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83 倫理観がガバガバすぎる

「いや……あの、マイス?

 何を言ってるのかなぁ……」


 俺は顔を引きつらせながら彼女の真意を確認する。


「ですから、わたくしのお部屋にお泊りになってと、

 そうお伝えしているのです」


 いや、それはさっき聞いたって。


「分かってるよ、それは。

 俺が聞きたいのはさ……なんで、ってことだよ」

「理由、ですか?

 そうですね……わたくしの婚約者、だからでしょうか?」


 それはとっくの昔に破棄されてるんじゃないんですかね。


「いやその、さぁ……。

 元婚約者とかそう言うことは関係なく。

 一緒に部屋に泊まるとか、色々と無理があると思うぞ。

 だって学校の寮だろ?」

「ええ、それが何か?」


 ダメだこの子。

 倫理観がガバガバすぎる。


「いや……あの……。

 若い男女がさぁ、同じ部屋に泊まるとか……。

 ありえないって、マジで」

「ですから、わたくしたちは……」

「…………」


 婚約者だろうが、なんだろうが。

 普通の感覚だったら許可下りねぇよ。


 まぁ、この話はこれ以上するのはやめよう。

 堂々巡りになるのは目が見えている。


 そんなことよりも他に確認したいことがある。


「あの……マイス。

 君は実家から学校に通ってるんだよな?」

「ええ、そうですが」

「君の家の領地はここから近いのか?」

「いえ、領地は遠くはなれた場所にありますが、

 フィルド家は学校の近くにもお屋敷を持っているのです」


 なるほど。

 実家とは別の家に住んでるのか。


「そっか。

 じゃぁ、なおさら疑問なんだけど。

 何で君の部屋が寮にあるんだ?

 必要ないだろ」

「え?」

「え?」


 何を言ってるのこの人みたいな顔をされる。

 俺、変なこと言ったかな?


「いや……だって……」

「寮の部屋は英雄科の学生一人につき、

 一部屋ずつ与えられますわ。

 わたくしが部屋を持つのは当然の権利ですの」

「他の科の生徒は?」

「騎士科と魔法科の生徒は二人で一部屋。

 傭兵科は8人で一部屋ですわ」


 傭兵科だけ扱い悪すぎる……。


「そうか……分かった。

 じゃぁ、今日はご厚意に甘えて、

 君の部屋に泊まらせてもらうことにするよ」

「最初からそう言って下されば良かったのです。

 さぁ、さっそくご案内しますので、

 一緒について来て下さいな」

「あっ、ちょっと待った」


 ゴッツから生徒会室へ来いと言われていたんだ。

 せっかく部屋を手配してくれたのに、何も言わないで放置するのは人としてどうかと思う。


 マイスの部屋に泊めてもらうなんて馬鹿正直には言えないので、宿の当てが見つかったと適当に言ってごまかそう。


「悪い、マイス。

 ちょっと寄るところがあるんだ」

「それならご一緒しますわ」

「……そんな恰好でか?」


 俺は彼女の足元から胸元へ目線をゆっくり動かす。


「ええ、戦闘服ですが、何か?」

「いや……何でもない」


 マイスもこの服装については、特に何も思ってないのか?


 いや……でも今朝、スカートをたくし上げて戦闘服を露出させたソフィアに「はしたない」とか言ってた気がするが……。

 あれはスカートをまくってたからそう言ったのか?


 ううん、「はしたない」の基準が分からん。


「じゃぁ……行こうか……」

「はい!」


 マイスはそのまんまの恰好で付いてくるようだ。


 はぁ……勘弁してくれ。


 外はすっかり暗くなっており、学校の明かりも消えている。

 生徒たちは寮へ行ったのか人影もほとんどない。


 俺はマイスと共に暗闇に包まれた校舎の中へ。


 校内は照明が灯っているが、それほど光は強くない。

 ぼんやりと足元を照らしているくらいだ。


 ううむ……夜の学校。

 ちょっと怖いかも。


「そう言えば生徒会室ってどっちだったっけ?」

「こちらですわ!」


 マイスは迷わずに俺を案内する。


 まぁ……この学校の生徒だしな。

 どこに何があるかくらいわかるだろう。


「……うん?」


 食堂の前を通ると、例の手動販売機が目についた。




 ぶぅぅぅぅん……。




 相変わらず妙な音を立てている。


「どうかしましたの?」

「いや……」


 そう言えば桧山に会う前、手動販売機は空だったんだよな。

 今は中に人がいるんだろうか?


 なんとなく気になった俺は、販売機をノックして中に人がいるか確かめてみた。


「……なんだ」


 中から野太い男の声が聞こえる。


「あっ、いや……中にいるのかなって確かめたくて」

「冷やかしは勘弁してくれ」

「夜もお仕事なんですね、お疲れ様です」

「ああ……」


 気のない返事が返って来る。


 なんか悪いことしたなぁ。


「ウィルフレッドさん、行きますわよー!」

「あっ、悪い」


 マイスに呼ばれて慌てて彼女の元へ。

 手動販売機のおっさんにかまっている暇なんてなかったな。


「生徒会室はちょうどこの上ですわ」

「へぇ、そうなんだ」


 食堂の真上にあるんだな、生徒会室って。


 変な構造だなぁと、なんとなく思った。

 だって、食堂の上って……。


 匂いとか気にならないのかね。






 俺はマイスと共に生徒会室の前までやって来た。

 扉をノックしようとすると中から声が聞こえる。


「だから言ってんだろ!

 早くしないとヤバいって」


 ゴッツの声だ。

 何がヤバいんだ?


「それは分かってるけど……」

「でっ……でもいくら副会長の命令でも……」

「副会長の命令は絶対だ!

 俺たちの手で何とかするしかないんだよ!」

「ううん……にゃぁ」

「ごめんなさい! ごめんなさい!」


 エイダとキースの声も聞こえる。

 何やら揉めているようだ。


「早くあのウィルフレッドってやつを殺さねぇと、

 副会長に見限られちまうんだ!」


 ……え?

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