いやだなぁ。おとぎばなしでしょ?
セポールの郊外にシートのかかった謎の建築物が建った。
市民は一体、何が出来るのだろうと興味津々(きょうみしんしん)だった。
そんなある日、だるまのような容姿の男性がやってきた。
「フヒョッ!! フヒョッヒョョ!! あなた、シエリアさんアルな?」
一発でこれは依頼だと雑貨屋少女は悟った。
「はい。ご依頼はなんでしょうか?」
だるま男はにっこり笑った。
「わしはシェン。話が早くてよろし。今度、わたしら″パチンコ屋″やるねん。だからテストに、つきあってくんろ」
ひょっとしたらと思って少女は青いシートを指さした。
「あれですか? でも、パチンコ屋さんって? 一体、何をするんですか?」
するとシェンはシエリアの手を引いた。
「ま、とりあえず来てみるよろし。フヒョッ!!」
こうして少女は謎の建造物の前に着いた。
そしてだるま漢は青いシートを外した。
「わああぁぁ……」
思わずシエリアはそれを見上げた。
かなり背丈が高い。二階建ての建物くらいはある。
「んでな、コリの実験者を募集してんねん。でもよ、誰も名乗り出てくれんでな。そこで、ねーちゃんの出番ってわけなんだわ」
だが、肝心の内容を聞いていない。
嫌な予感を感じつつも、シエリアはシェンに尋ねた。
「あのぉ……実験って……これで何を?」
だるま男はニヤリと笑った。
「なぁにって。パチンコのテストだによぉ。コイツに乗って街外れまでぶっ飛んでもらうだ」
思わず少女はのけぞった。
「ええっ!? これ、乗り物なんですかぁ!?」
それを聞いた依頼者は怪訝な顔をした。
「あんらまぁ!! セポールは田舎なんだべなぁ。パチンコは今やクランドールで主流の交通手段だど!!」
いくら人の言うことを信じがちなシエリアでも流石にこれはウソだと確信した。
それでも依頼は依頼だ。
少女は渋々(しぶしぶ)、OKを出した。
筋骨隆々(きんこつりゅうりゅう)の男性が左右に1人ずつついて、ギリギリとパチンコのゴムを引き始めていた。
ゴムからは今にもはち切れんばかりの嫌な音がする。
シエリアは危機感を感じたが、ここまで来たら腹をくくるしかない。
だるま男のシェンはニタニタ笑いながらカウントダウンを始めた。
「さん、に〜、いっち、はい、いてら〜!!」
シエリアはものすごい勢いで宙に舞った。
あまりの風圧に声も出なかったが、上空に抜けると絶景が広がった。
眼下一面にはセポール市街地が、郊外には長閑な田園風景が見えた。
3分くらい経っただろうか。徐々(じょじょ)に高度が落ち始めた。
視界の先には郊外に建った大きなパチンコが待ち構えていた。
「えっ!? うそ、ウソ!? あんな小さなバンドでキャッチするの!? 無理無理!! きゃあああぁ!!」
シエリアはものすごい勢いでバンドに叩きつけられた。
その反動で反対側の無数の緩衝材に突っ込んだ。
結果、彼女は無傷で着地することが出来た。
それを確認していたのかだるま男がこちらにやってきた。
雑貨屋少女は回る頭を押さえながら聞いた。
「あれ? シェンさん?」
男は首を横に振った。
「俺わたし、ツェンよ。シェンの弟よ。さ、テスト続けらぁん」
すると、パチンコが回転して別の方向へと向いた。
「サ、今度はべつのとこ巡るネ。全部で8つか〜な。徹底的に安全チェックしたいアル。トラブル・ブレイカーは身体が頑丈って聞いたかんな」
こうしてシエリアはセポールを中心とした8箇所をパチンコで巡った。
なかなかどうして、胡散臭さの割にこのパチンコは優秀で、乗り慣れてしまえばなかなか快適だったのだ。
特に、上空から眼下を見下ろせるところは爽快感があった。
その間にツェン、チェン、シェン、ジュン、ミュン、ニェン、フェン、リェンの8人兄弟と会った。
しかし、雑貨屋少女はふと疑問に思った。
これは長距離移動設備のはずだが、全く都市間の移動を視野に入れていなかったのである。
どうしてセポールを囲む8つの点なのだろうか?
そもそもパチンコなどという移動手段自体が怪しかった。
その時、少女はある昔話を思い出した。
″セポールの地下には巨大な悪魔、グラン・デモンが封印されている。それは8つの柱に縛り付けられている。その点に塔を立ててはいけない。悪魔が目を覚ますのだから……″
所詮、お伽噺だとスルーしようかと思ったが、難題請負人のカンがそれを踏みとどまらせた。
セポールの地図を取り出して先日に回ったパチンコの位置をマーキングすると見事な円形を描いていた。
おそらくテストの目的は円の正確さを測るものだったのだろう。
よくよく思い出せば神経質にあれこれと計測していた気がする。
疑念は確信へと変わった。
「う〜ん、これはホントにデモンの召喚儀式かもなぁ。とりあえず、爆破しとくっきゃないよね」
シエリアはここぞという時は肝が据わっていた。
信じてくれるかどうかはともかくとして警察署に事前事後の処理の依頼を出した。
″例の″店主とあってか、話はスムーズに進んだ。
そして8つの小包を持って、少女は街外れの円の中心にあるツェンのパチンコ屋に行った。
「あ、シェンさん!! パチンコでの荷物配達のテストがしてみたくて。この小包を各地のパチンコ屋さんに届けるテストをしましょう!!」
シェンはなぜだか不満そうだったが、男達に指示を出した。
屈強な男2人は謎の包をバンドにはさみ、思いっきり引き絞った。
「発射ァ!!」
茶色い袋は物凄い勢いで飛んでいった。
シエリアは次の小包を素早く取り出すと男たちを急かした。
「ほらほら!! 時間内の配達テストなんですから!! 急いで急いで!!」
こうして次から次へと包みは飛んでいった。
7つ目が発射された時だった。
「ズガオオオオーーーン!!!!」
爆音を上げてパチンコ屋が吹っ飛んだのだ。
2つめ、3つめ4つめと立て続けにパチンコ屋は爆破されていった。
そして8つ目も仕掛けた小包が爆発し、すべて巨大パチンコが破壊された。
大騒ぎになるかと思われたこの一件だったが、警察が人払いをしてくれたのでけが人などは出なかった。
シェン達は計画が失敗したからかそそくさと、どこへともなく姿を消した。
「あちゃ〜。今回の依頼は滅茶苦茶だよ。失敗だなぁ〜」
シエリアが雑貨屋に帰ってポストを覗くと手紙が入っていた。
「アクマ ヲ ゲキハ コンカイ ノ イライ ハ セイコウ」
その一文ともにすごい額の小切手が入っていた。
「え〜。あれってホントにグラン・デモンの召喚儀式だったの? ホントかなぁ?」
元が与太話だけに最期まで実感のわかないシエリアであった。
「さ〜て、小切手を何に使おうかな♪ とりあえず、美味しいもの食べて〜」
するとポストに何かか投函される音がした。
「請求書……マイクロボム×8。ああ、この間の爆弾かぁ。値段は……ごぼごぼ……」
そこにはとんでもない額が書いてありました。
でも、かろうじて小切手で支払うことが出来ました。
結局、タダ働きになってしまいましたが。
しょんぼり。
……というお話でした。




