無能扱いされた俺、燃焼効率を極めた結果、壊れない門が一瞬で消えた
「おい、“ライター”。火、貸せよ」
背後からの声に、俺は何も言わず指先に火を灯した。
小さな火だった。
ロウソクより、少しだけマシな程度。頼りない炎。
男はそれで煙草に火をつけ、満足げに煙を吐く。
「相変わらず便利だな、お前」
周囲から、くすくすと笑い声が漏れた。
俺は、火魔法と風魔法の両方を使える。
……とはいえ。
火は弱い。
風も弱い。
火は“ライター代わり”。
風は“うちわ以下”。
戦闘では、役に立たない。
だから俺は、まとめてこう呼ばれている。
——“無能”。
依頼内容は単純だった。
「この門を壊せ」
目の前にそびえるのは、巨大な黒い門。
素材は不明。
ただ一つ分かっているのは——
どんな魔法でも、壊れない。
「任せろ!」
最初に前へ出たのは、Bランクの魔導師だった。
放たれた火球は、視界を埋め尽くすほど巨大で。
轟音とともに門を飲み込み、爆風と熱波が周囲を揺らす。
普通なら、何も残らない威力。
だが——
「……効いてねぇな」
誰かが呟いた。
炎が消えたあとも、門はそこにあった。
焦げ跡ひとつなく、何事もなかったかのように。
次々と魔法が叩き込まれる。
火。爆炎。熱。
だが、結果は同じだった。
やがて、誰かが吐き捨てる。
「無理だろ、これ」
張り詰めていた空気が、ふっと緩む。
諦めの気配が、場を満たしていく。
俺は少し離れた場所から、それを見ていた。
そして、ずっと感じていた。
(おかしい)
火力は、十分すぎる。
あれだけの熱量で壊れないなら、
普通は“もっと強い魔法が必要だ”と考える。
でも——
(違う)
俺は門へと歩み寄った。
誰も止めない。
どうせ何もできないと思われているからだ。
それでいい。
門の表面を観察する。
焦げていない。
歪んでもいない。
ただ——熱が、広がっている。
(逃げてる)
一点に留まらず、分散している。
「火力が足りないんじゃない」
思わず、口に出していた。
「燃焼効率が悪いだけだ」
「は?」
振り返ると、数人がこちらを見ていた。
「お前が言うか? 無能が」
笑いが起きる。
だが、もうどうでもよかった。
俺は指先に火を灯す。
いつもの、小さな火。
(俺の火は弱い)
それは事実だ。
だが——
それは“火力”の話でしかない。
続けて、風魔法を使う。
紙を揺らす程度の、弱い風。
(風も弱い)
だから、誰も使わない。
けれど。
「弱いんじゃない」
小さく呟く。
「用途が違うだけだ」
火を中心に、風を集める。
ただの風じゃない。
“空気”そのものを動かす。
圧縮する。
さらに圧縮する。
逃がさない。
(酸素を増やす)
火を強くするのに必要なのは、火力じゃない。
燃え方だ。
火の色が、変わる。
赤から、青へ。
そして——白へ。
「なんだ、それ……」
誰かの声が震えた。
炎は揺れない。
音も消えている。
ただ、熱だけがそこにあった。
(広げるな)
炎を細くする。
針のように。
無駄を削ぎ落とし、一点に収束させる。
門へと、触れる。
抵抗はなかった。
ただ——通る。
気づけば。
門には、人ひとりが通れる穴が空いていた。
断面は、鏡のように滑らかだった。
誰も、何も言わない。
ただ、俺を見ている。
「無茶じゃない」
俺は振り返る。
「理屈だ」
もう、笑う奴はいない。
けれど、それはどうでもよかった。
(やっと分かった)
俺の魔法は、弱いんじゃない。
「使い方を間違えていただけだ」
小さく息を吐く。
指先の火は、静かに消えていった。
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