84 ウィルフレッド暗殺計画
ゴッツは俺を殺さないと副会長に殺されると言った。
間違いなく。
「……しっ」
俺の動揺を察知したのか、マイスはそっと肩に手を置き口元に人差し指を当てて沈黙を促す。
黙って頷いて答えた。
「きゅ……急になんでそんなことを⁉」
エイダが混乱したような声をあげる。
「分からねぇ……でもさっき副会長に言われたんだ。
なんでも計画に支障をきたすとかで……」
「そっ……そそそっそんなこと急に言われても……」
「分かってる。突然だと混乱するよな。
とにかく今は落ち着いてくれ……なっ?」
「わわわわっ……私は……はい」
落ち着きを取り戻したエイダは素直に黙った。
ゴッツは彼女の扱いに慣れているようだ。
「いいか、今からここへウィルフレッドが来る。
三人で奴をとっつ構えて、
ひと気のない場所へ連れて行くんだ。
そうしたら……」
「誰が殺すんだにゃぁ?」
不安そうなキースの問いかけの声。
「そりゃぁ……仕方ねぇ、俺がやる」
「方法はどうするにゃ?」
「首でも締めればいいだろ。
エイダのスキルを使ったら身バレするし……」
「僕とゴッツのスキルじゃ人は殺せないにゃぁ。
首を絞めるのは……」
「俺が……やるよ」
ゴッツが弱弱しい声で答える。
「お前らにやらせるわけにはいかねぇからな……」
「いつも損な役回りをさせて、ごめんなさいだにゃぁ」
「いいって、気にしてねーから」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「エイダ、お前はしゃべると面倒だから黙ってろ」
「…………」
重苦しいゴッツの言葉に、エイダは素直に沈黙する。
彼らの話を聞いていると、どうも殺しには慣れていない様子。
俺を殺害することに乗り気ではないらしい。
嬉々として人を殺すようなサイコパス集団でなくて良かったよ。
エイダのスキルは人を殺せるのか?
そんな風には思えなかったけどな……。
あの光るだけのスキルには、他に使い道があるらしい。
しかし……なんなんだ副会長の目的って。
俺を殺害してどうしようというのだ。
何か俺、やっちゃったかな?
今日の行動を振り返っても、致命的なミスをやらかしたとは思えない。
仮に何かあったとしても、嫌われるとか、嫌がられるとか、そんなレベルだろう。
命を奪われるほどのことをした覚えはない。
妙に冷静な自分に驚く。
あまり恐怖は感じていない。
むしろ、不可解さからくるモヤモヤした感情の方が強い。
何か……自分の知らないところで起こっているような気がする。
いや、起こっているのだ。
俺が英雄学校へ来た瞬間。
あるいはそのずっと前から……。
「じゃぁ、とりあえずあいつが来るのを待つぞ。
縄とか置いてなかったか?」
「ここにはないにゃぁ」
「分かった、じゃぁ取って来てくれないか?
先にあいつが来たら俺とエイダで引き留めとく」
「了解だにゃぁ。
スキルで彼が校内にいるか確認しておくにゃぁ」
キースが言う。
スキルで確認?
ってことは……。
こん、こん、こん!
マイスが扉をノックする。
「……え?」
「部屋へお入りください。
上手く取り繕って」
「あっ……うん」
俺はマイスに言われるがまま、生徒会室の扉を開く。
「失礼しま……あれ?」
俺が扉を開くと、三人はぎょっとした表情で俺を見ていた。
話を聞かれたと思ったのか?
まぁ……全部聞いていたわけだが。
「おっ……おお。早かったな」
ゴッツは焦りを隠しきれていない。
すでにやる気になっているのか、彼から殺気のようなものを感じる。
「すみません、今夜の宿泊先の件なんですけど……」
「おおっ……それなら話がついてる。
とりあえず中へ入って来てもらえるか?」
「はい、失礼します」
俺は何も知らないふうを装って、入室。
三人はじっと俺を見つめたまま動かない。
「失礼しますわ」
「「「え⁉」」」
マイスが続けて入ると、三人は表情を固まらせた。
「あら、どうかしました?」
「いっ……いやぁ、マイスさまも一緒だったんですね。
あはははは……ははっ」
乾いた笑い声を漏らすゴッツ。
顔が引きつっている。
「わたくしが一緒だと、何かまずいことでも?」
「いっ……いや、そんな……」
ゴッツは明らかに動揺している。
キースとエイダは不安そうに身を寄せ合いながら、プレジデントデスクの傍に身を寄せていた。
「ぶひいいいいいい! ぶひぃ!」
生徒会室の会長席。
プレジデントデスクの上にカゴが置かれている。
その中には……。
「ぶひっ! ぶひひっ!」
あの桧山が入れられていた。




