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4位の場合 3

フレアはレオンに連れられて、先程出て来たばかりの自分の部屋に戻って来ていた。しかたなくレオンを招き入れ、お茶を入れて差し出して向かいに座る。


(なんでこんな事に・・・)


昨日から目まぐるしく状況が変わっている。職を失い、傷つき、好きな人から結婚の申し込み。辛い事とうれしい気持ちが混在してフレアの中で複雑に絡み合っている。


「さっきの続きだけど・・・」

「俺と結婚してください。好きだ、フレアの事が・・・一緒に居たい。本当はあんな場所で言うべきでは無かったけど、気持ちが焦って・・・」


フレアがまず話そうとすれば、被せるようにレオンが剣な顔つきでフレアへの思いを伝えて来た。外で言われた時は人目を気にして冷静にはなれなかったが、ここだと冷静でいられる。レオンは真剣だ。でも、フレアから見たらなぜかその言葉が軽く聞こえてしまった。


「レオ、私もあなたが好きよ?」

「なら!」


ガタンと机を揺らしながら立ち上がったレオンは、とても嬉しそうに笑っている。これから伝えることを思うと、心がチクリと痛んだ。


「でも、結婚はしたく無い。怖いの、貴方のファン達の目が怖いの・・・」


レオンは煩わしくて必要最低限の会話しかしないため、その反動で嫉妬がフレアに向いてくる。嫌がらせもそうだが、お前みたいなのが何故レオンの隣に居る?と言うような視線で見られるのがとてもフレアにとって辛い。


「お、俺は・・・フレアが居ないと・・・」


フレアの言葉を聞いたレオンは案の定辛そうに眉を顰めた。泣きはしないが、泣きそうなほど辛そうな表情でフレアを見て来た。


(もっと心が強ければレオにこんな表情をさせずにすんだのかな・・・)


「レオ・・・」

「俺はフレアと一緒になりたくて、騎士になった。だから、お願いだ・・・結婚すると言って。俺の事、好きと言ってくれただろ?」


レオンはしゃべりながらフレアに近寄ってくる。眼光が鋭く座ったままのフレアには、目の前のレオンがどこか恐ろしく感じた。


「好き・・・よ」

「好きなら一緒に居てよ」


なぜか、好きと言わないといけないような気がし、気づけは自然と言葉にしていた。レオンはすぐ傍でしゃがみ込みフレアの膝に触れ、顔を見上げてくる。


「怖いなら、結婚した事は秘密にしておけば良い。職場には言わないといけないけど、態々言い回る必要も無い」

「でも、一緒に住んで居たらいずれバレるでしょ?」

「それが心配なら、騎士団が借り上げているファミリー向けの共同住宅を借りれば良い。そこなら、他の家族の目もあるし、目眩しになる。独身でも借りている奴も居るし心配ないよ。他に心配事は?」


心配事を話すと、丁寧に根気強くフレアに解決案を提示して。それが、必死に思えてレオンがフレアの事を好きだと言ってくれた事が偽りでは無い事がわかる。どうにかして、いい返事を貰おうとするレオンが可愛いとさえ思う。


「いつから私の事好きだったの?」

「覚えてないくらい、小さい頃から」

「私と一緒ね」


それから昔の事を話したり、レオンがどれだけフレアが好きか聞かされたり。レオンはフレアが落ち着くように話をしてくれた。膝立ちのまま根気強く。痛くないの?と聞けば、フレアと一緒になれない方が痛いし辛いと・・・心配してくれてありがとうと笑って答えてくれた。

フレアの気持ちが少しずつ、前向きに変わっていったタイミングで再びレオンがあの言葉を言ってくれた。


「結婚してくれる?」

「・・・はい」


昔からレオンはフレアには優しかった。それが、特別な気持ちだったと改めて教えてもらえて、フレアは幸せでいっぱいだ。いつの間にか不安よりもレオンへの気持ちの方が大きくなっていた。

ただ、やはり仕事を辞めなければいけなかった悲しみだけはどうしても心の片隅に残っている。昨日のことだから、当たり前だとは思う。それよりもレオンの影響であの悲しみがここまで小さくなっている事へ何処か後ろめたさを感じてしまう・・・。


「レオ、あと私・・・仕事はしたいの」


気づけばその後ろめたさを誤魔化す為に言葉にしていた。微かにレオンの顔が歪んだ様に見えた。小さい頃から見ているからわかるレベルの本当に僅かな変化だ。


(もしかして、仕事してほしくない?)


そんな疑問が生また。


「フレアがしたい様にすれば良いよ。でも、一つだけお願いすると結婚してしばらくはゆっくりフレアと過ごしたい。だから、まだ仕事は探さないで?」


前向きな返答でフレアの予想は外れた。フレアの手を触り、愛しそうに撫でた後チュッと指先にキスしてくれた。そんな事をレオンがしてくるとは思わずフレアは驚いき、優しげな瞳が今は情欲的に潤んでいる事に気づいた。


「レオ?」

「フレア、ちょっとだけ・・・」

「え?」


レオンの声が微かに震えている。


「その・・・口付けしてもいいか」


勇気を出したのだろう、レオンは少しだけ顔を赤くさせてフレアに尋ねてきた。フレアだってそんな事を聞かれても困る。答えるのも恥ずかしくて、フレアはそっと瞳を閉じた。だって、気持ちは一緒だから。

レオンの衣擦れの音がしたと思ったら、唇にそっと柔らかいものが触れ、ほんのりと暖かくて、心地いい。ただ、触れているだけなのにとても優しくて幸せな気持ちになる。


体感時間は凄く長くて、でもきっとあっという間の時間だ。


唇が離れて目を開けたら、見慣れているレオンの顔が近くにあってドキドキしてしまう。


「フレア・・・」


呼ばれた名前が特別に聞こえた。


「今日、泊まってもいいか?」

「う、うん」


凄く恥ずかしくて、返事をするのもやっとだ。でも、泊りたいと言うレオンを拒みたくなかった。いいや、フレアも一緒にいたいしこれ以上先の事もレオンと一緒なら興味がある。


その後、今後の事を話し合い、レオンは夜勤明けのため一度寮へと戻り夕方に色々と買い込んだレオンが再びやって来た。レオンの買ってきた食材でフレアが夕食を作り、それを2人で食べてまったりして過ごした時間はあっという間に過ぎた。

2人で寝るには狭いベッドに、ぴったりと引っ付いて寝るのは幼い頃以来だ。翌朝、目が覚めた時にはなんだか恥ずかしくて、でもお互いに幸せな気持ちで笑いあった。

外は晴天だ。


「気をつけてね」

「あぁ、行ってくる」


レオンは休みではあるが、フレアへの嫌がらせの事を報告するために職場へと向かった。出かけて、戸締りをしてフレアは家事を済ませてしまおうとキッチンへと戻ろうとしていた。


コンコンコン


ドアから、ノックの音が聞こえた。レオンが何か忘れたのだろうとフレアは何も考えずにドアを開けた。


「忘れ・・・キャ」


ベチン


半分開きかけたドアを無理やりこじ開けられ、よろけたところに、頬に大きな音がして痛みが走る。意味が分からないまま、今度は後ろに突き飛ばされた。

臀部に痛みが走るが、綺麗に尻餅をついたため他は痛みも打撲もない。フレアは自分に起こった事に唖然として、目の前居る人物を見上げた。


そこにはフレアでは手の届かない様な綺麗なドレスを身に纏った、どこか見覚えのある綺麗な女性が立っていた。女はフレアを睨みつけるように見下ろしていて、あまりの剣幕にフレアは恐怖を覚え声が出なかった。


「なんで!?あなたの部屋からレオンが出てくるのよ!!!」


この言葉でハッキリと理解した。レオンの熱狂的なファンの一人だ。しかも、昨日レオンの周りを囲んで居た一人だった気がした。格好からして貴族の令嬢だろう。相手が相手な為フレアは反抗することもできない。いいや、反抗したくても恐怖で身体が動かず逃げ場も無い。


女の足が上がり、チラリとヒールが見える。スローモーションの様に足が向かってきて、フレアは踏まれると思いぎゅっと目を瞑った。


(レオ!!)


「何しているのですか?」


覚悟していた痛みが来る事はなかった。

聞きなれた声が聞こえてくる。しかし、先程まで聞いていた甘くて優しい声ではない。低く怒りを含んだ声だ。こんなレオンの声をフレアは聞いたことが無かった。


「レオン様!私、貴方がこの女に誑かされているのを見てられないの・・・」


女は先程までの形相とは打って変わり、瞳を潤ませて媚び諂うように猫撫で声でレオンの腕に縋り付いていた。


「申し訳ありませんが、お引き取り願えますか」


レオンの表情は険しく、絞り出す様な声だ。フレアは腰が抜け、いまだに立ち上がれなない。足に力が入らず、ただ2人のやり取りを見ていただけ。レオンは纏わりついてくる女の手を何度も自分から離して、フレアの前に立つ様に身体を移動させた。レオンは守ろうとしてくれているのがわかるが、背中を向けられて表情が見えない事になぜか寂しさを覚えた。


茫然としていたフレアはレオンの背中だけを見つめていた。何か2人がやり取りをしていたようだが、全然頭に入ってこない。

しばらくして、ゆっくりとレオンがふり向いたと思うと、そのまましゃがみ込み抱きしめられた。


「フレア!」

「レ・・・オ・・・」


暖かさにくるまれ、より一層脱力した。


「なんとなく出てから視線を感じて、それが直ぐに無くなったから帰ってきた。とりあえず中に入ろう」


抱きしめられて安堵し、自然と目から涙が流れ出してくる。

そのまま軽くフレアを持ち上げたレオンに抱えられて、部屋に戻りベッドまで運ばれた。しばらくは泣いていたと思う。


「今までもあったのか?」


落ち着くまでレオンは手を握り、肩を抱きしめてくれていた。涙が止まり、やっと喋れる状態に戻ったころレオンが色々と聞いて来た。


「直接手を出されたのは初めて。でも、ここは前から特定はされていたと思う・・・」


洗濯物を汚されたり、ゴミを撒かれたり。悪趣味な嫌がらせはあった。あの女はきっとレオンが朝この部屋から出てきたのを見て、激情したのだろう。


「すまない。俺が少し軽率だった。・・・とりあえず、暫くは実家に身を寄せれないか?ここにフレアを一人にさせるのは不安だ」


フレア自身も怖かった。今回は一人だったが、あのタイプの女に何人も囲まれたら?しかも、貴族だ。


「わかった・・・」


あの幸せな時間と感情を味わった後に、レオンと離れるのは難しく、答えは直ぐに出た。そのまま、実家に帰る準備をしてレオンと共に実家へと帰った。事の成り行きと、今後のことを説明すると家族には複雑な顔をされたが、レオンとの結婚はとても喜んでくれた。

まだかまだかと待ち望んでいたらしい。遅いくらいよ、と母には抱きしめられた。


レオンは予定どおり遅くはなったがそのまま職場へと行き報告をしてくれた。

このままでは、今後ランキングがトラブルの元となる可能性もあるため、対策を取ることとなったとレオンから報告があった。対処が遅いくらいだ、とレオンが怒っていたが・・・。


きちんとファンからの嫌がらせやストーキング行為は禁止し、もし規約を破れば騎士本人及びその近い人物との接触を禁止。禁止事項を破れば名前を晒される事となった。特に貴族に取っては名前が知れ渡る事がリスキーな為、効果的だったようで嫌がらせや擦り寄ってきた人物達には蜘蛛の子が散るようにいなくなった。


フレアに嫌がらせをしていた令嬢も特定された。フレアに直接手を出した物、及び影で嫌がらせをしていた人物もわかり、暫くは騎士への接近禁止。あとは、今回のことは親へと報告して、厳重注意となった。

フレアに手を出した令嬢は、どうやら男爵家の娘だったらしくレオンへのストーキング行為をした挙句、その幼馴染に怪我(打撲程度であったが)をさせたため名前が公開された。その令嬢はそれなりにあった縁談が無くなり、男爵家とやり取りのあった家も次々と去っていき、王家からの信頼もなくし大変らしい。しかも有事の時、騎士団への申請や依頼も頼めなくなり見せしめの様になっているとレオンから教えてもらった。

そのおかげで騎士団とファンとの間にはきちんと距離が置かれる様になった。


あれから3ヶ月、目立った嫌がらせは無くフレアはレオンと結婚して、予定通り騎士団のファミリー向けの共同住宅で生活している。

怖い思いをしたが、レオンと結婚できた事に今では感謝していて、幸せな日々を送っている。


「フレア」


優しい声で、後ろからギュッとレオンに包まれる。


「今日は何?」

「シチューよ」

「楽しみだな」


もう少しで年が変わり、来年の人気投票が始まる。禁止事項の規約ができたことで、レオンが結婚したことを隠す必要が無くなったためそれとなくレオンの結婚は噂で広がった。

そのため、ランキングも下がるだろう。そんな風に思っていたが、予想は外れた。

1位の騎士が殿堂入りのため抜けたのと、あまり笑わず無口だったレオンが結婚後よく笑う様になり人気が保たれそのまま3位に上がったのだ。


その後レオンの結果を見て、結婚しても人気に影響がない可能性がわかり結婚する騎士が一定数増え、しばらくは騎士の結婚ラッシュが続いた。

そのためさらに騎士希望の若者が増え、フレアは見ず知らずの人にお礼を言われる・・・と言う不思議な現象がしばらく続いた。


ちなみに、新婚生活もしばらくは快適にゆっくりと過ごし、そろそろ仕事を探そうとレオンに相談したところ、妊娠した時の事を持ち出され却下された。その後も節目、節目に働きたいと相談したが、結局レオンははぐらかし理由をつけて働きに出る事は叶わなかった。仕事をしたいと伝えたあの時、微かにレオンの顔が歪んだ様に見えたのが見間違いでは無かったことが判明するのは何十年も先の話だ。


4位のレオンのお話はこれにて終了です。

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