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97 偽物かどうか

 ベッドの上に寝かされているソフィア。

 穏やかな表情で寝息を立てている。


 怪我をしているようには見えない。

 少なくとも見えている範囲では。


「おい……ソフィア……」

「お待ちください」


 声をかけようとしたら、ファムに止められた。


「なんだよ……」

「私が彼女の様子を見ます。

 あなたは離れた場所で見ていてください」

「わっ……分かった」


 ドアの傍に立って見守ることにした。


 俺の隣では、案内してくれた老人が腕組みをしてファムを見つめている。

 何か変なことをしないかと警戒しているようだ。


 ファムは寝ているソフィアの傍へ行って、彼女の口元に耳を当てる。

 そして腕をとって脈を確かめ、額を少しだけ撫でた。


「どうやら……生き物のようですね」


 真顔で言うファム。

 そりゃそうだろ。


「いや……なに言ってんだよ」

「偽物とすり替えられる可能性は大きいです。

 少なくともこれは、人形ではない」


 当たり前のことを仰々しく言うものだから、思わず頷いてしまう。

 人形じゃないのは見りゃ分かるんだが。


「次に、この方が本物かどうかですが……」

「え? どう見てもソフィアだろ?」


 容姿は完全に彼女のままなのだが、ファムはなりすましや偽物の可能性があると言う。

 とても信じられないが……。


「仮に偽物だったとしたら、どうやって見分けるんだ?」

「彼女に目を覚ましてもらい、

 質問をいくつかすればいいだけです。

 その返答の仕方や内容で、

 私が偽物かどうか判別します」

「…………」


 こいつなら的確に偽物かどうか見抜けるんだろうけど、ぐっすり眠っている彼女を起こすのはなぁ。

 ちょっと気が引けるぞ。


「無理やり起こすつもりなのか?」

「いえ、そのつもりはありません。

 ちょっと声をかければ目を覚ますでしょう」

「なぁ……すこしそっとしておいてくれないか。

 ソフィアだってさっきの戦いで疲れてるだろうし、

 それに怪我だってしてるんだぞ」

「ですが……」


 ファムは納得していないようだ。

 そんな彼女を……。


「患者に妙な真似をしてほしくないのだがね」


 老人が文句を言った。


「申し訳ありません。ですが……」

「何を言っても無駄だよ。

 俺はその子に指一本触れるのすら許可しない。

 悪いが出て行ってもらえるかな?」


 今しがた、額や手首に触っていましたが。


 俺の心の中のツッコミなど気にするそぶりも見せず、老人はじっとファムを睨みつける。


 彼女は小さくため息をついて肩をすくめ、ソフィアから離れた。


「では、彼女の身に何かあったら、

 あなた方で責任を取って下さるのですね?」

「はんっ、言われるまでもない。

 俺たちの仕事は他人の命に責任を持つことだ。

 アンタがどうこう言う以前に腹をくくってるんだよ」


 老人はファムの言葉に鼻で笑って答える。

 責任の問題を持ち出すのはナンセンスだろう。


 ここは彼らのテリトリーなのだから、言うとおりにするしかない。

 素直に引き下がるべきだ。


 しかしファムは……。


「ええ、でしたら誓約書をお願いします」

「……は?」

「当然でしょう。

 彼女はフォートン家の貴重な財産です。

 もし何かあれば……」

「てめぇ……それマジで言ってんのか……」


 老人は剣呑な視線をファムへ向ける。


 このまま放っておいたら喧嘩になると思ったので、早急に仲裁することにした。


「まぁまぁ、落ち着いてください。

 こちらが出来過ぎた真似をしたのは謝罪します。

 すぐに出て行くのでお許しを」

「ふんっ、気分の悪い女だ」


 老人はファムを身体を下から上へとなめるように見渡し、最後にこう吐き捨てた。


「血の混じった“あいのこ”のエルフのくせに。

 偉そうなことを言いやがって」


 その言葉が吐き出された瞬間。

 場の空気が凍る。


「いま……なんと?」


 ファムの目が吊り上がった。

 明らかにいつもの彼女とは違う。


 ファムはどこか淡々としていて、感情を表に出すことはなかったと思う。

 怒ったり、泣いたり、笑ったり……そんな表情の変化が見られなかった。


 だが……今の目の前の彼女はまるで別人のよう。

 恐ろしいまでに怒りの感情をにじませている。

 それこそ相手を殺してしまいそうなほどに……。

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