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92 友人は一緒にいるもの

 どうもマイスの周囲に集まっている取り巻きたちは微妙な立場にあるらしく、彼女たちを守るために日々苦労しているのだという。


 例えば俺の治療をしてくれたカテリーナさん。


 彼女は当主と側室との間に生まれた婚外子。

 本妻の子である長女から嫌がらせを受けて育った。


 それは英雄学校に入学してからも変わらず、騎士科の長女はことあるごとにカテリーナさんを呼びつけていじわるをしていたという。


 彼女と仲良くなったマイスは、長女の嫌がらせから守るために常に一緒に行動するようになった。

 英雄科の生徒である彼女が魔法科のカテリーナさんと共に行動しているのはそれが理由だそうだ。


 他の生徒たちも、貧乏貴族の出だったり、庶民出身だったりして、学校での立場はあまりよくないらしい。

 マイスは常に矢面に立ち、盾となって彼女たちを守っていた。


 取り巻きと一緒にいるのは自分の権威を示すためではなく、みんなを守るためだったんだなぁ……。


 よくよく考えれば、マイスは他人を利用するような人でないのだから、自分の権威を示すために取り巻きなんて集めないだろう。

 少しでも彼女を悪役令嬢みたいに見てしまった自分が情けない。


「わたくしがこうして沢山のお友達に囲まれているのも、

 全てソフィアさんのおかげですわ。

 だから……何か恩返しがしたいと思って……」

「恩返し?」

「はい、彼女を孤独から解放したいのです」


 そう言って胸に手を当てるマイス。


「それなら、マイスが友達になればいいじゃないか」

「それは……」


 途端に表情を曇らせる。


「え? ダメなの?」

「はぁ……バカですか、サトルさま」


 ファムが額に手を当ててやれやれとかぶりを振る。


「マイスのお友達はソフィアさんを怖がっています。

 彼女たちの目の前で仲良くできるはずないでしょう」

「え? でも、屋敷では……」

「確かにフォートンの屋敷には他の生徒の目はありません。

 ソフィアさんと仲良くするのも難しくはなかったでしょう。

 ですが……そう簡単にはいかないものなのです」

「え? え?」


 俺はファムの言葉がいまいち理解できなかった。


「想像してほしいのですが……。

 ソフィアさんとマイスが仲良くなったとして、

 学校では今まで通り犬猿の仲としてふるまったら、

 ソフィアさんは傷つくのではありませんか?」

「いや……お互いに微妙な立場なのが分かってたら、

 別に傷ついたりしないんじゃないか?

 なぁ、マイスもそう思うだろう?」


 俺が尋ねるとマイスは心底、残念そうに首を横に振る。


「そうは思いませんわ。

 きっとソフィアさんは……傷つきます。

『私は一人ぼっちなんだ。友達の輪に入れないんだ』

 そう思って、落ち込んでしまわれるかと」

「…………」


 乙女心……ってやつなのか?

 なんかちょっと違うかもしれないが。


「バカなあなたには分かりませんよ」


 ファムが肩をすくめていう。


 そんなに俺、バカか?


「いいですか、サトルさま。

 仲のいい友人は常に一緒に行動するものです。

 環境が変わったからと言って距離を置いたら、

 それはもう友人ではなくなってしまうのです」


 うん?

 そうなのか?


 俺にはちょっとよく分からないなぁ。

 なんで常に一緒にいるんだよ。

 男同士だとメンドイって思うだけだけどな。


 ファムは割と本気でそう思っているようだ。

 ここは彼女を立てて、肯定しておいてやるか。


「そうか……分かった。

 俺が間違ってたよ。

 お前の言う通r……」




 すぱーん!




 頭をファムにはたかれた。

 いたい。


「何すんだよ⁉」

「分かってもいないくせに、

 分かったなどと言わないでください。

 虫唾が走る」

「そっ……そこまで⁉」


 心にもない俺の言葉を見抜いたのか、ファムはジロリと俺を睨みつける。


 ううん……ちょっと怖いな。


「ファムさんのおっしゃった通り、

 形だけ仲良くしたとしても意味がありません。

 本当の意味でソフィアさんとお友達にならなければ……」


 マイスは本気でソフィアと友達になるつもりのようだ。


 でも……それは彼女の意思を尊重することになるのか?

 だって問答無用で誘拐するつもりなんだろ?


 ソフィアにはソフィアの意思が……なんて言ったら殺されるだろうな。


 彼女には時間が残されていない。

 軍に人間爆弾として利用されようとしているのだ。

 一刻も早く安全な場所へ逃がしてやるべきだろう。


 でも……。


「本当に彼女と仲良くなりたいんなら、

 誘拐なんて回りくどいマネなんてしないで、

 一緒に逃げたらいいと思うけどな」

「そんなことをしたら、彼女たちが……」


 あっ、取り巻きたちも心配してるのね。


 マイスがソフィアを連れて姿を消したら、取り巻きたちは庇護を失い、無防備な状態に陥る。

 再び嫌がらせのターゲットになってしまうのだろう。


「じゃぁ、ソフィアを連れてどこかへ隠したら、

 マイスは今まで通り学園での生活を続けるつもりなのか?」

「そう言うことに……なりますわね」


 ううむ。

 虻蜂取らず。

 二兎を追う者は一兎をも得ず。


 うまくいかない気がするけどな。

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