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春風のサーガ  作者: 蒼井七海
間章Ⅱ 風と炎のエンカウンター
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間章Ⅱ-1 風と炎の出会い

お久しぶりの方はお久しぶりです!作者です。

続きのストックがある程度溜まったので、戻ってまいりました。

今回から6話ほどは番外編。エルメルアリアとフラムリーヴェの出会いと変化の物語です。お楽しみいただけますと幸いです。

 フラムリーヴェは、剣を握ることになんの疑いも持っていなかった。


 というより、彼女が属する〈真朱しんしゅの里〉は、そもそも炎と戦士の里だった。かの里の民は、武器を手に戦うこと、その力を天外界の安寧のために役立てることを当然の義務としていた。


 戦に出てばかりで、フラムリーヴェが幼いうちに亡くなった両親も、それは同じだった。そして彼女もまた、当然のように剣を取り、里の外での仕事に従事するようになった。


 たびたび凶暴化する魔物を制圧し、道を踏み外した同胞を取り締まる。時には要請を受けて天地内界に赴くこともあった。炎色の髪を持つ乙女は淡々と務めを果たし、いつしか〈浄化の戦乙女(いくさおとめ)〉と呼ばれるようになった。


 それを誇ることも、驕ることもなかった。


「〈天地(あめつち)の繋ぎ手〉が魔力の乱れを止めてくれたらしい」

「これでやっと元通りに指揮術を使えるようになるか」

「なんでも、〈彩雲連山〉の怪鳥のせいで精霊たちが騒いでいたとか」

「〈翠緑の里〉からは結構離れてるよな? 毎度毎度、よく気づくことだ。彼の仕事が早いおかげで俺らも助かってるし、あの里に足向けて寝られないな」


 里の内外でささやかれる噂を耳にしても、表情ひとつ動かさない。「私も精進せねば」と、襟を正すだけで。


 ――しかし。そのうちに興味が湧いた。何かと噂を耳にする、〈翠緑の里〉の精霊人スピリヤに対して。


「〈天地の繋ぎ手〉……どんな方なのでしょう。一度会ってみたいものです」



     ※



 かの精霊人とまみえる機会を得たのは、大層な二つ名がようやくフラムリーヴェに馴染みつつある頃だった。


「フラムリーヴェ!」


 ある朝。鍛錬と沐浴を終えて帰還したフラムリーヴェの耳に、聞き覚えのある声が飛び込んできた。


 振り向いた先。牡丹色の髪の男が駆けてくる。〈真朱の里〉の民の例にもれず、鍛え抜かれた体躯であった。


「ローグ殿。どうされたのですか」


 フラムリーヴェはつい首をかしげる。ローグ――ログトナードは身寄りのない彼女を気にかけてくれる男ではあるが、こんな朝早くから訪ねてくるのは珍しい。彼にも鍛錬や家の仕事があるだろうに。


「〈塔〉から連絡が来た。今度の〈銀星(ぎんせい)会合(かいごう)〉、おまえに出席してほしいってさ」


 ログトナードは興奮した様子で『用件』を伝える。フラムリーヴェは目を丸くした。


「私に? 〈塔〉からの指名ですか?」

「ああ。とんでもない栄誉だ。フラムリーヴェも立派になったもんだなあ」


 筋肉の鎧を身にまとった男は、その強面をだらしなく緩める。まるで孫を見る祖父母の表情だ。対して、無表情のフラムリーヴェは「ふむ」と呟いた。


 里長さとおさたちが集まる重要な会に呼ばれることは、確かにとんでもない栄誉だ。それに〈銀星会合〉ともなれば、日々の仕事では関わることもない精鋭たちと顔を合わせることにもなる。


 それはそれで、面白い。


「話はわかりました。……ひとまず、どうすればよいのでしょう?」

「ああ。支度が整ったら、里長の家に来いってさ。色々説明してもらえると思うぜ」

「わかりました。ありがとうございます」


 フラムリーヴェは、明朗快活な男に頭を下げる。そして、背後の岩のドーム――自宅に足を向けた。



 〈銀星会合〉は文字通り、〈銀星の塔〉で行われる会合だ。各里の里長と、代表として選ばれた――あるいは〈塔〉より指名された精霊人たちが集まって、情報と意見を交換する場である。


 里長とともに〈銀星の塔〉へやってきたフラムリーヴェは、〈(あるじ)〉の側近に挨拶をした後、一人になった。里長から「会合の準備が整うまで自由にして構わんよ」と言われたのである。


 塔の下層。白い通路をそぞろ歩きする。あるとき、赤い眉を上げた。


 向かいから人が歩いてくる。くすんだ金髪の彼は、フラムリーヴェに気づくと目を見開いた。


「これはフラムリーヴェ殿。今日は貴殿も参加されるのでしたね」

「はい。本日はお世話になります。ステアルティード様」


 フラムリーヴェは流れるように一礼する。ステアルティードも「こちらこそ」と頭を下げた。


 事務官の彼とは仕事の報告のたびに顔を合わせる。〈塔〉の中で、もっとも話しやすい相手だった。


「ステアルティード様も参加なさるのですか」

「はい。私はいつも書記を務めております」

「なるほど。……お忙しそうですね」


 フラムリーヴェは、彼が抱えた書類の山と、珍しく少し乱れた衣服に目を留める。視線に気づいたのだろう、ステアルティードは「や、これは申し訳ない」と苦笑する。


 フラムリーヴェはかぶりを振った。


「職務の邪魔をしてしまったでしょうか」

「お気になさらず。私としては、よい息抜きになります。……ただでさえ、今回はにぎやかな会合となりそうですので」

「にぎやか?」

「……エルメルアリアが来ているのですよ」


 ステアルティードが、なぜか苦々しそうに告げる。一方で、フラムリーヴェは目をみはった。


 エルメルアリア。〈翠緑(すいりょく)の里〉の精霊人。その二つ名は――〈天地の繋ぎ手〉だ。


 当然、代表に選出されるべき人だ。もしかしたら会えるかも、と淡い期待を抱いてもいた。ただ、それが現実味を帯びてくるとなると、なんとも不思議な気持ちになる。


 フラムリーヴェは、少し前のめりになった。


「かのエルメルアリアにお会いできるとは。さすが〈銀星会合〉ですね」

「……ああ、フラムリーヴェ殿は面識がないのでしたか。お気を悪くされないとよいのですが」


 事務官の言葉は、どこか重い。


「気を悪く?」とフラムリーヴェが繰り返したとき。遠く、通路を何かが横切った。


 小さな精霊人だ。長いプラチナブロンドの髪と若草色の衣をなびかせて飛んでいる。性別が定まっていないのだろう。少年のようで、けれど男女の枠に当てはめきれない横顔からは、神秘のにおいが漂っていた。


 ぼうっとその姿を追ってしまったフラムリーヴェ。しかし直後、彼女は気づいた。自分の横で、ステアルティードが顔をしわくちゃにしたことに。


 盛大なため息をついた彼が、口を開く。


「おい、エルメルアリア! 一人で何をやっている!」


 普段の態度からは想像もつかない大声であった。それを浴びせかけられた精霊人は、「げっ、ステア!」とうめいて滞空する。


「何してたっていいじゃねえか! シェムじいからは許可もらってるし!」

「シェマデール様がお優しいからといって甘えるな! 大体、貴様は一人になるとすぐ高官に喧嘩を売るだろう。大人しくしていろ!」

「オレが売ってるわけじゃねえし! 向こうが吹っかけてくんだし!」

「結果的に喧嘩になったら同じことだ! いいから戻っていろ、絶対に騒ぎを起こすなよ!」


 ――怒声の応酬である。フラムリーヴェは唖然として、声を荒らげる二人を見ていた。


 最終的に、小さな精霊人が「わかった、わかりましたよ!」と両手を挙げる。降参の意を示した彼は、鳥のように飛んでいった。里長が集まる上階へ向かったのだろう。


 通路が静かになると、ステアルティードが長々と息を吐く。


「まったく……。十年ぶりに〈会合〉に来たと思ったら、これだ。やはりクロードシャリスを呼んでおくべきだったか」


 呟いて、眉間のしわをもみほぐす彼の横で、フラムリーヴェは怒鳴り合いの中で出てきた名前を舌で転がした。


 シェマデール。〈翠緑の里〉のおさの名だ。つまり――


「あの……先ほどの彼が、エルメルアリアですか?」


 ステアルティードは、少しの沈黙の後、「そうです」と肯定する。


 フラムリーヴェは言葉を失った。


 しばし、無人の通路と事務官を見比べる。少しして、その事務官が肩をすくめた。


「お見苦しいところをお見せしました。申し訳ない」

「いえ。彼はその……いつもあのような感じなのですか?」


 フラムリーヴェが慎重に尋ねると、ステアルティードは小さくうなずいた。


「驚かれたでしょう」

「ええ、まあ。想像していた人物と違うな、とは思いました」


 戦乙女がつい本音を口にすると、若き事務官は乾いた笑声をこぼした。

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― 新着の感想 ―
読書配信へのお申し込みありがとうございます! エラさんとフラムリーヴェさんの関係性が、『友達予備軍』という微妙な表現だったのがとても気になってしました。 性格的にはぜんぜん合わなさそうな二人がどんなふ…
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