卒業おめでとうございます先輩。第二頸椎を下さい。
「──世良っ!」
勢いよく部室の扉を開けた。世良はいつも通り机に向かって漫画を描いていた。
「お帰りなさいませ先輩。玉砕したんですか?」
「やった……!!」
渾身のガッツポーズを見せると、世良はポカンと口を開けた。
「ま、まじですか先輩?」
「ああ! オッケーだ!」
「なんで!?」
「うぉい!!」
思いきりズッコケてしまった。
しかし無理もない。二人とも告白は十中八九振られると思っていたから。
「よ、良かったじゃないですか先輩!」
「ああ! ありがとう……!!」
世良と固い握手を交わす。告白に至るまで親身になって助言をくれた世良には、感謝しかない。
──パァァン!
世良のビンタが俺の頬にクリティカルヒット。
「何故!?」
「ニヤニヤしてたのでビンタしたくなりました」
「酷い!」
「告白成功のお礼と言っちゃあなんですが──」
世良には大層お世話になった。ハンバーガーでもラーメンでも何でも奢るぞ。
「苦しゅうない。申してみよ」
「先輩の第二頸椎をもらえませんか?」
「死ぬがな!」
「頚椎は七個もあるんですから、一つくらい良いじゃありませんか」
「それ、ドラ◯ンボールでも同じ事言える!?」
「先輩のケチ」
「普通、第二ボタンとかじゃないのかよ」
「死んでもいらない」
「ひでぇ」
「じゃあ、第二関節で」
「人体以外でオナシャス」
「……先輩が困る物なら何でも」
「俺を困らせるの前提なの草」
「だって──」
──ぶにゅっ。
世良の両手が俺の頬を圧殺し始めた。
顔が歪み、唇が異様なまでにとんがってゆく。
「ふふっ。ひどい顔」
「だずげで」
「一人だけ幸せになった罰です。甘んじて受けてください」
「おぼぼぼ……」
「私が卒業したら先輩と同じ会社に就職して、先輩より先に出世して、一生先輩の事顎でこき使って、第二の人生を社畜として送らせてやりますから覚悟してて下さいね」
「びどい」
ゆっくりと世良の手が頬から離れた。
「だから……」
世良の目に光るものが見えた。思わず息を呑んでしまう。
「彼女の事幸せにしないと、ぶっ◯す」
「こわ」
「石油王の妻にしないと、捻り◯す」
「なんで!?」
「そんでもって、もし気が向いたら………………私の事、第二夫人として」
「石油王から離れんかい」
「私、ラジオ体操第二を踊って待ってますから」
「踊りじゃねえし、あれ」
──ブチッ。
「やっぱり貰います」
「……ああ」
そう言って第二ボタンをむしり取った世良は、嬉しそうに走って行ってしまった。
ありがとう世良……ごめんな。