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妻と離縁した。

 ※無神経な夫、親戚関係、病弱な子供が亡くなる描写など、人によっては地雷あり。


 学生時代、彼女に一目惚れをした俺は、彼女を妻にと乞うて結婚した。


 優しくて温かい女性で――――


 彼女となら幸せになれる、と。


 俺はそう、思っていた。


 だが、彼女は子供が生まれると変わってしまった。


 俺は、あんな風に変わってしまった彼女を見るのがつらくて――――


жжжжжжжжжжжжжж


 わたしの子供はとても可愛いの。


 わたしと、あの人との子供。


 わたしが生んだ、あの人との子供。


 可愛い可愛い女の子。


 将来はきっと、美人になるだろう可愛い子供。


 愛しい子供。可愛い子供。


 ええ、愛しているの。愛しているわ。


 そう、わたしは娘を愛してる。


 だって、自分で生んだ子だもの。


 そんなの、当然(・・)のことでしょ?


 愛しているわ。愛しているの。


 愛してる。


 可愛いと、思っているの。


 可愛いのよ? 本当よ? 本当なの。


 本当にっ……


 愛してるの。愛してるわ。愛してる。


 嘘じゃないの。本当よ?


 だって、あの子はわたしの子供なんだから!


 愛してるはず(・・)よ。


 わたしはっ、あの子(・・・)をちゃんとっ……


 違う、あの子じゃない!


 わたしは娘を愛してるんだってばっ!!! 嘘なんかじゃないっ!!!


 だからっ、返してっ!


жжжжжжжжжжжжжжж


 ――――精神的におかしくなった妻が、向こうの両親に連れられて家を出て行ってしまった。


 病弱な娘を育てるのに、育児ノイローゼになってしまったようだった。「なんでアンタはわたしに似ていないの!」と、「早く丈夫になりなさいよ!」そうヒステリックに、小さな娘を何度も何度も強く責めていた。


 その姿をもう、いい加減見ていられなくなった。なにも悪くない娘が可哀想だったんだ。


 向こうの両親には、「孫の親権は求めない。頼むから、娘にはもう関わらないでくれ」と、そう言われて離婚届けに判を押した。


 それから、男親の俺一人で病弱な娘を育てるのは難しいからと、娘の面倒を見ようと快く言ってくれた叔母夫婦に娘を預けて……


 あれからもう、何年が経つか……


 今でも脳裏に蘇るのは――――


「わたしの娘を返してよっ!?」


 という取り乱した悲痛な姿。


 関わるなと言われて、その理由を聞いた俺へと、妻の母親が怒りを籠めた顔で投げ付けた手帳。


 中身は日記のようだったが、日付などは特に無く、彼女が嫌だと思った出来事が延々と綴られていた。


 あのときにはうんざりして、『彼女の日記』を読むのをやめたが――――


 久々に妻の日記を広げると……少し几帳面さを感じさせる、懐かしい妻の文字が並んでいた。


жжжжжжжжжжжжжжж



 あの子は、彼の六つ年下のイトコだそうだ。


 彼女は幼い頃から病弱だったそうだ。そんな彼女を、彼は妹のように可愛がったという。


「妹のように思っている子なんだ。だから、仲良くしてやってほしい」


 そう言って待ち合わせたというおしゃれなカフェで紹介されたのは、華奢で可憐な、線の細い儚げな印象の綺麗な女の子だった。


「え? お兄ちゃん、結婚するの?」


 彼を兄と称した彼女。わたしと彼を見詰め、驚いたように大きな瞳が見開いた。サッと色を失くしたその顔に、わたしは気付いた。


 ああ、この子は……彼のことが好きだったのだと。


「ああ。お前は俺の妹も同然だからな。これから家族になるこの人と、仲良くしてくれると嬉しい」


 彼が、驚くあの子にそう言って微笑むと、あの子は不安そうにわたしへ挨拶をした。


「どうした? 顔色が悪いが、体調が悪かったのか? なら、無理して来なくてもよかったんだぞ?」


 顔色を悪くしたあの子に彼が尋ねると、あの子は首を振った。


「ううん。だい、じょ……ぅっ!」


 大丈夫。と、そう言い切る前に、あの子は顔を歪めて胸を押さえた。そして、苦しそうに喘ぎ出した。


 ヒューヒューと苦しげな呼吸音。


 なんでも、彼女は幼い頃から心臓が弱いそうで、いつもは薬を持ち歩いているのに、最近は体調がよかったからと油断して、薬を持っていなかったようだ。


 救急車を呼ぶか聞くと、彼女は首を振って嫌がった。


 舌打ちした彼は彼女を抱き上げてタクシーを呼ぶと、わたし達は急いで彼女の家へと向かった。


 あの子の家に着いて薬を飲んだあの子が落ち着くと、あの子の母親は彼にありがとうと言って感謝した。


「ごめんなさいね、お友達と一緒だったのに、わざわざこの子を送ってくれて」

「いや、友達じゃなくて、俺。この人と結婚するんだ。それで、紹介しようとしたんだけど」


 彼が困ったように言葉を濁すと、わたしへ向けていた彼のお友達という認識だった視線の温度が、サッと低くなった気がした。


「そう、それはごめんなさいね」

「いや、いいよ。まあ、そういうことだから。よろしくお願いします」


 と、彼の両親への挨拶より、彼の叔母への挨拶の方が先になってしまった。


「その、折角ご挨拶してくれたのに悪いんだけど、今からこの子を病院に連れて行かなきゃいけないの。慌ただしくてごめんなさいね」


 そう言われ、わたし達はお暇することにした。


жжжжжжжжжжжжжжж


 ああ……確か、アイツと彼女の初対面はそんな風に終わった。彼女の日記を読みながら、あのときのことを思い出す。


 アイツが発作を起こして、デートが台無しになって……彼女は――――


 読んでくださり、ありがとうございました。

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