T.T.H.A.ツルーリ
雑貨屋少女は鼻歌を歌いながら店先をホウキで掃いていた。
その時だった、いつのまにか誰かが背後についたのである。
全く気づかなかった。相手は相当の手練だ。
「シーッ!! 動くな。声がでかい!!」
一言も喋っていないのだが……。
「俺は怪しいもんじゃない。依頼があってきた」
やってきた男はかなり鍛えられた肉体をしている。
「で、どんな依頼なんですか?」
振り向くと依頼人は非常に険しい顔をしていた。
「名乗り遅れた。俺はダッジ。市長のSPをやっている、君に頼みたいのはセポール氏の市長″T.T.H.A.ツールリ氏″の狙撃阻止だ」
狙うのは市長の命……だろうか。雑貨屋少女は息を呑んだ。
「ターゲットは市長のカツラを狙っている」
「んんっ!?」
シエリアからは思わず変な声が出た。
「シーッ!! 声がでかいぞ!! トップシークレットなんだぞ!!」
T.T.H.A.ツルーリ市長は支持率が高く、人気の市長である。
新進気鋭でフサフサのロン毛が特徴的だ。故に女性人気も高い。
そんな市長がカツラハゲであるというのが知れたらそれは大きなスキャンダルになりかねない。
まもなく市長選挙がある。
今回の相手はそれによる支持率の低下を狙っているのだろう。
「で、その人の特徴はどんな感じなんですか?」
ダッジは写真をとり出してかざした、
面長でゲジゲジ眉毛、そして鼻が高い男である。
「釣り竿だ。コイツはそれを巧みに使い、カツラを剥ぎ取るつもりなんだ。そいつの腕前は半端じゃない。下着ドロでも指名手配されているからな。SPたちの間では″釣る人″というコードネームで呼ばれている」
″釣る人″シエリアはそれを聞いて何かを思い出し、思わず悪寒を感じた。
ターゲットの特徴を聞いた少女は疑問に思った。
「でも、釣り竿なんてかさばるし、すごく目立つと思うんですけど。スナイパーには適さないっていうか」
SPは気難しげな顔をした。
「竿だけではない。″釣る人″は変装の達人でもある。コロコロと見た目を変えつつ、得物を隠す。小賢しいマネをしてくるヤツなんだ」
シエリアも気難しげな顔をした。
「う〜ん、見つけられるかなぁ? 大したことは出来ない気がするけどなぁ」
それを聞いたダッジは渋い顔をした。
「やはり、トラブル・ブレイカーなんてものはウワサに過ぎんか。悪かったな。この話は他言に無用だぞ」
これは聞き捨てならない。シエリアは思わずイスから立ち上がった。
「いいでしょう。その依頼、お受けします!!」
それを聞いたダッジの顔色は明るくなった。
「おお!! やってくれるか!! いいか、市長官邸のセレモニーは3日後。犯行はおそらくその日。それまでは″釣る人″を探しつつ、狙撃ポイントを予測しておおてくれ。必ずどこかにアンブッシュしやすいポイントがあるはずだ。土地勘は君にあるからな!!」
雑貨屋少女は残り3日の間、街をくまなく歩き回った。
受け取った写真の人物は一向に見つからない。
相手は変装の達人と言うし、写真の姿でいるとは思えない。
ただ、ダッジによると釣り竿を使う時は必ず素顔に戻るという弱点があるらしい。
捕まえるには相手を追いかけるのではなく、先回りする必要があるだろう。
シエリアは引き続きセポールをあちこち歩き回った。
周辺にカップァ沼やシュレイン湖があるので、割と釣り人は多い。
当然、そういった人々は釣り竿を持っている。
脇を抜けていったおじいさんは杖を持っていた。
その気になれば竿を仕込むことが出来る。
主婦の買い物袋から飛び出したゴボウ。これにだってカモフラージュすることができるだろう。
子どもの持っているペロペロキャンディーにも……いや、これは流石これはムリだ。
シエリアは疑心暗鬼になってしまい、なんでもかんでも釣り竿に見えるようになってしまった。
彼女はヘロヘロになって店先に帰ってきた。
「うわあぁぁ!! 変装のプロに勝てるわけ無いって!! でも、なんとかしないと市長さんのハゲがバレちゃう!!」
雑貨屋少女は無意識に高級氷菓″エリキシーゼ″を手に取った。
「今日はファイブ・ストーンのフレーバー!!」
アイスの中に5つのグミが入っている。そのうち1つだけ色と味が違う。
1つめに色違いを当てるとラッキーという遊び心のあるフレーバーである。
今回のあたりはレモン味、それ以外はソーダ味である。
しかし、今回のグミはイレギュラーだった。
「あれ、全部、ソーダ味の色だったのに1個だけレモン味だったなぁ。不良品かなぁ」
シエリアはスプーンを咥えながら考え込んだ。
「うーん、当たり前だけど、同じ色の中に同じ色が混ざってたら味が違っててもわからないよね……」
次の瞬間、シエリアに電撃が走った。
そして官邸セレモニーの朝、店にダッジがやってきた。
こうして狙撃手の確保作戦が開始された。
シエリアは表通りに出て、官邸の方向へと歩みを進めていった。
こちらが目立たないようにチラリ、チラリと辺りをうかがう。
誰もかもが怪しく見えてくる。誰が″釣る人″なのだろうか。
その頃、ターゲットはホテルでチェックインしていた。
(ククク……。ここの屋上、いい″スポット″なんだよなぁ。市長のカツラ、いただいたぜ!!)
そして男は屋上に出ると伏せの姿勢をとって、釣り竿をかまえた。市長が視界に入る。
それと同時にダッジが絞め技で彼を抑え込んだ。
「あぁっ!!があああッッッ」
手に持っていた釣り竿は落ち、″釣る人″はなすすべもなく地を舐めた。
SPは特殊権限で男に手錠をかけた。
一段落すると、ダッジはシエリアに尋ねた。
「しかし、こんな厄介なヤツ、どう見分けたんだ?」
少女は指を立てた。
「まず、あえて釣り竿を隠さなかったところです。街を見回すとあちこちにそれっぽい人はいるんですが、完全に盲点を突く作戦ですね。色だけでは味はわからないんですよ。まずはそこ」
屈強なSPは首を傾げてあごをさすった。
「う〜む? しかし、かなり多くの釣り人がいた。よくターゲットを見逃さなかったものだ。これは?」
シエリアは頭を掻いた。
「まず、ホテルの屋上が良い狙撃ポイントだったこと。決定的だったのは明日から一週間、セポールでは魚肉祭というお祭りがあって、その間は禁漁なんです。だから、普通の釣り客が今日、ホテルに泊まるということはまずありえない。こういうわけです」
トラブル・ブレイカーの機転にダッジは目を見開いた。
「うむ。いや、やり手だな。侮ってすまなかった。こうして被害無く事は済んだ。良い解決人に出会えて幸運だったな」
その時だった。運悪く物凄い突風が街を吹き抜けたのだ。
そしてT.T.H.A.ツルーリ市長のカツラは天高く舞い上がったのだった。
依頼は成功したのですが、なんとも言えない展開になってしまいました。
でも、この一件で市長さんの好感度は落ちる……どころか上がったそうなので、めでたしめでたしです。
それにしても市長さんの名前はなんとかならなかったんですかね。
名は体を現す……?
……というお話でした。




