80 伝説の武器の威力
戦いの始まりはソフィアのおたけび。
彼女は大声を張り上げて突撃していく。
手には伝説の武器である爆殺丸。
果たしてアレを使うとどうなるのだろうか?
いまだにその効果を確かめていない。
「きえええええええええええええ!」
ソフィアが爆殺丸を振りかぶると、マイスもすぐさま迎撃態勢を整える。
彼女の身体から電撃がバチバチと放たれ、うっすらと紫色をした半透明のドーム状のものが形成されていく。
マイスが両手をまっすぐ上へ突き上げると、そのドームの色が一層濃くなった。
あれは……バリア的な?
「マイスさまの技の一つ絶対防御壁。
物理だろうが、スキル系統のダメージだろうが、
なんでも防ぐ便利な技です」
すかさずファムが解説。
……ご苦労。
しっかし……ソフィアのやつ。
さっきまでとはえらい違いだな。
傭兵科の生徒も、精鋭たちも、嫌々相手をしている感じだった。
誰とも戦いたくないみたいだけど――マイスだけは違うらしい。
彼女とは本気を出して戦える。
だからあんなに……。
「うおおおおおおおおおおお!」
全力で走って突進するソフィアの顔には迷いがない。
一切遠慮せずに攻撃を加えるつもりのようだ。
ぼんっ!
小さな爆発が起こり、ソフィアがジャンプする。
大きく爆殺丸を振り上げ、落下に合わせてそれをバリアへと思いっきり振り下ろした。
どがああああああああああああああああん!
突如として大爆発。
衝撃波が会場全体に伝わる。
「おわっ!」
「危ない!」
衝撃波で吹き飛ばされた俺は、後ろにのけぞって倒れてしまった。
ファムが受け止めてくれたので怪我をしなくて済んだが……。
「ううっ……なんだよこれ?」
俺は会場の様子を見て言葉を失う。
爆発によって巻き起こった粉塵で何も見えない。
これではどうなったのか……。
バチバチバチ!
「うわぁ!」
巻き起こった粉塵の中から電撃がほとばしる。
まるで雷雲のように、煙の中で紫色の光がバチバチと光る。
どうやらあの中で戦闘が続いているらしい。
「なぁ……毎回、二人が戦うとこうなるのか?」
「いえ、さすがにここまで激しいのは今回が初めてですね。
おそらくはあの伝説の武器のせいでしょう」
「ああ……あの伝説の……」
爆殺丸の威力は相当ヤヴァイらしい。
殴りつけるだけであんな大爆発が起こるのか……。
普通の人間が使ったら、自爆して速攻で死ぬだろうな。
「あの……そろそろ退いていただけないかと。
ずっと抱っこしたままだと人の目が……」
「あっ、ごめん」
俺はファムのおっぱいに頭を乗せたままのけぞっていた。
さすがにそろそろ離れた方がいいだろう。
開場を見渡してみると他にも何人か転倒していたようで、頭を抑えたりして痛がっている人が数名。
中には出血が止まらず手当てを受けている人もいた。
「うわぁ……大惨事だなぁ……」
「何を呑気に言っているんですか。
ソフィアさんが伝説の武器を使えば、
また同じくらいの爆発が起きます。
衝撃波に気を付けて観戦して下さい」
「え? ああ……分かったよ」
爆殺丸を振るうたびに大規模な爆発が起こって、衝撃波で吹っ飛ばされるのか。
……たまったもんじゃないな。
ソフィアは爆殺丸の威力を知って自重しているのか、あれから一度も爆発が起こっていない。
さすがにもう爆発は起きないか。
そう安心していたら――
びゅうううううううううん!
煙の中から青白い一筋の光が飛び出してきた。
一瞬のことで何があったか分からないが、光の筋は闘技場の天井を直撃。
命中した個所は一瞬で吹き飛び、大きな穴が穿たれた。
穴が開いた個所から空が覗いて見える。
もう既に夜になりかけていて、星が浮かんでいた。
ああ……もうそんな時間なのか。
天井に開いた穴から覗く星空を眺めて、呑気にも俺はそんなことを考えていた。
「なぁ……今の光って……」
「おそらく、マイスさんのプラズマバスターかと」
「え? なんでお前が知ってるの?」
「私が知らないはずないでしょう。
彼女の師匠なんですよ?」
当然だろうと言わんばかりの態度。
確かにそうですね……。
天井に穴が開いて換気がしやすくなったのか、会場の土煙が少しずつ薄れて行く。
だんだんと煙に隠れていた二人の姿が見えて来た。
「うおおおおおおおおお!」
「このおおおおおおおお!」
二人は武器など使わず、素手で殴り合っている。
ソフィアは炎を両手にまとわせ。
マイスは全身から電撃を放ちながら。
蹴りと殴りの応酬を続けている。
「なぁ……結局二人とも素手で戦ってるぞ」
「そっちの方が、被害が少なくていいと思ったのでしょう。
あのまま戦っていたら、この会場はもちませんでしたからね」
……でしょうね。
なんにせよこれで、衝撃波で吹き飛ばされたり、天井に穴が開いたりすることはなくなったわけだ。
安心して観戦していられる。
……とおもったら。




