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5位の場合 6

SIDEロイ


「ロン、私は想いあっている2人の邪魔をするつもりは無いんだ。だから、私に話してみて?」


第二王子クロヴィウス殿下とシリエンスのデートから帰城すると、俺はクロヴィウス殿下に1人だけ呼ばれて薄く笑うクロヴィウス殿下を前に言葉を失っていた。


殿下がデビュタントでシリエンスのエスコートをしてから、シリエンスの事を気にしていたのは気づいていた。

今日の外出がお忍びだと言う事はわかっていたし、目立つ可能性がある俺は留守番を言い渡されていた。

でも、殿下に頼み込んで交代してもらい、護衛として同行できることになった。


近くでシリエンスを見ていれる幸せな時間と、殿下とシリエンスが楽しそうに話す2人を見なければならないと言う苦渋の時間とが混在した時を過ごす事になったわけだが、別に後悔は無い。

このまま、2人がくっついても最初は辛いだろが、しばらくしたら俺の気持ちも落ち着くかもしれないし、このまま殿下の近衛でいれれば、王子妃になるシリエンスを近くで見守れるかもしれない・・・なんて脈絡もない将来の事を考えていた事がばれたのだろうか?


「そんな顔をしてもわかるよ。2人ともチラチラチラチラ、お互いのことを目で追っていたからね」


殿下は大きくため息を吐いた。


「お互いに?」


確かに自分はシリエンスを時々見て居たのは否定できない。

しかし、シリエンスも?

確かに、何度か目はあったが・・・。


「シリエンス嬢も上手に隠していたけれど、ロンの事ばかり気にして居るのは直ぐにわかりました。まさか、夜会の日はロンの顔に見惚れて居るのかと思えば、まさか知り合いだったなんて・・・」

「申し訳ありません」

「謝ることは無いけれど・・・」


殿下は少しだけ残念そうな顔をしていたのが、俺が謝罪するとその顔が困った様に歪んだ。


「こちらとしても、わかりやすくて助かったよ。私も本気になる前のいいな・・・のタイミングだったからね。まぁ、どちらかの一方的な想いなら私も気にしなかったけれど、お互いに想い合っていそうなのを邪魔するほど、無謀では無いよ。それに、今はどちらかと言うと2人の事が気になってしかたないですからね」


先程同様薄く笑うが、その笑みはどちらかの言うと何かを含んだ様な黒い笑みだ。

初めて見る殿下のその笑みにどこか怖さを感じる。


「・・・で?話してくれるよね?」


有無を言わせない圧があり、俺は気圧されてポツリポツリと俺の状況とシリエンスとの事などを話せばクロヴィウス殿下は真剣に聞いてくれた。

殿下の近衛になるときに、生い立ちは調査されて居るはずなので、殿下に血筋を隠す必要も無い。

ただ、シリエンスとの出会いや一目惚れの話は、話しながら火が出そうなほど恥ずかしかった。


「で?それで、シリエンス嬢を見守っていれればいいと?」

「はい」

「それは、ただの自己満足では無いですか?」

「そうかもしれません。ただ、シシィを巻き込みたく無いのです。それに、もと平民ですし」

「凄く女々しいのですね、ロンは。それだけ好きなら自分で守るくらいの男気を見せなさい」

「しかし・・・」

「あのね・・・、よく考えて?ロンは私付きの近衛騎士ですよね?もし、看過できないほど事があれば、そこは私も叔父上にも動いて貰えばいい。私から、あなたの父親の事は報告しておきます。気にする事など何もない」

「あ、ありがとうございます」


深々と頭を下げた。

今まで、誰にも相談する事もなく仕舞い込んでいた物を少し吐き出すと、身体も心も少しだけ軽くなった気がした。


「まぁ、今回は私が身をひく代わりに、シリエンス嬢との進捗は随時教えてくださいね。私、こう見えて色恋の話は好きなのです」


意地の悪い笑顔をして居るが、その奥には優しさを感じる。

まだ、就任して間もないが心からこの人の近衛騎士になれてよかったと思っている俺は、チョロいのだろう。

それだけで、今まで養父に言われて無理矢理頑張って来た人気取りも無駄では無かったのだと思う。

ランキング上位に入らなければ、殿下とこのように会話する事も無かっただろう。


「話せるほど、進展するかは微妙ですよ?」

「時間は掛かるかもしれないけれど、そこは大丈夫だと思っていますよ。取り敢えず、まずはデートからですね。また、お誘いする約束もしているので、私が素敵な御令嬢をまずは、紹介しましょう」

「??」







クロヴィウス殿下からの良くわらない話から数日後、なぜか俺はまた再び殿下とシシィのデートに同行して居た。

前回と同じ様に、シシィとその侍女、殿下と俺が馬車に乗り込む。


「シリエンス嬢、前回は楽しいひと時をありがとうございます。実は、私の近衛騎士が貴女を紹介して欲しいみたいで、今日は再びお誘いしました。ロン自己紹介を」

「え??ロ・・・ロナルド・ペイシです」


ここで殿下の意図を汲み取り、ロナルドとしての自己紹介を行う。

きっと、ロイとしてではなくロナルドとして、シシィと向き合えという事なのだろう。


「ペイシ子爵家の三男ですが養子です。歳は17歳、14の時騎士の学校へ入り、昨年騎士になりました。今年の人気ランキングは5位でクロヴィウス第二王子殿下の近衛騎士を拝任しました。好きなものは花です。どうか、今後はロイとお呼びください」


早口で簡単な自己紹介をする。

本当は養子のあとの核心の部分を話したいが、ここで話すべきか悩ましい。

そして、最後に本当の名前を呼んで欲しい事を伝えた。

ロナルドではなく、ロイ言う名を。

ロンと言う愛称も、嫌では無いがシシィにロイと呼んで欲しい。


「わかりました。仲良くしてください、ロイ様」


シシィはにっこりと笑い承諾した。その笑顔があまりにも可愛いい。


「なら私もロンでは無くて、ロイと呼んでもいいかな?1人仲間はずれは寂しいですし」

「も、もちろんです!殿下に呼ばれるのも嬉しいです」


決して友人では無い。

だが、そんな気やすさを出してくれるクロヴィウス殿下に呼ばれるのも心から嬉しい。


「なら、ロイと呼びますね」

「はい」

「これから前回少し話した植物園に行く予定です。貸し切りにしているから、ゆっくり過ごせるし、2人とも植物が好きみたいだから丁度いいと思ってね。まぁ、お見合いくらいに思っておいてください。一応ロイは職務中だから、もれなく私も居るけど許してくださいね?」


そうだ。なんとなく、気の抜けた空気感が漂ってはいるが、俺は只今殿下の護衛中である。

あまり、気を抜きすぎるわけにはいかない。


「お心遣いありがとうございます」


暫く馬車の中は和気藹々とした雰囲気であった。

今回は無言だったシシィの侍女も緊張しつつも今日は時折話に混ざり、他者から見たシシィの話を聞くことができた。

彼女の推し騎士は団長らしく、今年は投票出来なかった事が残念だったと力説されたときには殿下も俺も思わず声を出して笑ってしまった。


団長は人柄も良く、面倒見もいいが恰幅がいい。

騎士としての任期も長く、ランキングが始まる前から所属しているため、剣の腕も確で実力派の叩き上げ。

女性人気よりも部下人気の方が圧倒的に多い人物だ。

昨年までは団長も人気投票に仕方なく名前を残して居たが、団長は高順位に食い込む事もなく年齢も40が近づいてきたため、今年から免除となっていた。


そんなランキングの裏話をはなしたり、殿下の話を聞いていれば植物園まではあっという間に着いた。


他の護衛の手前、シシィと殿下が前を歩き、話をしながら時々俺に話しを振ってくる。

花に詳しいのが意外だったようで、他の先輩達にも驚かれた。


「さて、そろそろ1人ずつ休憩を取ってください。まずはロイから。シリエンス嬢、私も少し疲れてしまったのでよければ、あちらの木陰で休憩させてください。申し訳ないのですが、その間好きなところを見ていてくださいますか?」

「わかりました」


しばらくして、殿下の指示のもと休憩を取ることとなった。殿下の計らいで、シシィと2人で話す時間も取ってくれた。

俺はシシィとベンチに腰掛けて、再開するまでの事を話し始めた。


「シシィ、再開した日は冷たい事を言って、ごめん。あの時、シシィは俺と関わらない方がいいと思ったんだ」

「何か理由があったのでしょう?」


俺はコクリと頷き、ペイシ子爵家に養子になった経緯を話した。


話し終えるとシシィは辛そうな表情で、俺の手をそっと握ってくれた。


「色々とあったのね」

「あった・・・。だから、俺と関わると、シシィにも迷惑が掛かると思った。でも、デビュタントの夜会に俺も殿下の護衛で参加するのは決まっていたから、シシィを離れた場所から見るくらいなら、許されるかなとか少し下心もあったけど・・・」


俺の事情を話すのも、心情を話すのも方向性は違うが恥ずかしい。

だから、その恥を集約してシシィに吐露して、俺はそれを我慢する。


「シシィが殿下の相手に選ばれて近くで見る事の出来る喜びと、楽しそうに2人で会話する姿が羨ましくて当日はソワソワしていた。しかも、そのあと殿下がシシィのことを気にいったのを知って本当に焦った。観劇に誘ったのを聞いて、居残り組だったのを無理やり護衛任務にしてもらうように頼み込んだし・・・」


シシィは驚いた表情を見せた。

くるくると変わる表情がかわいい。

話さないといけない事は沢山あるし、話したい事も沢山ある。

喋る事が得意じゃない俺も無意識に、早口でお喋りインコの様に喋っていた。

シシィはそれに相槌をうちなが、口を挟む事なく聞いてくれていた。


休憩が終わる少し前に、俺はやっとその口をつぐんだ。

その頃には喋りすぎて少し息が苦しくなっていて、明日は顎が筋肉痛になったりしないかと、自分の顎を撫でた。

話し終えれば恥ずかしくて、シシィの顔を直視できない。

2人とも次に何をしゃべればいいか無言で、聞こえてくるのは水の音だけ。

そこにシシィの衣擦れの音がして、俺はそっとシシィの方へ視線を向けた。


「ロイ・・・ロナルド・ペイジ様。私もお花が大好きです。もし、よろしければお・・・お友達になってください!」


シシィが顔を真っ赤にして、俺の方をきちんと向き可愛い声で、可愛い言葉を紡いできた。


俺は思わず、顎が外れたようにあんぐりと口を開き、可愛さに見惚れつつその言葉を脳内で何度も何度も繰り返す。


「ロ、ロイ?」


全く反応しない俺を心配そうな、不安そうな表情でシシィは覗き込んで来た。


「超絶かわいい」

「え?」


思わず出てしまった本音に俺は拳で顎を持ち上げ口を閉じる。

がんと鈍い音で、痛みを感じるがそんなの今はどうだって良い。


「もちろんです、こちらこそお友達になってください」

「よかった」


ぱぁっと、微笑むシシィの周りに花々が舞い散る。

今まで、悩んでいた事が嘘の様に幸せが満ちていく。

もちろん、不安はあるが今はこの幸せだけを感じたい。


「そろそろ、戻らないと・・・。休憩が終わってしまうわ」


シシィをエスコートして戻ると、殿下は何か察した様にいつも以上の笑顔を向けてきた。


「帰りに色々聞かせくださいね」


その言葉通り帰りの馬車の中では、殿下とシシィの侍女2人に顔を真っ赤にしながら改めて友達になった事を報告した。


2人ともとても喜んでくれたが、俺に対してはもう少し頑張ってと励まし?の言葉をもらい、色々と背中を押してもらえたので、これからはもっと頑張らないといけない。


義父への憂いは遠のいたものの、もう一つの懸念事項がある。


ランキング・・・俺を応援してくれている人達についてである。

ファンにシシィと仲が良い事が知れれば人気は落ちるだろう。

対応が塩対応でも良いなら、すごく助かるがランキングが下がって殿下付きで無くなる・・・降格になるのは残念だ。


「え?そうなれば手を回すから大丈夫ですよ」


ある時、ポロリとこぼれたその不安を、殿下は満面の笑みで心配するなと答えてくれた。

年下ではあるが、頼りになる上司だ。


それと、シシィに対して何か嫌がらせなどあるのでは?などと懸念したが今のところは特に何も起きていない。

と言うか・・・


「今日はどちらのお花?」

「こっちを植え替える。手が汚れるから、見ていて」


もっぱら、2人で会うのは俺たちが出会ったうちの店だ。

外出するにしろ、なるべくシシィの身体の負担にならないように気を使い空気の綺麗な郊外にピクニックへ行く事が多い。

人に会わない場所が多いため、今のところはばれる事もなく考えていた嫌がらせは無い。

シシィのあの満開の笑顔は守れている。


「私もしたいの。お願い?」


シシィから上目遣いで懇願されれば、もう頷くしかない。

シシィは俺を手玉に取り転がすのが無意識の上に身についてきており、将来一抹の不安がある。

まぁ、それも甘んじて受け入れるだけの気持ちはあるし、可愛いので余儀ない。


もちろん、まだはっきりと言葉にはしていないがお互い気持ちは自覚しているし、わかっているので関係が変わるのもすぐだろう。

でも友達としての時間を楽しみたいと言う贅沢な気持ちもあるのでもう少しだけ、告白の予定は先だ。


「あら?ロイ、お鼻の上に土が」


(近い、近い!顔近い!可愛い!)


「あ、ありがとう」


後ろから咳払いが聞こえるが、それは無視だ。


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