選挙戦なのです。
「ええ。俺っ、森野 真司は、毎日が超絶楽しい学校生活になるように――」
「うちーっ! 山梨 六花でぇぇぇす! よろしくねっ! ウェェェイ」
現在は朝である。
校門前で叫ぶ最速カップルの真司と六花。
内容が全く無い演説風の言葉を並べている。
凪は心配で仕方がない。
なぜならこの二人は間違いなく壊す。
初年度から私立綿津見高等学校を崩壊させてしまう。
と凪は予測出来るし確定だからだ。
そんな中、この二人からは距離を置く独り。
真面目に挨拶や握手を繰り返す独りの女子高生を凪は目にした。
「皆様。おはようございます。川井 静香です。この度――初代生徒会執行部『生徒会長』に立候補致します。川井 静香でございます。よろしくお願いします。おはようございます」
凪はこの女子高生なら何とかしてくれそう。
と、なんとも人任せではあるけれど勝手に期待をしている。
今回は推薦人なども必要無いらしい。
学校としてはとにかく体裁を先ずは作りたいのか。
とりあえず「立候補したい人は誰でも出てくれ」といった選挙らしい。
(なんかお嬢様ぽいしこの人かな。二人には悪いけど)
と、凪は呟きながらも一応二人の元へ歩みを進めた。
「おはよう、真司に六花」
「おはーっ」
「おはよう凪」
高校生らしい。を更にパワーアップした元気な様子である。
「そういえば、ちょっと二人に相談したい事が」
「え? もしかしてしおりんの事かな? んー?」
「まぁ、遠からず」
「んー。時間ないからさあ――グループで登録してからでもいいー?」
「聞いてくれるなら、まあ……」
と、トントン拍子で四人のグループを作られた訳だが。
今どきは早さが全てなのだろうか。
そう凪は考えてしまっている。
とはいえ個々で連絡が取れるようになったわけで。
「じゃあ選挙頑張って」
「「うぃー」」
二人の横を通り越し教室へと向かう凪。
選挙スケジュールは超過密となっているらしく。
どうやら明日には決めてしまうらしい。
ここ数日で男子生徒からの猛烈アピールも少し落ち着きを見たのだろうか。
凪が教室に入ると窓際に座る汐栞の姿。
校内では絶世の美女の扱いを受けている汐栞。
ようやっとと言ったところか、一息つけている顔を見せていた。
「おはよう汐栞さん」
「あ、おはようございます凪くん」
「選挙誰に入れるか決めた?」
「……えーと、そうですね六花に入れようとは考えてはいますが――」
いますが。
でも不安です――と言いたげに苦笑いを浮かべている汐栞。
あれだけ内容が薄い演説である。
いくら仲が良いとはいえ仕方のないことだろう。
そう凪が内心考え投票先を伝えてみることに、
「そっか。俺は……あの真面目そうな人かな、名前忘れたけど」
「川井さん。川井 静香さんですね、印象の良い方でした」
凪から視線を外し首を傾げる汐栞。
傾げるところだろうか……、と凪は思うが。
「そうだよね」
「凪くんはあのような女性はどう思いますか?」
窓の外を眺めながら汐栞が凪に尋ねる。
凪もつられて窓を覗き込みながら、
「? どうって、なにが?」
「あ、いえ――なんとなくです……気まぐれです」
今度は俯き出した汐栞。
「うーん、どうだろ?」
「そう、ですか。ありがとうございます」
何やら投票先を考え直しているのだろうか汐栞は「うーん」と唸っている。
と、そこへ真司が戻ってきたようで、
「凪も汐栞も、俺か六花にいれてくれよー」
と、なんとも脳天気な友人だった。
「ほんとに二人がうまくやれるか不安しかないぞ」
「なんだよなんだよ、やってみなきゃわからないじゃん」
「それはそうなんだけど……」
「確かに真司くんの言う通りですね。私も頑張ります……」
「修行とかなんとかってやつか?」
「うーん。なんと言いますか自分との勝負。でしょうか」
「そうだぜ凪っ、汐栞の言う通りだ!」
「は? よくわからんが」
と首を傾げながら凪は席へと戻った。
※
放課後の美術室で部員一名と顧問一名。
二人は部活動と呼んでいい内容なのかはさておき真面目に話している。
「なんだその兎人間……それに――」
「――今練習してるんですよ」
「夏海の息子はこんな子が好みなのか?」
「いや、美術部モデルいませんから。風景画なら想像でもかけますけど」
「モデルか。落ち着いたらになるとは思うが――」
「――選挙ですか?」
「ん? ああ、他にも身体測定やら進路相談――来月の中間テスト。キリがないな。ははは!」
忙しいのは生徒も先生も同じなわけで。
いやいや先生職に叶うわけもないのだけれど。
どちらにしても保奈美は余裕そうに笑っている。
そんな彼女は話題を戻し部活動の体裁を保つようすで、
「で、凪は人物画を学びたいのか?」
「うーん、どうなんでしょうか。小さい頃以来で描いてるので、なんとも」
「……そうか」
「……」
「ま、モデルは友達でも描けるしその辺にあたってみるのも一つだぞ、なんだったら兎の夏海でも描いてやったらどうだ? アハハ」
「……保奈美ちゃん」
「何年も人物画を書いてないって割には基礎はしっかり出来てるんだしな。――きっと夏海も喜ぶんじゃないか」
「それはないと思いますよ」
理由を話そうとしたが思いとどまる凪。
は――黙って兎人間の汐栞の『水彩画』描き進めていく。
「? 何をするにも三年間有意義に使うといいさ、ちゃんと早いうちから進路も考えておくのだぞ」
先程も保奈美が言っていた進路。
どんな子供も通る道。
凪は元から進学の道を選ぶつもりは無いのだが。
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