風の勇者と旅立ちの日、1
「──ル! ハル! 聞いてますか!?」
突然女の人の声が聞こえて目が覚めた。
辺りを見渡すと村……だろうか。木と干し草で組まれた家のような建物がいくつか立っている。後は畑と井戸。それ以外はだだっ広い空間が広がっている。
キョロキョロとする俺を不思議に思ったのか目の前に立っている女の子が俺の両頬を掴み顔を固定してきた。
「聞いているのかと聞いているんです! それともこの口は飾りか何かなんですか」
その細い腕からは想像出来ない程に力が強い。このままじゃ喋るどころか顔が潰れる……。
女の子の腕を叩いてギブアップを宣言するが力が弱まる気配がない。顎の骨が悲鳴を上げそうになったその時、横から男の人の声が聞こえた。
「そこまでにしてやれ。そろそろハルが死ぬぞ」
「え? あ、ごめんなさい!! つい熱くなってしまって……」
女の子が焦ったように手を離し気まずそうに笑う。まだ痛みの残る頬を擦りながら周りにいる二人の男女に視線を移す。
男の方は二十代後半くらいだろうか。背が高く肩まで伸びた黒い髪。筋肉質な体付きには無数の傷跡が見える。
女の子の方は十代後半くらい。輝くような金色の長髪。雪のように白い肌。体は細く引き締まっているように見えるが、力は結構強いらしい。そして一番目を引くのは頭に生えている猫のような耳と腰に生えている尻尾。
俺のよく知る言葉で言うのであれば猫耳少女ってやつだ。
「でもハルも悪いんですよ。ずっと呼んでいたのに無視するんですから」
「あ、ああ。うん、ごめん」
「次、ハルの番です。ほら、構えてください」
女の子に手を引かれ木の棒を持たされる。
未だに状況がつかめない俺を見て何かを察したのか男が言う。
「今は実戦形式のトレーニング中だ。手に持っている棒を武器に見立てハルとアリシア。そして俺が順番に試合をしている」
「なるほどね……。そうと分かれば話が早いってね」
両手で棒を握りしめ腰くらいの高さで構える。それを見たアリシアと呼ばれた女の子も同じように棒を構えた。
「俺の投げる銅貨が地面に落ちた時を開始の合図とする」
その言葉と同時に男がコインを空へ放る。そしてそれが地面に落ちた瞬間アリシアの姿が消えた。
決着は一瞬。俺がアリシアの姿を認識する前に額に衝撃が走った。
仰向けに倒れ込む俺にアリシアが手を伸ばし微笑む。
「私の勝ちですね。さあ、次はハルとジンでやりましょう」
手を引かれ立ち上がった俺に再び棒が握らされる。そして俺の次の対戦相手が既に棒を構え俺の様子を伺っていた。
「えっと……その、お手柔らかにお願いします」
「ああ、善処する」
なんて言ってはいたが当然手を抜いて貰えるわけもなく負け。その後、実戦形式の試合とやらは日が暮れるまで続き、その全てが一方的な物になった。
「はあ……はあ……。もう、無理……死ぬ」
「ハルは体力が無いんです。トレーニングをサボっているからそうなるんですよ」
「うん、これから頑張るよ。それとさ一つ聞きたいことがあるんだ」
息も途切れ途切れに質問を続ける。
「勇者様って何処にいるんだ」
少しの沈黙の後、ジンとアリシアがお互いの顔を見合わせる。そしてジンがアリシアを指差す。
「ここだ」
「……ここ?」
「はい。私が四星の勇者の一人『風の勇者』です」
アリシアが照れくさそうに笑う。
「……え?」




