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2位の場合 3

「僕と婚約してくれないか?」

「はい?」


リューサルトに時間を作って欲しいと言われて、休日にリューサルトと共に個室のあるカフェで顔を付き合わせていた。

いつも以上に神妙な面持ちのリューサルトからは驚きの申し入れがなされた。


「その・・・アリエスが僕以外の隣に居るのが面白く無かったんだ、この間の品評会の時・・・」


リューサルトは緊張しているのかいつもよりも僅かに声が小さい。

確かにあの日はアリエスのドレスが物珍しかったのか多くの人に声をかけられ、アリエス自身が1番驚いた。そして仕事中でとても迷惑であった。


「婚約までするとリューの人気は落ちない?」

「・・・あの時、周りの反応は良かったから、寧ろプラスになると・・・思う」


婚約までして、アリエスのパートナーポジションは死守したい程の魅力がある立ち位置なのだろうか。

アリエス自信もそろそろ18歳になるため、領地に居る母からは縁談の話も、ポツポツ来ているため、リューサルトとの婚約は体良く断れる口実にもなる。

もし、婚約後そのまま結婚するとなってもリューサルトであれば仕事を辞めろとは言わないだろう。アリエスからすればとても良い提案のように感じた。


「アリエスが良ければ(うち)から婚約の打診をしてもらうよ」

「こちらとしてはとても素敵な申し入れだと思う・・・」

「なら!」

「・・・お願いします」


アリエスは返事をするとき、少しだけ照れが顔に出ていた。笑顔がぎこちなく、声も少しだけ震えていた。

こうして、お互いの納得し両家の了承も得てリューサルトとアリエス婚約が結ばれた。


アリエスはリューサルト以外からも婚約の打診はあったそうだが、アリエスに直接申し込んできたのはリューサルトだけであった。その事がアリエスの家族からも好感を得る事ができて許可が降りた。


2人の婚約は侯爵家の三男と辺境伯家の長女。お互いに嫡子でもないため、大々的な婚約発表は無かったものの騎士団人気上位の2人・・・しかも、ファンの前では恋人の雰囲気を醸し出していた2人だ。人伝にジワジワと婚約の話は広がっていった。


2人の婚約はリューサルトの見立て通り、ファン達からは好意的に受け入れられた。

婚約して公認となった2人は今までのパフォーマンスは継続しつつ、プライベートでも2人で出かけ人の目があればアピールする。

勇敢なファンは自ら突撃してどう言う2人が見たいのか力説してくれて、参考にした。時々リクエストしてくるファンも居たので、2人の時間に余裕があればそれにも答えたりする。

今まで以上にリューサルトに触れる事も触れられる事も増えた。


2人で出かける事が多くなったが、仕事の延長のようなことばかりだけでなく、少しだけ変わったこともある。人目があまり無い落ち着いた雰囲気のある場所へも行くようになった。そこでは驚いたことに口づけも普通にするし、婚約者らしい触れ合いもそれなりにあった。


アリエスとしては、リューサルトの人気向上のための婚約だ。そこまで律儀に2人で出かける必要も無いのではないかとも思いつつリューサルトと居るのは楽しく、穏やかな気持ちで過ごせるのでとても居心地がいい。


そして、婚約してからのランキングでリューサルトは2位へ上がった。まだまだ、1位のライルには遠く及ばないが、コツコツと頑張ってきた成果があったのだ。そして、王太子付きから国王陛下付きの近衛騎士として昇進もした。


「リューおめでとう!」

「ありがとう。アリエスのお陰だ」


本当に嬉しかったのか人目も憚らず、リューサルトはアリエスを抱き上げクルクルと嬉しそうに周る。


「リュー、私今隊服よ?これは大丈夫?」


アリエスが男性よりの服装のときは男性同士の危なく背徳的な雰囲気の触れ合いを求められるし、女性の格好の時は甘くて優しい蜜月の雰囲気を求められる。今の格好では逆効果になるのでは無いかと、アリエスは不安になる。


「結婚するんだから大丈夫。今は喜びを分かち合って」


リューサルトは気にすることなく、そのままアリエスを抱きしめた。

騎士団内では皆、ライバルだ。嬉しくとも喜びを共有できる相手はなかなかいない。

リューサルトにとっての例外がアリエスだ。アリエスはランキングを気にしないし、リューサルトの婚約者で協力者だ。

こんな時は無粋な事を言うのは辞めようと、アリエスはリューサルトの気がすむまで、回され続け、目が回った。






そして、今年のランキングもリューサルトは変わらず2位だ。


「副団長の・・・1位の壁は高いな」


リューサルトはが結果発表後にふっと漏らした。確かに5年連続1位の人気は伊達では無い。

そのためなのか、今年の剣術大会でのリューサルトの気合の入れ方は凄まじい。来年は念願の1位を取るために、アピールとファンサービスは欠かさない。

そのためなのか、所かまわずさまざまな場所でイチャイチャしてきて、挙句衆人環視の前でキス。アリエスはそれに気が散り、準々決勝で敗退してしまった。


「お疲れ様、アリエス。惜しかったね」

「リューのせいで負けた」

「え、僕?なんで?」

「人前で・・・」


言葉にしようとして、思い出してアリエスは顔を隠してしゃがみこむ。思い出すだけで恥ずかしい。


「あー、ごめん。・・・キスしたのが不味かった?」


顔を隠したまま頷いて肯定する。


「本当にごめん。アリエスの髪触ってたら、無性にキスしたくなって・・・」


リューサルトは恥ずかし気もなくさらりと思ったことを口にする。


「でも、準決勝でアリエスと戦うのも楽しみだったけど、少しホッともしてる。もし、アリエスにボコボコにされたらカッコ悪いし」


2人が戦うことがイメージダウンに繋がる可能性がある事をリューサルトの口から聞く事は無かったが、いつも以上に気持ちは落ち込んでいた。


2人の関係は当初、リューサルトの人気向上に協力するためだけの関係だった。それが、婚約までしてこの2年アリエスは少しずつリューサルトへの気持ちを育んできた。

アリエスの中で好きと言う気持ちが育つにつれて、リューサルトとの間に溝が深まるようなそんな気持ちになる。


出世のため、人気ランキングのためにアリアスと婚約したリューサルト。

最初は縁談を断るためだったが、その気持ちが愛へと変わったアリエス。

利害関係の一致から始まった。だから、アリエスはいまだにリューサルトに好きだとは伝える事はできていない。


好きだと伝え、そんな気持ちは僕には無いよとリューサルトに言われたら、この関係すら維持できなくなる。そんな危うい関係なのだ。


「アリエス?大丈夫??」

「あ、ごめん。少し疲れたのかな」


しゃがみ込んだまま動かないアリエスに、リューサルトは優しく声をかけて来た。疲れたと言う言葉に反応したのかリューサルトはアリエスを横抱きで担ぎ上げる。


「体調悪いなら、医務室に行こう」

「あ、下ろして。そんなに調子が悪いわけじゃない」

「でも、顔色は悪い」


リューサルトの顔がアリエスのすぐ近くにある。それだけでは無く、抱えられてリューサルト体温がほんのりと伝わってくる。


アリエスの心拍数は急上昇中である。


「リュー、今は誰も見ていないからそんな事、しなくていいよ」


恥ずかしいのを誤魔化すように、アリエスはリューサルトへと本音を伝えた。これ以上アリエスの気持ちを育てないで欲しい。


「見られてなくても、アリエスは俺の婚約者なんだから、するよ」


ファンへのサービスとは関係ないと言ってくれた事が嬉しかった。嬉しかったのに、アリエスは心のどこかで勿体無いな・・・と言う気持ちが少しだけ出てくる。


(あ、私自信も・・・)


アリエスもファンにリューサルトとの触れ合いを見せる事で、リューサルトが私の婚約者なのだと言う独占欲を心の片隅で満たしていたのかもしれない。


(結局、純粋な好きだけでは無かった・・・)


それに気づけば、結局自分の気持ちも純粋で綺麗な好きでは無い気がしてきて、アリエスは余計に気分が沈んできた。


「リュー、私は大丈夫。下ろして」

「下さない」


アリエスは諦めた様に、コトンとリューサルトの胸に頭を傾ける。耳から伝わってくるのは心音だ。リューサルトのその音が少しだけ早い様に感じた。


「脈、早いね」

「アリエスを抱えてるから・・・」


アリエスはリューサルトの顔を見上げると、耳元がほんのり赤く染まっていた。照れているのだと感じたら、それが可愛く思える。


そのまま医務室へと運ばれて、医師に診てもらったが怪我や病気などの所見は無かった。そのまま、午後のイベントにアリエスは参加した。

今日、午前中に戦ったメンバーが勝敗に関わらず出席して、抽選で選ばれたファンへ握手したり、少し会話をしたりと完全に騎士としては関係ない仕事である。

しかし、これが騎士の地位向上に役立っているのだからある意味大切な仕事でもある。


リューサルトとアリエスの2人が同じ日に参加する場合、絡みはいつも以上に多い。

リューサルトはアリエスの隣をなるべくキープして、肩や腰に手を回して密着しているのは当たり前。アリエスからリューサルトに絡む事はあまりないが、リューサルトはバックハグをしたり、手を絡ませたりと見ている側が興奮する様な接触を心得てしてくれる。勿論ここで求められるのは中性的な2人による、背徳的な関係の方である。

2人の姿絵がこの時はいつも以上に売れるため、騎士団専属の画家は大忙しだ。もちろん、他の騎士の姿絵の売上もイベント中はそれなりに伸びる。

因みに、この騎士団専属の画家は数名在籍している。それなりの近さで騎士を拝める仕事のため、最近画家になり騎士団専属を目指すファンもそれなりに居るらしい。


イベントも滞りなく終わり、今日レオンに負けてしまったアリエスは明日から通常通りの勤務へと戻る。

期間中、試合のない日に王女の護衛もこなしてはいたが、賑わう街や城内の様子はいつもとは異なるため集中力がいつも以上に必要になり気疲れしてしましまい、終わる事が寂しいとは思うが早く平常に戻って欲しい。


明日の準々決勝は見に行く事はできないため、リューサルトには応援している事だけは伝えた。




準決勝

リューサルトはレオン・クレリアに勝利した。

王太子と国王陛下付きの近衛騎士同士の対戦は固唾を飲むほど接戦だったが、騎士として従事している年数の功かリューサルに軍配が上がった。

それを王女の口から聞いて、アリエスは少しホッとしたと同時に喜ばしかった。


明日の決勝は王女も観戦する予定で公務が組まれているため、アリエスも王女の傍らで見ることができる。

今日は‘‘おめでとう‘‘も‘‘頑張れ‘‘も直接伝えることが叶わなかったため、明日は伝えるタイミングがあるだろうかとアリエスは考えた。


仕事が終わり、自宅に帰ると一つ下の弟ルベルクも丁度帰宅したところだった。

ルベルクもアリエスと同様騎士団に所属している。ランキングも3位で人気は高いが、次期辺境伯のため辺境伯領にて防衛の任務に従事している。人気は高いが、王都にはほぼ居ないため上位勢の中では見る事ができたら幸運な希少ポジションにいる。

今は剣術大会期間中のため、辺境伯領から出て来ておりこのタウンハウスに身を寄せていた。

ちなみに、ルベルクも準決勝まで勝ち進んでいた。


「勝ったらしいね、おめでとう」

「ありがとう。でも、明日はリューサルト先輩になっちまったからなー。やりにくー」


ルベルクからしたら将来の義理の兄との対戦な上、相手は花形の近衛騎士のため戦い辛いと愚痴をこぼす。


「でも、姉貴もレオンに負けてよかったんじゃないか?リューサルト先輩と姉貴の対戦なんて、ファンからしたら発狂もんだろ?」

「どうなのかな・・・」

「泣きながら戦わないでとか言うファン、何人かいそう。・・・うぎゃ~、俺には無理」


それを想像したのかルベルクは少しにがそうな顔をする。こう言うデリカシーの無い所があるルベルクが、何故人気があるのかアリエスは不思議でならない。

身長はそこまで高く無いが、程よく逞しい身体にまだ少年ぽさの少し残るが甘いマスク。顔は良い。辺境にいる事で餓鬼っぽさが露見せずそれすらもプラスに作用しているように感じる。


「明日は私も殿下の護衛で観れるから、頑張れ」

「俺の事応援して、だいじょーぶ?」

「リューはそんな事でめくじら立てないよ」

「えー、あの人だいぶ嫉妬深いと思うけど・・・」

「あれは、演技。リューは私にそこまで執着してないよ。この婚約だって利害関係の一致だし・・・」


ルベルクとは年子で、仲の良い友人のような感覚だ。王都に出てきたタイミングも同じため、リューサルトとの婚約の経緯も何となくは話していた。


「ま、今日は早めに休みなよ」

「そーする。明日は、俺の事は応援しれくれるな。殺されるのは嫌だ」

「小心者」

「うるせぇ」


ルベルクは背を向けたアリエスにべーっと下を出す。そのことに気づかないアリエスはそのまま着替えるために、その場を後にして自室へと向かった。







「姉貴、あの人の事勘違いしすぎじゃね?」


ルベルクが独り言を呟いたことをアリエスは知らない。


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