73 ぷらずまばすたー
「あっ、ウィル様! 探したよ!」
ほほを膨らませるソフィア。
両手で爆殺丸を抱えている。
「そろそろ公開模擬戦なんだっけ?
ソフィアもでるの?」
「うん!」
笑顔で頷くソフィア。
戦うのは怖くないようだ。
「なぁ……公開模擬戦って誰が見に来るんだ?
周囲には町も村も見当たらなかったけど……」
「各国のお偉いさんが視察に来るんだって!
さっき魔道艇が着陸したから、もう到着したみたい」
「魔道艇……ねぇ」
聞いた感じだと、空飛ぶ乗り物かな?
この世界にはそういう乗り物もあるのか。
ソフィアを爆弾として使うには、何かしら空を飛ぶ兵器が必要になる。ドラゴンに乗せると聞いていたが……実際には魔道艇を使うのかもな。
んなこと、今はどうでもいい。
「じゃぁ、ソフィアもいいとこ見せないとな」
「そうだね!」
自分で言っておいて、バカだろと思う。
いいところなんて見せたら、兵器としての価値を高めるだけだろう。
俺はソフィアと共に学園の傍にそびえたつ白い球体の所へと向かう。
単にアリーナと呼ばれるそれは、近くに行ってみると思いのほか大きい。
下から見上げると、玉ころがしの白玉に押しつぶされる虫になった気分だ。
巨大な球体は何本もの柱で支えられており、その下には大勢の生徒たちが集まってきている。
「これ……どうやって入るんだ?」
「下にいれば勝手に吸い込まれるよ」
「吸い込まれる?」
なんかちょっと怖いな。
不安に思ってみていると……。
球体から青い光が放たれたかと思うと、光に照らされた生徒たちの身体が次々と浮かび上がって行って、そのまま球体の中へと入りこんでいく。
なんかよく分からないが、魔法で彼らを球体の中に取り入れているらしい。
「なぁ……あれも魔法なのか?」
「うん、そうだよ」
「…………」
当たり前のように答えるソフィアに、俺は何も聞けなくなってしまう。
この世界の魔法ってどんな仕様なんだろうな。
次々と生徒たちが球体に飲み込まれていき、大勢いた人たちは数えるばかりになってしまった。
そろそろ俺たちの番かなと思って球体の下へ行こうかとしたその時、マイスが取り巻きを引き連れて現れた。
「おーっほっほっほ!
ソフィアさん、ご機嫌麗しゅう!」
「マイス⁉」
マイスの声に反応して勢いよく振り返るソフィア。
俺もつられて振り返ると、ある物が目に飛び込んできた。
取り巻きたちが数人がかりで、長い物体を抱えている。形状的にあれは……。
「ええっと……マイス。それは?」
「フィルフレッドさん、ご存じありませんの?
これは我がフィルド家に代々伝わる伝説の武器。
その名もプラズマバスターですわ!」
「…………」
また伝説の武器か。
しかも名前がこってこてだな。
プラズマバスターと呼ばれたその武器は、ライフルのような形状をしている。
銃身があって、引き金があって、銃床があって……と見た目はまんまな感じ。紫一色で染め上げられた色合いから、彼女と初めて会った時のことを思い出す。
確かあの時、マイスは紫のドレスを着てたっけ。
フィルド家のイメージカラーなのかな?
プラズマバスターは非常に大きく、取り巻きたちが四人がかりで持っている。重量もそれなりにありそうだが……マイスに扱えるのだろうか?
「なぁ……マイス。
君にそれが扱えるのか?」
「ええ、もちろん」
どや顔で答えるマイスだが、その自信はどこからくるのか。
あんな重い物を持って戦えるとは思えないのだが……。
「まぁ……見ていてください。
わたくしの実力をお見せいたしますわ。
皆様、武器をこちらに」
取り巻きたちは武器を彼女の所へと運ぶ。
マイスはそれを両手で持ち、ゆっくりと持ち上げて……。
「うおおおおおおおおお!
ふんぬっぬぬぬぬ!
うぎいいいいいいいいい!
があああああああああ!」
獣のような咆哮を上げ、マイスは銃口を空へ向ける。
両手でプラズマバスターを抱える彼女は、両足を肩幅に開いて重心を落とし、膝を内側に曲げ、その細い体で何とか銃を支えていた。
……やっぱ無理じゃねぇか。
プラズマバスターを持ち上げたマイスではあるが、それを武器として扱えるかは別の話。俺が思った通り、銃と同じ使い方をするのなら、狙いをつける必要がある。
あんな状態で敵に銃口を向け、狙いを定め、命中させることができるのだろうか?
多分……無理だろうなぁ。
「ぐぎぎぎぎ! ふんぐぅ! ぬぉおおおお!」
なんとかバランスを保つマイスだが、真上に向けた銃口がふらふらとさ迷っている。そんなんじゃ的に狙いをつけるなんて絶対に無理だろう。
どうやらプラズマバスターは近接戦闘系の武器ではなく、遠距離攻撃用の兵器のようだ。んなもん、一目見れば分かるのだが……。
マイスはこれを使ってソフィアに対抗するつもりらしい。
うーん……馬鹿なのかな?
アホの子かな?
「なぁ……マイス……」
「なんですの⁉」
「あっ、いや……なんでもないです!」
「だったら話しかけないでください!」
マイスはバランスを保つのに必死なのか、大声で怒鳴る。
本当にそんなんで大丈夫なのだろうか?




