表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

思いは純真なままに∀

「お帰り、ニア」

 森の奥、木漏れ日も射し込むかどうかというような場所で、老婆が言った。

 老婆の目の前には薄い鮮やかな黒髪をもったニアが立っていて、首から下げていたペンダントが風に揺れると胸の中にしまいこみ、右手にもった薪の束を老婆に差し出した。

「ニア、もうすぐ日が暮れます。この辺は少しでも太陽が沈むと闇しかのこりません。季節もそろそろ秋になるし、明日からはもう少し早く帰っておいで」

 ニアは老婆の言葉に首をたてにふると、

「はい。――師匠」

 と言葉短く切った。

 先程まではあった木漏れ日も、太陽の傾きと共にすぐに消え静寂な闇が森を支配する。二人は家の中にある暖炉の前に向き合うように並んで座ると、老婆のいれたホットミルクを飲みだした。

 ニアが静まり返った部屋を濁すように、ポツリと喋る。

「……師匠。私は明日にでも出立しようかと思います」

「そうですか。あなたがここに来てから何年程経ちましたかねぇ――」

「今日で、丁度10年になります」

 抱えていたホットミルクへと老婆は目線を下げると、コップを軽くもてあそぶように持ち直し、目線だけはホットミルクに向けたまま言った。

「ニア――。復讐は、なにも生みませんよ?」

「――師匠、私は復讐などするつもりはありません。ただ、私と同じような境遇の人間を増やしたくないだけです。――それに、一番最初に私が師匠にいった言葉、あの時なら師匠はそれを止めることもできたはずです。でも、それをしなかった。いや、しないどころか、私の言葉を聞き入れてくれた。その師匠がなぜ、いまさらになってそんなことをおっしゃられるのか、理解しかねます」

 老婆はゆっくりと目線をニアへと向ける。

「ここで二人静かに暮らしませんか?」

 ニアはゆっくりと首を横に振る。

「そうですか……。ならば私は、あなたが間違った所へたどりつかないことを祈りたいと思います」

「祈る必要などありません、師匠。私の力は守るべき者のために使うと、この胸に誓ってますから」

 そうニアは言うと、席を立ち上がり老婆へと背をむける。

「では、私は用意がありますのでこれで失礼します」

 遠ざかっていくニアの背中を老婆は見送ると、深いため息をひとつ吐き、ゆりいすにもたれかっかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ