風の勇者と旅立ちの日、3
「よし、始めるぞ」
翌日になり、倉庫に戻ってきたジンが何か張り切ったように俺を見る。
「始めるって何を?」
「決まっている。強くなるんだろ、アリシアより」
……聞いてたのね。
勢いよく倉庫の戸を開けるジン。中には木製の机と椅子。そして黒板のような板が設置されている。
「まずお前には改めて知識を付けてもらう。この世界のこと。そして勇者と魔法のこと。他にも色々な」
「うえぇ、勉強苦手すんの……」
「いいから座れ。まずは勇者の事について、だ」
椅子に座った俺に本が手渡された。タイトルは『神代の勇者』 ご丁寧に可愛らしいイラストまで付いている。
内容はおとぎ話のような物で、正義感の強い男が勇者と呼ばれ世界を救うために魔王に倒すテンプレのようなものだ。
「読めたか?」
「うん、なんとなく。でもこれがアリシアと関係あるの?」
「ああ。その本は実際に存在した勇者様の活躍を元に描かれている。叙事詩のような物なんだ」
「へぇ、じゃあ魔王は倒されたんでしょ。アリシアは何をする為に旅に出るんだ?」
「魔王は一定の周期を経て復活する。そしてまた同時に勇者もこの世界に生まれるんだ」
「つまり……勇者であるアリシアが生まれたから、この魔王ってやつも生き返ってる可能性が高いってこと?」
「その通りだ。また、魔王には魔物と呼ばれる生き物を作り出せる能力があると言われている。人間を襲うそれらを倒すのも勇者の仕事なんだ」
カッカッと音を立てて黒板に白い文字が書かれていく。その内容は──
「次は魔法について、だ。魔王、そしてそれに作られた魔物に対して俺達の取れる唯一の対抗手段。それが魔法だ」
文字の下にひし形が描かれ、その四隅には炎、水、風、雷の文字が当てられている。
「魔法には四つの属性がある。炎、水、風、雷。人間にはそれぞれ適正があり、基本的にそれにあった魔法しか使えない」
「ジンは手から炎を出してたよな? 炎属性に適正があるって事か」
「ああ。因みに風の勇者と呼ばれているアリシアの属性はその名の通り風だ」
「へぇ、なるほどね。じゃあさ、俺は?」
「さあな。残念ながらこの村にはそれを調べる方法はない」
「そっか、残念……。でもトレーニングすれば俺にも使えるようになるんでしょ、魔法。そしたらさ、属性とかも分かるよな」
「いや、それは無理だ」
ジンの手のひらに炎が灯る。
「人間には魔法の源となる魂の力を外に放出する機能がない。つまり、普通の人間には魔法は使えない」
「でも、ジンは使えるんでしょ。あとアリシアも」
「魔法の力を司る精霊の恩寵を受け生まれたアリシア達勇者と呼ばれる人間は例外だ。体の作りは俺達とは違う。そして、俺達人間はこれを使う」
ジンの指が魔法陣を描き出す。そして、その中に手を入れ中から宝石のような石を取り出した。
「これは魔石といって、体内に埋め込んだ人間の魔力を通すパスになるんだ」
「へぇ、なるほど……。やってみてもいい?」
「駄目だ」
「なんでさ」
「アリシアに止められているからな」
「またそれかよ……」
「アリシアは魔石の事を教える事も嫌がっているんだ。今はこれで我慢してくれ。時が来たらちゃんと話すさ」
「時って、いつだよ」
「さあな、それはアリシアが決めることだ。さあ、話を纏めるぞ。まず、アリシアの目的は魔王を倒すこと。そして世界に平和を取り戻すことだ。じゃあ、お前のやることは何だ?」
「アリシアが旅に出る前に強くなって一緒に戦うこと」
「その通りだ。その為にはどうする」
「魔法──には頼れないから、頑張って体を鍛える。でも魔物には魔法で戦うんだろ? 意味あるのか」
「魔法だろうか武器使おうが、基本は全て体作りだぞ。それに難しいだけで不可能じゃない」
「そっすか。じゃあ、あのさ、ジンお願いがあるんだ」
「ああ、分かってる。鍛えてやるさ、思いっきりな」
ジンが指を鳴らすのと同時に黒板や机が全て消える。
「じゃあ、行くぞ」
「おお! ってどこに?」
「決まってんだろ、魔物退治だ」
「……え、でも勝てないんじゃないの?」
「おう。ボッコボコにされてこい。大丈夫、お前が死にそうなったらアリシアが飛んでくるから安心して戦ってこい」
ケラケラと笑いながら倉庫から出ていくジン。
……正直めっちゃ怖い。でも、強くならなきゃいけないんだ。なんて自分を鼓舞しながらその後を追う。
数十分後、村を出た俺たちの前に魔物が現れた。




