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88 力関係

 怒り狂って電撃をバチバチさせるマイス。

 彼女は持ってきた皿を棚の上に置くくらいには冷静だった。


「落ち着きなさいと言っているでしょう」


 ファムは涼しい顔で言う。

 立ち上がろうとすらしない。


「何故、秘密にしていたことを⁉

 この男は信用ならないと言っていたのは、

 あなたの方でしょう?!」


 マイスが目を吊り上げて言う。


 うわぁ、俺そんな風に言われてたのかぁ。

 まぁ……自分でも納得はしている。


 だって、いきなり自分は別人ですなんて言い出した奴を、手放しで信用できるはずないだろ。

 異世界の話だって半信半疑だろうし……。


「確かに言いました。

 ですが、サトルさまには利用価値があります。

 あなたの計画に一役買ってくれるかもしれません」

「だとしても……だとしても!

 今はまだその時ではありませんわ!」

「納得してくれないようなら……しかたありませんね」


 やれやれとかぶりを振って、携えていた剣の柄に手を当てるファム。

 いまだに立ち上がるそぶりすら見せないが……。


「このっ!」


 マイスが電撃を放つと、ファムはスキルを発動して姿を消す。


 電撃が当たるとベッドの寝具に火がついてしまった。

 俺は慌てて上着を脱いで消火を開始。


 そのため、二人がどうなったのか、見ている余裕はなかった。


「くっ……ぅ」


 苦しそうなマイスの声が聞こえたので振り向くと、ファムが彼女の首を背後から腕で締めていた。

 腕には黒い手袋のようなものを装着している。


 この一瞬で……いつのまに⁉


「これで分かったでしょう。

 あなたがどんなに強いスキルを持っていたとしても、

 本職の人間には決して敵わないと。

 エリートを全滅させたソフィアさんと肩を並べたかったら、

 もっと素直になりなさい」

「ぐっ……がっ!」


 ファムの話を聞く余裕もなさそうなくらい、マイスは顔を真っ赤に染めて苦しそうにしている。


 このまま放っておいたらだめだろう。


「まった! ファム! もうマイスは……」

「うるさい!」


 珍しく大きな声を上げるファム。

 俺はすっかり黙らされてしまった。


「……はい、すんません」

「この子は一度、感情的になると、

 手が付けられなくなってしまうのです。

 しかたない……スキルを封印するしか……」


 え?

 スキルって封印できるの?


 でも、どうやって?


 ファムは左手で闇を生成し、そこから注射器のようなものを取り出す。

 掌に収まるサイズの小さなそれをマイスの首筋に容赦なく突き刺すと、中に入っていた液体を流し込んだ。


 そして、そのままマイスを解放する。


「ごほっ! がはっ!」


 苦しそうにせき込むマイス。


 ファムはそんな彼女をつめたく見下ろしながら、右腕に身に着けていた手袋を外して捨てた。


「ぶをわきまえなさい、マイス。

 今のアナタでは私に勝てません」

「くっ……でも、ソフィアになら……」

「ええ、ソフィアさんには勝てるでしょうね。

 彼女が手加減してくれますから」

「――っ!」


 ファムの言葉に、悔しそうに唇をかみしめるマイス。


 ソフィアが手加減してた?

 それ本当なのかな?


「なぁ……ソフィアが手加減してたって……」

「サトルさん、あなたには分からないでしょうけれど。

 ソフィアさんは気を使いながら戦っているのです。

 それはマイスが相手でも同じです」

「でも……二人は信じあっているって……」

「確かにそうです。

 ソフィアさんはマイスを、

 絶対に壊れない相手と認識しています。

 でも……ご覧ください。

 今の彼女の無様な姿を」


 そう言って床でへばっているマイスを冷たく見下ろすファム。

 彼女はいまだに苦しそうにせき込んでいる。


「どんなに強力なスキルを持っていたとしても、

 弱点が割れてしまえばこんなものです。

 容易にいなせてしまうのですよ」

「そうなのか……」


 いくら対策を施したところで、マイスに勝てるとは思えないけどな。


 ソフィアだって手加減しているかもしれないけど、戦いはいつもマイスが勝利していたはずだ。

 やっぱり彼女の方が強いんじゃないかなぁ。


「くっ……」

「まだやる気ですか?」


 悔しそうにファムを睨みつけるマイス。

 しかし……。


「いっ……いえ……。

 わたくしが間違っていました。

 申し訳ありません」


 マイスは弱弱しく頭を下げる。

 実に彼女らしくない。


「分かればいいのです。

 それでは、話の続きをしましょう。

 サトルさまに計画の仔細を話して下さい」

「でっ、ですが……」

「まだ何か?」

「はい……話します」


 ファムの言葉に大人しく従うマイス。


 二人の関係性がはっきりしたな。

 マイスは決してファムに逆らえない。

 それだけ力量に差があるのだ。


「ええっと……その前に……サトル……さま?」


 マイスは床にアヒル座りしながら、上目遣いで俺を見て尋ねる。


「え? ああ……うん。

 俺はサトルっていう名前なんだ。

 コヒナタ・サトル。

 それが俺の本当の名前だ」

「ウィルフレッドさまとは別人格……なのですよね?」

「ああ……そうだ」


 すでにそのことはファムから聞いていたか。

 わざわざ説明する手間が省けて良かった。


「変わったお名前なのですね」


 ありきたりな感想を述べるファム。

 この世界で本当の俺の名前は、実に奇妙なフレーズに聞こえることだろう。


「でも、素敵なお名前だと思いますわ」


 彼女はそう言ってほほ笑んだ。

 少しだけ、可愛いと思ってしまった。

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[気になる点] >弱点が割れてしまえばこんなもの ソフィアも同様に、弱点が判明したら……という話ではない、ということでしょうか。 ソフィアについては、強力なスキルという天賦の才能以外にも、マイスより…
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