ケーキの心とシンクロせよ
雑貨屋が駄菓子を整理していたその時だった。
表通りの方からなにか小さいものが歩いてくるのが見えた。
白くて、ネズミにしてはかなり大きい。
足らしいものが生えてちょこちょこと走ってくる。
シエリアが目を凝らした瞬間。
「ビュッ!!……べちゃあ……」
飛んできた何かが少女の顔を直撃したのだ。
目を塞がれてしまっていて、一体なににやられたのかがわからない。
だが、それは唇にも張り付いていたので、味を感じることができた。
「んん? これは……生クリーム…?」
恐る恐る謎の物体を指ですくって口に運ぶ。
「う〜ん、やっぱこれ生クリームだよ。なんでこんなものが……?」
顔を拭うと背後から誰かが声をかけてきた。
振り向くとそこにはコック服に帽子を被った男性が居た。
やたら息をあら(あら)げている。
とりあえずシエリアは彼を落ち着けた。
余裕が出てくるとコックは語りはじめた。
「ハァ。申し訳ない。私はポゥという者です。パティシエをやってるのですが、問題が起きまして」
どう考えてもさっきの一件だろう。
「情熱をかけにかけまくってケーキを作ったところ、ケーキに生命が宿ってしまいまして。街ゆく人々にクリームを吹き付けているのです!! どうにかなりませんか!?」
事情はともかくとして、ケーキに命が宿るなんてありうるのだろうか。
「あっ、後ろッ!!」
ポゥからの警告は間に合わなかった。
シエリアは振り向きざまにまたもやクリームを喰らってしまった。
今度は抹茶味である。
「う〜ん。美味しい〜〜〜。じゃないよ!! これは迷惑だ!!なんとかしないと!!」
抹茶ケーキは悪戯小僧のように路地の奥へ走っていった。
「ポゥさん、ケーキはいくつくらい作ったんですか?」
彼はコック帽を脱ぐとあふれる汗を拭った。
「はぁ……。それがちょうどパーティーの予約が入ってまして。軽く50コは……」
「ごじゅう!?」
雑貨屋少女は素っ頓狂な声を上げた。
あんなのが50匹も街に放たれたらパニック不可避である。
しかもかなり足が速かった。追いかけて潰すのは無茶である。
なんとかしてケーキ達の足を止める必要があった。
その頃、街中ではショート、抹茶、チョコ、モンブランなど様々(さまざま)な味のケーキがクリームを撒き散らしていた。
最初は驚いていた市民だったが、それが甘くてハッピーなものだと認識すると思ったより騒ぎにはならなかった。
とはいえ、こんなものをいつまでも放置しているわけには行かない。
とにかく速い。正攻法でどうにかなる相手だとは思えなかった。
「う〜ん、そうなるとやっぱ仕掛け罠かなぁ。でも、ケーキが捕まりそうな罠ってなんだぁ……? あっ!!」
シエリアはポゥと通りに面したパティシエの店へたどり着いた。
「ケーキのショーケースなんてどうです? 帰ってきそうじゃないですか?」
コック服にコック帽の男性はポンと手を叩いた。
「なるほど!! これなら帰ってくるかもしれませんね!!」
ケースの向きを通りに向けて2人は悪戯ケーキを待ち受けた。
早速、連中がやってきた。
隠れて観察しているとケーキは罠を無視して駆け抜けていった。
あとから来た洋菓子はシエリア達の顔面にクリームを吹き付けて通り過ぎていった。
雑貨屋少女は思わず頭に血が上りそうになるのをこらえた。
アンガーマネジメントというやつである。
シエリアは冷静なって考えた。こういうときはどうするかと。
魚を捕るときは魚の気持ちに、虫を捕るときは虫の気持ちに、宇宙人を捕るときは宇宙人の気持ちになることが第一なのである。
少女はショーケースに目をやった。
そこにはくたびれたケーキがいくつか残っていた。
心なしか生気がないように見える。
シエリアはケーキの心とシンクロを試みた。
(あ〜あ。なんでいつまでもこんなところにいるんだろ。売れ残りなんて惨めだわ〜。早くお客さんの元へいきたいのに)
少女はビビッときた。
「そうか。ショーケースは置き罠には向かないんだな!! なら、売れ残りとは逆の罠を用意すればいいはず!!」
雑貨屋少女はポゥと協力して、持ち帰り用の紙ケースを取り出してきた。
そして、手当たり次第、路地においてみた。
すると、数匹のケーキが一気に容器に飛び込んだ。
読みは当たって効果は抜群だった。
次々と面白いように洋菓子が群がってくる。
こうして街中に散らばったケーキは一網打尽にされた。
ポゥはこの一件で責任を感じ、パティシエをやめようと思っていた。
しかし、事件の元凶が彼だと知られるとむしろお客さんが爆発的に増えた。
ケーキのクリームを浴びた住民がその味を求めてやってきたのだ。
最初は戸惑ったポゥだったが、必要としてくれる人が居るならばと前向きに店を再開した。
こんな事が二度とないようにケーキとの対話は欠かさないようにするそうだ。
シエリアにもよくアドバイスを聞きに来ることがあった。
ケーキとシンクロするレクチャーというのも奇想天外ではあるが、実際に役立ったので馬鹿には出来ない。
それも依頼のうちであるし。
「もっとこう、ケーキと呼吸をあわせて……。ひと目で体調チェックして、あぁ、いやいや。声をかけるのはあんまりオススメしなくって……」
そうこうしているうちにシエリアは講演会に呼ばれるようになった。
「ケーキをはじめとする洋菓子とシンクロする」をテーマにした会である。
名前だけ聞くとカルト教団かなにかに聞こえるが、内容は至って真面目だ。
セポールの事例を元にこういった事件を防ぐためのノウハウが詰まっているのである。
パティシエのパの字もわからないのに、その道のプロ扱いされてしまった。
シエリアはなんだか複雑に感じたが、いつのまにか講演会の依頼(いらい、)はウソのように無くなった。
少女が目立つような行動を取ると誰かがもみ消してくれるような気がしていた。
トラブル・ブレイカーを知る誰かが火消しをしてくれているのかも知れない。
もちろん同業者の手によるものだと思えたが。
この一件でポゥは作りたてのケーキを売り物として届けてくれるようになった。
評判は上々(じょうじょう)で、すぐに売り切れる状態だった。
たまに残ったりすることもあるのだが。
そうするたびにシエリアはケーキの心を読んで売れ残りをいただくのだった。
この騒ぎが起源となって、セポールにはクリームをぶつけ合う奇祭が生まれたという。
今となってはそれもセポール七不思議の1つである。
最初はケーキの心なんて読めるわけがないと思ったのですが、意外となんとかなるもんです。
私でもなんとかなったんですから、パティシエのポゥさんはより深くシンクロすることができると思います。
あれ? なんだか、汗っかきになったし、身体が重いぞぉ?
あっ、売れ残りのケーキばっかたべてたら太っちゃったみたいです。
甘いものとシンクロしすぎるのはオススメしませんね!!
ケーキごっちゃんです!!
……というお話でした。




