ラーメン・ナベ・メタル・エイリアン
雑貨屋に来客があった。
どうやら商品を買いに来たわけではなさそうだ。
メガネをかけた少年が、背伸びしてひょっこりカウンターから顔を出した。
「こんにちは!! ボク、セポールに新装開店した″たまご屋″さんのキースです。あなたがシエリアさんですね? よろしくお願いしますね!!」
見てくれや仕草から聡明さが滲み出ている。ひと目で秀才だと思えた。
たまにシエリアの店には新装開店した店の主が挨拶に来る。
ゲン担ぎというか、いざという時に頼れるようにとやってくるのだろう。
金銭のやりとりこそ無いものの、まるでヤクザのみかじめ料のようでシエリアはこれを好まなかった。
とはいえ、せっかく挨拶に来た人を邪険にするのも考えものだ。
雑貨屋少女はお茶を用意し、椅子を出してくるとキースに座るように促した。
たまご屋さんとは名前の通り、たまご全般を扱う職業のことである。
食用卵の販売から、卵の鑑定、孵化作業の受注、雛の販売、育成など業務は多岐にわたる。
セポールにありそうで無かった店だけあって、期待度は高かった。
シエリアの店と一部の業務内容が似ていたので2人の間で話が弾んだ。
連携すれば良いシナジー効果が見込めそうだ。
キースはペコリペコリと頭を下げて店に戻っていった。
だが、少しして小さなたまご屋さんは戻ってきた。
激しく息を切らしている。
これはただ事ではないなとシエリアは身構えた。
「ハァッハァッ……シエリアさん、助けてください!! 大変なことが起こってしまいまして!!」
少年は深呼吸をして説明し始めた。
目には涙が浮かんでいる。
「あのですね、お客さんが食用トカゲの卵とメンドゥーサの卵を取り違えてしまったんです。この2つは色形がとても似ていて……。ああ、ボクがちょっと目を離したばかりに!!」
亜人とは魔物と人間の両方の特徴を持った生物である。
前に来たカワセミ種のハーピーであるチサトがなどがそれにあたる。
メンドゥーサとは子供の姿でが髪がヘビで出来ている亜人である。
頭のヘビに凝視されると石になってしまうと広く知られている。
その雛を取り扱うには難しい資格免許が必要で、おいそれと一般人の手にはわたらない。
だが今回は別だ。街中で孵化してしまうと大惨事になりかねない。
「ボボっ、ボクはすぐに探しに行きます!! シエリアさん、手伝ってください!! お願いします!!」
キースのみかじめ料の判断は大正解だったというわけだ。
ただ、シエリアは見ただけで気絶するほどヘビが苦手だ。
石化するしない以前の問題である。
しかし、困った依頼人を前にしてそんな甘ったれたことは言っていられない。
「わかった。私も準備してから行くよ!! 街中を中心に探そう!!」
卵を持っていった人は若い女性だったという。
キースは石化避けのゴーグルをつけて街中を走り回った。
大きな卵を抱えた人物は目立ち、すぐにわかった。
間違えてメンドゥーサの卵を持っていった女性はこちらを振り向いた。
すると運悪く孵化が始まってしまった。
予想外の反応に驚いた女性は卵を地面に落として逃げ出していってしまった。
孵ったメンドゥーサの見た目は人間の4〜5歳といったところだ。
少年は鏡の盾、ミラーシールドを構えた。
これでヘビの髪の視線を反射すれば亜人は石化する。
元に戻すには非常に手間がかかるが、そんな悠長な事は言っていられない。
だが、キースは躊躇した。
ここで鏡を振りかざすとどこに反射するかわからないからだ。
被害をいたずらに拡大させる恐れがある。
しかし、メンドゥーサはそのスキを見逃さなかった。
「ふふっ、つかまんないよ〜〜」
キースの集中力が切れたのを見計らって亜人は小石を投げつけてきた。
小石と言ってもメンドゥーサが投げるとかなりの威力になる。
「ああっづぅぅ!!」
少年の額のゴーグルは割られ、わずかに血がしたたった。
彼がヘビの髪を見そうになったそのときだった。
どこからともなくシエリアが飛び出してきたのである。
キースをかばうと、あっという間に彼女は石になってしまった。
次の瞬間、石になったシエリアの腕がボトリともげた
「シエリアさん!! シエリアさん!!」
そうこうしていると今度は首が落ちてしまった。
たまご屋さんの顔は真っ青になり、慟哭を上げざるを得なかった。
「うわぁぁぁ!! シエリアさああぁぁん!!」
ヘビ髪はクスリと笑った。
「ふふっ。ばかなやつら」
状況は絶望的だ。
その時、裏路地からフラフラしながら大きな寸胴鍋が出てきた。
ラーメンのスープを煮るような鍋である。
メンドゥーサは驚いた。
流石にあんな鍋を被られたら石化の熱視線は効かない。
だが、相手もこちらの方向や距離を視認できない。
不利な条件で言えば五分五分だ。
だが、すぐに寸胴鍋が動いた。足元からなにか放り投げたのである。
それは閃光弾だった。
目が潰れそうになるほど強烈な光を放っつ。
サングラスやゴーグルで防げないレベルのものだ。
辺りの人々は目をチカチカさせて崩れ落ちた。
「みんなごめんね!! でも石化するよりはね!!」
亜人髪も閃光をモロにくらってのびてしまった。
こうなってしまえばもう石化の心配はない。
キースはかろうじて見える視界の中にシエリアを見た。
それはまるで天使のように輝いていた。
キースはフラフラしながらたまご屋に帰った。
そこには寸胴鍋の上に座り込んで不敵に笑うシエリアがいた。
鍋はガタガタと揺れている。
そう、彼女は無事に無傷でメンドゥーサを確保したのだった。
一段落ついてシエリアとキースはお茶会をしていた。
「いやぁ、シエリアさんがボロボロに砕けてしまった時は心臓が止まるかと思いましたよ」
少女は頭を掻いた。
「ごめんごめん。あれは囮用の粘土でさ。キースくんをかばうには最適だったんだ」
だが、たまご屋さんはまだ不思議な顔をしている。
「でも……シエリアさん、あんな鍋の中からどうやってメンドゥーサを狙えたんですか? 穴なんて空いてませんでしたよね?」
するとシエリアは地面を指さした。
「あの一帯の床タイルはジグザグ模様に敷いてあるんだ。だから相手の位置を確認してから床の模様を追いかければだいたいの位置はわかるんだよ。まぁ、このあたりのことは知り尽くしてるからね」
それを聞いてキースは驚いた。
タイルを把握しているとはいえ、とっさに地面を観察するとは凄まじい機転である。
シエリアがにっこり笑いながら親指をたてると、たまご屋さんは安心したようで泣きついてきた。
「うっ、うわあああん。シエリアさあぁん……」
やはりこういうところは子供だなと少女はトントンとキースの背中をたたいてやったのだった。
後日、無事にたまご屋さんはオープンした
評判は上々(じょうじょう)でシエリアとしても鼻が高かった。
キースはというと時々、駄菓子を買いにやってくるようになった。
ビジネストークをすることもあるが、基本的には無邪気に店の品物を眺めている。
やはりこの年頃の少年はこれくらいのほうがちょうどいい。
そうシエリアは思うのだった。
この間の一件は「激しく発光するラーメン・ナベ・メタル・エイリアン」が出たということで騒動になっているようです。
そりゃ確かに寸胴鍋だと銀色に光りますけど……。
まぁ、下手に目立つよりは都合がよかったかなと思います。
ちなみに今、キースくんからもらった卵を鍋で温めて食べようとして……。
あれ、なんかたまごにヒビが入ってきましたね。
……というお話でした。




