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5位の場合 5

「本日は突然お誘いして、すみません。どうしても、もう一度シリエンス嬢にお会いしたくて・・・」


シリエンスはその優しげな微笑みに笑い返すが、目の前にいるこの国の第二王子クロヴィウス殿下の来訪に内心は戸惑っていた。


夜会より2日後の昨日。

シリエンスの父であるアダスト伯宛に第二王子から手紙が届いた。


デビュタントで初めて会ったシリエンスに惹かれている事、一度デートをしてもらえないかとお誘いが書かれており、王族の誘いを断れるわけもなく、シリエンスはクロヴィウスを出迎えていた。


「お誘いいただいて嬉しかったです」

「娘は身体が弱く、ずっと領地にいたため至らないところもあるかもしれませんが、本日はどうぞよろしくお願いいたします」


シリエンスの横にいる父親が深々と頭を下げた。


「あまり畏まらずに、肩の力を抜いて楽しんで欲しいです」


クロヴィウスに目を向けつつも、シリエンスはその後が気になってしょうがなかった。


前回会った時同様、クロヴィウスは後ろには護衛らしき人物を3名付従えていた。

これが通常のパターンなのだろう。

しかし、1人だけニースデールのフードを深々と被り、顔を隠している。

シリエンスはそのニースデールとフードから見える顔の下半分に見覚えがあり、何度かチラッとその人に目線を向けた。


「そろそろ行きましょうか」


クロヴィウスに手を差し出されてシリエンスはその手を取り、外に停めてあった馬車へと乗り込んだ。

馬車の外観は普通の貴族か使う物と遜色ない見た目であったが、その家を示す装飾や家紋などは無くシンプルな物であった。

本日のお出かけはクロヴィウスのプライベートな物のため、なるべく王族だとわからない作りのものにしているのだろう。

しかし、外観と違い中は広々としており座り心地が良さそうな座席。

座ればスプリングが効いているのか、見た目以上に座り心地は良い。

馬車にはクロヴィウスとフードの護衛1人、シリエンスとランの4名が乗り込んだ。

6人乗りの馬車のため向かい合って座っていても、膝が触れるような事も無い。


「本日、先触れ通り観劇の予定ですが、シリエンス嬢は大丈夫ですか?」

「はい。とても楽しみです」


シリエンスは当たり障りのない会話をクロヴィウスとしつつも、やはりフードを被っている人物の事が気になってしまう。

クロヴィウスの横に座るその人はシリエンス視線の端に、どうしても入ってしまいシリエンスの目は彷徨ってしまっていた。


「彼が気になりますか?」


それに気づいたクロヴィウスは優しく問いかけてきた。


「い、いいえ」


建前ではいいえだが、本音ははいだ。

もちろん、クロヴィウスもそれは承知の上だろう。

気にする様子もなく、普通に教えてくれた。


「ご存じの事と思いますが彼は私の近衛騎士のロナルド・ペイシです。ロン、馬車の中で顔は隠さなくてもいいですよ」

「承知しました」

「ロナルド・・・ペイシ様?」


シリエンスの思っている人物と名前が違った。

しかし、フードを取ったその人はシリエンスの思っていた通り、ロイである。


「知っていると思いますが、彼は今年の騎士の人気ランキングで上位だったため、私付きの近衛となりました。普通の視察なら問題ないのですが、本日は一応プライベートですから・・・。彼は目立ってしまうので、お忍びの時は目立たないようにね」

「ランキング上位?」

「もしかして知らなかった?時々、ロンのことずっと見ていたから、知っているのかと思っていたのだけれど・・・?」

「あ・・・」


シリエンスがロイを見ていたことがばれていて、羞恥心で顔がほんのりと赤く熱をもつ。

しかし、ロイが騎士だと言うことはなんとなくは分かっていたが、ランキングが上位で会ったことは驚きである。


名前も違うため、養子に行ったことと関係があるのだろうか?


シリエンスは色々と聞きたかった。

もし、今日を逃したら一生聞けずに終わるのだろうか。

そう思うと照れている場合ではない。


「彼とは一度、王都に出てきた時にお会いした事があったので、職務中だったので声をお掛けしようか迷ったのです。不躾な視線を向けてしまい、申し訳ありませんでした」


ロイは一瞬、目を見開きすぐに表情を取り繕うとかるく頭を下げた。


「いえ、こちらこそご挨拶致しませんで。お久しぶりです。シリエンス・アダスト伯爵令嬢」

「騎士になられたのですね。ランキングの方も世相に私は疎くて・・・」

「ロンは2年目ですが、今年は5位だったのですよ」

「まぁ、おめでとうございます。・・・私もロン様とお呼びしていいですか?」

「・・・はい」


ランキング上位に行くだけあって表情は上手く取り繕ってはいるが、内心は嫌なのだろう。

返事がワンテンポ遅く、シリエンスは戸惑った。

それ以上会話がロイと続くことは無かった。

その後、馬車内ではクロヴィウスが会話の主軸にシリエンスにとっては楽しい時間が過ごせた。

時々、クロヴィウスだけではなくロイとも会話ができて、ロイに関わるなと言われて落ち込んでいた気持ちに、少しだけ光が差し込んだような気がした。

もちろん、本日はクロヴィウスのお誘いなので優先すべきなのがクロヴィウスだと言うのは重々シリエンスも理解している。


「クロヴィウス殿下は王立学園には通われているのですか?」

「はい。兄の手伝いもありますので、私は通いです」

「お忙しくはないですか?」

「きちんと、自分でできる範囲の公務なので、そこまで大変ではありませんよ」


クロヴィウスが学生だと言う事を聞いて、シリエンスは学生生活がどんなものか興味がわき色々と聞いてみた。

シリエンスは学校に通ったことがない。

身体が弱かったため屋敷に家庭教師を呼び一通りの教育を受けていたが、学校という社会の縮図にもそれなりに興味があったし、物語の中で見て想像を繰り広げた事が何度もある。

王族の男児は見聞を広げるため王立学園には必ず入学する事になっていて、楽しい話を沢山と教えてもらえた。


話は尽きず、気づけば歌劇場へと着いていた。

裏口に馬車が停められ、そこから劇場内へと入場した。

表から入った事は一度だけあるが、裏口からの経験は無くシリエンスは内心は冒険のようだとワクワクした。

クロヴィウスにエスコートされながら、後ろには体格のいい近衛騎士とランが着いてくる。


そのままボックス席に通されて、シリエンスとクロヴィウスは着座し、その後ろに前を向いたランが立つ。

護衛3人中2人は入らずに、またしても1人だけロイが中に入り、入口の方を向き立っていた。


「なぜ、彼だけがいつも近くにいるか気になりますか?」


クロヴィウスにはお見通しのようで、シリエンスは素直に頷いた。


「彼が外に居て万一、人が集まってきたら困りますからね。顔を隠しているとは言え、その立ち姿だけで誰か判断できるファンもいるから・・・」

「な、なるほど・・・」


ロイの存在感はそれなりに影響力があるらしい。

王子であり、日々人目を気にしなければいけないクロヴィウスの言葉には重みが感じられる。


「それと、ロイヤルボックスを使うと王族が来ているのがばれてしまうから、今日は一般的な個室ですが・・・ごめんね?」

「私は来たことがあまりありませんので、どの席でも特別感があります」


目立たぬ様にクロヴィウスは配慮してくれているのだろう。

暫くして緞帳が上がり演目が始まれば、シリエンスはそちらに視線を向け舞台の内容へと意識を集中した。


幕間の休憩もドリンクだけオーダーして出ていくことは無かった。


舞台が終わると人が出てくる前に、速やかに入ってきた時と同じ通路で劇場の裏口から出て行き馬車へと戻る。

舞台の臨場感と相まってシリエンスはドキドキハラハラ、気持ちが高揚していた。


「騎士様の物語が人気なのですか?」


今日見た作品は騎士と姫の恋物語であった。

シリエンスが前に見た作品は王子との恋物語だったため、少し気になったのだ。


「そうだね。最近は王子の物語語りよりも騎士の物語の方が人気みたいだよ。現実と同じだね?」

 

馬車の中でクロヴィウスがクスクスと笑うと、シリエンスもつられてクスクスと笑い始めた。

クロヴィウスはこう言った冗談を言うタイプらしい。


「あ、でも騎士ランキングが始まってからは本当に騎士の物語が多くなったのは事実だよ。私は、あまり恋愛物は見ないからそこまで詳しくはないけれど」

「あの劇を見たら騎士様に憧れる方の気持ちもわかる気がします」

「シリエンス嬢はあまり騎士には興味がない?」

「興味が無いというか、よくわからないです」


チラリとロイの方へと視線を向けかう。


「恥ずかしながら、毎年人気投票も前年に1位か2位の方に投票していたので・・・」


シリエンスは適当に投票していた事を伝えると、それが少し恥ずかしかった。

そのため今年の結果もそこまで気にしていなかったので、本当にロイの事も知らなかったのだ。

クロヴィウスの隣に座っているロイを見ると、バッチリと目があってしまってシリエンスは余計に恥ずかしくてそのまま下を向いた。


「なら、シリエンス嬢はどんなことに興味があるの?」

「私は自然豊かな場所で過ごしていたので、植物に興味があります。領地の自室から見える花畑が私の一番好きな景色です」


部屋で過ごすことが多かった幼い頃、両親はシリエンスが自室で静かに過ごす事に飽きない様に、自室の窓から見える場所に花々を植えた。


風向きで花の香りが部屋まで漂ってきて、領地のシリエンスの部屋はこの国一の絶景だと思っている。


「アダスト領は花の栽培が盛んだったね。シリエンス嬢も植物に興味があるなら、王都だと植物園は行ったことある?」

「はい。他国の珍しい花を観察しに時々足を運んでおります。温度管理もしっかり区域ごとにされていて、とても見応えのある植物園です」


それから、休憩に立ち寄ったティーサロンでも帰りの馬車の中でもクロヴィウスはシリエンスの興味のありそうな話を中心に話題を広げて行ってくれた。


「本日は私に付き合ってもらってありがとうございました」

「とても、楽しい時間でした」

「もし、嫌で無ければまたお休みにお誘いしても?」

「私で良ければ」


シリエンスは今までこのような別れ際の挨拶を交わす事がほぼ無かったため、家庭教師に習った通りの返事を返す。

勿論、クロヴィウスとの時間は楽しかったしお友達として誘ってもらえたら嬉しいので、嘘では無い。


「では、また」


クロヴィウスが馬車に乗り込み、続いてロイも乗り込んで行く。

シリエンスはそれをそっと目で追うが、ロイと再び目が合う事は無かった。

そのまま頭を下げて、馬車を見送る。


クロヴィウスとの時間はとても楽しかった。

シリエンスの大好きな花の話も嫌な顔をせずに聞いてくれるし、話を広げてくれた。

ただ、そこにロイが入ってこない事がどこか寂しくもあった。

自分達の会話に勤務中の騎士が話に入ってくるなど言語道断であろう。


それはわかっているが・・・


「ロイとも花のお話をしたかった・・・」


目の前に居ても話ができないことで、寂しさは募るばかりだ。


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