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71 純潔を捧げよ

「やめてください!」


 マイスはファムを突き飛ばした。


「そんなに嫌がらなくてもいいではないですか。

 キスの一つや二つくらい……。

 減るものではないでしょう?」

「減ります!」


 マイスはファムを完全に拒絶。

 口づけを拒んだ。


 自分を安売りするタイプの子ではないんだな。


 となると……なんで俺とキスしたのか気になる。

 会話の内容からして、俺が別人であると気付いているはずだ。


 そもそもマイスは、ウィルフレッドを恋人として意識していたのだろうか?

 ソフィアを助けるために彼と関わっていたわけではないのか。

 そこんとこもよく分からないな。


「今日はこれで失礼します!

 あまり調子に乗らないでください!」

「そう怒らないでください。

 拒絶されたら傷つきます」

「勝手にお一人で傷心に浸っていればいいのです!

 私のことをもえあそんだりして……!」

「そうそう、話は変わるのですが……」


 怒るマイスをからかうかのように、急に話題を変えるファム。

 コイツ……絶対、友達少ないだろ。


「ソフィアさんが例の伝説の武器を手に入れたようですよ」

「え? 傭兵科の地下に眠っていた……あの伝説の⁉」

「ええ、伝説の賢者が使っていたと言われる、

 数多くの伝説を作った伝説の武器です」

「まさか……あの伝説の武器を手に入れるなんて……」


 二人そろって伝説、伝説言う。

 そんなに伝説が好きなんですか。


「確かこの後、公開模擬戦がありましたね。

 ソフィアさんと戦うつもりなら、ご注意を。

 いつもの彼女とは違います」

「ええ、心得ていますわ。

 私もちゃんと武器を用意していますので」

「なら安心ですね。

 私もかわいい弟子を亡くしたくありません。

 十分に注意して戦って下さい」

「……はい」


 急にまじめな話になったな。

 さすがにソフィアも、模擬戦でマイスを殺したりはしないだろうが……。


 あの武器がどれほどの威力を発揮するのか分からない。

 爆殺丸なんて物騒な名前がついているのだから、かなり危険な武器なのかも。


 だとしたら……ちょっと不安になる。

 マイスには死んでほしくないなぁ。


「では……これで」

「お待ちください」

「まだ何か?」

「お別れの口づけを」

「……勘弁して下さい」


 うんざりしたように苦々しい顔つきになるマイス。

 この様子だと彼女もファムに対して嫌悪感を抱いているようだ。


 ……激しく共感するぞ。


「今日はこれで失礼しますっ!」


 マイスは逃げるように林から出て行った。


 取り残されたファムは腕を組んだまま背中を大木に預け、じっとして動かない。まさか……。


「おい、ファム。俺がいるって気づいてたのか?」

「ふっ、当然です。私を誰だと思っているのですか?」


 俺が茂みから出て声をかけると、彼女は鼻で笑った。


「意外だったよ、マイスとあんな関係だったなんて」

「別に隠していたつもりはなかったのですけどね」

「あの人のことを性的な目で見てるのか?」

「でなければ、あんなことしません」


 そう言って彼女は口元を釣り上げる。


 やっぱ怖いわ……この人。


「へぇ……女に目がないわけだ」

「あの方のように純粋で可愛らしい人は特に好みです。

 もちろん、アナタのような生意気な男の子も、

 いじめ甲斐があって大好きですよ」

「……勘弁してくれ」


 こいつは女だろうが、男だろうが、ほいほい食っちまうタイプらしい。


「なぁ……マイスとはどんな約束を交わしたんだ?」

「戦い方を教えて欲しいと彼女からお願いに来たのですよ。

 それで……私はこう言いました。

 純潔を捧げるのであれば、その願いを叶えると」


 うへぇ……マジかコイツ。

 マイスはその契約に応じてしまったのか。

 馬鹿な子だよ、本当に。


「ちなみに……彼女がいくつの時にその契約を?」

「確か10歳くらいでしたか。

 まだ初潮前だったと思います」

「ああ……そうですか……」


 そんな幼い子になんて約束を結ばせるんだ。

 最悪だろ、コイツ。


「悪いことは言わないからさぁ……やめとけよ。

 マイスがかわいそうだろ」

「では、彼女の代わりにアナタが……」

「ごめん、無理」

「そう言わず」

「いや無理だから」


 こいつの相手なんてさせられた日には、俺の大切な何かがぶっ壊れてしまう。絶対に応じてはならない。


「だけど……どうしてマイスはソフィアを?」

「さぁ、詳しい話は聞いてないので分かりません。

 と言うか……そもそも興味すらありませんからね」


 マジか……コイツ。

 弟子が戦う理由くらい聞いとけよ。


 マイスは幼いころからソフィアを意識しており、彼女を守るために戦う訓練を受けていたようだ。

 昔なにがあったかは知らないが、その覚悟は相当なもの。

 気軽に戦い方の指南をお願いしたわけではなさそう。


 幼少期のころにソフィアと何かあったんだろうな。

 と言うことくらいしか想像できない。


 ソフィアはあまり意識していないようだったが……。

 何があったんだろうな、本当に。


「じゃぁ、お前は……。

 成長したマイスの身体目当てに、

 彼女のお願いを受け入れたのか?」

「もちろん」


 満面の笑みでそう答えるファムに、底知れない嫌悪感を覚える。

 こんな奴と関わってはいけないと、俺の危機管理センサーがアラームを鳴らしている。


「はぁ……マイスも災難だな。

 何も知らないまま変な契約をさせられて」

「いえ、ちゃんと全部説明しましたよ。

 大人になったら、私に何をされるのか。

 幼い彼女でも理解できるよう、丁寧に」

「…………」


 てことは……マイスはこいつの性癖を理解した上で、条件をのんだのか?

 どんだけソフィアが大切なんだよ……。

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