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もう一度、あなたへ…

作者: Rev crazy dream

これは今年に私が体験した私の『じいちゃん』との話です。こういった作品は初めてなのでうまくは書けませんが、皆様の心に響く作品になれたらなぁと思います。



 5月も後半に差しかかったあの日…



 早朝5時13分…




 携帯電話の着信音が鳴った…







 私は祖父の事を『じいちゃん』と呼んでいる。

 うちの両親は共働きで忙しく私は昔からじいちゃんの世話になっていた。

 一言で言えばじいちゃんはとても強い人だ…じいちゃんは戦争に二度も出兵し無事に生きて帰ってきた。

 そんな経験から私が学校から帰ってくるとコタツで蜜柑を片手に戦争について教えてくれたり…ある日は年齢を全く感じさせないたくましい体で畑仕事をしたり…またある日は家族一緒に山へキノコや山菜を採りに出掛け、慣れたようにどんどん1人で奥へ行き気が付けば背中に背負っている大きな籠いっぱいにキノコなどを山ほど入れて持ってきていた…ある日は学校帰りにじいちゃんの家へ寄ると小屋にまとめ買いしていたオロナミンCを大好きな私のために必ず1ケース持たせてくれたものだ…



 そんなじいちゃんも年のせいか体が鈍くなるのを感じ私の両親の勧めから、病院で検査を受ける事にした。



 後日私が両親に告げられたじいちゃんの病名は


 『肺炎』


 この年でなる事はまれではない症状だったが現代医学の発展から治る病気だと分かり両親からも大丈夫だと言われ、私もまた…じいちゃんの強さを知っていたからその姿を安心して見ていた。


 だけど日が経っていくにつれじいちゃんの具合は悪くなっていき次第に入退院を繰り返すようになり…家族や親戚ぐるみでじいちゃんの世話をする事になった。

 私も泊まりがけで世話をした…

 私はじいちゃんの足を拭いてあげるため着ていたパジャマを捲り上げた。

 その時、私の目に見えたじいちゃんの太ももはすでにあの頃のようなたくましい面影はなくなっていた…

 ベッドでの生活を余儀なくされていたじいちゃんの体は病に侵され、あの太ももや腕はすでに不自然なほど細くなり私には見るのもつらかった…


 そんな変わり果てたじいちゃんを見て私は別の部屋で1人泣いていた…






 やがて月日は経ち、とうとう春から通う専門学校の入学式が迫っていた。 私は父に買って貰った新品のスーツを着てじいちゃんの元へと行った。

 そこで見たじいちゃんの姿は悲痛なものだった。

 絶えず咳をして苦しそうにし、呼吸を整えようと必死に胸を押さえ深呼吸をしている。私はそんな姿を見てこらえずじいちゃんへ駆け寄った…


「おぉ…どうした?突然来て…」


 私は自分の感情を必死に押し殺しいつも以上に精一杯笑顔で話しかける。


「ほら見て!このスーツ、買って貰ったんだ!今度学校の入学式に着ていくんだけど…どうかな?じいちゃん」


 そんな私の姿を見てじいちゃんは笑顔で私を見て言ってくれた…


「うん。似合ってるぞ…」


 私はじいちゃんの手を握り締めた。それに答えるようにじいちゃんも力強く私の手を握っていた…




 そしてしばらくの沈黙の後、じいちゃんは声を震わせながら私に言った…




「ごめんな…みんなに迷惑かけて…もう迷惑ばっかりかけてな…」



 あの強かったじいちゃんの目には涙が流れていた…

 すでに骨と皮しか残らないほどやせ細ってしまった細い腕で…私の手を握り締め…


「何言ってんの…じいちゃんがいたから…じい…ちゃんのおかげでここまで育ってきたんだよ…じいちゃんがいたから…」




 そして気がつけば私は泣いていた…悲しくて…この手を一生離したくなくて……


 私は失ってしまうという事が怖かったから…




 そして…







「じいさんが…そろそろヤバいんだ…」


 父は電話でそう告げた…

 最初はそれを真実として受け止める事は出来ず…私はしばらく何も答える事が出来なかった。


「今日、こっちに帰ってきてくれないか?じいさんもいつまで保つか分からないからさ…」


 すぐ行くから…私はそれだけ父に伝え、通話を切った…


「はは…じいちゃんが…そっか…」


 私は頭が真っ白になった…意気喪失とはまさに今の私の事を指す言葉なのだろうか。

 私はそれからの時間、眠りにつける事無くじいちゃんとの思い出を反芻するように思い出していた…


「こんなの…おかしいよね…じいちゃん、まだ生きてるのに…こんな昔の思い出みたいにしたりするなんてさ…」


 私には分かっていたのかもしれない。

 いや…じいちゃんがどれだけ苦しんでいるのかさえ分かってあげていたつもりでいた…







 私は荷物をまとめ地元へと足早に進んだ…

 新幹線へ乗った時、周りの人の声や顔が気になってしょうがなかった。

 私は父の電話…そしてなぜか元気だった頃のじいちゃんの顔を思い出していた…




 ここにいる人達はなんでそんなに笑ってられるんだ…

 なんでそんな…じいちゃんは今も苦しんでるのに…


 そんな抑えきれない思いを秘めたまま新幹線に駅へと到着事を告げる放送が流れ始めた。

 駅へ着くと同時に私は耐えきれず足早に新幹線を走るように抜け出し出口へと駆け出した…

 辺りの人の声が強くなり…私は悲鳴にも似た感情を隠しきれなかった。


 若者達の罵声に似た笑い声…

 オバサン達がけたたましく高い声を張り上げていた…




 そんな中…私は聞き覚えのある声を聞いた。


 私の叫びに応えてくれるように名前を呼ぶ声…それは父だった。


 駅の改札口の前…そこにはすでに父の姿があった…


「おかえり…」


 優しい声で…私は一言そう言われた…






 車へ乗り込むと父は間置かずじいちゃんの今の状態について話をした。



「じいさんな…ずっとお前が来るの待っててな、医者は意識が無くなってもおかしくないって言ってるのに…お前の顔が見たくて見たくて…もう喋る事は出来ないけど…お前のためにずっと起きてくれてんだぞ…?」




 私はまた泣いた…ここに来るまで…父に会うまでに抑え込んできた感情がまるで濁流のようにはじけた。



「今はさ…いくらでも泣いてもいいけどじいさんの前では絶対泣き顔見せんなよ。みんなじいさんに笑顔見せてんだから…」


 私は顔を必死に押さえながら頷けるだけ頷いて父の話に耳を傾けた…

 じいちゃんの話を…







「ほら…ここだぞ…笑顔でな…」


 車が病院へ着くと父は真っ直ぐに病室へと案内してくれた。

 病室の中は外からでも分かるぐらいざわめきが響いて聞こえる。

 きっとみんなじいちゃんが心配で来てくれてるのだろう…じいちゃんは本当にいい人で絶えずみんなから尊敬されるような人気者だったから…




 私は閉めきられた病室のドアを開けた…

 中には親戚や私の家族…そしてばあちゃんもみんな揃っていた。 そしてみんなの視線が私へと移された…


「ほら…じいちゃん、来てくれたよ?」


 そうベッドに眠るじいちゃんに告げたのは私の母だった。


「ほら、早くじいちゃんに顔見せてあげて」


 私は母に言われるままじいちゃんの元へと駆け出した…




「じいちゃん…?」


 私の足は自然と駆けていた…気がつけば私はベッドの前に立ちじいちゃんの姿を見つめていた。


「じい…ちゃん。じいちゃん!じいちゃん…!」


 私は耐えきれずに涙が溢れ出た…そこにちゃんと目を開け私を見つめてくれるじいちゃんがいたから…




「ったく…泣くなよ…じいさんの前なんだぞ?」


 私の横に立った父は私の肩に手を置き苦笑いしてそう言う…


「うん…うん…」


 私はただそれだけ言ってじいちゃんの手をあの日のように強く強く握り締めた…

 記憶にあるあの暖かい手とは比べる事が出来ぬほどじいちゃんの手は冷たかった…

 だけど確かに感じるじいちゃんのこの手の温もりを感じて私は離さなかった…




「じいちゃん…よかった…よかった…」


 そしてじいちゃんも私だと気付いてくれたのか手を強く握り返してくれた…


「じいちゃん、ほら…帰ってきたよ?じいちゃんの事心配だったから…急いで帰ってきちゃった…体大丈夫だった?」



 しばらくじいちゃんと私の間に沈黙が広がる。



 私は父の言葉を思い出す。


 じいちゃんはもう喋る事が出来ない…

 そんな突きつけられた現実に歯咬みしながら私はじいちゃんの姿を見ようと視線をベッドへと移した…




 私は声が出なかった…



 じいちゃんのあの太くたくましかった腕…いや、すでに体全体が病に侵され無惨にやせ細り体の至る所に数え切れないほどの血腫が見られ点滴や注射の生々しい跡が残っていた…

 そして鼻にはノズル…口には酸素を送るマスクを付けベッドの横には心電図を測るような機械が置かれ…まるでそれら全てが事の重大さを克明に表してるようだった…



 私は言葉に出来ない思いが酷く胸につまる感覚に襲われた…



「なんで…こんな…」


 こんなにも…こんなにもつらい思いをしながらじいちゃんは私を待っていてくれた…じいちゃんはずっと私を…


「頑張ったねぇ…今までそばにいてやれなくてごめんね…」



 じいちゃんは私の顔を見て安心したのか微かに笑っているようにも見えた。


 意識はハッキリとしている…そう父に言われ安心していた私の目に映ったじいちゃんの姿はあまりにも残酷だった。 必死に私を見つめるじいちゃんに私はただ何もしてやれなかった…


 私は…


「大丈夫だよ…ずっとここにいるから…」


 そう…手を握ってあげる事しか…







 私が来てから30分も経たないうちにじいちゃんは突然発作をおこした…

 胸を押さえながら苦しむじいちゃんを見た父は耐えきれずベッドの横にあるナースコールを押す。30秒ぐらい経ってから医師と看護士が来てじいちゃんの様子を診て冷静に私達に告げていく…


「先ほどより脈拍も弱ってきておりこれからが一番大変な時間帯になるでしょう。とりあえずは胸の痛みを和らげる痛み止めを注入いたしますので、それで一旦様子を見ますので…」



 医師の説明が終わるより早く看護士はカートで運んできた様々な注入器からじいちゃんの名前が書かれた注入器が取り出された…

 医師は慣れた手つきで注入器を機材へ取り付けスイッチを入れる。するとしばらくしてから定期的な機械音と共に痛み止めの注入が始まった。


「じいちゃん…すぐに痛くなくなるからね…大丈夫だからね…」


 じいちゃんは胸部から前腹部にかけて痛いのだろうか息を荒げながら必死にさすっている…

 私は見ているのが辛くなり一緒になって胸をさすってあげた…

 今も苦しそうにしているじいちゃんに私が出来る事はただ…それだけだった。


 私はじいちゃんの痛みを変わってあげる事は出来ない…


 私は無力過ぎる自分を恨んだ…







 夕方の4時を過ぎ辺りも薄暗くなりはじめた頃だったろうか…父は突然私に告げた。


「じいさん…今夜は大丈夫そうだから…お前も明日から学校あるだろ?…来てくれてありがとな…」


「帰らないよ…」


 そう一言呟いた私に父は肩にそっと手を置いて言う。


「お前の言いたい事も分かるぞ…だけどそれだけがじいさんが望んでなんていないだろ…?」


 父は一旦喋るのを止めた後…口をそっと開けた。


「じいさん…お前にはいっぱい感謝してると思う…こうやって来てくれた事にも…だからさ…今はじいさんのためにもお前に出来る事をしようよ…それがじいさんのためにもなるから…」


「だけど…」



 私はそれ以上何も言えなかった…

 きっと父はこれから突きつけられる現実に逢わせたくなかったのだろう…そして多分私自身の心もそれを見たくはなかったのだろう…



「うん…でも8時ぐらいまではいたい…」


 そう言った私の肩に父は優しく手のひらで覆ってくれた。


「ちゃんとじいさんに言ってやるんだぞ…」


「うん…」



きっと私はこの時、目の前の現実から逃れたい…そう思っていたのだろう…







 病室内にざわめきが起きた事に私は気付いた。 じいちゃんのベッドの横に設置してあった心電図が心拍数の低下を鮮明に知らせる。

 じいちゃんが激しく咳をするのを見て私は耐えきれずナースコールを押した。

 病室に急いで来た医師は私の父と母を廊下へ呼び出し何かの話をしている。しばらくした後、その話も終わったのか看護士を連れた医師が親戚全員に話をしてくれた。


 私にには理解出来ないような専門的な用語が飛び交う中…父は私に説明してくれた…。



「これからさ…じいさんにさっきより強い痛みを止め打つんだよ。その副作用で意識がなくなるかもしれないんだけど…これ以上痛い思いもさせたくないだろ?だからな…」



 その言葉に私は首を縦に振る事しか出来なかった…


 医師はじいちゃんの腕へとつながる太い管に新しい痛み止めを続けざまに二本も打っていた。



 しばらく咳をしていたじいちゃんも徐々に痛み止めが効いてきて楽になったのか呼吸が落ちついてきた。


「ほら…じいさんこれからもっとがんばらなきゃいけないんだからな…お前も応援してあげな…」


 父の後押しを受け私はじいちゃんの両の手を握りしめ言った…


「なぁ…じいちゃん…?退院して元気さなったらなぁ…みんなで山とかさ行って山菜とかキノコとかいっぱい採りに行って…みんなして山でばあちゃんの作ったオニギリとか…たくあんともいっぱい食うもんなぁ…そしたら……」


 私はじいちゃんに何をしてきてあげたのだろう…ふとその時感じた。

 小さな頃からお世話になりまるで父親のように育ててくれたじいちゃんに私は……




「頑張ろう…じいちゃん…」


 そうじいちゃんに言った私の姿を見てか、母は父の胸に寄りかかるように声を押し殺して泣いていた…

 そして私は握っていたじいちゃんの手を優しくベッドの上に離して置いた。



 私はそこで、離してしまったじいちゃんの手は…二度と戻らないという事を知った…







 激しい罵声が飛び交いながらみんながじいちゃん…じいさん…と叫んでいる。


 最初にそれに気付いたのは父だった。


「じいさん!!じいさん!!」


 突然叫んだ父に私はすぐに反応した…みんな揃ってベッドの周りを囲みじいちゃんの様子を見る…



 じいちゃんは息をしていなかった…



 父は叫び母は膝をついて泣いていた…


 私はナースコールを押した…


「早く来てください!じいちゃんが…早く!」


 みんな叫んだ…私も叫んだ…


 入り口を開ける音がした。来たのは看護士だけだった…



「じいさん!!起きてくれ…じいさん!!」



 父の声がする…顔をクシャクシャにしながら叫んでいた…


 私も我を忘れたように叫んでいた事を覚えている。



「じいちゃん…!起きてよ!じいちゃん……じいちゃん…」


 それでも医師は来る事はなかった…



「ほら…!じいちゃん…起きてよ!!退院したらみんなで……みんなで山さ行くんだべ…?起きてよ…!!お願いだから…じいちゃん…お願いだから…」



 病室には私の声が響き渡り誰もが私のを見て嘆いていた…


 私の悲鳴に似た声は届く事はなかった…


 父は私のその姿を見て止めようと私の肩を掴んでいたらしかった。


 私はそれに気づかず怒りを抑えきれずそばに立っていた看護士の元へ詰め寄った…




「なんで来ないんですか…なんで医師が来ないんですか!なんで!…なんで…」


 そう叫ぶ私に看護士は驚いて後ずさりしていた…


「なんで…!!なんで…」




 私の叫びはそこで止められた…


 父は私の手を掴みそして私を覆うように抱きしめた…



「もう…しかたないんだ…誰も悪くないんだよ…」


父は真っ赤に目を腫らしながら言った…



「だって…だっ…」




私は大声で泣いた…父も私を抱きしめながら泣いていた…







 その後病室へ医師が来てじいちゃんの最期を告げた…

 震える私の両手を父はちゃんと握ってくれていた…

 医師が退室した後、私はじいちゃんの顔に触れた…まだ暖かく生きているようだった…

 いや…さっきまでじいちゃんは必死で生きていた。

 最期までじいちゃんは…私のじいちゃんは強かった。


 だけど…だからこそ私にはその現実を受け入れる事など出来なかった…



 だって…まだこんなにあったかいのに…


 こんなに優しい顔をしてるのに…




 私は耐えきれず病室を出た。







 しばらくの間私は院内の廊下で空虚な時間を過ごした…薄暗い廊下を歩くいていると一筋の灯りが射す場所へと私は入った。

 そこはトイレだった。私は初めて自分の顔を鏡で見る…

 顔一面赤くなり瞼と鼻と頬は腫れ上がりまるで見れたものじゃない。

 あの看護士の人が後ずさりするのもわかる気がした…






 私は誰もいない休憩室の椅子に座った。休憩室の窓からはこの辺の景色が一望出来る。

 空は今の私のように空っぽで曇天が広がり、外一面灰色が支配していた…


 しばらく何もする気がおきなかった…



 休憩室のドアが開く音がする…入ってきたのは父だった。


「じいさん…眠るように逝ったなぁ…」


 そう言った父の言葉に私は再び現実を突きつけられた。


「…じいちゃん、苦しくなかったんだろうね…」


 父は一旦間をおいた後、私に教えてくれた…


「ほんとはさ…じいさんに使った痛み止めはモルヒネって言うんだ…名前なら聞いた事あるだろ?テレビとかでは麻酔ってなってるけど実際は即効性の麻薬みたいなものなんだ…でもじいさんは最初の一本じゃ効かなかったから医師と相談してあれからモルヒネを二本も使ったんだよ…」


父は苦笑いしながら淡々と喋ってくれる…


「一本じゃ効かなかったって…やっぱりじいさんは強かったよ…」


 父は軽く笑いを交えたたつもりだったと思うが、私にはその声は震えて聞こえた。




「ずっとじいさんは戦ってきたんだよ!じいさんは…!」




 父は突然そう叫んだ…そして私は耳を疑う言葉を聞いた…




「ほんとはな…じいさんは『白血病』だったんだよ!あの時だって…お前が買ったスーツ見せたいからってじいちゃん家に連れてった日だってじいさんな…ずっと苦しかったんだ!死ぬほど苦しい思いをしてきたんだよ!!お前を見てたあの目だってほんとは…ずっとずっと前から見えなくなってて…それでもお前に『似合う』って…じいさんはなぁ…強い人だったんだよ…」




 父が叫び、休憩室が静かになり始めた頃…私は泣いた…



「…あぁあぁぁ…ああぁあぁ…ああぁ…!」



 その声にもならない叫びは誰に届くわけでもなかった…そうする事でじいちゃんが戻っては来ない事など私にだってわかっていた。



 あの日…スーツを着ていった私にじいちゃんは確かに似合うと…そう言ってくれた。


 じいちゃんは何を思い今日まで生きてきたのだろう…そして私はじいちゃんに何をしてあげてこれたのだろう…


 降り止まぬ雨とともに私の涙も止むことはなかった…



 そしてじいちゃんの長い生涯は幕を閉じた…







 それから一週間後…私はじいちゃんの葬儀のため再び地元へと戻ってきた。


 じいちゃんの葬儀は一般の方だけでも100人を越える人が参加してくれた…その光景を見て私はじいちゃんはやっぱりすごいなと父に言った。

 父もそうだなと私に笑って答えてくれた。



 私はふと壇上に上げられたじいちゃんの写真を見た…それが私にはどうしてもじいちゃんが苦笑いをしているようにしか見えなかった…

 じいちゃんはやっぱり恥ずかしがり屋だったんだな…と私はふと思い出した。


一般参列者が次々と帰り、親戚や私達は火葬場へと足を運んだ…


 棺に入ったじいちゃんが炎の中に入り燃えていくのを私はじっと眺めていた…

 大広間で親戚のおじさん達は笑いながらじいちゃんはいい人だった…頑固だったけど父親みたいな人だったと口々に呟いていた…



 私は1人バルコニーに出た…


 空はあの日と違い雲一つ無い綺麗な青が澄み渡っていた…建物の煙突からはその青空へ向かうかのようにじいちゃんが灰となって上がっていく。




 私は一呼吸してじいちゃんとの思い出を感じていた。




 じいちゃんは夏にはいつも私にトマトやキュウリを袋いっぱいにくれたよね…


 元気が無いときはいつも相談に乗ってくれた…


 風邪をひいた時はずっと看病してくれた…


 私が学校を早退する時はいつも迎えに来てくれた…


 私が学校に行きたくないって言った時は話を聞いてくれた…


 私が悪い事をした時は親より先に本気で叱ってくれた…


 私が泣いた時は一緒に泣いてくれた…






 じいちゃんはいつも私のそばにいてくれた…




 あなたが思い出になる前に…


 私はもう一度あなたへ伝えたい…







 ありがとう…




 私は青空に向かいそう言った…





 あたりまえにあるものほど本当は大事なものだと人は誰もが忘れてしまう…その優しさに気づかないまま…



 私は『じいちゃん』という存在を失って初めて"幸せ"だった事に気づき…そして涙しました。


 人はもろく大切なものを失って初めてその大切さに気づきます。


 この小説を読んでくださった皆様にそれが伝わってくれれは私…そして『じいちゃん』は幸せです。


 そして何か伝わったのなら今からでもいい…あなたの大切な人に何かしてあげてください。


 それがあなたのためになるから…



 最後にこの小説を読んで下さった皆様方…本当に感謝したいと思います。私自身、この作品をよんで今日まで詰まっていた何かがとれたような気がします。


本当にありがとうございました。



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