カチコミにサラシは要らねぇな!?
雑貨屋のポストに手紙が届いた。
なんだか品のある手紙だなと思いながらシエリアが開くとそこには次のようにあった。
「娘のことなのだが、妻が亡くなってから男1人で育ててきた。しかしどうもひねくれてしまって。全く女性のメイドに心を開かないのだ。年の近い執事はみんな音を上げた。そのため、理解者が家の中にはいない。それではあまりにも寂しいし、苦しいと思う。娘を助けててやってくれ。byボールマン」
ボールマンといえばセポールに屋敷を構える有名な資産家だ。
この娘というのは家の一人娘であるランティナのことだろう。
とりあえずシエリアは目的地に行ってみることにした。
「ほえ〜〜おっきいお屋敷だなぁ……」
雑貨屋少女が見上げていると、誰かが手招きをしている。
案内された部屋に入ると多くのイケメンの男性執事たちがずらりと頭を下げた。
「うわ!!」
さすがのシエリアもこれには驚いた。逆ハーレムである。
その中からシュッと背の高いメイドが出てきた。190cmはあるだろうか。
「私、セバスと申します。貴女がシエリア様ですね。旦那様から話は伺っております。ささ、これをお召になってください」
彼は小さな男性用執事服を取り出した。
それを見てシエリアはしばらく固まった。
「え? お嬢さんの理解者になってくれという依頼だった気がするのですが……」
セバスはそれを聞いて困ったように首を左右に振った。
「お嬢様は酷く女性不信でして。女中という女中を追い出してしまったのです。お嬢様は乳母に厳しく当たられた経験がおありで、それがすべての元凶なのです……」
気の毒ではあるが、やりすぎだと少女は思った。
あれよあれよという間に着付けは完了した。
カッチリ決まったフォーマルスタイルの執事服である。
モーニングコートにグレーのタイ、黒の革靴といずれも格式高い。
白い手袋なんてつけたのは始めてである。
シエリアはかなり背が低いほうなので、幼い少年に見えた。
彼女の飾らない無垢な見た目がそのまま男装に生きてきていて、うまいこと美少年に化けられた。
なお、胸にサラシは要らなかった。
「………………」
セバスはにっこりと笑って拍手した。
「お似合いですよシエリア様……む。そのままでは女性の名前ですし、偽名を使うのがよろしいかと」
男性執事は少し目線を泳がせて答えた。
「どう考えても女性の名前には聞こえない名前……そうですね。″ドガ″とかどうですか?」
特に断る理由もないのでドガと呼ばれた少女はそれを了解した。
そしてセバスは真剣な顔になった。
「お嬢様は私たちが承ることができない要求を出して、お受けできないと答えると叱責されます。そうやって鬱憤を晴らしておいでなのでしょう。ですから、その頼みを聞くことが出来ればあるいは……」
難題解決人の出番というわけである。
こうしてドガは執事室を出ようとした。
「いってらっしゃいませ。お嬢様」
一斉にイケメンたちが頭を下げる。
思わずドガは小っ恥ずかしくなって後頭部を掻いた。
一人娘のランティナは当主の間の椅子に座っていることが多いという。
教えてもらったとおりに男装女子はその部屋に行ってみた。
「うわぁ……。広いなぁ。天井は高いし、でっかい椅子……」
少女の視線を感じてドガは畏まった。
「あら、あんた新入り? 名前は?」
かなり刺々(とげとげ)しい口調だ。緊張が走る。
「はい。今日付けでお嬢様のお世話をさせていただきますドガと申します」
ランティナはあからさまにいじわるそうな顔をした。
「そうだ新入り。私と一緒にカエルとりしなさいよ」
「はい。承りました」
雑貨屋少女少年は即答した。
「は!? あなたわかってるの!? 泥で汚れるのよ!? なんで止めないわけ!?」
これ自体は大した頼みではないのだが、聞いて実行に移してくれる人物は誰もいなかったのだろう。
彼女の父から許可はもらっているので、ある程度、好き勝手をやっても大目玉は喰らわないはずだ。
雑貨屋少年はこれ以降、お嬢様の悪友をやり抜こうと決めた。
「あはは!! お嬢様、ほ〜ら!!」
「きゃ〜〜!! カエル投げるんじゃないわよ!!」
ある時はセバスをからかったりもした。
「なんだねドガくん」
「セバスさんって執事をどれくらい……」
雑談している2人の頭上、梁の上ででランティナは構えた。
「ネズミ発射〜〜〜!!」
ランティナが落とした小動物はセバスの襟から入って全身を抜けた。
「ネッ、ネズミィッ!!!!」
執事は泡を吹いて倒れてしまった。どうやら彼の弱点らしい。
「あたし、鯉の″あらい″って食べたこと無いのよね。そうだわ!! 池の鯉を釣りましょうよ!!」
こうして2人は庭の池で鯉を釣ろうとした。
「おっ、かかったわね!!」
次の瞬間、庭師のトロが大声をあげた。
「鯉を釣ってる馬鹿はどこのどいつじゃ!?」
お嬢様はそちらに目がいってしまい、魚に引きずり込まれてしまった。
結果、ランティナは池に落ちてずぶ濡れになった。
ドガは彼女を引き上げて庭師から逃げたのだった。
「あははは!!」
「きゃははは!!」
ある時は父、ボールマンをも巻き込んだ。
食事の最中、突然と乱入してテーブルクロス引きをしようとし始めたのだ。
ランティナがクロスに手をかける。
「3・2・1……バッ!!」
テーブルクロスは成功したが、今度はクロスからポンポンと鳩が出始めた。
ドガ仕込みの手品である。
普段ならボールマンが怒鳴りつけるはずなのだが、彼は笑顔で拍手を送っていた。
怒られると思っていたお嬢様は大層、驚いたような顔をした。
父がこんなに優しい顔をするのを知らなかったのである。
それからというもの、ランティナは男性執事たちと徐々(じょじょ)にだが馴染み始めた。
無理な要求もするでもなく、ぎこちなくはあるが笑いながら世間話をしている。
あとはどうやって女性に慣らすかだが……。
ある日、ドガとランティナは庭で寝転びながら空を見ていた。
おなじみ庭師のトロに怒られそうではあったが。
ボーッと雲を眺めているとお嬢様は口を開いた。
「ドガ、あんた、女でしょ?」
「!!」
どうやらバレていたようである。今更、誤魔化す意味もないのでシエリアは打ち明けた。
「えへへ。ばれちゃった?」
「ええ、途中からね……。仕草が女の子っぽいんだもの。男装する気、あるの?」
「ふぐっ!!」
シエリアは痛いところを突かれてしまった。
油断していたが、もっとシビアな潜入任務ならアウトである。
雑貨屋は内心、気を引き締め直した。
ランティナが続ける。
「最初はね、わからなかったんだ。でも途中から気づいて。あたしが女性不信って聞いたでしょ? でも、あんたを見てて悪くないかなって。とっ、友達に……なってくれるかな?」
それを聞いてシエリアはゲラゲラ笑い出した。
むすっとした顔でランティナが見つめる。
「なに水臭いこと言ってるんですか。もう、とっくのまっくに″悪友″ですよ!!」
それを聞いたお嬢様は袖で涙を拭ったのだった。
あれ以来、ランティナちゃんも丸くなりました。
屋敷に女中さんも戻ってきて、アットホームな雰囲気になったそうです。
今回も無事に依頼を達成できました。
「ん? なんだか小包が届いてますね。あ、ランティナちゃんからだ。なんだろな……」
ビョン!!
何かが包装の中から飛び出した。
「ぎゃあ!! カエルじゃないですかぁ!!」
……というお話でした。




