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81 お互いに信じあっているだけ

「うおおおおおおおおおっ!」


 ソフィアがドロップキックを仕掛ける。

 勢いよく彼女が飛び上がって蹴りをぶちかますと、大きな爆発が起こった。




 どかああああああああああああん!




「くたばれええええええええ!」


 マイスが叫び声をあげて電撃を放つ。

 あたり一面に紫電が放たれる。




 バチバチバチバチバチバチバチ!




 爆発。

 電撃。

 爆発。

 電撃。


 双方の攻撃の応酬は止まることなく、次から次へとスキルが発動。

 二人が戦う場は地獄絵図と化していた。


「うわぁ……」


 目の前の光景に言葉を失う。


 理性を失ったように戦う二人の姿は、あまりに野蛮。

 化け物にしか見えない。


「ウィルフレッド様、座って観覧されたらどうですか?」


 ファムが涼しい顔で言う。


「なぁ……お前、無関心すぎだろ!」

「落ち着いて下さい、ウィルフレッド様。

 双眼鏡でも覗いてみてはいかがですか?

 私の隣に座って」

「…………」


 自分の隣をぽんぽんするファム。

 こいつの近くに座りたくない。


 俺は少し離れた場所に腰かけ、双眼鏡を覗き込んで二人の様子を眺める。


 すると……。


「……うん?」

「気づかれました?」

「ええっと……」


 見えたものが信じられず、俺は双眼鏡から目を話したり近づけたりを繰り返す。


 いや……おかしいだろ。


 双眼鏡を覗き込んで見えたのはソフィアの表情。

 彼女は笑っていた。


 そう。

 笑っていたのだ。

 とても楽しそうに。


「なんであいつ……あんなに楽しそうに……」


 思わずつぶやいてしまった。


 さっきまでソフィアは罪悪感に苛まれるかのように、苦々しい表情を浮かべていた。


 傭兵科の生徒たち。

 退役した元精鋭。

 誰も彼女に敵わなかった。


 歯牙にもかけない勢いで敵を圧倒したソフィアは、彼らが傷つく姿を見て心を痛め……。


「あっ!」

「どうされました?」

「気づいたんだよ!」

「何を?」


 ファムは怪訝そうに顔をしかめる。


 俺はついに理解できた。

 ソフィアがマイスを☆5評価している理由。


 それは……。


「うわあああああああああ!」


 全力で走って突撃するソフィア。

 ドロップキックしてマイスを攻撃する。




 ばちばちばち!




 発生した雷撃が彼女の攻撃を防ぐ。

 エネルギーに跳ね飛ばされたソフィアだが、すぐに態勢を整えて再び攻撃を開始。


 その表情は……とても晴れやか。


 まるで無邪気に遊ぶ子供のよう。

 先ほどまでとは全然違う。


 曇りは一切見られない。


「うおおおおおおおおおおお!」


 ソフィアは両腕に炎を発生させ、放つ。

 次々と投擲される炎の塊だがマイスは全て払いのけた。


 軽く手で払うだけで炎を打ち消せるマイスもすごいが、それを平然と相手に向かって投げるソフィアも相当だ。


 二人の関係。

 お互いに高い評価をしあっているのは、彼女たちが対等な立場に立つ実力者だからだろう。


 ソフィアがどんなに全力を出したとしても、マイスは決して倒れない。

 そう言う信用があるから全力を出して戦えるのだ。


 信用。

 彼女たちの互いの評価の根源。

 絶対に倒れないライバル。


 だから……。


 食堂でさみしそうにしていたソフィアを思い出す。

 彼女はスキルが強力であるがゆえに、人の輪から外れてしまった。

 一人で寂しく過ごしていた。


 そんな彼女と唯一対等に戦えるマイス。

 きっと彼女はソフィアにとって……。


「マイスさんは、ソフィアさんにとって、

 唯一壊れることのない対戦相手。

 だから……あんな風に戦えるんですよ」


 ファムが落ち着いた口調で言う。

 彼女はまっすぐに闘技場へと視線を向けていた。


「ああ……ようやくわかったよ。

 二人がなんであんなに仲がいいのか」

「仲がいい?

 冗談はよして下さい。

 あの二人は仲良しなんかじゃありません。

 二人は……お互いに信じあっているだけです」

「そうだな……」


 今回ばかりは、ファムの言葉を否定できなかった。


 あの二人は仲良しなんて言葉で表現できるほど、生半可な関係ではない。あれは……あれはもっと別の異質な関係。


「うおおおおおおおおお!」

「こいやあああああああ!」


 ぶつかる二人。

 炎上する闘技場。

 ほとばしる紫電。


 どんなに全力でぶつかったとしても、絶対に壊れない。

 そう信じているから全力で戦う。


 ソフィアとマイスは対の存在なのだ。


 だからこそ、戦う。

 戦い続けられる。

 戦うことでお互いの存在を支え合う。


 どちらかが欠けたら、残された方は壊れてしまうのだろう。


「人間兵器として利用されるソフィアさんにとって、

 唯一の“同類”がマイスさんなのかもしれませんね」

「嫌な言い方するなよ」

「他にたとえようがありません。

 それともアレですか?

 俺が代わりに戦うから、

 二人とも戦うのを止めろとでも言うつもりですか?」

「いや……」


 そんなこと、言えるはずがない。

 俺の能力じゃ……二人を助けることなんて……。


「ハァ……ハァ……」


 ソフィアの動きが止まる。

 彼女は肩で息をしていた。

 限界を迎えたのかもしれない。


「…………」


 そんな彼女を見下ろすマイス。

 右手を高く掲げ、人差し指を立てる。


 その先で、電撃がバチバチと……。


「やっ……やめろ!」


 その声が届くことはなく、無情にも彼女の指から光が放たれた。

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― 新着の感想 ―
[一言] なかなか複雑な関係ですね。 お互いライバルとして認めている。能力にも敬意を払っている。でも人として好きかは別。 なんだかんだでお互い好きそうですけどね。 同じくらいの力を持っているにもかかわ…
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