妾の名前に人間が登録商標®️を付けおった
いつもお読み下さりありがとうございます
人間以外、現代の言葉でない会話は初めての作品になります。おかしく感じるところがあるかもしれませんが、生暖かい目で見て下さるとありがたいです。
瀬織◯姫の名に登録商標がついているのは事実です。
なので伏せ字になります。
よろしくお願いします
色とりどりの花が大きく飾られた絢爛豪華な朱色の大広間。
花の間には、牡丹や芍薬、蝶などが描かれた四曲一隻の金色の豪華な屏風が三隻、それぞれ向かい合うように置かれている。
屏風の前には、金糸で刺繍がされた絹の分厚い座布団、座布団と揃いの織の肘掛け、その前には螺鈿の座卓が用意されている。
既に二人の客人は席についている。
「久しいのう…」
長い艶々の黒髪に金色に光る稲穂の髪飾り、桃色の衣と、薄紫の紕帯に、透ける領巾をゆるゆると靡かせ、最後に入ってきたのは荼吉尼天。
乗ってきた狐から舞うように降りると、肩に乗せていた稲穂をそっと狐の背に置く。
そして、手前に座っていた黒髪の幼女の顔を覗き込み挨拶をする。
「久しぶりじゃのう、最近はどうじゃ?瀬織…「きゃーーーーーっ!言わないでぇーー!言っちゃダメぇーーー!私の名前を言わないで!」
俯き座っていた黒髪の幼き姫は立ち上がり、荼吉尼天の口を押さえた。
驚き、目を丸くする荼吉尼天。
荼吉尼天の口元を押さえた黒髪の幼女は俯いたまま言う。
「ここで私の名前を言ってはいけません…。私は… 私の名前は大禍津日神と呼んで下さい…。」
そう言って大禍津日神は、すとんと座ると肘掛けに顔を伏せた。
神々とお茶会を開く時、いつも明るく賑やかな瀬織…大禍津日神の背中からは禍々しいモノが溢れていた。
「ど…どうしたのえ?瀬織◯姫よ。大禍津日神などと呼べとは…どういうことえ?」
☆「瀬織◯姫」
伊勢神宮内宮別宮荒祭宮の祭神の別名であると記述される。
イザナギ命が黄泉の国から戻り「禊」を行った際に落ちた穢れから生まれた神さま。この世の禍、凶事をもたらすとされるが、正しく祀れば凶事や災難を避けられるとされます。善神か悪神かで議論される神さまです。
百と数年ぶりに開かれた「女神座談会」
荼吉尼天は、いつもと違う大禍津日神の様子に戸惑い、向かいの座で茶をすする伏見の稲荷の大神に理由を問う。
長い金色の髪を後ろで一つに結び、真っ赤な着物を羽織った稲荷の大神は、ふさふさの尻尾をゆるりと大きく振る。
そして目の前に出されたお稲荷さんを一つ、パクリと食べるとこう言った。
「どうもこうもないわ。一人の人間が大禍津日神の名前「瀬織◯姫」に登録商標®️なるものを付け、人間界で公の場でその名を使う事を制限したそうじゃ」
「神の名前に登録商標?そんなもの昔からあったではないか。酒の名前や、会社の名前、商品の名前が神と同じなんて、いくらでも有ろうが…」
驚いてみたものの、内容は大した事ないと判断した荼吉尼天。
穢れに塗れる大禍津日神の横を通り抜け座に着いた。
「それがのう…今回はちいと訳が違うのだ。普段つけられる登録商標とやらは、必要最低限の範囲に留められているのに対して、これにかかる指定は、広範囲な43項目に対してされているのじゃ。例えば祀ってある神社が、その名を使って何かを売り出す事も許されないようにしたそうじゃ」
そう言って稲荷の大神は茶をすすった。
「ほう、これはまた!難儀よのう!」
荼吉尼天が面白そうにホホホと笑うと、それまでの幼女の姿から妖艶な大人の女性に姿を変えた大禍津日神が言葉を返す。
「私利私欲に走る人間が有るのは昔から変わらんのう…妾の名を我が物とするとは、それ相応の報いがあろうて…」
そう言って大禍津日神はフンと鼻を鳴らし、先程の幼女の時とは比べ物にならない程の禍々しい穢れを溢れ出して見せた。
「なるほど、最近の不穏さは大禍津日神の怒り…と言う訳か…ま、ほどほどにの」
荼吉尼天はヒラヒラと手を振り、あちこちに散らばる穢れを祓った。
「私利私欲の願いと言えばな、この前安井金毘羅宮の神より面白い話を聞いたぞえ」
安井金毘羅宮とは同じ「京都」の伏見の稲荷の大神が言う。
「ほう、安井の神か…安井の神は豪快だからのう…して、どんな話しじゃ?」大禍津日神が話を急かす。
「最近、疫病が落ち着いてきたじゃろう?それでな、社員旅行と言ってとある会社の社員達が願掛けに来たそうじゃ。
会社の発展の願いかと思えば、社員の願いで一番多かったのが「誰々と顔を合わせずに仕事が出来ますように」との事だったのでな、安井の神は一番多かった願いを叶えてやる為に、その会社を潰してやったそうな。
「これで顔を合わさずに済むじゃろう。皆の願いをまとめて叶えてやった」と大笑いしておったぞ」
「なんと手っ取り早い解決の仕方よ。間違いなく願いを叶えてやったのう〜」カラカラと笑う大禍津日神。
「家内安全や、健康などの願いをした人間には、これから願いを叶えてやると言っておったわ」
そこで一口、茶を飲んでから稲荷の大神が続ける。
「だいたい人間の願いと言えば「いい事がありますように」や「幸せになれますように」などとあやふやな物言いばかりじゃ。お前の幸せとは何ぞ?我が調べねばならぬのか?そんな面倒なのはお断りじゃ」
稲荷の大神と同じ、狐が眷属の荼吉尼天「まったくじゃ。それで願いが叶わぬと文句を言われてものう。
そもそも、わざわざ我等が調べなきゃいけないような物言いをした者の願いを叶えてやるつもりはないからの。願いが叶わぬとは酷い言いがかりじゃて」
大禍津日神が、荼吉尼天の言葉に頷きながら言う。
「願いがあればきちんと説明し、どんな風にして欲しいか言えば検討してやっても良いがのぅ。
…稲荷の大神ところも、荼吉尼のところも眷属が多いから願いを叶えてやりやすいじゃろう?」
稲荷の大神は茶をすすり、串に刺さった3色団子を食べながら答える。
「じゃがのう…我等の糧は信仰心じゃ。厚い信仰心のお陰でチカラが大きくなって行くのじゃ。まだまだ見習いの下っ端の眷属などは真っ当な信仰心を得なければ、願いを叶えてやれる程の力が出ぬ。
精一杯頑張っても認められぬし、最近の人間の多くは願いを叶えてやっても感謝せぬ。眷属等は癖のある奴が多くての…粗雑な扱いを受ければ怒り、祟るのじゃ。
それとな、最近では適当に塚を仕舞う輩が多くての…今まで面倒を見て来てやった恩を忘れ、下っ端だけでなく中堅の眷属の塚なども放置され気味でな…
神として呼んだからには、それなりの扱いをしなければ祟られることをしっかり覚悟せねばなるまい」
そう言って稲荷の大神は、食べていたお団子の串をパキリと折った。
「「なんと嘆かわしい…」」
荼吉尼天と大禍津日神が声を揃えて言う。
稲荷の大神が続ける「それでもの…この前の秋にの、人間の子どもからドングリを奉納されてな、その子の願いは母親の病気の治癒であった。純粋な願いでなぁ…治癒に一番強い眷属をつけてやったわ。
するとな、春になってからきちんと礼に来おった。
四つ葉のクローバーとやらを二つ置いて行ったわ。
なかなか見つけられなかったらしくてなあ、それでも母親に一つ、そしてお礼に二つ探したそうじゃ。
妾と、治癒した眷属とでわけたぞ。ほれ…」
そう言って胸元から四つ葉のクローバーを出して見せた。
そのクローバーを見て、大禍津日神もほっこりし、背中から出していた穢れを引っ込める。
「そこが人間の可愛いところよの。愚かな人間もいれば、純粋に神を信じる人間もおるからのう…神を信じる人間を切り捨てる訳にも行かぬからの…」
「仕方ないのぅ…」
そう言う神々の顔には笑みが見えた。
「茶ばかりで飽きたわ…」
稲荷の大神が言う。
そろそろ本格的な宴がはじまる。
「最近は宴とは言わずに、女子会と言うそうじゃ」
拙い文章、最後までお読み下さりありがとうございました
誤字のお知らせありがとうございます。
修正しました。