89 男の人のアレ
「さて、本当の名前を聞いたところで、
さっそく本題に入りましょうか」
パンパンと手を叩いてファムが言う。
「マイスもそんなところに座ってないで、
さっさと話が出来そうな場所に座って下さい。
見下ろしていると首が痛くなります」
わざとらしく首をもみながら言うファムだが、マイスに気を使ってそう言っているように感じた。
……なんとなくだけど。
「では、こちらに。
サトル……さん? も、隣へどうぞ」
「え? ああ……うん」
ベッドに腰かけたファムが、隣をポンポンと叩いて言う。
仕方なく言われたとおりに隣に座ると……。
「では私はこちらに」
ファムが俺を挟んで反対側に座る。
なんでこの位置だよ。
話しづらいだろうが!
「なぁ……」
「なにか?」
「いや、なんでもないです」
文句を言うのが面倒になったので、何も言わないことにした。
この女を納得させられるとは思えない。
「では、話して下さい」
「はい……」
ファムに促され、マイスは少しずつ計画の仔細とやらを話し始めた。
「わたくしは、ソフィアさんが軍に利用されると知って、
彼女を救おうと誘拐計画を練っていました」
「誘拐って……ソフィアを?」
「ええ、そうです」
マイスは小さく頷く。
「彼女を救うには、軍の手の届かない場所。
つまりは他国へ亡命させるしかありません。
ですが、そもそも彼女が同意してくれるとは思えず……」
「強制的に連れ去ってしまおうと思った」
「はい……その通りですわ」
マイスは言いながら俺の膝の上に手を置く。
え?
なんで?
「彼女の計画が実行に移されれば、
フォートン家は財産を一つ失うことになります。
でもそれはアルベルトさまの意思に背くことにはなりません」
ファムは説明しつつ、何故か俺の膝に手を置く。
だから……なんで?
「アルベルトさまは、ソフィアさんを大切に思っています。
だから……きっとわたくしが彼女を連れ去ったとしても、
許してくれると思うのです」
マイスが身体を近づけて胸を押し当ててくる。
おまけに耳元でしゃべるのですっごくムズムズする。
「ソフィアさんを人里離れた場所まで連れて行き、
説得して思いとどまってもらうのが計画です。
そうすれば、軍に利用されることもなく、
彼女もマイスも平和に暮らせます」
ファムも同じようにする。
さっきからこいつらなんなの?
「あの、ファムさん。
ウィルフレッドさまとの距離が近い気がしますが?」
「あなたが変に手を触れたりするからです。
これを誰のものだと思っているんですか?
私のおもちゃにする予定なんですよ?」
ひでぇ言いようだなぁ……おい。
「ウィルフレッドさまは大切な計画の一部です。
みだりにおもちゃ扱いしないでください!」
マイスは俺の身体を抱き寄せる。
胸が直接、顔に当たる。
やわらかい!
「ダメです。
中身がウィルフレッドさまでない以上、
もうあなたの婚約者ではないのです。
師匠である私に譲りなさい」
俺をひったくって自分の方へ引き寄せるファム。
やっぱり胸が顔に当たる。
こっちもやわらかい!
「いいえ、これはわたくしの!」
「いいえ、わたしの!」
お互いに俺を奪い合いながら、顔に胸を当てる二人。
すごく嬉しいシチュエーションなのだが、二人ともわざとやってるのかな?
「ちょっと待ってくれ。
俺の意思はどうした⁉
と言うか、マイス。
なんでお前は俺が別人だと知ってて、
恋人みたいにふるまうんだよ⁉」
「えっと……それは……」
マイスは恥ずかしそうに両手で顔を覆う。
じゃっかん赤らんでいる。
「わたくしが……ウィルフレッドさまを……」
「マイスも私と同じですよ。
中身が別ものなら、あなたの身体を好き放題できると。
そう思っているのでしょう」
「違いますわ!
あっ……でも違くないかも……」
どっちなんだよ、ハッキリしろ。
「じっ、実はわたくし……その……。
初めてお会いした時に、勢いで口づけをしてから……。
なんというか……サトルさまに男らしさを感じて……」
マイスは恥ずかしがりながら言う。
男らしさを感じる?
そんな要素あったかなぁ?
……あっ。
「まさか……俺の下半身が……」
「男の人のアレが大きくなったのは初めて見ました。
話には聞いていたのですけど……。
まさかあれが、私のアレにアレするなんて……。
考えただけでもぞっとしますわ!」
嬉しそうに言うマイスは、ちょっと頭おかしいと思う。
いや……むしろ健康なのか?
健康すぎるのか?
「ええっと……つまり。
今までウィルフレッドのアレが反応しなかったけど、
中身が俺になった途端に大きくなったりしたから、
俺に興味を持ったと?」
「違いますわ! 断じて違いますわ!
あっ、でも……違わなくないかも……」
どっちだよ。
「これで分かったでしょう。
目の前にいるその女はタダの変態です」
ファムが言う。
さすがにぶん殴ってやろうかと思った。




