まって、心地の良い雰囲気だ。

 普段はこの時間帯も営業しているが、今日は英雄を讃える祭り、英雄祭だということで朝早くから開けていたため、既に店仕舞いの後だ。


「それにしても、奴隷だの人身売買だのって、面倒なことに首を突っ込んだねぇ、あんた達」

「はい、全くです」


 しみじみと呟くコーラルさんに、ローはきっぱりと同調した。口調こそ淡々としたものだが、ローのそれに嫌味が込められていることぐらい、付き合いの長い僕にはきちんと分かる。


「悪かったって。面倒なことに巻き込んだとは思ってるよ」


 コーラルさんが賄いとして出してくれたクリームシチューに手をつけながら謝るが、ローは無反応。仕方なくデザートのレモンゼリーを差し出すと、ローはやっと視線を合わせてくれた。


「別に謝ることはない。尤も、面倒な案件であることには変わりないがな」

「……はい、仰る通りです」

「畏まる必要もない。他からの依頼ならともかく、トーマ、お前からの依頼だからな」

「……え?」


 僕からの依頼だから。それはつまり、僕が頼んだから、ローは動いてくれたということか?ローは僕を特別に思ってくれてるということなのか?

 僕が感動に浸りかけると、


「身内が失敗を仕出かさないように監視するのは当然のことだからな。トーマは放っておくと何をするか分かったもんじゃない。とても一人で人身売買の現場になんてやれないだろう」

「……デスヨネー」


 そんなことだろうとは思ってたよ。ちょっとでも期待したい僕が馬鹿だった。

 平然とした顔でレモンゼリーに手を付けるローをじとりと睨めつけていると、コーラルさんは「あんた達、ほんとに仲いいね」と呟き、皿を洗うと言って奥に引っ込んでいった。

 コーラルさんの背中を見送ると、ローはちらりとこちらに目を向けた。


「……で、冗談もこれくらいにして。トーマ、これからどうするつもりだ?お前の意見を聞かせてくれ」

 

 真剣味を帯びた声音でローに訊かれて、僕は居住まいを正す。

 どうするつもり、か。無論、ウグイスたちの兄、ジャックを救出するつもりだ。しかし、二年間外界との交流を閉ざしていた僕には、ジャックの居場所についての情報や、それを知っている人へのコネクションも持っていない。


「取り敢えず、酒場で情報収集かな」

「酒場だと?」


 途端に眉を吊り上げるロー。


「そんな所、信用できるか。情報量が多くても、ガセも多い所だろうが」

「いや、だって僕、それ以外に宛てないし」


 ローと目が合うこと五秒間。そして深い溜息をつかれた。何故だ。


「分かった」

「何が?」

「お前が何も考えてないということがだ」


 相変わらず手厳しいな。

 しかし、ローは厳しいだけではない。こう見えて結構優しいところもあるのだ。その証拠に、こう続けた。


「俺が情報屋へのツテを持ってるからそいつを使うぞ。今夜の二時、お前の部屋に迎えに行くからな」


 やはり少々横暴であるが、これが彼なりの協力の姿勢なのである。ローはぶっきらぼうにそう言い残して、カウンター席を立った。


「お前の酔狂に付き合ってやる、トーマ」


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