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双天のレガリア  作者: 金網
風の勇者と旅立ちの日
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風の勇者と旅立ちの日、5



「体は大丈夫ですか?」


村に戻ってきた俺に、アリシアが心配そうに聞いてきた。

服を巻くって先程の戦いの傷を確認してみる。少し痣にはなっているが問題は無さそうだ。実際、痛みももう消えている。


「うん、大丈夫。助けてくれてありがと。本当に来てくれるとは思わなかったけど……」

「来てくれる、とは?」

「ジンが言ってたんだ。俺がピンチになると絶対来るって」

「……」


アリシアがジンの方へ視線を移す。ジンはそれを見てあらぬ方向へと体を向けた。


「私は勇者なので、人を助けるのは当たり前の事です。ハルもこれに懲りたら無茶な事はしないでください」

「うん。でも、頑張るって決めたから。いつかあいつにだって勝てるようになるよ」


アリシアは答えない。やっぱり俺が強くなるのは反対みたいだ。

お互い沈黙が続き、気まずい時間が流れ始めた時、ジンが俺の肩を叩く。


「食料庫に戻って反省会するぞ、来い」

「ああ、うん。アリシアは?」

「私はやる事があるので失礼します」

「そっか。今夜もご飯作るんでしょ、手伝うから呼んでな」


無言で頷いてから去っていくアリシア。それを見送って俺とジンも倉庫へと歩き出す。


「魔物との戦いはどうだった?」

「思ったよりやれた、と思う。そりゃ勝てはしなかったけどさ、一応戦えてたし」

「そうか。次同じやつと戦ったら勝てそうか?」

「いや、それは無理。俺の攻撃全然効かなかったし」

「そうだな。お前はまずは筋力が足らない。戦いたいならまず肉を付けることだ」

「うん、分かった」

「それと実践の経験もだ。相手の攻撃が単調だからといって油断はするな。気を抜いてるから余所見なんてするんだ」

「それは……」


剣が折れたから、と言い訳をしたい気持ちを抑える。実際、ジンとアリシアが助けてくれなかったら死んでたかもしれなかったんだ。


「だが、初めて戦ったにしてはよく戦えてたと俺も思う。時間は掛かるかもしれないが、体を鍛えていけばその内勝てるようになるさ」

「ジン……。俺、頑張る。もっと頑張って強くなるよ」

「ああ、そうしてくれ。明日からな」

「……え?」

「今日のトレーニングは終わりだ。残りの時間は村の人達の手伝いをする」


倉庫に入りジンが魔法陣を描く。そして、その中から釣竿を取り出した。


「えっと、ジン? 手伝いってどういう……?」

「そのままの意味だ。この村には若い人間がいないからな。農作業や狩りといった老体には厳しい仕事の手伝いをする」 「ああ、なるほど……」

「ほら、行くぞ──」


というわけで、休む暇などなく村の中を駆け回って村の人たちの手伝いをした。

まずは釣り。村の外れに川があるらしく、そこで釣りをするらしい。

村の外なので当たり前だが魔物も出るようで、一緒に行く人の護衛も兼ねているとのこと。


「ジェドさんだ」

「久しぶりだな、ハル。今日はよろしく頼む」


二メートルはありそうな大きな男の人が手を軽く上げて笑う。

見た目は四、五十代くらいの男の人で、手足は丸太のように太い。俺の頭なんて軽く握り潰せそうなくらい手も大きい。

これ、護衛なんているんかな……。と思わなくもない。

数時間が立ち、ホクホク顔のジェドさんと一緒に村に帰ってきた。


「ありがとう。これで今日の夕飯も何とかなりそうだ。またよろしく頼む」

「全然大丈夫っす。俺何もしてないですし……」


籠いっぱいに魚が入ってるジェドさんに対して俺の籠は空っぽだ。因みにジンはそれなりに連釣れているらしい。

目を逸らす俺の頭をグシグシと撫でジェドさんは去っていった。


「次行くぞ」

「次!? 終わりじゃないの!?」

「当たり前だ。この村に何人住んでると思ってんだ」


次は農作業。その次は飼っている動物の世話などなど……。日が暮れるまで続き、ようやく終わる頃にはアリシアが倉庫に戻ってきていた。


「お疲れ様でした。と言いたいところですが、もうひと頑張りお願いします」


倉庫の床には規則正しくお弁当箱が並んでいる。昨日と同じようにそれぞれの家に届けろって事だろう。


「もう、足が動かないんだけど……」

「ハルが手伝うと言ったのでしょう。ほら、行ってください」


アリシアに背中を叩かれ再度村の中を走り回る。


「勇者様のお恵みに感謝致します」

「いいっていいって、そんな仰々しいことしなくてもさ。じゃあ、次行かなきゃだから」


お弁当を渡して走り、渡して走りを繰り返して何軒目かの家で、中から出てきた女の人が問うてくる。


「勇者様のお恵みに感謝致します。……ですが、勇者様は満足にお食事を食べられているのでしょうか?」

「……え? えっと、どうだろ。昨日は食べてなかったけど、普段は食べてるんじゃないかな」

「食べて……いない……?」

「え、あ、うん。理由は教えてくれなかったけど、食べてなかったと思う」

「では、今日はもうお食事は済んでいるのですか?」


女の人が俺の肩を掴み、顔を覗き込んできた。目は大きく開かれ少し圧を感じる。

理由は分からないが、何かやらかしたのだけは分かった。誤魔化そうと口を開く。


「う、うん。食べてたと思うよ」

「そう、ですか……。申し訳ないのですが、これは勇者様にお返しします。それと、もう食事は大丈夫だと伝えてはいただけませんか」


お弁当箱を突き返され戸を閉められた。改めてノックをしても反応がない。

次の家を尋ねてみても同じように反応しない。その次も、更にその次の家もだ。

倉庫に戻りジンの所に駆け込んで先程の起こった事を説明した。


「ジン……。どうしよ、まずいことしちゃったかもしんない」

「ああ、そうだな。だが、いずれは起こることだったんだ。仕方ない。アリシアにも話してやってくれ」


ジンに言われアリシアの元へ向かう。昨日と同じように裏で空を見上げていた。


「あ、あのさ……アリシア、ごめん」


俺を見て首を傾げるアリシアに先程起こった事を話した。

アリシアがご飯を食べていない事を村の人に話したこと。結果、ご飯を返されたこと。もう渡さなくていいと言われた事。そして、その後の全ての家で受取を拒否されたこと。

アリシアは何も言わず俺の話を聞いていた。そして──


「そうですか。ありがとうございます」


それだけ言って何処かに行ってしまった。

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