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15話・母が犯罪者?


「旦那さまは行方不明のようですし、その場合、どなたかに許可をもらうことになると思いますが……、そうなると執事さんですかね?」


「そうか。中に入るのには許可がいるのか? とりあえず、その嘆きの塔がある場所まで案内してもらえるかな?」


「はい。それぐらいなら構いませんけど」



 ノアールは嘆きの塔がある場所を知りたいと言うので、塔へと渡る桟橋まで案内した。今日は風が強いせいか、海も荒れているようだ。わたしの後ろで二人は顔を寄せて何やらこそこそ話していた。



「今日は無理だな。諦めよう」


「俺の背に乗せて移動することもできるぞ」


「駄目だ。ここで本体になったりしたら領民に注目されて騒ぎになる。目立つ行動はしたくない」


「でもなぁ、せっかくここまで来ておいて……」


「後日、ここは調べよう。帰るぞ」


「はいはい」


 

 今日は何もやることがないということで、家まで送ってもらうと、不自然なほど家の前に人だかりが出来ていた。野次馬の中に見知った顔があったので聞いてみた。



「シイラ小母さん。一体、何が起きたの?」


「サーラちゃん。あんたの母さん、とうとう犯罪者になっちまった」


「……! 通してくださいっ」

 


 何があったのか分からないが、慌てて人の波をかき分けて前に出ると、母が憲兵に捕まっていた。



「おまえがボーモン子爵の屋敷を放火したと密告があった。まさかボーモン子爵とそのご令嬢の姿が見えないのは──、殺人を犯したのではあるまいな?」



──母さんが放火?! 殺人?



 母はボーモン子爵と、その娘のマリアナとは真の家族のように仲が良かった。その母が二人を殺害するとは信じられなかった。愕然とする私の目の前で、憲兵に捕らえられた母が最期のあがきのように抗っていた。



「そんなの嘘よ。あたしは何もしていないわ。誤解よ。放して、放してよっ」


「その女ならやりかねない」


「迷惑だ。さっさと連れて行ってくれ」



 必死に訴える母の顔色が悪かった。ここでは母の評判が悪いのもあり、この場からさっさと母を連れて行けと、皆が憲兵をけしかける。



「話は事務所で聞く」


「あたしは何もしていないって言っているでしょう」


「大人しくしろっ」



 母と目があった。母の目には憎悪が宿っているような気がした。



「あたしじゃないわ。やったのはあの子よ!」



 母の声に皆が一斉に私を見る。いつの間にか私の傍まで来ていたアコダやノアールは、母から私を隠すように前に進み出た。すると即座に声が上がった。



「馬鹿を言うでないよ。サーラちゃんのはずがないだろう」


「自分の罪を娘に擦り付けようだなんて、あんたの性根はどこまで腐っているんだ」


「おまえのような母親を持つサーラが可哀そうだ」


「そうだ。そうだ」



 シイラ小母さんや、近所に住む小父さん、小母さんが非難すると、母は憲兵に抗い進み出て言い返した。



「そんな子、あたしの子じゃない」


「いい加減にしな」


「母親だからって言っていいことと、悪いことがあるよ」


「何よ、皆であたしを責めて。事情も何も知らないくせに……!」



 皆が母と言い合いをして収集が付かなくなってきた頃、町の取締役が現れて、「煩いから連れて行ってくれ」と、言ったことで、憲兵は逆らう母に縄をかけ、引きずるようにしてその場から連行して行った。母は「最後まで自分じゃない。やったのはあいつだ」と、叫びまくっていた。

 母には嫌われていたけど、まさかあんなことを言われるとは思ってもなかった。かなりショックだった。周りの小父さん、小母さんが庇ってくれなかったなら、私も事情を知らない憲兵に連れて行かれたことだろう。シイラ小母さんと、裏の家に住む小母さんが声をかけてきた。



「サーラちゃん。大丈夫かい?」


「あの女、ずうずうしいのよ。サーラちゃんが留守の間に家に入り込んでいたようだけど……」


「今朝、帰って来たの。しばらく厄介になると言って」


「嫌な思いをしなかったかい?」


「何かあったら、うちに逃げ込んできても良いからね」


「ありがとう。シイラ小母さん」



 泣きそうになる私の頭を温かいものが触れていた。アコダが頭を撫でた。



「今夜は泊って行こうか?」


「平気だよ。ここにいれば皆がついているし、何かあればすぐに助けてくれる」


「無理はするなよ」


「うん」



 母が騒ぎ立てるのは、ここでは初めてのことではないらしい。私が産まれる前には、何度か警備兵にお世話になったと聞かされていた。だから近所の人達は親身になって気にかけてくれる。それが有難かった。

 アコダさんがいくら父の兄とは言えど、今日知り合ったばかりの人を全面的に信じるほど、私はまだ気を許してなかった。良い人だと思うけど、今日の所は大丈夫だと言うと渋々引き下がってくれた。ノアールも何か言いたそうな顔をしていたけど、二人には家まで送ってくれた礼を言って別れた。その時に、何者かがこちらを伺っていたことに、私は気が付いていなかった。




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