十話 筋肉ムキムキ系男エルフと出会う悪魔の話
「来てくれてありがとう。私はディオ。この街の代表を務めている。よろしく。」
「初めまして。自分は富川武。こちらは私の師匠のファリアと言います。」
師匠が俺の礼儀正しい態度に驚いている。まあ現代日本で育った身、これくらいはできないと。
「敬語も礼儀もいらないよ。私は貴族でも王でもない、ただの平民だ。代表を務めていても、平等な立場であることに変わりはないよ。」
年は30後半くらいの好青年って感じだが、落ち着き方からまるでおじいさんと話しているようだ。人生経験が深く、知恵や物事への対処が上手い人って感じ?
俺は六千年生きててもそのうちほとんどが修行していただけだから、人生経験に関しては彼の方が上だろう。
今の言葉、額面通りに受け取って良いのだろうか?
「それで、儂らに何の用じゃ?」
師匠がお構いなしにいきなり本題に入る。
「そうだね。まずは代表としてこの度のお礼を。改めて街を救ってくれてありがとう。」
「いえいえ。」
「儂らが招いたようなものじゃったからな。」
「礼金はギルドを通して受け取っていると思うけど、聞くところによると特にお金には困っていないようだし、文字通り私にできることならなんでもしよう。娘と妻だけは渡さんが、それ以外ならなんでも言ってくれ。」
なんでもと言うが…
「ならそうだな。強いやつを紹介してくれ。」
師匠!?
「あはは。君より強い人間なんて私は知らないな。けれどそうだな…公式傭兵団の長、ガイアスを訪ねてみな。大歓迎で手合わせしてくれると思うよ。君は彼とは気が合いそうだ。それで他には?」
「特にないですね。」
「それではこちらの気が収まらない。そうだな………あげられるものなら古代書物とか持ち主を選ぶ魔剣とか……」
色モノばっかだな。
「そうだ!あれがあった。アル。33番、持ってきてくれ」
「はい。畏まりました。」
さっき案内してくれた初老の執事……アルフレッドというそうだが、彼が奥に引っ込み、5分もしないうちに木箱を持ってきた。
木箱を開ける。
あったのは黄色の宝石。大きなトパーズのようだが、莫大な魔力が籠もっている。
「これは『雷祝石』といってな。天祝石が空から落ちてくる時、丁度雷雲があったら、稀に雷雲を吸収してできる事があるという、世界に二つしか無い至宝だよ。」
「ほう。これは儂も見たこと無いのう。」
「雷属性を増幅させるらしい。ファリアくんは雷属性が得意な様だし、丁度いいだろう。」
断るのは流石に失礼か。
「ありがたく頂戴します。」
「ああ。ギルドとの契約で実力のある冒険者を一つの街に束縛することはできないが、ぜひとも君たちとはいい関係を築いていきたいと思っている。」
◆◇◆◇
もっとなんか勧誘とかされるかと思ったけど、特に何もなく、本当にお礼だけで終わった。
「あ、先輩。終わりましたか。これからどこ行くんですか?」
「ああ。沢北さ……」
「直菜って呼んでも良いですよ?私、先輩の彼女だって、忘れてないですよね?」
「流石に忘れてないですよ。これから傭兵団の所に行くんですが、沢k…直菜さんは来ますか?」
「あっはい。先輩の行くとこなら例え火の中水の中です!」
「ちっ」
ん?いま師匠舌打ちした?なんか師匠、直菜さんを嫌ってるなあ。
◆◇◆◇
着いたのは…なんか和風の屋敷。
上から見たとき目に入ってはいたが、周り中世くらいなのにめっちゃ不自然。
看板には「雷鳴団」と、大きな文字で書かれている。
因みに文字は【導】さんと視界共有して自動で翻訳してもらってる。見たことない字なのに読めるという、気持ち悪い現象が起きている。
会話はなんか知らんけど通じる。俺の耳には日本語にしか聞こえないが、なんかギミックがありそうだ。
「俺の妻になってくれ!」
「は?嫌に決まっておろう。何言っとるんじゃ貴様。気持ち悪い。」
突然大柄な、大剣を背負った男性が建物の前で師匠にプロポーズした。
それに対して立ち直れないレベルな断り方をする師匠。
「昨日の剣技、惚れた!あの超速にして正確無比な神業。もう俺はお前以外ありえないんだ!」
「せめて名乗れ。なぜ見ず知らずの男に嫁がにゃいかんのじゃ。」
「ああ。俺は…」
「ちょっ団長!?何してるんですかぁ!?」
建物から眼鏡の女性が飛び出してくる。
え、団長?この人が?
「邪魔するなリーシャ。これは俺の一世一代の…」
「いやいやいやいや。どう考えても迷惑でしかないですよ。正に害悪おじさんですって。」
害悪おじさんって……年は20後半か30くらいだと思うけど…
「俺はガイアス=オージン。『雷鳴団』団長。ガタイが良いから誰も気づかないが、これでもエルフだ。」
エルフ!?そのムキムキ度で!?あ、確かに耳が少しとんがってる。
ガイアス=オージン ⇒ 害悪おじさんね。あだ名酷いな。
「団長はいつもいつもトラブルばかり…この前は魔物討伐で農民の畑を抉って損害賠償請求されたし、更に前は酔っぱらって宿屋壊して損害賠償請求されたし、更に更に前は他国の貴族をボコボコにして、ディオ代表が助けてくれたおかげで死刑にはならなかったものの超高額の損害賠償請求されたし。」
ほんとに害悪だな。
「なんでそんな奴が団長なんぞやっとるんじゃ。」
「まあ昨日まではこの街では最強だったからだな。ただ、お前で更なる高みを思い知った!300年生きてきたが、お前以上の女は見たことがない。というか居るわけが無い。頼む!俺にチャンスをくれ!」
「ふむ。じゃあ……そうじゃなあ。」
突然師匠が、俺の背中を叩く。
「こいつは儂の弟子じゃ。まだ儂の足元にも及ばんがの。こいつに勝てたら真面目に考えてやるわ。」
ええ…
ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
図々しいようですが、ここまで読んで面白いと感じたら、評価してくれると嬉しいです