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79 痛みはあると思いますよ

 精鋭連中を下したソフィアは、一人闘技場のど真ん中で立ち尽くす。

 次は誰が彼女と戦うのだろうか。


「なぁ……まだやるのかよ?」

「ええ、次はメーンイベントです」

「精鋭の次は、この国の英雄でもでてくるのか?

 それとも……」

「言わずとも、分かっておられるのでは?」


 ファムはそう言うが心辺りがない。

 まるで俺が知っているやつと戦うみたいな……あっ。


「まさか、次の相手って……」

「ええ、察しの通り、マイスさまです」


 マイスとソフィアが戦う。


 あんな手ごわい連中と戦った後で?

 ソフィアだって消耗しているのに。


「いくら何でも、あの戦いの後じゃ無理だろ。

 連戦で疲れているはずだし……」

「いえ……むしろ……。

 今までよりずっと生き生きと戦うはずですよ」

「……え?」


 今までよりずっと?

 生き生きと戦う?


「……そんなバカな」

「今まで何を見て来たのですか?

 あの二人がどういう関係かご存じでしょう?」

「いや……知ってるけど……」

「なら、何も不安に思うことなどありません。

 あなたはただ、安心して事の成り行きを見守ればいい。

 ただそれだけのことです」


 憮然とした態度のファム。

 不安がる俺を馬鹿にしている。


 確かに、ソフィアとマイスは実力が同じくらい。

 前に戦った時は両者とも大した怪我はせず、服が破れただけだった。


 今回もその程度で済むのなら、心配する必要など何処にもない。


 けれど……。


「ソフィアは連戦で……」

「それはさっき聞きました」

「でもっ!」

「はぁ……本当にあなたという人は」


 わざとらしくため息をついた後、ファムはやれやれと首を横に振る。


「自分一人では何もできないくせに……。

 いっぱしに口をきくのをやめなさい。

 あなたにできることは、ただ見守るだけ。

 他には何もありません」

「…………」


 そうだ。

 俺にはここで見ていることしかできない。


 ソフィアが死のうが、マイスが死のうが、ただ見ているだけ。

 まったく……情けない。


 しかし、何をすればいい?

 どうすれば二人を守れる?


 あいつらよりもずっと弱くてちっぽけな存在の俺が、何をしたら二人を助けられるって言うんだ?


 俺には分からない……。


「くそっ……」

「ようやく自分の立場が分かったようですね。

 さぁ、大人しく座ってみていましょう。

 ほら……マイスさまが出てきましたよ」


 ファムが闘技場を指さす。

 マイスが開かれた扉から出てくる姿が見えた。


 彼女はソフィアと同じ、競泳水着のような服を着ている。

 手と足にはそれぞれ肘、膝丈のグローブとタイツ。


 その後ろからは、取り巻きたちがプラズマバスターを抱えて付いてくる。

 彼女たちは制服姿のままだ。


 戦うのはマイス一人。

 取り巻きたちは参加しないのだろう。


「あいつ……本当にアレを使って戦うのか?」


 俺は双眼鏡を覗き込みながら尋ねる。


 取り巻きたちが数人がかりでやっと運べるシロモノ。

 んなもんを使って戦うつもりなのだろうか?

 扱いきれるとはとても思えないのだが……。


「ええ、マイスさまはそのおつもりのようですね」

「……そっか」


 マイスが何を考えているのかよく分からん。


 どうしてあの武器の使用にこだわるのか。

 どうせ扱えもしないのに……。


 マイスが闘技場の真ん中まで歩いて行くと、取り巻きたちはそのすぐ後ろにプラズマバスターを置いて立ち去って行く。

 やはり手伝うわけではないようだ。


「…………」

「…………」


 10mほどの距離を置いて、向かい合う二人。

 一触即発の空気だが……。


 マイスは腕を組んで仁王立ち。

 ソフィアは背中に縛り付けていた爆殺丸を手に取る。


 いったいどんな戦いが繰り広げられるのか。

 まったく予想がつかない。


「二人がここで戦うのは初めてじゃないんだろ?」

「ええ、すでに何度も戦っています」

「じゃぁ、戦歴は?」

「マイスさまの全勝。

 何回戦ったのかまでは知りません」


 マイスは一度も負けたことがないのか。


 二人の間には明確な実力の差があるらしい。


 それでもソフィアは戦おうとする。

 負けると分かっていながら……。


「あのさ……変な事、聞いてもいいか?」

「なんでしょうか?」

「能力を使って戦っても……痛いの?」

「ええっと……」


 珍しくファムが困った顔をする。

 こんな表情をする彼女を始めてみた。


「どういう意味合いの質問ですか?」

「そのまんまの意味だよ、痛くないか教えろ」

「私には彼女たちの持つ能力がどのようなものか、

 感覚的には理解しかねるのですが……。

 痛みはあると思いますよ、間違いなく」

「……そうか」


 二人は戦う時に苦痛を感じている。


 にもかかわらず、二人とも逃げることなく、お互いに立ち向かっていく。

 それは単純なライバル関係とも違う、もっと別の関係のように思えた。


 あの二人、互いに☆5評価だからな。

 意図してつけた評価ではなく、互いの相手を思う気持ちが反映された数値だ。


 間違いなく……お互いに尊重し合っている。

 そんな二人が戦うなんて……。


「はじめっ!」


 開戦の合図が響き渡る。

 戦いのゴングが鳴らされた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 79 痛みはあると思いますよ まで読みました。 ファムさんは相変わらずですね。 しかしファムさんのそんなところが作品のスパイスの一つになっていて素敵だと思います。 そして、ソフィアさん…
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