ひまわり畑に連れてって
シエリアはまたもや汽車に乗って出かけた。
ただ、今回はさほど遠出ではない。
セポールから2駅上ったところにあるハキュートという田舎町だ。
そこは一面、ひまわり畑が広がっていた。
あまりにも広大であり、さながら黄色いジャングルである。
これはハキュートの名物で、多くの人が観光に来る。
ただの花畑ではなく、丈の高い植物を使った迷路になっているのだ。
サンフラワーとラビリンスを合わせた″サンフラビリンス″と呼ばれる大迷宮だ。
あまりにも攻略難易度が高く、遭難者が続出する。
そのため、脱出用のガイドが迷路を巡回しているくらいだ。
脱出できなくなったら案内人を頼れば外に出られるというわけだ。
ひまわり迷路の入口で少女が手を降っていた。
大きな麦わら帽子に美しく長い黒髪、無垢なワンピース、そしてサンダル。
夏休みに遊びに来たようなルックスだ。
今回は彼女が依頼人だ。
現地集合で依頼を受けることも少なくはないが、なんだか今回は変わっていた。
「あたし、アヤネ!! おねえさん、私と勝負してほしいの。ひまわり迷路であたしを捕まえて。どう? 簡単でしょ?」
シエリアは首をひねった。
こんな年端も行かない少女にサンフラビリンスを突破できると思えなかったからだ。
それを見透かされたのか、アヤネはクスクスと笑った。
「あー、あたしにはこの迷路は無理だっていいたいんでしょ? ヘーキ。ヘーキ。あたし、このひまわり畑、大好きだから……」
そう言って少女は花畑へ駆けていった。
ひまわりの背丈はおよそ2m半。
背の高い男性でも向こう側を覗くことは出来ない。
それだけ大きいのだ。落ちる影も大きくなり、迷路は薄暗い。
頭上のきらめくひまわりとの落差が激しかった。
茎はがっしりしていて、強行突破は難しい。
通路は直角なものだけで構成され、植物ではあるが無機質な壁のようだった。
歩いていくとかなり多くの案内人とすれちがった。
これなら迷宮から出られず命を落とすことはないだろう。
ところどころに物見櫓が立っている。
ここには双眼鏡があり、遠方や通路を見下ろすことが出来る。
……と思わせておいて、上からではひまわりの花しか見えず通路は殆ど見えない。
櫓のプレートには自分の位置と地図が記されているが、それがかえって攻略者たちを惑わせた。
こんな迷宮で少女一人を捕まえるのは尋常ではなかった。
それでも幼女に対してズルをするのはあまりにも大人気なかったので、シエリアは自力でアヤネを探した。
しかし、いくら機転の効く雑貨屋少女でも深い大迷宮を解くのは困難だった。
そんな時だった。
「あはは!! おねえちゃん、こっち〜!!」
アヤネの姿が見えた。
チャンスとばかりにシエリアは追いかけたが、見事にまかれてしまった。
その後、何度も少女を取り逃してしまった。
しかし、段々(だんだん)と追いかけっこの鬼は違和感を感じ始めていた。
「待てよ……。これだけ広い花畑なのに、アヤネちゃんとの遭遇率が高すぎる。私だってかなり移動してるのに、難なく追いついてくる」
シエリアは閃いた。
「そうか。身体の小さい子供なら茎の間を抜けて移動できるかも知れない!!」
ここに来て難題解決人は奥の手に出た。
「アヤネちゃん、ゴメン!!」
シエリアは櫓を駆け上った。
そして白紙の地図を取り出すとプレートに押し付けた。
すると、広大な迷宮のマップが白紙に焼き付いた。
そしてすぐに通路はマッピングされ、無数の赤い点が出現した。
赤点の位置や移動経路はリアルタイムに更新されている。
本来は戦場で敵味方の位置を把握するのに使うものなのだが、迷路にも応用可能だった。
「今の参加人数は103人。でも広いから他の人と会うことはさほど高くない。その中でも……コレ!!」
シエリアが指さした赤点は壁を無視してフラフラと移動していた。
他の印とは明らかに動きが違う。
「う〜ん。特定は出来たけど、どうやって追い詰めたものかな。これじゃいたちごっこだよ……」
ただ、相手は幼い少女である。
いくらシエリアが運動音痴とは言え、彼女と比べれば体力面で勝る。
一回り以上、年上の少女は持久戦で追い詰めることにした。
「おねえさんをなめるなよ〜!!」
その後もアヤネはどこからか現れてはシエリアを煽って逃げていった。
しょっちゅう彼女が寄ってくるので雑貨屋少女はやがて地図を見るのを止めた。
いつのまにか追いかける側と追われる側が逆転してきた。
鬼は全く疲れる様子がない。
ハッキリ言って白いワンピース少女のフィジカルは異常だった。
とうとうシエリアは根負けし、しゃがみこんでしまった。
とこからか幼女の声が聞こえる。
「とらぶるナントカさ〜ん。なんでも依頼はこなせるんでしょ〜?」
安っぽい挑発にトラブル・ブレイカーは歯を食いしばって立ち上がった。
「はは。まだまだ負けないよ!! 不可能を可能にする。それが難題請負人!!」
それを聞いたアヤネは満足そうだった。
「うふふふふ……。そうこなくっちゃ!! 私、本当に楽しい!!」
ここからは完全に気力の勝負だった。
振り向きながら前を走る幼女を足を引きずりながら追いかける。
気づくといつのまにか″サンフラビリンス″の出口が見えてきた。
シエリアは汗を拭い、息を切らしながらアヤネを追った。
いつの間にかゴールが近い。このままでは依頼人に先を越され、ミッションが失敗してしまう。
期待にそえないのはアヤネに申し訳なさすぎる。
その一心で、雑貨屋少女は歩みを進めた。
すると、不意にアヤネが出口前で立ち止まった。
ここぞとばかりにばかりにシエリアは彼女に触れた。
意外にも彼女は自ら捕まった。
そんな感触があった。
「おねえちゃん、みっしょんこんぷりーと!! 遊んでくれて、本当にありがとうね!! これで満足したよ!!」
そう言うとアヤネは霧のようにかき消えてしまった。
「アヤネちゃん!! うおわっ!!」
ゴールから転げ出ると夫婦らしき2人組がこちらを見ていた。
なんだか酷く驚いた顔をしている。
こんなにボロボロなのだ。無理はない。
だが、彼ら彼女らからは想定外の言葉か出てきた。
「アヤ……ネ? 話を聞かせてくれ!!」
シエリアたちは3人でひまわり畑を臨む、ゆったりとしたベンチに座って話をした。
「この間、私たちの娘……アヤネが亡くなりまして」
若い男性はそう語った。
「!?」
これには流石のシエリアも動揺を隠せなかった。
「アヤネはこのひまわり畑が大好きだったんです。だから、ここにくれば彼女に会える気がして……」
アヤネがフラフラと茎の壁を抜けていたのは下を潜っていたからではない。
文字通り、すり抜けていたのだ。
シエリアは幽霊相手に追いかけっこをしていたのである。
それは敵わないわけだと雑貨屋は納得した。
彼女は怪談の類に滅法、強かったので素直にアヤネの冥福を祈ることが出来た。
ちょっとだけ驚いたけど、アヤネちゃんが満足してくれたみたいで良かったです。
今は薄暗い迷路から抜けて、空からひまわり畑を眺めてくれていると思います。
それはそうと「不可能を可能にする。それが難題請負人!!」ってのはカッコつけ過ぎですね。
うわぁ、恥ずかしいなぁ……。
……というお話でした。




