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2位の場合 4



アリエスは王女の後ろで固唾を飲み、勝敗の行方を見守っていた。今は勤務中だ。あまり、試合に集中しすぎるのも良く無いが、2人の戦いかたが大胆なのに美しく、剣同士がぶつかり合う金属の甲高い音もどこか心地の良いメロディーのように響き、目が離せない。

もちろん、アリエスにとっては婚約者と弟の試合でどちらも応援はしているが、リューサルトに勝ってほしいという想いの方が強い。だが、見ていると幾分かルベルクの方に勝算があるように見てとれた。







試合の少し前、王女の計らいでリューサルトに会う時間を少しだけ設けてもらえた。アリエスはリューサルトの居る、スタジアムへ降り立つと会場の視線が一気にアリエスへと向いた。緊張の面持ちで中心部に近い部分に居るリューサルトへと歩みを進める。

リューサルトもアリエスへと視線を向け、アリエスが側まで来るのをその場でじっと待っていた。


「リュー・・・殿下が時間くれて・・・」

「あぁ・・・」

「頑張って」


すると、アリエスは自分の髪を纏めていたリボンを解き、アリエスは私も一緒に戦うよ、と言う意味を込めリューサルトの二の腕へと巻き付けた。


「邪魔になるかな・・・」


結び終わり、照れくさそうにリューサルトを見上げた瞬間、後頭部が抑えつけられそのままリューサルトによって唇が奪われた。


またしても人前である。


アリエスは驚きの拍子に口を開いた、その瞬間にリューサルトの舌が口内へと侵入してくる。

アリエスはリューサルトを押し返そうと腕に力を入れるが、リューサルトの拘束の方が強かった。仕方なくされるがまま、暫く放心状態で口内を蹂躙されながらキスが終わるのを待った。


どのくらい時間経ったのかわからない。

数秒か、数分か。


キスが終われば衝撃的なできごとにアリエスは頭がクラクラしてしまい、その場に崩れて落ちそうになる。それを、リューサルトは腰へと腕を回し、膝をかかえてアリエスを横抱きで抱えた。人生でこんな頻度でお姫様抱っこをされた経験はアニエスにはない。


「あー、アリエス・・・本当に、本当にごめん。僕も理性飛んでた・・・」


早足で歩きながらバツが悪そうに流石にやりすぎたとリューサルトはアリエスに誤ってきた。


「・・・」


一昨日も人前でキスをしたわけだが、本日のキスはアリエスにもファンたちにも一昨日の倍以上の威力があった。

アリエスには足腰にダメージを与え、観客は決勝の興奮状態を最高潮まで助長させた。


もう少しでリューサルトは試合開始時間だ。急いでアリエスを王女の元へと帰さねばならない。ただいま絶賛職務中だと言うのにアリエスを腑抜けにしてしまい、お小言も致し方ないだろう。


「殿下、申し訳ありません」

「もう始まるわ、不戦勝なんかになったらアリエスが悲しむわよ。早く行きなさい」

「失礼いたします。アリエス、見ていて」


アリエスをその場に下ろすと、リューサルトは駆け足で中央へと戻っていった。小さくなるリューサルトの背を見つめたまま、暫く放心状態だったアリエスに王女が声をかける。


「アリエス、試合が終わるまでにしっかりしなさい」


その言葉でアリアスの背筋が伸びて、雰囲気が変わる。仕事の最中だと気を引き締めるために、腰に携えている剣にそっと触れて深呼吸する。

因みに、リューサルトが隣にいる時と王女の後ろに控えている時の対比に、アリエスのファンが今少し増えた。


だが、アリエスは試合が始まると急にソワソワしてしまい集中力を欠いてしまう。王女が‘‘試合が終わるまでに・・・‘‘と言った言葉がなぜ試合後なのか、アリエスは試合が始まりやっと理解できた。


(ありがとうございます)


アリエスは心の中でそっと王女へのお礼を告げる。アリエスよりも年下なのに、きちんと周りを見て状況を判断し先読みするあたりとても優秀である。そんな王女にアリエスは尊敬の念を抱いており、王女の近衛騎士となれたことに幸運に感じている。


アリエスは視線を中央の2人に戻す。遠目でも、リューサルトに疲労が見て取れ防戦一方だ。それに比べて、ルベルクはまだ余裕のある表情で攻戦的。見ていれば、はば勝敗はついていた。

しかし、リューサルトはルベルクに打ち込まれた剣を渾身の力で払い退け、そのまま攻撃に転じた。リューサルトの一撃がルベルクに決まると思った瞬間、ルベルクはしゃがみ込みそれよりも早く、腹部へと切り掛かり勝敗はついた。


ルベルクの優勝である。


客席から拍手と声援が2人へと贈られる。2人はお互いに向き合い礼をとると、歩み寄り笑顔で何か会話を始めた。


「惜しかったわね」


この後、表彰式が行われる。王女は閉会式まで出席のためアリエスも最後まで立ち会う事となっていた。

王女の後ろで表彰式が終わるまでの間、時折リューサルトと目があった。


そのまま、閉会式が終わり王女を居室まで送り届けて日報を作成し交代の騎士と入れ替わり、その日のアリエスの勤務は終了だ。

城内を歩いていると顔見知りの侍女や女官に声をかけられる頻度がいつもより多かった。

今日の決勝戦がどうだったか聞かれたり、準優勝おめでとうございますなど声をかけられて帰るまでにそれなりに時間を消費した。

やっとの事で騎士団本部の詰所にたどり着くとそこでも同僚に声をかけられる。アリエスはまだ可愛いものだ。


閉会後、装具を詰所に置きに来たリューサルトは周りを完全に囲まれているらしく、まるまる一部屋が暇な騎士でごった返していた。

暑苦しく、男臭く、女性は踏み込みたくない空間となっていた。リューサルトに声をかけたいが、流石にこの空間に突入して行く事は避けたい。

仕方なくアリエスはリューサルトの横顔だけ見て、その部屋を素通りしようとした。


「アリエス!」


すると、部屋の中から手を高く上げリューサルトがアリエスを呼び止めた。


「あー、ごめん。アリエスとこの後・・・」


リューサルトがそう言いかければ、同僚達は色々と察してアリエスとリューサルトの間に花道が生まれた。それはもう、見事な程真っ直ぐに。


「ありがとう、またな」


周りに声をかけて手を軽く振りながらリューサルトはアリエスの前まで、嬉しそうな表情を浮かべて歩み寄ってくる。


「お待たせ」

「私も今来たところ」


全く予定は無かったが、リューサルトにアリエスは話を合わせる。


「仕事は?」

「終わった。日報を出しに来たの。リュー、今日は残念だったけど準優勝おめでとう」

「ありがとう。終わったならこれから、食事行かないか。話したいことがあるんだ」

「大丈夫だけど、着替えた方がいい?」

「いや、時間も惜しいからそのままで」

「わかった」

「あと、今日はその・・・またキスしてごめん」


忘れていた事を思い出さされ、アリエスは一気に頭が沸騰しそうになる。文句の一つでも言おうと横からリューサルトの顔をみるが、表情が伺えず詰所内であることもありアリエスは口を閉ざした。無言のまま日報を提出して、リューサルトと共に詰所から少し離れた目抜通りにある人気のレストランへと向かった。ポツポツと会話しながらも、道すがら街の人やファン達から声かけられる。

ファンサービスのため無下にする事も出来ず、いつもの倍以上の時間をかけてレストランへと到着した。


中へと通された席は個室で、どうみても空いていたから通されるような席では無かった。しかも、個室という事は周りの目を気にする必要がなく、ゆっくり食事に集中できる。


「予約してたの?」

「あー、まぁ勝っても負けてもアリエスと祝いたかったのと、ちょっと話したい事ができて・・・」


リューサルトはワイングラスに注がれたワインを一気に煽り、ジッとアリエスを見つめてきた。

そんな風に酒を飲む姿を初めてみて、アリエスはリューサルトの意外な一面を見た気持ちであった。そのまま、リューサルトが何か話したそうにしているため、アリエスはリューサルトが話し始めるのを静かに待った。


「・・・今日、試合の後にルベルクからアリエスがまだ色々と勘違いしてそうだと、聞いて・・・」

「勘違い?」

「アリエスは僕がなんで婚約を申し込んだと思ってる?」


(出世のためにランキングの順位を上げるため・・・)


心の中では直ぐに答えられるが、それを口から出す事は躊躇われた。勿論、わかっているがリューサルトを好きな気持ちを自覚している今それを口にする事が辛い。


「アリエス?」


少し俯き、問いに答えようとしないアリエスの顔をリューサルトは覗き込む。ずっと無言を貫くわけにも行かず、声が震えないように呟くようにゆっくりと声を発する。


「ランキングの、ため・・・」

「・・・ランキングのために協力を求めたのは・・・婚約の申込みをする前までだ。婚約を申し込んだ時、ランキングは関係なかった。勿論、順位が落ちるのは困るから、全く考え無かったわけじゃない・・・」

「・・・なら、なんで?」

「アリエスの横に僕以外が並ぶのが嫌だった」


リューサルトは目を瞑り、大きく息を吐くとゆっくりと目を開きアリエスへと真剣な眼差しを向けてきた。


「アリエス、愛しています。態度で伝えていたつもりだったけど、ルベルクに言われて今までちゃんと言葉にしてなかったと反省した。勿論、ファンへのアピールもしてたけど、それと同時に周りへの牽制もあったし、僕がどうしてもアリエスに触りたくて我慢できなくて・・・」

「愛して、る?リューが私を・・・?」

「愛してる」


その言葉にアリエスは固まる。そして、話の内容も思っていたよりも赤裸々であった。


「だから、婚約を申し込んだ。今後、僕の目標は1位をとるのは勿論、爵位を貰う事を目指す。だから、結婚してほしい。あ、でも、直ぐにではなくて、1位を取るまで待ってほしいんだけど」


ライルが騎士団に居る限り、それは難しいのではないかとも思うがそれは飲み込んだ。それにアリエスもまだまだ仕事が楽しい、結婚すれば子供の事も考えねばならないのでもう少し先でも良いとは考えていたのだ。


「私も仕事が楽しいし、まだ待てる。でも、1位になったら、結婚させてもらえないかもしれないけど・・・副団長がそうでしょ?」

「副団長の場合はね。ファン離れの可能性が高いと思われてるんじゃないかな。でも、僕達の場合は婚約期間が長い方がファンに不信感与えるよ。だから、もし結婚が却下されてもそれを取り下げるだけの言い分は用意してある」


そういう所は手回しが良く用意周到である。


「あ、なんなら1位取れるまで結婚しません。て、宣言してみる?そしたら、票数伸びるかも」

「流石にそれは・・・卑怯じゃない?」

「副団長は圧倒的だし。それでさ・・」・


リューサルトは意地の悪い笑みを浮かべる。


「アリエスは僕のこと、どう思ってる?」

「え?」


自分の気持ちを伝えた事で緊張が解けたのかリューサルトの発言はいつも以上に大胆だ。今日だけでなんどアリエスはリューサルトにフリーズさせられているのだろう。


「アリエスの気持ちも今まで教えてもらった事、無かったなって」


ニタニタと笑いながら、アリエスが答えるのを待っている。その様子はアリエスがどう答えるのかはっきりとわかっているのだろう。


「・・・好き」

「違う言葉で聞きたい」

「もう!わかっているなら・・・」

「言葉にしなきゃ伝わらない。今回、僕はとても反省しました」


リューサルトの言っていることは正しく、その正論を覆すだけの言いわけをアリエスは持ち合わせていない。


「あ、あ、愛し、て・・・りゅ」


アリエスは意を決して自分の気持ちを伝えようと絞り出した言葉の語尾を思わず噛んでしまい、舌足らずな言葉遣いに居た堪れなくなる。


「可愛いけど・・・ちゃんと聞きたい」


どこか少し不満な口調ではある。流石に恥ずかしくて、リューサルトの顔を直視できない。


「ま、今度デートの時にまた聞かせて。じゃ、込み入った話はここまでにして食事にしよう」





きっかけはリューサルトの向上心への貢献だった。それの延長・・・利害関係の一致で婚約したとアリエスは思っていた。その思い込みはリューサルトの気持ちを聞いて、勘違いであった事がわかった。

 

この日からリューサルトは気持を素直にアリエスに伝えるようになった。アリエスもまだまだ先は長そうだが、少しずつ自分の気持ちを伝える努力をしている。


しばらくはこの関係のまま2人の状態は続くかに思われた・・・が、次の年のランキングで状況が変わった。


「おめでとう!1位」

「いや、1位は1位だけれども・・・。全くもって嬉しくない」


5年連続1位だった副団長のライルが殿堂入りのため、ランキングから引退。王者不在で行われたランキングの新王者は安定の得票数でリューサルトとなった。


「正真正銘の1位だけど」

「嬉しいけど・・・スッキリしない。でも、結婚できるのは、嬉しい」

「私はもう少し後でもいいけど?」

「僕が嫌です」


意気揚々と結婚の報告をしに行ったが案の定、直ぐに待ったがかかった。しかしここからはリューサルトの想定通りに事が運ぶ。

いつの間にか、リューサルトが1位になればアリエスと結婚するらしい・・・と言う噂が拡散されており(事前に流しました)、結婚しない事がファンの間でさまざまな憶測をよび、騎士団に不信感を抱きかねない。ここまでライルが尽力してきたのに、地位の失墜になりかねないとリューサルトは上層部に力説した。


その結果、あっさりと2人の結婚は認められた。


アリエスはリューサルトに先見の明があるのではないかと考えている。






「これから今以上に忙しくなるな。アリエスがウェディングドレスは絶対だけど、紳士の正礼装や儀礼服でお披露目するのも僕達の場合は受けそうだよね」


早朝の訓練場。1位になったリューサルトが忙しくなり、なかなか時間が合わず2人で剣の打ち合いをするためにここへとやってきた。勿論、それは口実で短い時間だけでも逢瀬を楽しむためだ。


「そのスタンスは変わらないね」

「それはアリエスとの仲を見せつけたいのと、僕も見たいから。一生に一度のアリエスの姿を。そうだ、絵姿も残しておこうか?」


座っているアリエスの髪を丁寧に梳き、それを一纏めにして結い上げる。


「私も新郎のリューを見るのは楽しみ」


素直な気持ちをアリエスは伝える。


「あー、そうやって時々反撃するのは卑怯」


リューサルトはもう少しで結い終わる前に、髪から手を離した。そのまま、一纏めにした髪を痛みがない程度にゆるく引っ張られアリエスは顔をリューサルトへと向けた。リューサルトの顔が目の前にあり、求めている事がわかりそのまま目を閉じた。

そっと、柔らかな感触が唇に触れる。

触れるだけのキスをなんどか繰り返し、満足したのかリューサルトは再度アリエスの髪へと触れる。


「あー、もう少しで朝早い組が来るな」


リューサルトは不満を口にする。


「一戦やる?」

「あー、この状態でそんな殺し文句言うな」

「??」

「・・・あーなんでこんなに・・・」


ファンへのパフォーマンスはいつの間にかリューサルトの独占欲を満たすための行動へとなっていた。勿論何年も先、2人がランキングから抜けた後でもその行動が変わる事は無かった。アリエスがそれに気付くのはまだまだ先の話だ。




END


棚ぼた1位のリューサルト君、有言実行の男です。次は3位にするか5位にするか。3位はもうバレてるし考えてるのですが、5位が先の方が良いような。本当は2位を最後にするつもりでいたのですが、思い浮かんだものはしょうがない。ここまで読んでいただいてありがとうございました。

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