つんつるてん
今日はセポールにある教会から呼び出しがかかった。
依頼人が雑貨屋に来られない事情があるとこういうこともある。
クランドールは″ラナ教″を国教としている。
その信念は「親愛・協調・調和」だ。
これが国民に与える影響は大きく、クランドール国の重犯罪率が少ないのはラナ教のおかげと言われている。
呼ばれたのはいいが、シエリアはお世辞にも敬虔なラナ教徒とは言えない。
本当に手伝えることがあるのだろうかと少女は疑問に思った。
教会に入ると美しいステンドグラスごしに暖かい陽光がさしていた。
フロアの左右には椅子が並ぶ。
特に代わり映えのしない西洋風のオーソドックスな造りの教会だ。
すると教壇の方からグラマーな体型の若いシスターがやってきた。
イメージ通りの漆黒のシスター服を着ている。
優しい人柄がにじみ出る人物であった。
「ラーファム。こんにちは。私はグランツと申します。貴女がシエリアさんですね? 早速だけれど、お願いがあります」
利発そうでテキパキとした対応だ。話が早い。
「私の担当は懺悔室なのですが、出張が入ってしまいまして……。3日ほど教会には帰れないのです。ですが、代わりの者が用意できませんでした…。ですから、その間、シエリアさんに懺悔室を担当してもらいたいのですが……。よろしいでしょうか?」
善良な依頼を聞いたならYES一択。
シエリアはコクリと首を縦に振った。
そしてシスター服を着ることになったのだが、急ごしらえだったのでシエリアにはつんつるてんだった。
懺悔室は1つの部屋を2つに仕切って、神職と懺悔する人が向かい合って座る。
ただし、仕切りがあって互いに相手の姿は見えない。
そのため、やりとりは小さな窓口から会話のみで行われる。
そして悩みを聞くことによって、その人の心の重荷を軽くしようというわけだ。
グランツが丁寧にレクチャーしてくれた。
「まず、基本的な挨拶、″迷える子羊よ。ラーファム″から入ってください。そして懺悔が終わったら相談に入る前にかならず″赦します″ということ。原則として、懺悔を否定することはあってはなりません」
このくらいはなんとかなりそうだ。
「もちろん懺悔する人が一方的に喋っているわけでもなく、こちらに問いかけてくる事もあります。これが一番、難しいのです。ほぼ即興で答えを考える必要がありますし、少しでも否定するのは禁忌です」
急に雲行きが怪しくなってきた。
「では、私がやってみますので、見ていてください。ここはそこそこ人が来るので気を抜かないようにお願いします」
すると、早くも誰かが入ってきた。
椅子に座るとその人物はシリアスな口調で語りだした。
シエリアは思わず汗をかいて息を呑んだ。
「迷える子羊よ、ラーファム。今日はどんなお悩みですか?」
男性の声が聞こえてきた。
「娘がとっておいたプリンを勝手に食べてしまいまして……。それ以来、娘と口を聞いてもらえないんです。反抗期というのもありまして……。どうしたら娘と仲直りできるでしょうか?」
雑貨屋少女は思わず、ずっこけた。
もっとヘビーな懺悔が来るかと身構えていたのだ。無理もない。
「赦します。素直に娘さんに謝り、代わりのプリンをプレゼントするといいでしょう……ラーファム」
「ありがとうございます!!」
こうして男性は退出していった。
「シスターシエリア。気持ちはわかりますが、ああいった些細な懺悔も等しく救わねばなりません。いいですね?」
次の日からお悩みを聞くシエリアの神職としての仕事が始まった。
子どもの声がする。
「道にはみだしたププルの実を取って食べちゃったんだよ。なんだかすごく罪悪感にかられちゃってさ……」
「赦します。次からはお菓子を持って、その家に謝りにいくといいでしょう。次はきっと笑顔で実をとらせてくれますよ。ラーファム」
「わぁ。その手があったかぁ!! ありがとう!!」
次は大人の男性の声だ。
「嫁のメシが私に合わなくて。毎回、食事のたびにソースをかけるって怒られるんですよ。流石に悪いかなと思いまして。こっそりここに来たわけです」
「赦します。ところで貴方は誤魔化しにソースをかけているわけではなくて、ソース自体が好きなのではないですか? ですから、奥さんのソースを使った料理をべた褒めすればソース料理ばかり出てくるかもしれません。ラーファム」
相談人はしばらく黙っていたが、語りだした。
「うわ〜。なんでもお見通しかぁ。わかった。妻のソース料理、褒めまくってみるよ」
次は少女だろうか。
「駄菓子の当たり棒、買ったとことべつのお店で交換しちゃったのよ。ちょっと悪いことしちゃったのよ」
「赦します。事情を話せば赦してくれるでしょう。その時、ついでになにか買って帰ればお店の人も喜んでくれますよ。ラーファム」
駄菓子屋ゆえの優しいアドバイスだった。
今度は中年女性っぽい声だ。
「お掃除していて夫の盆栽を壊してしまいました……とても大事にしていたものだったのに……。どう謝ったらいいかわかりません。元通りに出来るわけでもなし……」
とても深刻な懺悔である。
だが、シエリアは思わず雑貨屋の″地″が出た。
「赦します。壊れた盆栽を逆さまにして、パープルゲルに浸します。そして3時間したら元に戻して新しい鉢植えに戻すといいでしょう。かぶれるので手袋は必須でしょう。ラーファム」
具体的な回答に相手は唖然としていたが、すぐに返事を返してきた。
「あ、ありがとうございます!! 試してみますね!!」
女性は急ぎ足で出ていった。
こうしてシエリアは見事に3日間の懺悔室をやり抜いた。
重犯罪などのヘビーな懺悔が来るだろうと身構えていたが、全くそんなことはなかった。
せいぜい、いたずらの告白程度だった。
セポールは極めて平和だなとシエリアは改めて思い、なんだか誇らしくなった。
しかし、思いがけない事態が起こったのである。
なぜか教会の懺悔室に列が出来ているというのだ。
なにかしでかしてしまったのではないだろうか?
少女は心配になって教会へ走った。
到着すると、すぐにシスターグランツがやってきた。
そして、すぐさまシエリアにつんつるてんのシスター服を着せた。
「シスターシエリア!! 助けてください!!」
懺悔室とは本来、悩める人に寄り添って話を聞くものだ。
それはあくまで心の負荷を軽くするものであって、必ずしも有益なアドバイスが帰ってくるわけではない。
だが、トラブル・ブレイカーの視点で懺悔を聞くと、つい問題解決の具体的な答えを返してしまうのだ。
そのため、この教会の懺悔室に来る迷い子は救われると言うウワサが広まってしまった。
シスター達はこれもシエリアが呼んだラナの賜物だと有難がったのだった。
今回は懺悔を聞きました。みんな色んな悩みを抱えてるんだなぁ。
誰しも人に言えないような隠し事ってあると思うんですよ。
あ、せっかくだし私も懺悔します。
実は年齢にサパを読んでまして。17歳じゃなくてホントは21歳なんですよね……。
わーわー!! 冗談ですよ!! 冗談ですってば!!
……というお話でした、




