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短編集

無能扱いされた俺、燃焼効率を極めた結果、壊れない門が一瞬で消えた

作者: 火川蓮
掲載日:2026/07/15

「おい、“ライター”。火、貸せよ」


背後からの声に、俺は何も言わず指先に火を灯した。

小さな火だった。

ロウソクより、少しだけマシな程度。頼りない炎。

男はそれで煙草に火をつけ、満足げに煙を吐く。


「相変わらず便利だな、お前」


周囲から、くすくすと笑い声が漏れた。

俺は、火魔法と風魔法の両方を使える。


……とはいえ。

火は弱い。

風も弱い。

火は“ライター代わり”。

風は“うちわ以下”。

戦闘では、役に立たない。

だから俺は、まとめてこう呼ばれている。

——“無能”。


依頼内容は単純だった。


「この門を壊せ」


目の前にそびえるのは、巨大な黒い門。

素材は不明。

ただ一つ分かっているのは——

どんな魔法でも、壊れない。


「任せろ!」


最初に前へ出たのは、Bランクの魔導師だった。

放たれた火球は、視界を埋め尽くすほど巨大で。

轟音とともに門を飲み込み、爆風と熱波が周囲を揺らす。

普通なら、何も残らない威力。

だが——


「……効いてねぇな」


誰かが呟いた。

炎が消えたあとも、門はそこにあった。

焦げ跡ひとつなく、何事もなかったかのように。

次々と魔法が叩き込まれる。

火。爆炎。熱。

だが、結果は同じだった。

やがて、誰かが吐き捨てる。


「無理だろ、これ」


張り詰めていた空気が、ふっと緩む。

諦めの気配が、場を満たしていく。

俺は少し離れた場所から、それを見ていた。

そして、ずっと感じていた。


(おかしい)


火力は、十分すぎる。

あれだけの熱量で壊れないなら、

普通は“もっと強い魔法が必要だ”と考える。

でも——


(違う)


俺は門へと歩み寄った。

誰も止めない。

どうせ何もできないと思われているからだ。

それでいい。

門の表面を観察する。

焦げていない。

歪んでもいない。

ただ——熱が、広がっている。


(逃げてる)


一点に留まらず、分散している。


「火力が足りないんじゃない」


思わず、口に出していた。


「燃焼効率が悪いだけだ」


「は?」


振り返ると、数人がこちらを見ていた。


「お前が言うか? 無能が」


笑いが起きる。

だが、もうどうでもよかった。

俺は指先に火を灯す。

いつもの、小さな火。


(俺の火は弱い)


それは事実だ。

だが——

それは“火力”の話でしかない。

続けて、風魔法を使う。

紙を揺らす程度の、弱い風。


(風も弱い)


だから、誰も使わない。

けれど。


「弱いんじゃない」


小さく呟く。


「用途が違うだけだ」


火を中心に、風を集める。

ただの風じゃない。

“空気”そのものを動かす。

圧縮する。

さらに圧縮する。

逃がさない。


(酸素を増やす)


火を強くするのに必要なのは、火力じゃない。

燃え方だ。

火の色が、変わる。

赤から、青へ。

そして——白へ。


「なんだ、それ……」


誰かの声が震えた。

炎は揺れない。

音も消えている。

ただ、熱だけがそこにあった。


(広げるな)


炎を細くする。

針のように。

無駄を削ぎ落とし、一点に収束させる。

門へと、触れる。

抵抗はなかった。

ただ——通る。

気づけば。

門には、人ひとりが通れる穴が空いていた。

断面は、鏡のように滑らかだった。

誰も、何も言わない。

ただ、俺を見ている。


「無茶じゃない」


俺は振り返る。


「理屈だ」


もう、笑う奴はいない。

けれど、それはどうでもよかった。


(やっと分かった)


俺の魔法は、弱いんじゃない。


「使い方を間違えていただけだ」


小さく息を吐く。

指先の火は、静かに消えていった。

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