E・ショック
シエリアはクランドール王国の首都、クランドールに居た。
セポールから汽車で北上してきたのである。
雑貨屋少女は完全にアウェーで120%おのぼりさんなのだった。
彼女がクランドールに来た目的、それは″エリキシーゼ″の社交界である″サバト″に参加するためである。
エリキシーゼとはクランドール産の高級アイスクリー厶の名前だ。
いろんなタイプがあるが、一番メジャーなのは小さめのカップごとに様々なフレーバーが入っているものだ。
その評価は極めて高く、様々(さまざま)なフレーバーのおかけで、万人にウケている。
アイスなので溶けてしまうのと、かなりお高いのがネックだが。
サバトの招待状はアイスの裏ブタについているポイントをハガキで送ることによって受け取ることが出来る。
かなり高額を注ぎ込まないと参加資格は得られないが。
シエリアは特別リッチなわけではない。
ただ、エリキシーゼにかけてはカネに糸目をつけなかったので招待状をゲットできたというわけだ。
この社交界にはドレスコードがあり、ラフな服装では入れない。
シエリアは着ていく服に悩んだが、馴染みの服屋で仕立ててもらった。
その結果、グレーのワンピースに白のフリルスカート、赤いリボンタイという出で立ちになった。
これではまるでデパートのレストランに行くお子様のようなものである。
一応、化粧もしたがナチュラルメイクだったので誰にも気づかれない。
ホールの入口にはジェントルメンが数人たむろしていた。
少女がその脇を通ってホールに入ろうとすると紳士に呼び止められた。
「嬢ちゃ……ああ、いや、レディ。サバトに参加するのはお勧めしないよ。ダァニエルって御曹司が会を牛耳ってんだよ。誰かヤツの鼻をへし折ってくんないかな。″依頼″したいくらいだよ」
シエリアはピクピクっと耳を動かした。
「ご忠告、ありがとうございます。お言葉ですが、私、サバトを楽しみに来ていますので。失礼しますわ」
少女はペコリとお辞儀をするとホールに入った。
内部はあちこちにアイスを出すマシンが置いてあり、豊富なフレーバーの中から自由に食べられるようになっていた。
ラグジュアリー極まる空間である。
そうこうしているとリッチそうなマダムが声をかけてきた。
「レディ。最近、復刻したパンプキンのフレーバー、いかがでしたかしら?」
普段、エリキシーゼ談義が出来る人は殆どいなかったので、シエリアは目を輝かせた。
「はあぁぁ………!! ええ!! とってもおいしかったです!! カボチャをくり抜いた形の容器が可愛くって!!」
更に、少女を可愛がるように周りに多くのアイスフリークが集まった。
「ミセス。知ってるかい? 新発売のコーラミント、お肉を浸すと風味良く、柔らかくなるんだ」
「まぁ!! 私より年下なのに博識なのね。いえ、それも数々(あまた)の味見に裏打ちされたもの。素晴らしい……」
小っ恥ずかしくなってシエリアが頭を掻いていると人並みをかきわけて背の高く、アゴの割れた男がやってきた。
同時に周囲の人がはけていく。
一目で彼が例の御曹司とわかった。
おそらく新人や気に食わない会員潰しをしているのだろう。
「ルルェディ、お近づきの印にE・ショック、やりませんか?」
E・ショックとはエリキシーゼ愛好家の間で行われる″決闘″である。
いきなりふっかけてきた。潰す気マンマンである。
通常、このアイスは早食いしようとするとキーンという激しい頭痛に襲われる。
ただ、実のところ遊び心が仕込んである。。
このアイスのフレーバーにはナンバーが振ってあるのだ。
これを偶数、奇数、偶数……の順で食べていくと頭痛を回避して連続で食べられるというものだ。
言わずもがな、フレーバーに対しての高度な知識が必要になる。
シエリアが前に出ようとした時、大人たちは彼女を止めた。
「お嬢さん、いいんだ、私たちが我慢すれば!!」
「貴女が傷つくことはないのよ」
「ああ、ダァニエルを打ち破ってくれる人がいれば″頼みたい″のに」
入口の紳士と先程の一言でシエリアの中でゴーサインが出た。
「ええ、やりましょう」
会場は驚きと悲鳴じみた歓声に包まれた。
ダァニエルはニタリと笑いながら言った。
「ルールは単純。先にE・ショックを起こしたほうが負けでぇす。フレーバー名を宣言するとマシンからアイスが出まぁす。それを食べきったら次を宣言してくださぁい。同時に被ったばぁいは引き分けでぇす!!」
ダァニエルはしきりに腕時計をいじっている。
周囲のオーディエンスの反応からして、十中八九、相手はズルをしてきそうだった。
雑貨屋少女は目を瞑り、精神統一した。
会場の雑音は消え、時間がゆっくり流れるように感じる。
彼女はエリキシーゼの″ゾーン″に入ったのである。
「カン、カン」
開始の鐘がなった。
「No102……カエルの太もものカレー味」
ダァニエルはちらりと時計を見るとオーダーをかけた。
番号はコールしない。自分で覚えていない証拠だ。
「鯖レモン味!!」
「No43……墓石のコケ味!!」
「足軽ソードの鉄分味!!」
「No76……渚の甘メロディー味!!」
「火山爆発マグマ温玉!!」
あまりのハイレベルな応酬に観客は黙り込んでしまった。
相変わらず御曹司はチラチラ時計を見ている。
その時だった。あまりの展開の速さについていけなくなった腕時計から煙が上がりはじめたのだ。
「う、うわあああ!!」
ダァニエルは混乱しだした。
おおかた、あれでカンペしていたのだろう。
卑怯なやつであるが、シエリアにはもはやどうでも良かった。
「No344……ほうれん草のあんこ煮味」
「うわあああ!! ぽたぽた赤汁味!!」
「No43……ジュラ紀風フレーバー」
「うっ、うっうっ……うぐっ!! うわああああ!!」
E・ショックをモロに受けたダァニエルは頭を抱えてしゃがみこんだ。
そして、負けゼリフを吐いて逃げていった。
「マッザに言いつけてやるからなぁ!!」
止まった時間が動き出すように歓声と拍手が会場を包んだ。
シエリアはリボンタイを荒っぽく緩めると腕を突き上げた。
そして、何を言うでもなく足早にサバトを後にした。
仕事の都合上、不用意に目立つわけには行かない。
とはいえ、楽しく談義が出来る貴重な機会を失ってしまった。
しょんぼりしながら帰り道を歩いていると目に入った物があった。
「あっ!! 復刻版、No-57の″どすこい黒潮の味″だ!!」
シエリアは店先で買い食いして、ニコニコしながらそのフレーバーを口に頬張った。
(キイイイィィィィーーーン!!)
次の瞬間、彼女に激しい頭痛が走った。
「し、しまった。サバトで最後に食べたのはNo-113、怒りのプリン・プリンだったよ!! ふ、不覚……」
シエリアは数分間、店先で頭を抱えて立ち尽くしたのだった。
今回は半分は依頼でしたが、半分は個人的な決闘でした。
エリキシーゼに水を差す無粋な行為は絶対に許せなかったので。
え? フレーバーがゲテモノやキワモノばかり?
それがいいんじゃないですか!! 私は特に青クジラの目玉入りが好きでして!!
あ、いや、普通のもありますよ!? 信じてくださいよぉ!!
……というお話でした。




