地獄は美しい
目が覚めると、窓の向こうから微かに雨音が聞こえてきた。
うとうとと、まだ覚醒しきっていない頭がみるみる内に冴えてくる。
いつもの雪じゃなく、雨が降った。
降ってしまった。
・・・・最悪だ。
ガバッと勢いよくベットから飛び出し、
窓を開ける。
雨は思いのほか強くかった。草木を揺らし、打ちつけ、滝の様だと錯覚する程の水量で矢が飛ぶ様に鋭く速い。
「・・・参ったな。これではもうすぐハルが来てしまうでは無いか。。。」
頭を荒々しく掻いていると、戸をぶち破るかの如くノック音が炸裂した。
[レフ!レフ殿下ぁ!!!]
苦々しい舌打ちが漏れる
この声はクマだ。(いや、ノック音で既にクマと分かっていたが)
この焦り様、、、
来てしまったか。
「五月蝿い!聞こえている!!」
そう叫ぶとドアノブが回ったので焦る。
マズイ。クマに彼女を見られると面倒だ。
いきなり、王の寝室に見慣れぬ像がありしかもその容姿は昨夜のメイに瓜二つ。。。。
確実に質問攻めの嵐だ!!!
ぐっと握り拳を作り、目に力を込め、呪文を唱える。
扉が白い壁に変わった。
よし、これで開けられまい
[!?殿下!?何々?引き籠り!?今だけはやめてえええええ!!]
泣き声のクマを放っておき
彼女を見る。
「朝から騒がしかったな。そなたは誰の目にも触れさせはせんから安心してそこにずっと立ってろ。
・・・あ、そうだおはよう。」
軽い挨拶を終え、もう一度彼女を一瞥する。
「雨が降っているんだ。。。そなたも知っているだろう?冬の終わりは激しい雷雨になることを、
そしたらハルがやって来るんだよ。毎年毎年、飽きもせずにな・・・」
ハル。
ハルは世に言う精霊だ。俺は何故かそいつに懐かれ、
毎年、冬の終わりにやって来る。季節の春と共に旅をするから、ハルというらしい。
そこでふと、俺は思いたった
「なあ、そなたの名。ユキはどうだ?俺は雪が何より好きだし、そなたは雪の中にいたものな。」
・・・安直だろうか?
不安に駆られ彼女を盗み見ると、不平の声は上がっていない。
正直、何も言わないから不平でも何でも言って欲しいのだが。。。
くそっ苛立つな。
「もういい、そなたは今日からユキだ!そなたの様な者にこの俺が名を与えてやったことに感謝するんだな!分かったなユキ!」
そう、足早に伝え魔術でするりと壁をすり抜けて行った。
すり抜けた先に、クマの青い顔がある。
「・・・来たのか?」
震えながら頷くクマ。
「はああ。・・・案内しろ。」
ガチガチになったクマに連れられ、客間に着いた。
客間には、大きな古ぼけた暖炉と、毛皮で作ったソファが置いてあるだけだ。
そこに腰掛けている小さい大きなつり目の少女に声をかけた
「好い加減にしろよハル。お前を相手にしている時間は無い。」
その言葉が聞こえた瞬間、ハルはニンマリ笑った。
「人間の女共は相手にするくせにぃ?レフったら本当に趣味悪いんだからっ!」
そう言い、カラカラ笑うハルにため息が出る。
「連れ出せ。」戸の見張り番の兵に言うと、ハルが仰天してしがみついて来た。
「わああ!レフレフ!御免って!でもそろそろあたしの相手もしてよお!」
「俺にロリの趣味は無い。」
「あたしこれでも1234歳だもん!」
「熟女好きでも無い。」
ペイっとハルを引き剥がして、兵に渡す。
「うわあああん!レフの馬鹿馬鹿馬鹿!一年振りなのにぃ!じゃあどんな女がタイプなのよおお!」
ジタバタもがくハルは兵に連れられ外にでていった。
一人客間に残り、ソファに凭れてため息を着いた。
・・・どんな女がタイプだって?
強いて言うなら、ハルと正反対の無口な女だな。。。
呼吸すらし無い、女だ。
嵐が去ったので、また壁をすり抜けて寝室に入る。
いつもと変わらない彼女。
ベットに腰掛けて彼女を仰ぎ見た。
「ユキ。。。ユキはどんな男が好きなんだ?・・・俺という答え以外は受け付けんがな。」
しかし、その答えすらくれ無い彼女にむっとしつつ
彼女の滑らかな手をとり、口付けを落とす。
・・・まともな会話も出来ない。愛を囁こうにも彼女の耳には決して入らない。
ハルは、、、いいよな。
俺を抱きしめて返って来る温もりがある。
抱けと言って嫌だと返事が返って来る。
俺を追えば追っただけ、俺は遠ざかってやれる。
それなのに、彼女は何も返してくれない。
追おうにも、彼女は逃げないし、逃げる足を持っていない。
だから、彼女は遠ざかってくれないし、決して近づいてもくれない。
どうせなら遠ざかってもらった方が楽なのに・・・
最終的に、俺は彼女を諦めるためには自分で彼女を捨てなければならないから
「・・・ユキ。俺はユキが好きだ。ユキが欲しいんだ。」
些か、口調は速くなる。
彼女の腰を引き寄せ、抱きつく。
こんなにも俺はユキに縋りついているのに、、、
俺は、彼女を捨てられるのか・・・?
答えは・・・否、だ。
「とんでもない恋をしてしまったな・・・。」
自嘲の嗤いをして、更に強くユキを抱き締める。
頬に、雪よりも冷たい固い感触が伝わり
それだけは返して欲しくなかったと呟いた。
新章突入!
色んな人がでて来る予定




