セポール七不思議(終)
シエリアが店先を掃除しているとペンとメモを挟んだボードを持った女性が声をかけてきた。
セミロングの美しいブロンドに整った顔つきをしている。
「ハーイ。私、ジュニスって言います。グランドール新聞社で記者をやってます。最近ウワサのセポール七不思議に関する取材をしているのですが、インタヴューOKですか?」
なんだか厄介だなとシエリアが思っていた時、ジュニスはつぶやいた。
「これ……依頼なんですけど……」
このあたりの情報ツウと知って話を持ちかけたのだろう。
仕事である以上、致し方ない。
シエリアは笑みを浮かべながら首を縦に振った。
「えっと、まず、超レアなカワセミ種のハーピーが泳ぎの練習をしていたという話ですが、泳ぎが得意なはずのカワセミ種がなぜ?」
シエリアは目線を泳がせて″彼女″のことを思い返した。
「う〜ん。なんで泳げなかったのかはわかりません。七不思議ですね……」
メモをとった女記者は続けた。
「人を食い殺す殺人入れ歯が出たとも聞いたんですが。何人も犠牲者が出たとか?」
雑貨屋少女はそれを否定した。
「いや、そんなに大した被害は出なかったみたいですよ。なんで入れ歯が凶暴になったかは七不思議ですね」
記者は熱心にメモっている。
「それでは謎の金属の塊がエリオスの丘に現れたのは?」
なかなか鋭い質問だ。
「う〜ん、私もよくわからないんですけど。七不思議の1つです」
こればかりは適当にはぐらかした。
ジュニスは興味津々にうなづいた。
「では、子供を大量に連れた誘拐犯の話は? 子供を大勢連れていってしまったんですよね……?」
″例の青年″の話だ。
かなり誇張されているが、噂話なんてそんなもんである。
「誘拐犯は誤解ですよ。あれは子供を連れたパフォーマンスで。どうやって子供を呼んだのかは七不思議ですね」
シエリアは自分ではぐらかしているようにも思えてきたが、実際、そこらへんはホントに七不思議なのである。
「では、大学の図書館に怪人が出たと言う話ですが。なぞなぞ・クイズに負けると本当に手足をバラバラにされてしまうのですか?」
雑貨屋は首を傾た。
「う〜ん、バラバラじゃなくて蛇腹ですね。なんで怪人がクイズが好きだったのかは七不思議です」
怒涛の怪異の前に記者の女性は頭を抱えた。
「それでは、街中でチトセアメの決闘が行われたのは? 清らかなるものと邪なるものが衝突したらしいのですが……? これは?」
シエリアも今となってはわけがわからなかった。
「う〜ん、七不思議ですねぇ〜」
ここで諦めずにジュニスはくらいついてきた。
「エルフの正体がシュール・ストレミングであったという件は? 悪い冗談にしか聞こえないんですが……」
シエリアはエルフの名誉を守った。
「そんなわけないですよ。あれは論文を出した名誉教授の頭の中が七不思議なわけで」
ジュニスは実にしぶとかった。
「市民がいっせいにカッパになってしまったというのは? ホントにそんなことが起こるのですか?」
記者はキレ気味だ。
「いやだなぁ。カッパなんて実在するわけないじゃないですか。七不思議ですよ七不思議」
そのやりとりのあと、ジュニスは目をパチクリさせた。
「ちょっと待ってください!! 七不思議なのに、七つ以上あるじゃないですか!!」
シエリアは呆れたように首を左右に振った。
「それもまた、七不思議なのかもしれません」
おちょくるつもりはなかったのだが、ついつい意地悪心が働いて雑貨屋少女は攻めに転じた。
「まだまだありますよ。トンボが住民をグルグルさせて気絶させて回った話もありますし」
女性記者はメモをとるのも忘れて聞き入った。
「ラーメン鍋の形をしたエイリアンが激しく発光して市民の目を潰したこともありました」
ジュニスは混乱のあまり、ワシャワシャと頭をかき乱した。
綺麗な金髪が台無しだ。
「伝説のメイドの修行で、メイドカフェにやってきた厄介なおっさんを萌え萌えキュンで出禁にしたり」
「???」
「実はゾンビがお墓に溢れる日があって、2人のブレイカーがそれを倒して回ったりして」
「………」
「セポールの市長さんは実はT.T.H.A.ツルーリで」
「!!!!!!」
「街中でケーキが暴れて、市民の顔にクリームをぶちまけまくった話とか。ちなみに紙ケースで捕まえたんですよ」
「!?!?」
「それに、ウワサのシュッシーは実在したんです。間違いないですよ。″私″が見たんですからね」
トラブル・ブレイカーであるシエリアが言うと、もはや信じるしかなくなっていた。
「あとはグラン・デモンはおときばなしなんかじゃなかったんです。現に召喚儀式をマイクロ爆弾でぶっ飛ばしましたからね」
傍から聞いたらとんでもないホラ吹きである。
それに留まらず、シエリアの七不思議ラッシュは続いた。
クランドールから来た女性記者はすっかり参ってしまい、取材どころではなくなってしまった。
もはやどれが真実で、七不思議なのかかわからなくなってしまったのだ。
よくよく考えれば依頼内容は「七不思議についての質問」であって、それ以上の事は答える必要はなかった。
だが、熱心に尋ねてくるジュニスにシエリアは歯ごたえを感じた。
そのため、雑貨屋少女は語りすぎたことに後悔はしていなかった。
新聞には載らなくても、この記者にとっては忘れられない思い出になるだろう。
もっともそんな思い出がありがたいかどうかと言えば懐疑的だが。
そう締めくくろうとシエリアが思っていると、ジュニスは立ち上がった。
ボードにはミミズのような字が綴られていた。
彼女にも譲れないプロ根性があるのだとシエリアはますます感心した。
「ハァ……ハァ……。シエリアさん、お聞きしたいことがあります……」
かなりのガッツだ。シエリアも本気で当たることにした。
「ハァ……ハァ……。も、もしかして、セポール七不思議は……。セポール七不思議の震源地はシエリアの店……。つまり、あなた自身が生ける七不思議なのでは!?」
そう尋ねられた少女は悪魔のようにニタリとわらった。
そして演技ぶって答えた。
「フフフ……バレちゃあしょうがないですね。そうですよ。セポールの七不思議はすべて私が引き起しているんですよ!! 私はトラブルを引きつける能力がある!! そうやって″寄ってきた″難題を糧に暮らしてるんですよォ!!」
完全にでまかせのホラだったが、妙に現状とマッチしている。
「う……七不思議の……真実を……知るものは……生きては帰れない……」
そうジュニスはうめいた。それこそトンデモ七不思議である。
そしてシエリアは気を失ったジュニスを介抱した。
女性新聞記者失神事件。
気絶前の記憶は無しという七不思議が新たに加わったのだった。
私がトラブルを招き寄せるというのはあながち間違いでは無いのかも知れません。
でもトラブル・ブレイカーである以上、それは望むところです。
どんな依頼もお任せ!! 不可能を可能に変える難題解決人!!
……というお話でした。
-Trouble Breaker Sielia Fin-
……あ、やっぱその名乗りは恥ずかしいです!!
カット!! カットで!!




