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うどんとそば

うどんとそば

作者: むあ

久々のむあのですます調ほんのりギャグ風味小説の、はじまり、はじまり。


「お前うどんみたいだよな」






「は?」


 この言葉を呟いたのは同じ部屋、私のベッドの上で雑誌を読みつつくつろぐ男でした。


「白くてむちむちしてr……ぐあっ!?」


 私の持っていた小説がお腹にクリティカルヒットしたらしく悶えています。……がとりあえず乙女の人権を侵害したということで、私の選択は正しかったのだと思います。悶えている男を見ることもなく私は立ち上がりました。さて、現在朝7時半。そろそろ朝ご飯にしましょう。


「朝ご飯うどん?」

「成敗」

「ぐぁっ!?」


 今度は私の肘でついてやりましたよ、ふん。エルボーってね。


「あ、もしかして私を頂いちゃう?……なーんて他の女みたいに期待もせずに制裁加える女なんて初めてだよ、くそ……」

「はいはい、勝手にそこで寝そべっていてくださいな」


 立ち上がり……面倒なのでとりあえずジャージの上を脱ぎ捨てて、キャミソールでも気にしないだろうとエプロンをつけると、ベッドの上で撃沈したはずの男がこちらを見てにやにやしています。


「下を着ているのが残念だ」

「この変態が!」

「お腹すいた―」

「……ったくもう」

「てへ?」

「……本当、なれなれしすぎますって……」


 この部屋に男が転がり込んできて早くも1週間が経過します。そんな、謎の変人と、一般人と同じような生活をする私の、日々が今日も始まったようです。

 ちなみに今日は土曜日。仕事や学校も多くが休みになる週末です。


「って朝ご飯そばかよー……げぇー」

「思えば貴方、そばみたいな人ですよね」

「えー嫌だーそんな灰色でじじくさい」


 この人は私が褒めていることを知りません。

 別にいいのです、こいつが知らないとしても。……まぁ。



 蕎麦は身体にいいんです。

 いろんなものに応用ができて。

 なんといっても、細いし。

 まるで、この男のようなのです。

 優しくて。

 応用が利く。

 この細身の男のようなのです。

 

「そういえば」

「ん」

「そば用の麺つゆ作り日和な陽気です」

「何それ」

「後で買い物行ってきます」

「うーん、どうしよっかなぁ……あ、そうだ今日あの雑誌の発売日!一緒に行くわ」


 この男がこうして、部屋に転がり込み、こんな風にくつろいでいる理由を説明するには、きっと1週間前まで時をさかのぼらなくてはなりません。


「ん?なんか考え事か?」

「……うーん」

「便秘か」

「だまらっしゃい!!」


 本当にこの、邪魔者でしかないこの男を誰か成敗してくれる正義の味方はいないんでしょうか。


「……別にそんな過剰に反応することないじゃん、ね?サイトーちゃん」

「……本当、この姿を見せて会社中の女性を絶望させたいです」

「いや?多分こういうギャップに萌えるのが、サイトーちゃん以外の世の中の女性の(サガ)だと思うよ」

「私以外がそうでも私は違いますから」




―――




 簡単に言えば。

 彼は会社の別部署のエリートさんです。

 そして実家は超お金持ち(絶縁されたそうですが)。ルックスは良く、細身の優男なので、大概の新人社員は彼を尊敬、或いは恋人だったらいいのにと憧れるのです。また彼は皆を平等に扱うため男に妬まれそうなルックスの割りには男女共に好かれているよう。


 私はその会社に派遣社員として派遣された、ただのしがない大学中退の女。とりあえず自分の仕事や、それ以上のことをきちんとこなしているので、正社員には劣るものの他の派遣社員よりは優遇されます。そんな私の、大学に進学した頃から暮らす1DKのマンションの……ピンポイントに私の部屋の前に、この男が泥酔して倒れていたのが1週間前でした。


『あの、大丈夫、ですか?』

『くそ、あんの馬鹿上司め……』

『あれま』


 大家さんから内線で「誰かが部屋の前に倒れている」と連絡が来たため扉を開けて部屋の前を見ると、彼が倒れていたんですね。顔を見れば当然すぐに誰だかわかります。あの同じ派遣社員のまいちゃんが憧れの人なのって騒いでいた……名前は……


『名前なんだっけ』


 私には必要のないものだと、切り捨ててしまった情報(なまえ)だったようですが、たしかエリート集団の中心にいた優男さんだったと思いました。こんなところに放置するのもどうかと思いましたし、なんせ9月……夜こんな金属の冷たい床の上で眠っては明日の職務に響くでしょう。

 脇に手を差し込んで持ち上げるとあら大変。細身なのに筋肉がしっかりついていたよう。おかげで部屋の中に引き上げ、布団の上に投げ捨てるまでにずいぶんと時間をようしてしまいました。



―――



「サイトーちゃんってさ、男に免疫なさそうなのに、中身は結構男慣れしてるよね」

「彼氏なんて高校の頃以来いませんが何か」

「いや、だって男を部屋に入れて、何事もなかったかのようにその男の横で普通寝るかな?」

「キングサイズのベッドなので、貴方1人に占領させるのは癪だっただけですが」


 買い物に出た私と彼は、鰹節売り場のコーナーではたから見たら随分不可思議な会話をしています。きっと恋人同士とでも思われているのでしょうか。見た目は悪くないので(中身は残念ですが)わざわざ否定することもないと、私は特選!カツオと書かれたパッケージを手に取りました。


「でも、料理もするし家庭的なのにどうして他の男は見向きもしないんだろうね」

 長身を生かし、するりと私が体の前面に抱えていた品物を奪い取った男は涼しげな顔をして歩き出しました。

「他には」

「醤油」

「椎茸?」

「干し椎茸、このスーパーにはお気に入りは売ってないのでお隣の隣の乾物屋さんに行きます」

「ふむ」


 なんだかんだいいつつ、この男は噂通りとても良い男です。ただ、私生活は自分で料理もせず部屋の片付けも苦手な残念な男ですが。彼はその私生活のだらしなさゆえ、両親に勘当されているようで。


「サイトーちゃん嫁に来ない?」



 心臓に悪い冗談はよして欲しいものです。




―――



 翌朝目を覚ますと、その切れ長の瞳を大きく見開き、男は私を見ていました。


『え、なんか間違い起こしちゃった?』


 第一声から盛大に失礼なことををおっしゃったので、とりあえず沈没させ、まだ酒の匂いが残る男のために仕方なく梅粥を作ったのでした。


『え?』

『あなたモリヤの営業のエリートさんですよね。まだ出勤時間まで2時間ほどありますし、無理はせずとりあえずアルコール抜いてください』

『君は』

『モリヤに派遣されてる“ただの”派遣社員のサイトーですからどうぞお気になさらず』

『どうして俺はここに?』

『昨晩何処かへ行くつもりだったんでしょうかね、私の部屋のそばで倒れていましたので、救出しましたが悪かったですかね』

『あ、そうだったのか、誤解して、申し訳ない……』


 梅粥を口に運びながらモリヤのエリートさんは、自分が住んでいた親の実家から追い出され、それを唯一家庭の事情をしる上司に話していて泥酔してしまったと言う話を私にしてきました。まぁ、ほぼ赤の他人ですからむしろ話やすかったのだろうと、私は頷き続けていましたが、ふと男は「サイトーちゃん」と私の名前を呼び。


『サイトーちゃん、1人暮らしみたいだね』

『はい』

『1人の契約だから、誰か住んじゃうと契約違反になってしまうかな?』

『いえ。弟が8月まで一緒にいましたし、大家さんは寛容な方です』

『ここに、しばらく置いてもらえないかな』

『……は?』




―――



「あー乾物屋のおばあさんとてもいい人だね!今までこういう場所に買い物なんて来たことがなかったよ」

「それは、良い経験に……なりました、ね?」


 乾物屋を後にした私と彼は徒歩で帰宅。その帰り道、とても楽しそうに今日の買い物のことを話すので、思わず(特選干し椎茸の値段が上がり)御機嫌斜めの仏頂面をしていた私も笑ってしまいました。


「笑った方がサイトーちゃんはいいね」

「……」

「あ、照れた」


 再び成敗。


「……っ……だから、地味にデコピンしてくるのやめてくんないかな……そしてサイトーちゃんのデコピンってば地味に痛い……」

「そのサイトーちゃんっていう呼び方、どうにかならないんですか」

「なんで?」

「だって……」


 会社で見かけた時に思い切りその名前で呼んできたではありませんか。私がそう言うと涼しげな顔をして、答えたのはこの男。



「俺は仲良い同僚や後輩はそうやって呼ぶんだけど」

「……そ、そうですか」



 仲の良い間柄だと彼の中では認識されているらしい、であって1週間の私たちの関係は。



 なんとも奇妙な同居人です。




―――



「サイトーちゃん」

「……はい?」


 土曜日曜と、私の貴重な週末は瞬く間に過ぎて行き、再び派遣社員としてこき使われる平日。

 朝マンションの部屋の前で、時間差で自宅を出るという微妙な小細工をしていたのですが、会社内ですぐに会うことになりました。私のせいじゃないです、このエリートの方から近づいてきたんですよ。



「あのさ」

「はい」

「ちょっといい?」

「はい」


 耳元でそっと囁かれた言葉は。





「明日あのお手製麺つゆ付けて蕎麦弁当作ってくんない?」





 そんな、予想とは真逆、いや270度くらい回転した方向に向かう台詞(セリフ)。私が周りにばれないながらも全力で脇腹をデコピンしてやると、固められた笑みを浮かべたまま彼は去って行きました。デコピンの力を緩和する無駄な脂肪がない分、先ほどのデコピンは随分と効いたことでしょう。


「ねぇ、ミヤちゃん、関さんと知り合いなの!?」

「あ、まぁ、会社で1度2度、話をしたことがある、くらいだけど」

「えー!いいなぁいいなぁ〜!」


 同僚のマイちゃんに彼との会話を見られていたようで羨ましがられたものの。

 私にとってはいったい何を思ってそんなことを会社にいる間に話したのか、全く見当がつきませんでした。



―――



「ただいまー!」

「我が家のごとく帰ってくるなー!」

「お、お邪魔します」

「ふむ」


 これは同居をしぶしぶ了承した際に私が彼に提示した条件の1つです。

 この家を自分の家として見るな。


「で、そして、それでもって、一体、全体、何をしたくて、会社で話しかけたんですかね?」


 実はこれも条件の1つ。会社内では緊急のこと以外話しかけないで欲しい。派遣社員ごときの私がエリートと知り合いだとばれたら、コネを使って正社員になろうとしているのではないかと上司に疑われるからです。事実、コネを使って正社員になろうとし、契約を切られた派遣社員がいたんですよね。


「いや、これは緊急性を有するんだよ」

「何故ですか」

「弁当をね」

「はい」

「昼ごはんをさ」

「だからなんですか」




「会社の女子が、親切心でご飯を作ってきてやると口々に言い出して、明日からローテーションが組まれかねなかったんだよ!」


 これは、少しだけ笑っちゃう話ではありますが。

 実はこのエリートさん、とても食べ物を選り好みする人なんです。

 端的に、悪い言い方をすれば――好き嫌いが多い。


 だから彼は同僚とは昼ごはんを食べに行かないのです、好き嫌いがばれるから。一方夜は誤魔化して嫌いなものを食べなければいいことが多いので大丈夫なんだとか。


「ほぼ全部野菜嫌いでしたっけ、それから脂ぎっとりしたものと、生臭いもの、匂いが強い食材もでしたね」

「サイトーちゃんはなんでか野菜を野菜に見えないように作るじゃない?俺が嫌いだっていうと」

「人参のケーキとかですか」

「うんうん」


 今思えば、当時は辛かったとは言えど、ケーキ屋を営んでいた両親の背中を見て、店番をし続けなければならなかった人生も悪くなかったなぁと思います。誰でも、美味しいと言ってもらえるのは嬉しいですからね。


「でも何故そばなんです?」

「昨日手打ちしてたじゃない、食べてみたかっただけ」

「……今日の夕飯蕎麦ですから」

「あ、そうなの?うーん、でも食べる」

「弁当作りは決定事項なんですか」

「うん」

「……わかりました、一回250円です」

「金取るの!」

「当然です」


 奇妙な同居人は、しばらくむくれていましたが私はそんなことなど知りません。

 そばの準備と立ち上がった私は、自分が頼られたということに少しだけ……いえ。





 本当はとても、嬉しかったのです。


―――


『げ』

『なんですか、その“げ”は」

『苦手なんだ』

『何が』

『……野菜』

『どの野菜』

『全部』


 初めて彼から好き嫌いの多さを聞かされた時、私は目眩がしました。食べられないものなどほとんどない、親のしつけの成果である私とは対照的。親の甘やかしを存分に活用してしまったその野菜、魚嫌い。しかし、私は彼の好き嫌いにいちいち合わせるほど優しくはありません。


『ではこれでどうです』

『え』


 私は野菜をミキサーで完全にすりつぶした野菜スープを翌朝出してみました。これがダメなら勝手に外食でもしてもらおう、もしくは肉料理とご飯だけ食べてもらおうという気だったのですが。


『うまい!』

『へ?』

『最高、これ、めっちゃうまい!』


 私の料理をこんなにも美味しそうに食べる人を見るのは家族以外に始めてだったもので。私は思わず、彼の好き嫌いを克服させてやると、宣言してしまったのでした。




―――


「わー!関さんのお弁当可愛い!」

「やっぱり恋人がいらっしゃったんですね」

「んーまぁ、良い子だよ」

「そーなんですかー!」


 翌日。

 私はもう、会社を早退してやろうかと思うくらいに、面映ゆい思いをしていました。

 なんということでしょうか。自分の弁当の写真が、社内の女子専用メールリストで流れているのです。

 タイトルは"WANTED 指名手配;弁当の作成者"――女の闇が見え隠れしていますね。


「……(エリートさんは一体何をしたんだ)」

「いいよねー関さんって。あんな美味しそうなお弁当誰かに作ってもらえるんだから」

「欲しいんですか」


 横のデスクでぱちり、ホチキスで資料をまとめている、同じく派遣社員の遠山さんが、不意に羨ましそうな声を漏らします。なので、ふとそんなことを言ってみました。


「そりゃね」

「そうですか」

「もしかして斎藤さん作ってくれる?」

「350円で作ります」

「商売しちゃうのか、斎藤さんシビアだなぁ」




 ……遠山さんには申し訳ないですが、私、値段を少しだけあげてしまいました。

 でもこんなことをあのエリートに言えば何を言われるかわかりません、言うつもりもありませんし、聞かせる気もありません。




―――





「遠山さん、これ終わったら帰ってもいいとマネージャーが」

「そっか。あ、せっかくだしどっか寄って行こうか」


 遠山さんが空いていた左手でコップを形作り、持ち上げるのを見て一瞬YESと答えそうになったものの、すぐに首を振ってNoと答えました。


「最近付き合い悪いね、斎藤さん」

「実は居候がいて」

「お、彼氏?」

「いえ、あの……知り合いなんですけど」

「そっかーじゃあ、帰らないとね」


 彼は派遣社員として私の年齢の1.5倍近く長く働いていることもあり、派遣社員の鉄則「個人の事情には深入りするな」というマナーを完璧に守るとても良い中年男性です。私はお先に失礼しますと、まとめ終わった資料を営業部の窓口に持っていくため、立ち上がりました。




 するとそこには会社内で基本顔を合わせたくないあの男が、同僚の方々と共に談笑していました。しかも窓口に行くための通路で。正直言って邪魔です。


「あ、サイトーちゃん」

「……こんばんわ、いかがなさいました?」

「飲み会ついてこない?」

「HA?」


 そこに更に同僚の方、上司の皆さままで合流していきます。


「おーい関ちゃんやーい……って誰?」

「お、弁当の作成者」


 この男は一体、何をおっしゃってるのでしょうか。

 なんで、弁当の作成者と、私の事をどうどうと説明しちゃってるんでしょうか。


「え、この子って派遣の子じゃないの?」

「すんげぇ良い子なんだよ」

「へ~、名前は」

「サイトーちゃ……「すみません、予定が入っているので失礼します」」




「ちょ、サイトーちゃん」

「あ、それからこれ。営業部が明日必要なプレゼンの資料だと思います、本当は経理部がする仕事でしたけど人出が今日は足りなかったようなので私庶務の方でやらせていただきましたので、皆さんにお渡しください」





―――




「……ということなんです」



 走って逃げてきた私は、こうしてまだ残っていた遠山さんに先ほどお断りしたはずの一杯をお付き合いいただけないでしょうかと、頼んだのでした。


 派遣社員として失格です。そう私が呟いて日本酒を一杯あおると、そうやけになるなと励ましてくれるのは、近頃10円禿げが気になると言う遠山さんです。


「俺も若いころは苦労したよ、まぁ今も息子を進学させるためのやりくりに必死だけどな」


 遠山さんはずっと派遣社員をしていたとばかり私が思っていたのですが、初めてこうして私が2人きりで飲みにつれてきてもらえば、派遣社員歴はリストラをされた3年前からだったそうです。奥さんもパートをしつつ、2人の息子さんのお父さん。そう思えばなんとなくお父さんの雰囲気が漂っています。


「斎藤さん、一つだけ言っていいかな」

「あの、やっぱり遠山さんのほうが年上ですし、呼び捨てで構わないんですが」

「まぁいいのさ」


 とにかく、と咳払いをして遠山さんは続けます。


「1週間ちょっとの間、斎藤さんは関君と過ごしてみてどうだったのかな」

「どう、ですか」

「うん。残念な男だったみたいだけど」

「あ、それは勿論……」




 でも……


「良い男ですよ、彼は」

「というのは?」

「気配りができますし、大切なことはちゃんと言いますし、ある程度自立は無論していますし。美味しいって言ってくれるのも嬉しいですね」

「これが、結論じゃないかな」

「へ?」



「斎藤さんは、少なくとも関君を好意的に見ているってことだよ」





―――










 日本酒は飲み過ぎては明日に響くからと、遠山さんはそうそうに家路について行かれました。私は明日は午後出勤でという連絡が来ていたので、もう少し飲んでいてもいいのですが。



「帰ろう」



 なんだか、家に帰ってくつろぐ方が、何倍も良いような気がして家路につきます。



「あれ」



 ふらつく足で階段を上ると、ドアの前でへたり込む長身の誰かがいます。少し飲みすぎたかな、視界がぐらつく……


「サイトーちゃん!」

「!」


 この声で一瞬にして覚醒しました。階段を踏み外す前に何とか思いとどまった私は、小さく安堵のため息をついて、彼を見ました。


「合鍵、渡したじゃないですか」

「待ってたの」

「なぜですか」

「いや、帰ってなかったみたいだし」

「飲み会は」

「いったけど、つまんなくて帰ってきた」

「夕飯は」

「つまんだだけ」

「……」

「さっきは、ごめん」




 ――「斎藤さんは、少なくとも関君を好意的に見ているってことだよ」――

 

 遠山さんの言葉が、頭の中で不意に再生されました。

 気づけば、もう、どうしようもありません。



 いいえ、そもそも。

 興味がなければ人の顔すらも覚えていないはずの私が、顔だけでも覚えていた時点で気付くべきことだったのです。




「少なくとも好意、ってかぁ」

「サイトーちゃん?」

「何にもないです、ふぅ、中入りますか」

「え?怒ってないの?」

「別にいいです。一応……同居人(おともだち)ですから」




―――






 エリート街道まっしぐらの男、関弘武(せきひろむ)。私、斎藤みやは、そんな彼を偶然拾い上げ、介抱をした結果、不思議な同居生活を始めることを余儀なくされました。



「ねぇねぇサイトーちゃん」

「なんですか、関さん」

「あれ?名前」

「なんですか」

「……んー、やっぱりいいや」

「?」





 私、斎藤みやは、この男、関さんに、自分が少なからず好意的な感情を抱いていることを知り、むしろゆっくり安らかに眠れそうです。ただ、もう2度と。――布団にはあげられません。



「今日からはソファで寝てくださいね」

「な、なんで!?」

「そういう決まりにします。お弁当作ってあげますから、ソファで寝てください」

「えー!?」

「そばみたいに細くてコシのある関さんならソファの上でも耐えられそうですから」

「……このうどん女m……ぐはっ!」



「さ、寝ましょう。おやすみなさい」



 電気を消して。





「やっぱりベッドで寝る―!」

「この変態ー!」




 同居生活2週間。当分この男は居座るようです。






 TO BE CONTINUED



……いつ書くかわかりませんが、続きます!(以上!)

誤字脱字訂正などのメッセージお待ちしています。

久々の作品でもありますので、感想もぜひぜひお待ちしています。


それではおやすみなさい!


霧明(MUA)

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