76 戦闘開始
戦闘服を着て闘技場に立つソフィア。
爆殺丸は背中に縛り付けてある。
対するはガッチガチに守りを固めた傭兵科の生徒。
およそ100人。
彼女はあの人数を相手に戦うつもりなのか?
無謀すぎる……。
「彼女のことが心配ですか?」
「ああ、心配に決まって……うわぁ⁉」
俺の隣にファムが現れる。
こいつ……いつも不意に登場するな。
「いきなり出てきたらビックリするだろ!」
「驚かせるつもりはなかったのですが……申し訳ありません」
そう言って黒髪をしゃらんと手で払うファム。
「謝るつもりもないくせに……」
「ええ、そうですね。謝罪の意思など毛頭ございません。
そんなことより目をそらしてもいいのですか?
そろそろ始まる頃合いですよ」
「……え?」
闘技場の方へ眼を戻すと、傭兵科の生徒たちが一斉に動き始めた。
彼らは大ぶりの鉈やこん棒、斧などを振り上げ、鬨の声を上げながらソフィアへ襲い掛かる。
まるで大波が小石を押し流そうとしているような光景。
彼らが身に着けている甲冑がガシャガシャと音を立てる。
対するソフィアは、レンチみたいなどう使うかよく分からない武器を手に、ただ突っ立っているだけ。
身に着けているのも競泳水着みたいな戦闘服と、両手両足にグローブとハイニーソだけ。
あんな風邪ひきそうな薄着で敵の攻撃を防げるはずがない。
果たして彼女はどうやって戦うつもりなのだろうか?
「なぁ……あれ、本当に大丈夫なのか?」
「ええ、問題ないと思います。
きっと……大丈夫ですよ」
ファムはそう言ってにこやかに笑う。
その笑みの裏側に黒い物を感じて仕方がない。
傭兵科の生徒たちはゾロゾロと塊になって前進し、ゆっくりとソフィアへと近づいていく。
彼女は何をするでもなく、じっと敵が来るのを待った。
重苦しい空気の中、時間だけが過ぎて行く。
傭兵科の生徒たちの移動速度は非常に遅い。
あんな甲冑をまとっていたら、そりゃぁ遅くもなるわな。
しかし……全く先の展開が読めない。
これから何が起こるのだろうか。
ソフィアの力をもってすれば、あんな連中簡単に蹴散らせるだろう。
だが……。
『みんな私のスキルのこと知ってるから、
近づいただけで逃げちゃうんだ……必死で。
だから……もし私がいきなり飛び込んだら、
きっと大変なことになると思う』
ソフィアは焼きそばパン争奪戦の時に、確かそんなことを言っていた気がする。
彼女は……自分の力の恐ろしさを知っているはずだ。
だから本気を出して戦うことができない。
優しいソフィアのことだからきっと……傭兵科の生徒たちを傷つけるのを恐れているはずだ。
もしこのまま両者がぶつかったら……。
「さぁ、そろそろ始まりますよ」
ファムが言う。
傭兵科の生徒たちは、ソフィアの目と鼻の先まで近づいてきていた。
「「「「「うおおおおおおおお!」」」」」
鬨の声を上げ、男たちが一斉に襲い掛かる。
大ぶりの鉈や斧が容赦なく振り下ろされ……。
どかあああああああああん!
爆発音と同時に、ソフィアが空を飛んだ。
能力で得た推進力を利用してジャンプしたようだ。
宙高く飛び上がった彼女はくるりと一回転して、少し離れた場所に着地する。
傭兵科の生徒たちは爆発の勢いで吹き飛ばされて、何人もの生徒がその場に横たわっている。
圧倒的だ。
たった少し能力を使っただけで、多くの敵を戦闘不能に追いやってしまった。
さすがはソフィアと言ったところか。
「「「「「うおおおおおおおおおお!」」」」」
再び傭兵科の生徒たちが襲い掛かる。
最初の爆発で倒れていないものがまだ数十人。
倒れた生徒たちも少しずつ立ち上がっている。
ソフィアは怪我をさせないように加減したらしい。
そこまで力を調節できるのに……なぜ。
なぜ彼女は力の暴走を恐れるのか。
着地したソフィアの元へ、傭兵科の生徒が殺到する。
その一人一人をいなしながら戦い続けるソフィア。
攻撃を回避し、最小限の攻撃にとどめ、敵を一人ずつ無力化していく。
ソフィアが軽く殴るだけで、敵は勢いよく吹っ飛んでノックアウト。
か弱い女の子に大の大人を殴り飛ばせるほどの力があるとは思えない。
やはり能力を使っているようだが……。
爆殺丸はまだ使う気がないようで、背中に縛り付けたまま。
彼女はずっと素手で戦っている。
「あっ……あぶない!」
ソフィアの背後から一人の男が襲い掛かる。
彼女の脳天めがけて斧を振り下ろしたのだ。
まともに食らえば脳天をたたき割られる。
そう思ったら……。




